第14話 異世界裁判6 法廷の銃声
凶器は事前に盗まれていた。
しかも――第一発見者の指示で。
目撃証言は崩れた。
遺体の状況も、現場の状況も、ミネーの犯行を裏付けてはいない。
残ったのは、疑いだけだ。
――それでは、有罪にはできない。
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「双方、ほかに主張はありますか」
裁判長の声が静かに響く。
視線がサカンに集まる。
だが、彼は顔を上げなかった。
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「……ありません」
低く、押し殺した声。
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「タキ殿は」
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「ありません」
短く答える。
これで終わりだ。
――そう思いたい。
だが、胸の奥のざわつきは消えない。
ミネーがこちらを見る。
何かを託すような目だ。
安心させようと、口元を緩める。
――うまく笑えているだろうか。
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「それでは、判決を――」
その瞬間だった。
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「裁判長!」
サカンが前に出る。
ざわめきが走る。
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「起訴を、取り消します」
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一拍遅れて、空気が凍りついた。
裁判長が言葉を失う。
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「……今、何と?」
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「起訴の取り消しです」
サカンは迷いなく言い切った。
法律書を開き、静かに読み上げる。
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「司法官は、いつでも起訴を取り下げることができる」
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顔を上げる。
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「よって、ミネー被告に対する起訴を取り消します」
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沈黙。
誰も、声を出せない。
やがて――
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「……協議に入る」
裁判長がようやく口を開いた。
ざわめきが広がる中、三人の裁判官は顔を寄せ合う。
コグシーが隣で震えている。
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「……初めてだ」
かすれた声。
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「この条文が使われるのを見るのは……」
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そのまま言葉にならず、肩を震わせた。
やがて。
裁判長が顔を上げる。
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「起訴の取り消しを認める」
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息を呑む音が広がった。
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「本件は、これにて閉廷とする」
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一瞬の静寂。
――次の瞬間。
どよめきが爆発した。
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ミネーがこちらへ駆けてくる。
涙を浮かべ、確かに笑っていた。
思わず両手を広げる。
だが――
そのままコグシーに飛びついた。
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「父上……!」
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「ミネー……!」
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抱き合い、崩れるように泣く。
――まあ、そうなるか。
ふっと力が抜けた、その時だった。
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両手を、がっしりと掴まれる。
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「タキ殿」
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サカンだった。
先ほどまでの冷笑は消えている。
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「見事です」
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真っ直ぐな目だった。
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「私は…… 見誤るところでした」
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「どうか、捜査というものを教えていただきたい」
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周囲がざわつく。
だが、その視線はもう気にならない。
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「……その前に」
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私はホウブを見る。
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「聞くべきことがあります」
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サカンが頷いた。
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「ホウブを連行しろ」
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憲兵が両脇を抱える。
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「ホウブさん」
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呼びかけると、足が止まる。
振り返った顔は、怯えていた。
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「誰に頼まれたんですか」
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沈黙。
サカンが一歩前に出る。
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「正直に話せば、考慮しよう」
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低い声。
ホウブの喉が鳴る。
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「俺に……頼んだのは――」
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その時だった。
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乾いた音が、空気を裂いた。
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――バンッ。
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一瞬、何が起きたのか分からなかった。
次の瞬間、身体が動いていた。
ミネーを引き倒し、その上に覆いかぶさる。
隣のコグシーも強引に引き倒す。
視界の端で、サカンが立ち尽くしている。
――ハギーは。
ユダが覆い、憲兵たちが壁になる。
無事だ。
では――
誰が。
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ゆっくりと視線を戻す。
ホウブが、倒れていた。
床に血が広がる。
アガが駆け寄る。
声にならない叫び。
間に合わない。
それは、一目で分かった。
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ヨロズも傷を見て、静かに首を横へ振る。
それでも膝をついた。
顔を近づける。
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「……ホウブ」
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かすかに目が動く。
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「誰に頼まれた」
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唇が震える。
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「……頬に、傷の……ある……」
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息が途切れる。
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「大男……」
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もう一度、息を吸おうとして――
動かなくなった。




