表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/90

第13話 異世界裁判5 改心の証人

 事件当日、被告ミネーは、被害者トクから呼び出しを受けていた。


 前日の皇女ハギー誘拐未遂事件の犯人を教える――その条件は、大金を持って明け方、遺体発見現場へ一人で来ることだった。


 ミネーは約束どおり宿舎を出た。


 その際、自身のナイフが盗まれていることに気づいたが、それでも真相を優先し、現場へ向かった。


 そこで彼女が見たのは――木の下で仰向けに倒れ、すでに絶命しているトクの姿だった。


 驚いたミネーは、その場から立ち去った。


 だが宿舎に戻ったところで、殺人犯として拘束された。



「被告の供述、真実は以上です」


 一度区切り、法廷を見渡す。



「ただし――」


 わずかに間を置く。



「被告が遺体を発見した時、胸にナイフは刺さっていなかった」


 ざわめきが広がる。



「つまり、被告が立ち去った後に――何者かが、盗んだナイフを使って刺した可能性がある」



「証拠はないな」


 サカンが即座に切り捨てる。



「ナイフが盗まれた事実も、被告は供述していない。都合のいい作り話だ」



「では、証拠をお見せしましょう」



「裁判長、追加証人の出廷を求めます」



 一瞬の静寂。


 そして裁判長が頷く。



「……許可する」



 人垣が割れ、二人の女性が法廷に入ってきた。



 その姿を見た瞬間、ホウブの顔色が変わる。



 一人は洋館のメイド、アガ。


 もう一人は――彼女を連れてきたユダだ。



 昨日、私はユダに「ホウブが呼んでいる」と伝え、アガを法廷へ連れてくるよう頼んでいた。


 ホウブと同じ手で証人を連れてきたのだ。


 法廷まで来れば、もう逃げられない。



「わ、私は……ただ頼まれただけで……!」


 アガは半泣きのまま叫ぶ。



「こんなことになるなんて……思っていなかったんです……!」



「落ち着きなさい。まずは宣誓を」



 裁判長に促され、震える手で祈りの姿勢を取る。



 宣誓を終えたアガは、こちらを見た。


 その視線は、救いを求めるように揺れている。



「証人に質問します」



「このナイフに見覚えは?」



「……はい」



 消え入りそうな声。



「なぜです?」



 沈黙。



 長い、長い沈黙。



「黙秘ということでよろしいのでは?」


 サカンが一歩前に出る。



 まずい――。


 ここで止まれば、すべてが崩れる。



 その時だった。



「……大丈夫です」



 ミネーが、静かにアガへ歩み寄る。



「涙を拭いてください」



 ハンカチでそっと頬に触れる。



「綺麗なお顔が、台無しですよ」



 アガの目が見開かれる。



「私は、あなたを恨んでいません」



「きっと、事情があるのでしょう?」



 その言葉に――



 アガは崩れ落ちた。



 激しい嗚咽が法廷に響く。



 やがて、ゆっくりと立ち上がる。



「……私が盗みました」



「ミネー様のナイフを……」



「申し訳ありませんでした!」



 深く頭を下げる。



 ミネーは何も言わず、その手を握った。



 ――今だ。



「なぜ盗んだのですか」



 ホウブが慌てて動くが、ユダが静かに立ちはだかる。



「……この人に頼まれました」



 アガの指が、震えながらホウブを指す。



 場が凍りつく。



「詳しく」



 促すと、アガは顔を上げた。



 もう迷いはなかった。



「私は、この男に頼まれてナイフを盗みました」



 そして語り始める。



 戦争で夫を失ったこと。


 孤独な日々。


 新政府や貴族への複雑な感情。


 酒場で出会ったホウブ。



 ――そして、歪んだ共犯関係。



「皇女には手は出せない。でも、貴族を困らせることはできる」



 その言葉に流され、ミネーが入浴中にナイフを盗んだ。



「返すはずだったんです……」



「でも……」



 声が震える。



「次の日……人が死んで……」



「怖くて……何も言えませんでした……」



 静まり返る法廷。



 そして最後に、ぽつりと。



「……私は、利用されたんだと思います」



 すべてが繋がり、流れは完全に変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ