↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
160/164

第160話 消えた足取り

「レン様が……宿を出ました!」


「それから……行方が分かりません!」


グレンの屋敷に飛び込んできた男の報告に、食堂の空気が凍りついた。


「どういうことだ?」


グレンが立ち上がる。


「宿の者に見張らせていたはずだろう」


「はい。それが……」


男は息を整えながら答えた。


「部屋には灯りがついていました。窓から見ても、人影が見えていたので、てっきりレン様は部屋にいるものと……」


「それで?」


「しばらくしてから確認に行ったところ、部屋には誰もいませんでした」


「何だと?」


滝たちは急いで宿へ向かった。


レンの部屋に入ると、確かに灯りがついたままになっていた。


そして窓際には、一脚の椅子。


そこにはレンが普段使っていたベールと外套が掛けられている。


カーテン越しに見れば、まるで誰かが椅子に座っているようにも見える。


「……なるほど」


滝が呟いた。


「灯りをつけ、ベールと外套を椅子に掛けたのか」


ユダが頷く。


「外から見れば、人がいるように見えますね」


「それだけじゃない」


滝は部屋を見回した。


「宿を出る時も、普通に一人で出たわけじゃない」


「どういうことです?」


コーナンが尋ねる。


「宿には他にも客がいる。レンは、その集団客に紛れたんだろう」


宿の者に確認すると、夜になってから何組かの客が宿を出ていた。


その中にレンが紛れ込んでいたらしい。


宿の者も、わざわざ客の顔を一人ずつ確認してはいなかった。


「……見事ですね」


コーナンが感心する。


「完全に騙された」


サカンも苦笑した。


「まさか、あの娘がここまでやるとはな」


ハギーも小さく頷く。


「レンさんは、思っていた以上に用意周到な方なのですね」


「親分の娘ですから」


バグが苦笑する。


「こういうところだけは、昔から妙に頭が回るんですよ」


滝は椅子に掛けられたベールを見つめた。


レンは、自分がいなくなったことに気づかれても、すぐには行き先を知られないようにしていた。


おそらく、滝たちに説得されることを警戒したのだ。


グレンから事情を聞けば、滝たちがレンを連れ戻す側に回る可能性もある。


だからこそ、自分の行き先を隠した。


「……問題は、ここからだ」


滝が言った。


「レンがどこへ向かったのか」


そこから、レンの捜索が始まった。


滝たちだけではない。


グレン一家も総動員して、町中に人を出した。


宿の周辺。


大通り。


市場。


酒場。


馬車乗り場。


鉱山へ向かう道。


レンを見た者がいないか、一つずつ確認していく。


それでも、なかなか足取りは掴めなかった。


ラコクは人が多い。


鉱山で働く者、商人、旅人。


毎日、大勢の人間が町を出入りしている。


一人の若い女が、その中に紛れ込めば簡単には見つからない。


「駄目です」


ユダが戻ってくる。


「こちらも目撃情報はありません」


コーナンも首を振った。


「こちらも同じです」


サカンが周囲を見回す。


「これだけ人を出しても、見つからねえか」


グレン一家の男たちも次々と戻ってくる。


誰も、決定的な情報を持ってはいなかった。


その時だった。


道端に座り込んでいる男が、滝の目に入った。


薄汚れた外套。


伸び放題の髪。


道行く人間を眺めているだけで、誰も声を掛けようとはしない。


滝は、その男の前で足を止めた。


「……あの男」


コーナンが振り返る。


「どうかしましたか?」


「この町に長くいるんじゃないか」


「ホームレスでしょうか」


「たぶんな」


滝は男の前まで歩いていった。


男は滝を見上げた。


警戒している。


滝は懐から包みを取り出した。


それは、先ほどグレンの屋敷で出された料理の残りだった。


「食うか?」


男は驚いたように料理を見る。


「……俺に?」


「ああ」


滝が差し出すと、男はしばらく迷ってから受け取った。


「ありがてえ……」


男は料理を口にした。


滝は急かさず、その様子を黙って見ていた。


やがて男のほうから口を開いた。


「……何か探してるのか?」


滝は男を見る。


「よく分かったな」


「この町で、あんたたちみたいな連中が歩き回ってりゃ、嫌でも分かる」


「そうか」


滝は少しだけ笑った。


「女を探している」


「女?」


「若い女だ。こういうベールを着けていた」


滝がレンのベールを見せる。


男はしばらく考えた。


「……見た気がする」


「どこで?」


「町の東のほうだ」


滝の目が変わった。


「詳しく聞かせてくれ」


男は料理を食べながら話し始めた。


「女は一人だった。けど、途中から別の連中と一緒になった」


「どこへ?」


男は東の方角を指した。


「倉庫群のほうだ」


その言葉を聞いた瞬間、滝の表情が変わった。


「……倉庫群?」


その場所には覚えがある。


少し前、オラヒを追っていたユダが辿り着いた場所だ。


オラヒは宿を出たあと、町外れの倉庫群へ向かった。


ユダはその倉庫群まで追跡したが、夜だったこともあり、無理に踏み込まずに見張った。


そして翌朝になっても、オラヒは倉庫群から出てこなかった。


あの時は、そこで足取りが途切れた。


「……まさか」


ユダも気づいた。


「オラヒが消えた場所ですね」


「ああ」


滝は頷いた。


「レンも、そこへ向かったのか」


二人の失踪が、同じ場所で重なった。


偶然とは思えない。


滝は男に向き直った。


「他に何か覚えているか?」


「女が向かった先なら分かる」


男は答えた。


「俺はあの辺りにいることが多いからな」


滝は男に礼を言った。


そして、仲間たちのもとへ戻る。


「分かった」


「何がです?」


コーナンが聞く。


「レンの行き先だ」


一同が滝を見る。


「レンは、オラヒが消えた倉庫群へ向かったらしい」


バグの表情が変わった。


「……倉庫群ですか」


「ああ」


バグはしばらく黙っていた。


そして、声を落とした。


「あそこは……カッタ連合の縄張りです」


その言葉に、コーナンが顔を強張らせた。


「カッタ連合?」


「そうです」


バグは頷いた。


「あの倉庫群には、カッタ連合が管理している倉庫があります。それに、あの辺りには賭場もある」


「賭場……」


「表向きは倉庫街ですが、夜になると別の顔を見せます」


バグは険しい顔になった。


「そこへ勝手に踏み込めば、カッタ連合と揉める可能性があります」


サカンが眉を寄せる。


「レンがそこにいるかもしれねえんだぞ」


「分かっています」


バグも険しい顔になる。


「ですが、迂闊に手を出せば……抗争になるかもしれません」


その言葉に、滝は倉庫群のある方向を見た。


オラヒが消えた場所。


そして今度は、レンが向かった。


二人の失踪は、同じ場所へつながっている。


ただの偶然なのか。


それとも――。


滝の中で、二つの事件が一本の線でつながり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。