第22話 夜襲
やはり――静かすぎた。
その理由は、すぐに分かった。
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闇の中。
倉庫群の影が、ゆっくりと動く。
「……来たな」
コーナンが低く呟く。
視線の先。
人影が、ひとつ、ふたつ――そして増える。
動きに、迷いがない。
配置も、手順も。
「……手慣れている」
サカンの声が沈む。
滝は頷いた。
「盗人じゃない」
小さく言う。
「強盗団だ」
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覆面をした連中は、音もなく倉庫へ取り付く。
見張りが立ち、扉がこじ開けられる。
運び出しから馬車への積み込みの手際も早い。
無駄がない。
――完全に、組織だ。
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「どうします」
コーナン。
「まだだ」
短く返す。
「保険が間に合うか」
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やがて――
倉庫の中の気配が動く。
袋を抱えた男たちが、外へ出てくる。
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その瞬間。
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「――そこまでだ」
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滝は闇から姿を現した。
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コーナン、サカンも続く。
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一瞬。
賊たちの動きが止まる。
だが――
「……何者だ」
すぐに構え直す。
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「通りすがりだ」
軽く返す。
「少し、話を聞きたくてな」
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その時だった。
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「――囲め!!」
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怒号が夜を裂いた。
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松明が一斉に灯る。
左右、背後――
憲兵隊が現れる。
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その瞬間。
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賊たちが息を呑んだ。
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「なっ……!」
「なんでだ……!」
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本来なら、間に合うはずがない。
町の反対側にいたはずの憲兵隊が――
すでに、ここにいる。
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完全な包囲。
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逃げ場はない。
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滝は一歩前に出る。
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「終わりだ」
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その時。
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「……なるほどな」
「今夜の部隊配置は陽動か」
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低い声。
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闇の奥から、覆面を外しながら一人の男が歩み出る。
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――下士官。
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その視線が、ゆっくりと横へ向く。
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倉庫の脇。
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そこに――
ポリスがいた。
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肉の塊をくわえ、得意げに座っている。
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尻尾が、ゆっくり揺れる。
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下士官が、小さく笑う。
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「……そういうことか」
「道理でこんなに早く」
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観念したように、息を吐き、笑う。
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「最速の連絡役ってわけだ」
「しかも誰にも怪しまれない」
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「うちの優秀な伝令だ」
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ポリスを顎で指す。
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コーナンが一歩踏み出す。
「貴様……!」
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下士官は肩をすくめた。
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「戦が終わってな」
淡々と語る。
「行き場のねぇ連中が溢れた」
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視線を横へ流す。
強盗団の男たち。
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「兵隊崩れ、不良……どうせ放っておいても暴れる」
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「だから、まとめてやった」
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サカンが低く言う。
「見逃す代わりに、使ったか」
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「そういうことだ」
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コーナンの拳が震える。
「それでも憲兵か……!」
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「憲兵だからだ」
下士官の目が、冷たく光る。
「何が起きてるか、一番分かる立場にいる」
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その時。
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隊列の奥から、グラドが前に出た。
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重い足取り。
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滝は視線を向ける。
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そして、静かに口を開いた。
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「……分かっていたのでは?」
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空気が止まる。
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グラドの目が揺れる。
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わずかな沈黙。
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「……ああ」
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絞り出すような声。
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「あんたの言う通りだ」
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「警戒情報は漏れていた」
「それに……事件の日は、いつもこいつの非番だった」
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拳が、震える。
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「だが……確かめるのが怖かった」
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「部下を疑うなど……したくなかった」
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下士官が、鼻で笑う。
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「甘いな、隊長」
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グラドは目を閉じる。
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そして――開いた。
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「……全員、武器を捨てろ」
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決断の声。
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憲兵たちが、一斉に構える。
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賊たちが、わずかに揺れる。
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下士官は、ゆっくりと周囲を見渡し――
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小さく笑った。
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「さて」
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視線が、こちらに向く。
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「どうする?」
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夜が、張り詰める。
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――決着は、すぐそこだった。




