第166話 賭場
賭場では、大きなテーブルを囲むように、大勢の客がひしめいていた。
テーブルの中央にはディーラーが立っている。
ディーラーは筒とサイコロを手にすると、客たちからよく見えるように、それぞれを交差させた。
そして、筒の中に2つのサイコロを入れる。
カラカラと音を立てながら、サイコロが筒の中で転がった。
ディーラーは筒をテーブルの上に置いた。
「勝負!」
その声と同時に、客たちが一斉に声を上げた。
「ハン!」
「チョウ!」
それぞれが自分の選んだ方へ、チップを差し出していく。
ハンかチョウか。
この賭博は、二つのサイコロの出目の合計が偶数か奇数かを当てる、単純な勝負だった。
合計が偶数ならハン、奇数ならチョウ。
勝てば賭けたチップと同額の配当が得られる。だが、負ければ賭け金はすべて失う。
ディーラーはテーブルを見渡した。
「他にございませんか?」
誰も何も言わない。
ディーラーは筒をゆっくりと持ち上げた。
サイコロの目が、明らかになる。
「二、六!」
ディーラーが声を上げる。
「チョウ!」
勝負が決まった。
チョウに賭けていた客から歓声が上がる。
係員が勝った客へ、賭けたチップと同額の配当を配っていく。
一方、負けた客のチップは、別の係員が手際よく回収していった。
その時だった。
ひとりの中年の客に、カッタの手下たちが近づいていった。
「負けましたね」
男たちは、意外なほど丁寧な口調だった。
「では、借金の返済をお願いします」
「ま、待ってくれ……」
中年の男が青ざめる。
「もう一勝負だけ……頼む。次は必ず勝つから」
「駄目です」
男のひとりが、冷たく言った。
「あんたに、貸す金はもうない」
「そんな……」
「他のお客さんに迷惑です」
手下たちは男を左右から挟む。
「別室へ行きましょう」
「待ってくれ!」
男の声が響く。
だが、男たちは構わず中年客を連れて行った。
それを見ていたハギーが、隣に座る滝へ小さな声で尋ねた。
「……あの方は、どうなるのでしょう?」
滝は連れて行かれた男を見ながら答えた。
「おそらく、担保にしていたものを借金のカタに取られるでしょう」
「店とか、貴金属とか……」
ハギーの表情が曇る。
「それでも足りなければ?」
「どこかで、強制労働でしょうな」
「……」
ハギーは黙り込んだ。
その顔には、先ほどの男への同情が浮かんでいる。
「それが分かっていながら……」
ハギーは賭場を見渡した。
「勝負に手を出してしまう」
そして、ぽつりと言う。
「賭け事とは、恐ろしいものですね」
「おっしゃるとおりです」
滝も、テーブルの上を行き交うチップを見た。
「しかし……」
滝は淡々と言った。
「だから、金になる」
「……」
ハギーは再び、賭場を見渡した。
人々は勝った者も負けた者も、まるで何事もなかったかのように、次の勝負を待っている。
やがてディーラーが、軽く頭を下げた。
「失礼しました」
そして、再びサイコロを手に取る。
筒とサイコロを客たちに見せる。
サイコロを筒へ入れ、筒を交差させながら振る。
カラカラカラ……。
そして、テーブルの上に筒を置いた。
「勝負!」
「ハン!」
「チョウ!」
客たちは、何事もなかったように次々とチップを差し出していく。
そんな中――。
ひとりの客が、大量のチップをテーブルの上へ置いた。
周囲の客たちがざわめく。
「チョウだ」
男が言った。
ディーラーも思わず目を見開く。
他の客たちも、その客へ視線を向けた。
そこにいたのは、覆面をした美少女だった。
その周囲には、どこか貴族を思わせる雰囲気を漂わせた一団が座っている。
ハギー達だった。




