第161話 賭博
一行は、いったん宿へ戻った。
部屋に集まると、バグが倉庫群について話し始めた。
「あの倉庫群は、今ではカッタ連合の縄張りです」
「誰のものなんだ?」
滝が尋ねる。
「ジカイという男です」
バグは答えた。
「この町では昔から知られた名士でした。倉庫群も、もともとはジカイの持ち物だったんです」
「だった?」
「ええ」
バグは少し顔を曇らせた。
「ジカイが借金を抱えましてね。その借金のかたに、いつの間にか倉庫群はカッタのものになっていた」
「いつの間にか、か」
滝が呟く。
「はい。表向きは正式な取引だったことになっています」
「なるほどな」
滝は腕を組んだ。
「それで、あそこには賭場があるんだったな」
「ああ」
バグが頷く。
「カッタ連合が仕切っている賭場です」
滝はサカンを見る。
「俺の国では、賭博は国が胴元になるもの以外は禁止されている」
「国が胴元?」
サカンが首を傾げる。
「国が管理するもの以外の賭場は、基本的に認められていない」
「帝国では賭博そのものは禁止されておりません」
サカンが答えた。
「ただ、まともな大人がやることではない、という風潮はあります」
「なるほど」
「ですから、これといって流行っている賭け事もないと思います」
バグが口を挟む。
「うちの親分も、博打は身を滅ぼして街の風紀を乱すと言って、昔から商売にはしてきませんでした」
「グレンはそういうところは堅いんだな」
「ええ」
バグは少し苦笑した。
「ところが、カッタは違う」
「どういうところなんだ?」
滝が尋ねる。
「カッタが考案したという賭け事があるんです」
「考案?」
「ああ。四角い、数を示す粒を使うらしい」
滝は少し考えた。
「それで賭けをするのか」
「詳しいやり方までは知りません」
バグは首を振った。
「ただ、賭けに負けた奴には、法外な金利で金を貸しているという話があります」
「負けた奴を借金漬けにするわけか」
サカンの表情が険しくなる。
「ええ。それで、その借金を返せなくなった奴の中には、町からいなくなった者もかなりいる」
「いなくなった?」
滝が聞き返した。
「はい」
バグは声を落とした。
「家族にも何も言わずに消えた奴もいる。どこへ行ったのか、誰にも分からない」
「……それで?」
「噂では、カッタ連合が何かしているんじゃないかと言われています」
バグは一度言葉を切った。
「ですが、本当のところは分かりません」
「憲兵隊は?」
滝が聞く。
バグは首を振った。
「それが、何故か動かないんです」
「何故だ?」
「分かりません」
部屋に沈黙が落ちた。
人が消える倉庫群。
オラヒも、そこへ向かったまま消息を絶った。
そして今度はレンまで、同じ場所へ向かった。
「……鍵は、あそこにあるな」
滝が呟いた。
ミネーが心配そうに滝を見る。
「滝様……」
「行くんですね」
「ああ」
滝は頷いた。
「オラヒとレン。二人とも、あそこで足取りが途切れている」
ミネーの表情が曇る。
「でも、危険なんでしょう?」
滝はミネーを見る。
婚約者の心配そうな顔を見て、少しだけ笑った。
「もう一人じゃない」
滝は穏やかに続けた。
「無茶はしない。みんながいる」
「……そうですね」
ミネーの表情が少し緩む。
そのやり取りを見ていたハギーやコーナンたちも、どこか微笑ましそうな顔をしていた。
「それより、どうやって賭場に入るかだ」
滝が話を戻す。
「いきなり乗り込んだら、さすがに怪しまれる」
サカンも腕を組む。
「カッタ連合の縄張りなんだろ? ただの客を装っても、素性を探られるかもしれません」
「そうだな」
滝も考え込む。
すると、バグが手を挙げた。
「それなら、一つ方法があります」
「何だ?」
「うちの親分の紹介ということにすればいい」
「グレンの?」
「はい」
バグは頷いた。
「カスミから来た高貴な方々のお忍びということにするんです」
ハギーが目を瞬かせた。
「高貴な方々……」
「賭場には、金を持った客も来ます」
バグが説明する。
「カスミから来た身分の高い方なら、むしろ歓迎されるでしょう」
滝は考えた。
確かに、ただの旅人よりも話は通りやすい。
しかもグレン一家の名前を出せば、ラコクでの身分も保証される。
「……使えるな」
滝が言った。
「採用しよう」
「では、決まりですね」
バグが頷く。
滝は全員を見回した。
「行くぞ」
目指すのは、オラヒが消え、レンが向かった倉庫群。
そして、その奥にあるカッタ連合の賭場だった。




