第21話 決行
夜
町は静まり返っていた。
人気はない。
だが――完全な静寂ではない。
息を潜めた気配が、あちこちにある。
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「……ここだ」
イワクが小さく囁く。
案内されたのは、町外れの高台。
岩場と木々に隠れた、小さな見晴らしの場所だった。
「よく見つけたな」
「俺たちの秘密基地だ」
少し誇らしげに言う。
確かに――
町全体が見える。
灯りの配置。
人の動き。
影の流れ。
すべてが、一望できた。
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「いい場所ですな」
コーナンが低く言う。
サカンも静かに頷いた。
「張るなら、ここ以上はありません」
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配置は最小限。
こちらは目立たず、向こうを捉える。
それだけだ。
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「来ると思いますか」
コーナン。
「来る」
短く答える。
「今夜だ」
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根拠はある。
だが、それ以上に――
流れが“揃いすぎている”。
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時間が、過ぎる。
風が揺れる。
遠くで犬が吠える。
何も――起きない。
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「……外したか」
サカンが小さく呟いた、その時だった。
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――灯りが、消えた。
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町の一角。
食料倉庫群の周辺。
不自然に、闇が広がる。
「来る」
滝は短く言った。
「今夜だ」
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空気が引き締まる。
グラドへの指示も終わり、準備は整っている。
あとは待つだけ――
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ふと、視線を横に向ける。
ハギー。
ミネー。
そしてイワク。
それぞれの顔に、違う緊張が浮かんでいた。
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……このまま全員を動かすわけにはいかない。
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「イワク」
滝が声をかける。
びくっと肩を揺らしながらも、まっすぐに返事をする。
「な、なんだ」
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「頼みがある」
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イワクの目が見開かれる。
「頼み……?」
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「ここで、ハギーを守ってくれ」
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一瞬、言葉が止まる。
「……え?」
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「俺たちは動く」
静かに続ける。
「その間、ここはお前に任せる」
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イワクの喉が鳴る。
視線がハギーへ移る。
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「……俺が?」
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「ああ」
短く頷く。
「お前が一番、この場所を知っている」
「それに――憲兵志望なんだろ」
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イワクの顔が引き締まる。
震えはある。
だが、それでも――
「……任せろ」
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小さく、だが確かな声。
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ハギーが微笑む。
「よろしくお願いしますね、イワク」
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「うん!」
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その時、ミネーが一歩前に出た。
「私も残ります」
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全員の視線が集まる。
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「イワク一人では、心細いでしょうし」
やわらかく笑う。
「こういう時、誰かが落ち着いていないと」
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イワクがちらりと見る。
少しだけ、安心した顔。
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「……頼む」
短く言う。
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コーナンが小さく頷く。
「妥当な配置ですな」
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サカンも続ける。
「後方の安定は重要です」
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その時――
ユダが一歩前に出た。
無言のまま、ハギーの側に残る構え。
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「……ユダ」
コーナンが呼ぶ。
だが、動かない。
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その沈黙を破ったのは――
ハギーだった。
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「ユダ」
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やわらかな声。
だが、芯がある。
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「滝様や、町の方々の力になってください」
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ユダの目が、わずかに揺れる。
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「私は大丈夫です」
静かに続ける。
「ここにはイワクも、ミネーもいますし――」
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少しだけ間を置いて。
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「……コグシーもいますから」
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「おまけ扱いは心外ですな」
コグシーがぼそりと返す。
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わずかに空気が緩む。
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ユダは、しばらく動かなかった。
だが――
やがて、ゆっくりと頷く。
そして一歩、前に出る。ら
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それが答えだった。
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「では」
コーナンが構える。
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「行きましょう」
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ハギーが静かに頷く。
その目に迷いはない。
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「ご武運を」
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背を向ける――その直前。
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「……一つだけ」
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足を止める。
滝がコーナンとサカンにだけ聞こえる声で言う。
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「別動を入れてある」
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コーナンが眉を上げる。
「ほう」
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「保険だ」
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それだけ言って、歩き出す。
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「……頼んだぞ」
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「任せろって言っただろ!」
イワクの声。
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その横で――
ミネーがそっと腰を下ろした。
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「……怖い?」
小さく聞く。
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「こ、怖くねぇよ!」
強がる声。
だが、手は震えている。
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ミネーは何も言わない。
ただ、隣に座る。
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「大丈夫」
静かに言う。
「私もいるから」
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イワクの呼吸が、少しだけ落ち着く。
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ハギーは、その様子を静かに見ていた。
そして――
小さく頷く。
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その背に。
信頼を乗せて。
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――闇へ踏み出した。




