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第138話 問い

 食堂。


 重い沈黙が続いていた。


 ヒコは俯いたまま座っている。


 誰も言葉を発しない。


 先ほどまでの告白。


 後悔。


 悔恨。


 その全てが、この場に重く残っていた。


 やがて――


 ミヤーノが静かに口を開く。


 「事情は分かった」


 「だが、それでも貴様のしたことは許されるものではない」


 ヒコは顔を上げない。


 ミヤーノは続ける。


 「ヒコこと、セキ総督補佐官チョウ」


 「貴殿を王都爆破事件の犯人として拘束する」


 「また、セキの密輸事件」


 「ノオダの強盗事件」


 「皇女誘拐事件についても聴取を行う」


 「異議はあるか」


 しばしの沈黙。


 「ありません」


 ヒコは静かに答えた。


 近衛兵が左右から歩み寄る。


 その両腕を取る。


 だが――


 ヒコは抵抗しなかった。


 そして。


 ゆっくりと顔を上げる。


 「最後に二つだけ」


 皇帝を見る。


 皇帝は静かに頷いた。


 片手を上げる。


 近衛兵が手を離した。


 ヒコは深く息を吐く。


 「一つ」


 「クガー様は今回の計画の詳細を何も知らない」


 食堂が静まり返る。


 「今思えば」


 「俺や佐田が暴走しないよう監視していたんだと思う」


 クガーは何も言わない。


 ただ静かに聞いていた。


 ヒコは続ける。


 「そして、もう一つ」


 視線が皇帝へ向く。


 「なぜです」


 誰も動かない。


 「なぜ、あの時」


 「スオーを見捨てたのですか」


 空気が張り詰める。


 「作戦としては見事だった」


 「ですが援軍が来なければ」


 「スオーがどうなるか分かっていたはずだ」


 「なのに、なぜ――」


 ヒコの声が震える。


 「なぜ、見捨てたのですか!」


 食堂に響く。


 皇帝は答えない。


 誰も口を開けない。


 ただ沈黙だけが続く。


 やがて。


 皇帝は静かに口を開いた。


 「……すまぬ」


 それだけだった。


 ハギーが悲しそうに目を伏せる。


 ヒコの顔が歪む。


 その時。


 「違う」


 低い声が響いた。


 コグシーだった。


 全員の視線が向く。


 コグシーは立ち上がる。


 「陛下は間違いなくスオーへ援軍を送るよう勅命を下された」


 ヒコが顔を上げる。


 コグシーは続けた。


 「あの時、我々は劣勢だった」


 「王都も決して安全ではなかった」


 「多くの者が反対した」


 「王都が手薄になる」


 「兵を失えば帝国そのものが終わる」


 「そう進言した」


 一拍。


 「だが陛下は首を縦に振られなかった」


 食堂が静まり返る。


 「スオーを犠牲にして生き残るつもりはない」


 「約束を果たさず民を見捨てれば」


 「我々は大義を失う」


 「その先、誰も帝国についてこなくなる」


 コグシーの声は力強かった。


 「そう仰せになられたのだ」


 皇帝が静かに言う。


 「コグシー」


 「もうよい」


 だが。


 コグシーは首を横に振った。


 「いいえ」


 「今まで陛下のご意向で公言して参りませんでした」


 「ですが」


 「スオーの件でこのような事態になった以上」


 「真実は明らかにするべきです」


 ヒコが立ち上がろうとする。


 「嘘だ!」


 怒声。


 「側近だから庇っているだけだろう!」


 「まだ俺たちを騙すつもりか!」


 近衛兵が慌てて押さえ込む。


 ヒコはなおも叫ぶ。


 「信じるものか!」


 「そんな都合のいい話が――」


 その時だった。


 「一つ、よろしいでしょうか」


 静かな声。


 滝だった。


 全員の視線が向く。


 滝は制服の内ポケットへ手を入れる。


 そして。


 一通の手紙を取り出した。


 「クガー殿」


 滝は歩み寄る。


 「ヤマー子爵から預かっております」


 クガーの眉がわずかに動く。


 食堂の空気が変わる。


 滝は静かに、その手紙を差し出した。


 クガーは無言で受け取る。


 そして――


 ゆっくりと封を切った。


 食堂にいる全員が、その手元を見つめていた。


 静寂。


 雨音だけが響いていた。

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