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第25話 それぞれの道

 朝の空気は、少しだけ軽かった。


⸻


 ノオダの町は、日常を取り戻しつつあった。


 行き交う人の足取りは落ち着き、店先には品が戻り、声も戻っている。


 完全ではない。


 だが――確かに前へ進んでいた。


⸻


 「……落ち着きましたな」


 コーナンが通りを見渡す。


⸻


 「ええ。少なくとも、“恐れ”は引いたようです」


 サカンが静かに続ける。


⸻


 滝は頷いた。


 「十分だろう」


⸻


 あれだけのことがあった直後だ。


 これ以上を望むのは酷というものだ。


⸻


 「税の見直しも進んでいるそうです」


 サカンが言う。


 「町長も、今回の件で動かざるを得なかったのでしょう」


⸻


 「……少しは、楽になるか」


⸻


 その時だった。


⸻


 「おーい!」


⸻


 振り返る。


 イワクが手を振りながら駆けてきた。


⸻


 「もうセキに行くのか」


⸻


 息を切らしながらも、顔は明るい。


⸻


 「元気でいろよ」


⸻


 「当たり前だ!」


 胸を張る。


 「俺、決めたからな!」


⸻


 「何をだ」


⸻


 イワクは一瞬だけハギーを見る。


 そして、まっすぐに言った。


⸻


 「近衛兵になる」


⸻


 コーナンが眉を上げる。


 「ほう。憲兵ではなかったのか」


⸻


 イワクは首を振る。


⸻


 「最初はそう思ってた」


 「でも……違った」


⸻


 言葉を選びながら、続ける。


⸻


 「守りたいのは、“決まり”じゃなくて――」


⸻


 ハギーを見る。


⸻


 「人だ」


⸻


 静かな言葉だった。


⸻


 ミネーがそっと微笑む。


 ハギーもやわらかく頷いた。


⸻


 「立派な志ですね」


⸻


 その一言で。


 イワクの背筋が伸びる。


⸻


 「王都に行く」


 強い声。


⸻


 「ちゃんと力をつけて……」


 少し照れながら。


⸻


 「その時は、皇女様と一緒に守るからな」


⸻


 ハギーが目を細める。


⸻


 「楽しみにしています」


⸻


 イワクが大きく頷いた。


⸻


 「任せろ!」


⸻


 その様子を見て。


 コグシーが小さく息をつく。


⸻


 「……また増えましたな」


⸻


 「何がだ」


⸻


 「姫の“厄介な味方”がです」


⸻


 ぼそりと。


⸻


 ユダは何も言わない。


 だが、わずかに視線を動かした。


⸻


 滝は肩をすくめる。


⸻


 「悪くないだろ」


⸻


 コグシーは何も言わなかったが――


 ほんの少しだけ、口元が緩んでいた。


⸻


 その時。


⸻


 「そういえば」


 コーナンがふと思い出したように言う。


⸻


 「憲兵隊隊長――グラド殿ですが」


⸻


 「辞職されたそうです」


⸻


 サカンが静かに続ける。


 「責任を取る、と」


⸻


 滝は小さく息を吐く。


⸻


 「……そうか」


⸻


 視線を外へ向ける。


⸻


 通りの向こう。


 見覚えのある背中が、ゆっくりと歩いていた。


⸻


 鎧はない。


 ただの、一人の男として。


⸻


 振り返ることはない。


⸻


 そのまま――人の流れに消えていった。


⸻


 「後は、あの人の道だな」


⸻


 誰にともなく、呟く。


⸻


 「……では」


 サカンが口を開く。


⸻


 「我々も、行きましょう」


⸻


 空気が、少しだけ引き締まる。


⸻


 セキ。


⸻


 すべての流れが、そこへ繋がっている。


⸻


 「準備は整っています」


 コーナンが言う。


 「いつでも出発可能です」


⸻


 ハギーが静かに町を振り返る。


⸻


 ほんの一瞬だけ。


⸻


 そして――前を向いた。


⸻


 「行きましょう」


⸻


 迷いのない声。


⸻


 滝も頷く。


⸻


 「次だ」


⸻


 歩き出す。


⸻


 その背後で。


⸻


 「絶対だからなー!」


 イワクの声が響いた。


⸻


 振り返らない。


⸻


 だが――


 その声は、確かに届いていた。


⸻


 ノオダの町が、遠ざかっていく。


⸻


 それぞれが、それぞれの道へ。


⸻


 そして――


⸻


 次の火の気配が、前にある。


⸻


 ――進む。

次回から一行はセキの街へ そこで待っていたものは

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