第158話 訪問者
扉が開いた。
「失礼します」
バグと、その後ろに数人の男たちが入ってきた。
その姿を見た瞬間、レンはそっぽを向いた。
バグはそんなレンを見て、やれやれといった表情を浮かべる。
「滝さん」
「ああ」
「約束どおり、宿を教えてくれてありがとうございます」
バグが頭を下げる。
「気にするな」
「助かりました」
バグはそう言ってから、部屋の中を見回した。
「それで……」
レンをちらりと見る。
「親分が、皆さんに挨拶したいと言っています」
「グレンさんが?」
「はい」
バグは頷いた。
「ただ、親分は体があまり良くありません」
少し表情を曇らせる。
「こちらまで出向くのは難しいので、できれば皆さんに来ていただきたいと」
レンはそっぽを向いたまま、口を挟んだ。
「私は行かないよ」
バグは予想していたらしい。
「……そう言うと思ってました」
呆れたようにレンを見る。
ハギーとミネーが顔を見合わせた。
「それでしたら、私たちもここに残りましょうか?」
ハギーが言う。
ミネーも頷いた。
「レンさんを一人にするのも気になりますし」
「いいよ」
レンが振り向いた。
「私に気を遣わなくていいから、二人とも行ってきなよ」
「ですが……」
「大丈夫だって」
レンは笑う。
「お嬢さんは、このラコクのことを色々知りたいって言ってたじゃない」
ハギーを見る。
「昔気質の愚連隊と、堅物の親父がどんなもんか。見てみるといいさ」
「レンさん……」
「せっかくラコクまで来たんだから、見ておいたほうがいいよ」
レンは軽く笑った。
滝は黙ってレンを見ていた。
何かが引っかかる。
レンがここまで素直に皆を送り出すのが、少し気にかかった。
「レン。本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫」
レンは何でもないことのように手を振った。
「宿でおとなしくしてるよ」
あまりにも済ました顔で言う。
滝はしばらくレンを見つめた。
「……そうか」
それでも、完全には納得できない。
「なら、ユダを残していくか」
「え?」
レンが振り向く。
「それはやめて」
即答だった。
「私、そんなに信用ない?」
「そういう意味ではない」
「じゃあ、ユダさんは連れていって」
レンは笑った。
「私は一人でも大丈夫だから」
滝は少し考えた。
「なら、コーナンを残そう」
「それも駄目」
「なぜだ?」
レンはコーナンを見る。
「コーナンさんには、私がどんなところで育ったのかを見てきてほしい」
「俺が?」
「そう」
レンはにこりと笑った。
「親父は、あなたのお義父さんにもなるんだから」
「……」
コーナンが固まった。
ミネーが目を丸くする。
ハギーも驚いた顔でレンを見る。
滝は思わずレンを見返した。
「おい……」
「いいじゃない」
レンは悪びれない。
「これから家族になるんでしょ?」
コーナンは何とも言えない表情を浮かべている。
レンはそんなコーナンに視線を向けると、今度はバグを見た。
「それと」
「はい?」
レンの表情が変わった。
「バグ」
「はい」
「この人は、私のいい人だから」
レンはコーナンを指差した。
「失礼があったら承知しないよ」
声は明るかった。
だが、その目は笑っていない。
バグは一瞬、コーナンを見る。
そして、レンを見る。
「……分かりました」
バグは苦笑した。
「十分、承知しました」
後ろに控えていた男たちも、揃って頷いた。
「よし」
レンは満足そうに笑った。
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
やがて、ハギーたちを乗せた馬車が宿を出た。
レンは宿の窓から身を乗り出すようにして、馬車へ向かって手を振っている。
「いってらっしゃーい!」
さっきまでの緊張など、どこへ消えたのか。
レンは実にご機嫌だった。
馬車が遠ざかっていく。
滝は車内から宿の窓を見上げた。
そこでは、レンが笑顔で手を振り続けていた。




