第13話 異世界裁判5 改心の証人
事件当日、被告ミネーは、被害者トクから呼び出しを受けていた。
前日の皇女ハギー誘拐未遂事件の犯人を教える――その条件は、大金を持って明け方、遺体発見現場へ一人で来ることだった。
ミネーは約束どおり宿舎を出た。
その際、自身のナイフが盗まれていることに気づいたが、それでも真相を優先し、現場へ向かった。
そこで彼女が見たのは――木の下で仰向けに倒れ、すでに絶命しているトクの姿だった。
驚いたミネーは、その場から立ち去った。
だが宿舎に戻ったところで、殺人犯として拘束された。
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「被告の供述、真実は以上です」
一度区切り、法廷を見渡す。
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「ただし――」
わずかに間を置く。
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「被告が遺体を発見した時、胸にナイフは刺さっていなかった」
ざわめきが広がる。
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「つまり、被告が立ち去った後に――何者かが、盗んだナイフを使って刺した可能性がある」
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「証拠はないな」
サカンが即座に切り捨てる。
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「ナイフが盗まれた事実も、被告は供述していない。都合のいい作り話だ」
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「では、証拠をお見せしましょう」
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「裁判長、追加証人の出廷を求めます」
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一瞬の静寂。
そして裁判長が頷く。
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「……許可する」
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人垣が割れ、二人の女性が法廷に入ってきた。
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その姿を見た瞬間、ホウブの顔色が変わる。
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一人は洋館のメイド、アガ。
もう一人は――彼女を連れてきたユダだ。
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昨日、私はユダに「ホウブが呼んでいる」と伝え、アガを法廷へ連れてくるよう頼んでいた。
ホウブと同じ手で証人を連れてきたのだ。
法廷まで来れば、もう逃げられない。
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「わ、私は……ただ頼まれただけで……!」
アガは半泣きのまま叫ぶ。
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「こんなことになるなんて……思っていなかったんです……!」
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「落ち着きなさい。まずは宣誓を」
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裁判長に促され、震える手で祈りの姿勢を取る。
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宣誓を終えたアガは、こちらを見た。
その視線は、救いを求めるように揺れている。
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「証人に質問します」
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「このナイフに見覚えは?」
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「……はい」
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消え入りそうな声。
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「なぜです?」
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沈黙。
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長い、長い沈黙。
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「黙秘ということでよろしいのでは?」
サカンが一歩前に出る。
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まずい――。
ここで止まれば、すべてが崩れる。
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その時だった。
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「……大丈夫です」
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ミネーが、静かにアガへ歩み寄る。
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「涙を拭いてください」
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ハンカチでそっと頬に触れる。
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「綺麗なお顔が、台無しですよ」
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アガの目が見開かれる。
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「私は、あなたを恨んでいません」
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「きっと、事情があるのでしょう?」
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その言葉に――
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アガは崩れ落ちた。
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激しい嗚咽が法廷に響く。
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やがて、ゆっくりと立ち上がる。
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「……私が盗みました」
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「ミネー様のナイフを……」
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「申し訳ありませんでした!」
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深く頭を下げる。
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ミネーは何も言わず、その手を握った。
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――今だ。
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「なぜ盗んだのですか」
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ホウブが慌てて動くが、ユダが静かに立ちはだかる。
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「……この人に頼まれました」
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アガの指が、震えながらホウブを指す。
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場が凍りつく。
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「詳しく」
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促すと、アガは顔を上げた。
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もう迷いはなかった。
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「私は、この男に頼まれてナイフを盗みました」
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そして語り始める。
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戦争で夫を失ったこと。
孤独な日々。
新政府や貴族への複雑な感情。
酒場で出会ったホウブ。
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――そして、歪んだ共犯関係。
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「皇女には手は出せない。でも、貴族を困らせることはできる」
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その言葉に流され、ミネーが入浴中にナイフを盗んだ。
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「返すはずだったんです……」
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「でも……」
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声が震える。
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「次の日……人が死んで……」
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「怖くて……何も言えませんでした……」
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静まり返る法廷。
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そして最後に、ぽつりと。
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「……私は、利用されたんだと思います」
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すべてが繋がり、流れは完全に変わった。




