第16話 皇女のお忍び旅団
一行は、貿易商の一団という設定で各地を巡ることになった。
商人の娘がハギー、メイドがミネー、番頭がコグシー。
使用人としてコーナン、サカン、ユダ。そして外国商人が滝だ。
さらに、娘の愛犬ポリスも同行する。
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この設定は、かつて見ていた時代劇――最高権力者の縁者が供を連れて各地を巡り、悪を裁く物語から着想を得たものだ。
それとなくハギーに提案したところ、彼女はすぐに受け入れた。
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警護の主軸はユダ。
加えて、スオー地区の憲兵隊長であるコーナンと、司法権限を持つサカンも同行する。
警察権と司法権、その両方を行使できる人間がいることは、今後の捜査において大きな利点となる。
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なお、これは依頼というより志願に近かった。
コーナンは「王家への忠誠の証」として。
サカンは「中央や王家に関わる職務は出世に有利」との判断からだ。
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表向きは、皇女によるお忍びの地方視察。
だが実際には、スオーで起きた殺人事件と誘拐未遂事件、その両方を追うための旅でもあった。
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権限の問題については、コーナンとサカンに侍従長補の兼務辞令を出すことで解決された。
王都へ戻れば解かれる臨時の命令だが、これで両者は正式にハギーの護衛として動けるようになった。
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皇帝補佐官兼侍従長、コグシーがこれほどの権限を持つ立場にあるとは、正直見直した。
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「さあ、参りましょう」
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二頭立ての馬車の中、ハギーが楽しげに声を上げる。
御者のコーナンが軽く鞭を入れると、馬はゆっくりと歩き出した。
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その前方ではユダが単騎で先行し、周囲を警戒している。
護衛として先に進み、危険を察知するためだ。
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馬車は貴族用の豪華なものではない。
幌付きで簡素だが、中を改造して寝起きできるようにしてある。
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当初、コグシーは豪華な馬車を用意しようとしたが、ハギーが「庶民と同じものを」と望んだため、装いも含めて行商人風に統一された。
滝は外国商人という設定で、制服にマントを羽織るだけで済んでいる。
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スオーからセキまでは約100キロ。
自動車なら数時間ほどの距離だが、馬車では二日かかる。
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途中には塹壕跡や焼け落ちた建物が残り、戦争の爪痕が色濃く残っていた。
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出発から半日後。
最初の宿場町、ノオダに到着する。
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町の入口には憲兵隊の姿があった。
先行していたユダがこちらへ駆け戻る。
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「どうした?」
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コグシーが馬車から身を乗り出す。
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「昨夜、ノオダの倉庫から大量の小麦が盗まれました」
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鍵はかかっていたが、火事騒ぎの隙を突かれたらしい。
現在、町は封鎖され、検問中だという。
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「引き返しましょう」
「ハギー様を巻き込むわけにはいかない」
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サカンが即座に進言する。
コグシーも同意し、コーナンに指示を出そうとした。
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「いや、このまま行きましょう」
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滝はコグシーの肩に手を置いた。
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「……しかし」
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迷いの色が浮かぶ。
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「もう気付かれている」
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町の入口を指す。
検問中の憲兵騎兵がこちらへ向かってきていた。
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「この馬車では逃げきれません」
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ユダが剣に手をかける。
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「それも駄目です。余計に面倒になる」
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ユダは静かに手を離した。
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「ならば、身分を明かして通してもらうしか――」
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コーナンが言いかけた、その時。
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「なりません」
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ハギーが口を開く。
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「旅の目的をお忘れですか」
「私たちは、やましいことなど何もありません」
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その瞳は、はっきりと輝いていた。
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――こうなったら、もう止められない。




