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第17話 小さな容疑者

 「職権により身分の確認と荷を改める。」


 騎兵の後に来た憲兵隊の年配の下士官が、高飛車に告げる。


 「怪しい者ではございません」

 「私どもは王家御用達の商人でございます」


 サカンが得意げに、王家の紋章入りの通行手形を差し出した。


 通行手形は、コグシーが職権で準備した政府発行の真正なものだ。

 ただし内容は虚偽だ――少しうしろめたい。


 下士官はそれを受け取り、後ろの士官に渡す。


 「……間違いない。王家の御用商人一行だ」

 「荷は王家への献上品、検品不要とのこと」


 士官は丁寧に手形を返した。


 「失礼しました」

 「当領内で盗難事件が発生しているため、警戒を強化しております」


 「何があったのですか」


 コーナンが眉を上げて聞く。


 だが下士官は眉をひそめた。


 「貴殿らには関係のないことだ」

 「詮索は不要」


 それだけ言って引き返していった。


 ……感じは悪いが、気持ちは分かる。


 部外者に事件を嗅ぎ回られるのは、気持ちの良いものではない。

 どこの世界でも同じだ。


⸻


 ノオダの町に入る。


 宿の前で馬車を止めた、その時だった。


 ユダがすっと手を出して、ハギーを制した。


 「……少しお待ちを」


 視線の先、建物の陰。


 反射的に警棒に手をかける。


 だが――


 ユダが肩の力を抜く。


 「……なんだ、坊主か」


 飛び出してきたのは、十歳くらいの男児だった。


 腰には木の棒。憲兵の真似らしい。


 男児は胸を張る。


 「俺、将来は憲兵になるんだ!」


 ハギーが、やわらかく微笑む。


 「スオーから王都へ帰る途中でございます」


 それだけで、男児の顔がみるみる赤くなる。


 その時――


 「こらイワク!」


 宿の女将が飛び出してきて、男児の襟首を掴んだ。


 「すいませんね、この子うちの息子で」


 「最近ずっと憲兵ごっこばかりで……」


 イワクは不満げに口を尖らせる。


⸻


 荷を置き、食堂で一息つく。


 女将が茶を運んできた。


 「最近は物騒でねぇ」


 ため息交じりに言う。


 「盗難が続いてるんですよ」


 「盗難?」


 コーナンが眉を上げる。


 「ええ。店の品やら倉の物やら……」

 「とにかく続いてて」


 「犯人は?」


 「さあ……憲兵さんもお手上げで」


 苦い顔だ。


 「そのせいで税も上がって、みんな余裕がなくてねぇ」


 ……なるほど。


 空気が重い理由はそれか。


⸻


 その後、町を歩く。


 賑やかなはずの通りで、ふと人の流れが緩んだ。


 ハギーが店先で足を止める。


 それだけで、周囲の視線が静かに集まる。


 笑顔を向けるでもなく、飾るでもなく。


 ただそこにいるだけで、空気が少し変わる。


 ……目立つな。


 その瞬間。


 コグシーが半歩前に出た。


 ユダも同じだ。


 何も言わない。


 ただ、視線だけで周囲を制する。


 数人が気まずそうに目を逸らした。


⸻


 通りを歩いていると、


 「あっ!」


 聞き覚えのある声。


 イワクだった。


 嬉しそうに駆け寄ってくる。


 「また会ったな!」


 「はい」


 ハギーが、やわらかく頷く。


 それだけで、イワクの顔がまた赤くなる。


 「さっきな、あそこの店に行ったんだ!」


 指差す先は、装飾店。


 「すげぇ綺麗な玉があってさ」


 少しだけ声が小さくなる。


 「……母ちゃんに、いつか買ってやりたいんだ」


 ハギーが目を細める。


 「優しいのですね」


 イワクが照れたように笑う。


⸻


 その時だった。


 「イワク!!」


 怒鳴り声。


 装飾店の店主が飛び出してくる。


 血相を変えている。


 「お前、店に来てただろう!」


 イワクの顔が強張る。


 「え……うん……」


 「ガラス玉がなくなってるんだ!」


 空気が一変する。


 「さっきまであった……間違いねぇ」


 視線が集まる。


 イワクへ。


 「……坊主」


 低い声。


 「中に入ったな?」


 「入ったけど、触ってない!」


 必死の声。


 だが――


 「他に誰がいる!」


 決めつけ。


 ざわめき。


 疑いが一気に膨らむ。


 ……最悪の流れだな。


 そのざわめきの中に、別の気配が混じる。


 足音。


 鎧の擦れる音。


 振り返ると、憲兵隊がこちらへ向かってきていた。


 「何の騒ぎだ」


 先頭の下士官が鋭く言う。


 店主がすぐに指差す。


 「こいつです! このガキが――」


 イワクが息を呑む。


 「持ち物を出せ」


 憲兵がイワクの身体を乱暴に探る。


 だが――


 「……ない?」


 袋も、懐も、何も出てこない。


 「どこに隠した」


 低い声。


 逃げ場のない圧がかかる。


 「憲兵隊本部で話を聞こう」


 下士官がイワクの腕を掴む。


 ……まずいな。


 「……店を見せてもらえますか」


 滝が口を開く。


 下士官がこちらを見る。


 値踏みするような視線。


 だが――


 「勝手なことは許さんぞ」


 低く釘を刺す。


 その瞬間――


 「その必要はありません」


 ハギーが一歩前に出る。


 「真実は、必ず明らかになります」


 静かだが、揺るがない声。


 わずかに空気が止まる。


 下士官が目を細める。


 「……いいだろう」


 短く言った。


⸻


 店の奥へ入る。


 高い棚。


 整然と並ぶ品。


 そして――空いた一角。


 私は視線を上げる。


 天井は吹き抜け。


 外と繋がっている。


 その向こう。


 かすかに動く影。


 ……見えた。


 「なるほどな」


 小さく呟く。


 口元が、わずかに緩む。


 「……面白くなってきた」

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