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第164話 カッタ

 倉庫の奥から、一人の男が歩いてきた。


 上質な貴族風の服に身を包み、長い髪を後ろで束ねている。


 身長はそれほど高くなく、体格も細身だった。


 だが、血色のいい顔には、自信が満ちている。


 男はハギーの前まで来ると、丁寧に頭を下げた。


「初めまして。カッタと申します」


「グレンさんから、大切なゲストがお見えになると聞いております」


 ハギーも微笑んだ。


「ご丁寧にありがとうございます」


 カッタは周囲を見渡した。


「倉庫の中がこのような状態で、さぞ驚かれたでしょう」


「ええ。驚きました」


 ハギーは素直に答えた。


 カッタは楽しそうに笑う。


「ここは、この街で一番の社交場なのですよ」


「社交場……ですか?」


「ええ。皆さんに出会いの場を提供し、ここで寛いでもらうための場所です」


 滝は周囲を見回した。


 確かに、客たちは酒を飲み、料理を楽しみながら、それぞれ思い思いに時間を過ごしている。


 ただの賭場というより、華やかな社交場を装っているようにも見えた。


 だが、笑い声の合間に交わされる視線や、店員たちの立ち位置には、隙がない。


 滝がカッタへ視線を戻した。


「グレンさんとは、対立していると思っていましたが」


 カッタは滝を見て、少し怪訝そうな顔をした。


「それと、こちらの方は?」


 カッタの視線が、使用人風の服装をした滝へ向く。


 ハギーが答えた。


「こちらは外国から来られた大切なお客様です」


「商いについて、いろいろと助言をいただいております」


 カッタの表情が幾分和らいだ。


「なるほど」


 そして、軽く頭を下げる。


「それは失礼しました」


 カッタは再びハギーを見る。


「私は誤解されることが多いのですが……」


「私はグレンさんを尊敬しております」


 その声には、表面上の社交辞令とは違う響きがあった。


「確かに商売で競り合うところはあります」


「後から来た私の方が繁盛している」


「そのため、そのような噂が出ているのでしょう」


 カッタは苦笑した。


「グレンさんは、商売で大事な道を心得ていらっしゃる」


「だからこそ、慕う人も多い」


「そうしたところは、私も見習いたいと思っています」


 滝は黙ってカッタの顔を見る。


 言葉だけを聞けば、実に好人物だった。


「だからこそ」


 カッタは周囲を見渡した。


「グレンさんの大切なお客様である皆さんを、私は歓迎いたします」


 ハギーは微笑んだ。


「ありがとうございます」


「それに……」


 カッタは少しだけ意味ありげな笑みを浮かべた。


「グレンさんの一人娘、レンさんを妻に迎えたいとも思っています」


 その言葉に、コーナンが反応した。


「レンはどこだ」


 思わず強めの声が出る。


 レンはコーナンを一瞬だけ冷たい目で見た。


 ほんの一瞬。


 だが。


 滝は、その表情を見逃さなかった。


 カッタは笑顔で手を叩いた。


 パン、と乾いた音が倉庫内に響く。


 すると、奥から若い女が歩いてきた。


 身体の線が分かるような、華やかでセクシーな服装。


 手には飲み物が並べられた盆を持っている。


 女はハギーたちの前まで来ると、静かに頭を下げた。


「どうぞ」


 カッタは笑みを浮かべた。


「まずは、この街での夜を楽しんでください」

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