第20話 見えない線
その日のうちに、いくつかの現場を回った。
表立ってではない。
グラドの配慮で、被害者には口止めをした上での“内密の確認”だ。
荒らされた室内。
こじ開けられた扉。
床に残る、わずかな痕跡。
そして――
不自然なほど、整った“被害”。
「……どう思います」
コーナンが低く言う。
滝は答えない。
ただ、現場を見て回る。
ひとつ、またひとつ。
そして――確信した。
⸻
宿へ戻り、すぐに紙を広げる。
「サカン、記録を」
「承知しました」
迷いなく筆が走る。
食堂の地図の上に、印が落とされていく。
丸と三角、そして×。
盗難。
火事。
発生した場所と時間。
「……こんなものですか」
サカンが筆を止める。
滝は腕を組み、それを見下ろす。
「火事はこっち、盗難はこっち……」
コーナンが呟く。
「バラバラに見えますね」
「だから並べる」
静かに言う。
「時系列と地図に落とす――捜査の基本だ」
⸻
視線を動かす。
点を追う。
時間。
場所。
順番。
「……最初の商家はここだな」
指で叩く。
町の中心寄り。
「その後、警戒が強まった」
「だから外側に移った」
線を引く。
中心から、外へ。
「ですが……」
サカンが口を開く。
「単なる分散とも取れます」
「そう見せている」
「中心から外へ広げれば、警戒も薄くなる」
短く返す。
「だが、それだけじゃない」
別の印――火事に目を向ける。
「火事は、盗難の前後で起きている」
「……陽動ですね」
コーナンが言う。
滝は頷く。
「人の目を逸らし、警戒を分散させるためのものだ」
⸻
そして。
指を止める。
「ここだ」
全員の視線が集まる。
「この周辺、被害が出ていない」
空白地帯。
ぽっかりと抜けている。
「偶然……ではないな」
「避けている?」
コーナン。
「いや」
滝は首を振る。
「……残している」
間を置く。
「最後に狙うために」
⸻
サカンが静かに目を細める。
「……大きな獲物、ということですか」
「ああ」
滝は視線を上げる。
「一番価値がある場所だ」
短く言い切る。
「町の食料倉庫群だ」
⸻
空気が凍る。
「……それは」
コーナンの声が低くなる。
「被害が出れば、町全体に影響が出ます」
「出るな」
滝は頷く。
「だから、そこが狙いだ」
⸻
「ですが」
サカンが言う。
「報告上は“盗難”です」
「規模に対して、静かすぎる」
滝は一度だけ息を吐いた。
「現場を見ただろ」
静かに言う。
「盗難の痕じゃない」
⸻
コーナンがわずかに身を乗り出す。
「……どういうことです」
「押し入られている」
短く答える。
「扉の壊し方、物の持ち出し方」
「迷いがない」
間を置く。
「手慣れている」
⸻
サカンが低く呟く。
「……強盗団」
滝は頷く。
「それを“盗難”として処理している」
視線を横へ向ける。
町長。
「町の不安を抑えるために」
⸻
沈黙。
やがて――
「……その通りだ」
グラドが認めた。
低い声。
「騒げば、町は崩れる」
町長が続ける。
「だが……もう限界です」
⸻
滝は小さく頷く。
「なら、やることは一つだ」
地図を指す。
「次を潰す」
⸻
「張り込み、ですな」
コーナンが言う。
「だが、この広さだ」
サカンが続ける。
「倉庫群は広い」
「一点に集中すれば、他が手薄になる」
グラドも腕を組む。
「見渡せる場所があればいいが……」
倉庫群付近全体を見渡せる場所。
そして、誰にも気が付かれない場所。
そんな都合のいい場所が――
⸻
「あるよ」
不意に声がした。
振り向く。
イワクだった。
いつの間にか、扉のところに立っている。
「……聞いてたのか」
「うん」
少し得意げに笑う。
「俺、とっておきの場所知ってる」
「町がよく見える場所!」
「ほんとだって」
むっとする。
ハギーが静かに言う。
「案内してもらえますか?」
イワクが大きく頷いた。
「うん!」
⸻
……条件は揃った。
現場。
流れ。
そして、視点。
あとは――
「当たるかどうか、だな」
滝は小さく呟く。
静かな町。
だが、その裏で。
確実に“次”が、こちらを待っている。




