第136話 革命家
ヒコにとって、佐田仁という男は――まさにカリスマだった。
明快な頭脳。
爽やかで説得力のある弁舌。
近寄りがたいが、人を惹きつける笑顔。
あの日、嵐の山中で出会ってからというもの、ヒコたちは、あっという間に佐田を組織の頂点として仰ぐようになった。
佐田はまず、ヒコたちの計画を全て捨てた。
そして、一から作り直した。
「思いつきの行動をするな」
「感情で動くな」
「敵を知れ」
「仲間を増やせ」
「組織を大きくしろ」
それが最初だった。
さらに佐田は言った。
「計画の全容は幹部以外に知らせるな」
「末端は利用しろ」
「利益を与えておけば不満は抑えられる」
当時のヒコには理解できなかった。
だが、組織が大きくなるほど、その意味を知った。
人は理想だけでは動かない。
金。
地位。
名誉。
利益。
そうしたものも必要だった。
そして、佐田は革命の全体像を語った。
「王都は無理だ」
最初の言葉がそれだった。
「王家への信頼が強い」
「守りも固い」
「正面から戦って勝てる相手じゃない」
だから――まず、外から揺さぶる。
各地で仲間を増やす。
武器を集める。
物資を蓄える。
そして決起部隊を編成する。
王都を包囲する力を持ってから動く。
さらに――内側から崩す。
佐田は笑いながら言った。
「どんな国にも、自分は報われない、評価されないと不満を持つ人間はいる」
「貴族も」
「商人も」
「役人もだ」
「そういう連中を利用する」
王都で仲間を増やす。
情報を集める。
混乱を起こす。
そして――皇帝と政府中枢を一気に叩く。
それが佐田の描いた革命だった。
滝は静かに聞いていた。
そして小さく呟く。
「……内と外からの二面作戦か」
ヒコが頷く。
「そうだ」
「セキも」
「ノオダも」
「王都での爆破事件も」
「今度の諸侯会議も」
「全部、その計画の一部だった」
滝の表情は変わらない。
だが、全てが一本の線で繋がった。
あの爆破。
各地の不穏な動き。
諸侯会議を狙った計画。
偶然ではない。
最初から。
全て仕組まれていた。
ヒコが苦笑する。
「本当にな」
「お前がいなければ完璧だったのに」
皮肉とも本音ともつかない声だった。
滝はそれには答えない。
代わりに聞いた。
「そこまで犠牲を出して」
「お前たちの求める世界は何だ」
ヒコは少し考える。
そして静かに答えた。
「俺は前にも話した」
「ただ、今の政府が許せなかった」
「それだけだ」
迷いのない言葉だった。
だが、佐田は違った。
ヒコは遠くを見るような目になる。
「あいつは言っていた」
「無能や利権」
「既得権で動く国はどこも同じだ」
「そんな国の国民は不幸になる」
そして――
「俺が変える」
静かな声だった。
だが、誰よりも強い確信があった。
「みんなが平等で」
「優秀な人間が少数で国を運営する」
「それが理想だと」
滝は黙って聞く。
ヒコは苦く笑った。
「もっとも」
「本人は一度失敗してるらしいがな」
滝の目が細くなる。
ヒコは続けた。
「自分の国では」
「あと一歩のところで情に流された」
「だから失敗したと」
ヒコは静かに続ける。
「本人が言っていた」
「だから二度と同じ失敗はしないと」
「目的のためなら犠牲も厭わない」
「仲間だろうが部下だろうが関係ない」
「必要なら切り捨てる」
「もう、一切情に流されないと」
そして――ヒコは、佐田の言葉をそのまま口にする。
「この国では絶対に失敗しない」
沈黙。
その言葉だけが重く残る。
滝は空を見上げた。
いつの間にか、雲が広がっている。
ぽつり。
雨粒が落ちた。
続いて、もう一つ。
ヒコも空を見上げる。
「降ってきたな」
滝は答えない。
ただ――静かに空を見ていた。
革命家。
理想家。
あるいは――ただの犯罪者。
佐田仁。
その男の影は、今もなお、この国を揺らし続けていた。




