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第18話 見えない犯人

 「……何が分かった」


 背後から、憲兵の下士官の声。


 急かすような、圧のある声だ。


 「もう少しだけ時間を」


 そう返して、店内を見回す。


 高い棚。


 整然と並ぶ商品。


 そして――空いた一角。


 「店主、そのガラス玉はどこに置いてあった」


 「あそこだ」


 指差す先は、棚の上段。


 ……やはり高い。


 滝はイワクを見る。


 背丈は――届かない。


 「坊主」


 下士官が低く言う。


 「どうやって取った」


 「だから取ってないって!」


 イワクの声が震える。


 「踏み台は?」


 「ねぇよ!」


 「ならどうやって――」


 「その必要はありません」


 滝が遮る。


 数人の視線が一斉にこちらへ向く。


 「この子では、物理的に取れません」


 「何?」


 下士官が眉をひそめる。


 滝は棚に手をかける。


 「この高さ。大人でも少し背伸びがいる」


 イワクの頭に手をかざす。


 「この身長では、届かない」


 店主が顔をしかめる。


 「だが、店にいたのはこいつだけだ!」


 「本当に?」


 視線を上げる。


 天井。


 吹き抜け。


 開いた空間。


 その向こう。


 影が、動いた。


 「……見てください」


 全員の視線が上へ向く。


 バサッ、と音がした。


 黒い影が梁に止まる。


 「カラス……?」


 誰かが呟く。


 「ええ」


 私は頷く。


 「犯人です」


 ざわめき。


 「馬鹿な」


 下士官が吐き捨てる。


 「そんなものが――」


 「光るものを集める習性があります」


 遮る。


 「このガラス玉は、ちょうどいい」


 私は周囲を見る。


 「他にも盗まれた物は?」


 店主が答える。


 「……小さな物ばかりだ」


 「金具や、装飾品……」


 「共通しているはずです」


 「軽くて、光るもの」


 沈黙。


 「……証拠はあるのか」


 下士官が低く言う。


 滝は天井を指す。


 「巣があります」


 梁の奥。


 暗がり。


 よく見ると――枝が組まれている。


 「取っても?」


 下士官を見る。


 短く頷く。


 ユダがすぐに動いた。


 軽やかに棚を使い、上へ。


 手を伸ばし、巣を崩す。


 ばさり、と何かが落ちる。


 転がったそれを、店主が拾い上げる。


 「……あった」


 震える声。


 「これだ……!」


 ガラス玉。


 他にも、小さな金具や装飾品が混じっている。


 店内が静まり返る。


 「……そういうことか」


 下士官が呟く。


 視線が、イワクへ向く。


 さっきまでとは、まるで違う。


 イワクは、呆然としていた。


 「……悪かったな」


 店主が、ぽつりと言う。


 イワクが顔を上げる。


 「え……」


 「決めつけた」


 短い言葉。


 だが、重い。


 イワクの目に涙が浮かぶ。


 「……よかったですね」


 ハギーが、そっと言う。


 やわらかい声。


 それだけで、張り詰めていた空気がほどける。


 下士官が咳払いをした。


 「……騒がせたな」


 それだけ言って、部下を連れて出ていく。



 店を出る。


 イワクが、こちらを見ていた。


 何か言いたそうにしている。


 だが、言葉が出ない。


 代わりに、深く頭を下げた。


 「……母ちゃんに、ちゃんと買う」


 ぽつりと呟く。


 「いつか」


 「ハギーさんにも」


 ハギーが微笑む。


 「楽しみにしています」


 イワクが、力強く頷いた。



 歩き出す。


 町の空気が、少しだけ変わっていた。


 さっきまでの重さが、わずかに薄れている。


 だが――


 「盗難は、これで全部でしょうか」


 コーナンが言う。


 滝は首を振る。


 「……どうだろうな」


 カラスだけで説明がつくか。


 確かに“それらしい”。


 だが――


 「町の雰囲気を変えるほどの事件ではない」


 小さく呟く。


 視線を上げる。


 空は、少し曇っていた。

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