第23話 戦の残火
「どうする?」
その一言で、空気が張り詰めた。
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賊たちが、互いに目を配る。
逃げ場はない。
前には滝たち。
後ろには憲兵隊。
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数秒。
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「……ちっ」
一人が舌打ちする。
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次の瞬間――
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「散れ!!」
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下士官の一声。
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賊たちが一斉に動いた。
左右へ、闇へ――
突破を試みる。
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「来るぞ!」
コーナンが叫ぶ。
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「撃つな! 囲め!」
グラドの声が重なる。
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刃がぶつかる音。
怒号。
足音。
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だが――
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崩れない。
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包囲は、最初から完成していた。
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逃げ道は、最初から塞がれている。
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「くそっ……!」
賊の一人が地面に押さえつけられる。
次々と、制圧。
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滝は動かない。
視線は、一人だけ。
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下士官。
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奴も動かない。
ただ、状況を見ている。
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「……終わりだな」
滝が言う。
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下士官は、わずかに笑った。
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「そうかもな」
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その時。
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背後から足音。
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グラドが並ぶ。
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「……動くな」
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短く、重い声。
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下士官は肩をすくめた。
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「逃げられねぇよ、もう」
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少しだけ空を見上げる。
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「悪くなかった」
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「……何がだ」
コーナンが低く言う。
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「まとめてやれたことだ」
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視線が、倒れた賊たちに向く。
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「放っておけば、もっと酷くなってた」
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「言い訳か」
サカンの声。
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「違うな」
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下士官は首を振る。
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「選んだだけだ」
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静かな声だった。
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「この国は、そういう奴を山ほど作った」
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沈黙。
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グラドの拳が、わずかに震える。
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だが――
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「……それでも」
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一歩前に出る。
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「許されることではない」
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はっきりと言い切る。
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その声に、迷いはない。
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下士官は、ふっと笑った。
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「……だろうな」
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ゆっくりと、両手を上げる。
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「好きにしろ」
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――決着だった。
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縄がかけられる。
賊たちも、次々と連行されていく。
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その時――
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「……待て」
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グラドが低く言った。
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腰の剣に手をかける。
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空気が変わる。
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グラドは、下士官の前に立つ。
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「……お前は、部下だった」
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剣が抜かれる。
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振り上げる――
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ガッ。
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ユダの手が、それを止めた。
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無言のまま。
一歩も引かない。
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グラドが睨む。
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ユダは、離さない。
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沈黙。
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「……やめろ」
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滝が言う。
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「ここで斬るのは、あんたの仕事じゃない」
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視線を外さずに続ける。
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「裁くのは、法だ」
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間。
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「それを守るのが、あんたの立場だろ」
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グラドの目が揺れる。
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長い数秒。
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やがて――
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剣が、ゆっくりと下がる。
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ユダが手を離す。
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「……連れて行け」
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低い声。
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下士官が連行される。
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静けさが戻る。
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グラドが深く息を吐いた。
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「……終わったか」
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「いえ」
サカンが言う。
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「ここからです」
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グラドは、苦く笑う。
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「間違いない」
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少しの間。
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「……礼を言う」
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滝を見る。
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「外部の目がなければ、見逃していた」
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滝は答えない。
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ただ――
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「明日、全て公表する」
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「税の件も含めてな」
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「……荒れるぞ」
コーナン。
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「だろうな」
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だが――
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「それでもやる」
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決意の声だった。
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ふと、周囲を見る。
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ポリスは、倉庫の脇で肉をかじっている。
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満足そうに。
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……いい仕事だ。
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だが――
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「……妙だな」
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小さく呟く。
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「何がです」
サカン。
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「これまでの犯行だ」
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静かに言う。
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「寄せ集めの連中にしては、計画的すぎる」
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コーナンが眉をひそめる。
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「確かに……」
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「あれだけの盗品の受け入れ先がある」
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間。
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「大きな組織だ」
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空を見る。
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夜は、何も語らない。
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――だが。
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この事件は、まだ終わっていない。




