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132/163

第132話 晩餐会

 王城の食堂には、豪華な料理が並んでいた。


 香ばしく焼き上げられた肉。

 港から運ばれた新鮮な魚。

 色鮮やかな野菜。

 高級な酒。


 皇女ハギーの成人の儀を祝った者達への返礼として、皇帝自らが催した晩餐会だった。


 だが、会場の空気は重い。


 誰もが笑顔を作っている。

 しかし、目は笑っていない。


 グラスを傾ける者。

 何度も懐中時計を確認する者。

 落ち着きなく席を立つ者。


 会話も続かない。


 爵位も違う。

 役職も違う。

 派閥も違う。


 共通点の見当たらない招待客達。


 それでも全員が呼ばれている。


 皇帝直々の招待。


 そして、理由の分からない晩餐会。


 その違和感が、会場全体を覆っていた。


 会場にはクガー侯爵の姿もあった。

 その後ろには執事ヒコ。


 皇帝の傍には司法卿ミヤーノ、侍従長コグシー、皇女ハギー、そして皇女付侍女ミネーが控えている。


 誰もが料理を口に運ぶ。


 だが、心から味わっている者はいない。


 その時だった。


 食堂の扉が開く。


 全員の視線が向く。


 入ってきたのは滝だった。


 日本の警察の濃紺の制服。

 右胸には憲兵隊大佐の階級章。


 滝は皇帝へ一礼する。


「ご報告いたします」


 静まり返る会場。


「リアタおよびクサツー男爵を拘束しました」


「関係箇所の捜索も完了しております」


 ざわめきが広がる。


 顔を見合わせる貴族達。


 しかし、クガーだけは微動だにしない。


 一人の貴族が立ち上がった。


「なぜ今、そのような話をするのか!」


「せっかくの祝いの席ではありませんか!」


「食事が台無しだ!」


 他の者達も同調する。


「そうだ!」


「今でなくてもよいではないか!」


「空気を考えるべきだ!」


 滝は淡々と頷いた。


「失礼しました」


「では、もう一つだけご報告を」


 その一言で、会場が静まり返る。


「ヤマー子爵が亡くなられました」


 誰も声を出さない。


 滝は胸元から書類を取り出した。


「こちらは生前に残された調書です」


 皇帝の前まで進み、恭しく差し出した。


 皇帝は何も言わず受け取る。


 調書を開く。


 静寂。


 誰も動かない。


 食器の音すら聞こえない。


 ただ、皇帝が紙をめくる音だけが響く。


 やがて、皇帝は調書を閉じた。


 そして静かに客達を見回す。


 重い沈黙。


 その時だった。


「わ、私は知らない!」


 一人の貴族が叫んだ。


 誰も何も聞いていない。


 それなのに。


「私は名前を貸しただけだ!」


「陛下にも政府にも不満などない!」


 会場が凍り付く。


 そして、連鎖する。


「わ、私もだ!」


「資金を出しただけだ!」


「反乱など知らない!」


「クサツーに頼まれただけなのだ!」


「私は会合に出ただけだ!」


「話に賛同しただけだ!」


 次々と飛び出す言い訳。


 誰も責任を認めない。


 だが、この場に集められた者達は全員、クサツーの自白で名が挙がった者達だった。


 だからこそ、ヤマーの名が出ただけで、自分たちの身を案じたのだ。


 王都爆破事件。


 政府転覆の陰謀。


 その賛同者達。


 滝が静かに口を開く。


「陛下」


 全員の視線が集まる。


「私はまだ何も聞いておりません」


 さらに沈黙。


「ですが」


「皆様、自ら謀反への加担を自供されたようです」


 絶望が広がった。


 滝はミヤーノを見る。


「司法卿」


「いかがいたしましょう」


 ミヤーノは即答した。


「近衛隊」


「一人残らず連行しろ」


 扉が開く。


 武装した近衛達が雪崩れ込んだ。


 悲鳴が上がる。


 その中の一人がクガーへ詰め寄った。


「クガー侯爵!」


「あなたがいたから賛同したのだ!」


「あなたがいるから安全だと!」


「どうしてくれる!」


 クガーは男を一瞥した。


 そして、無造作に払いのける。


 男は床へ転がった。


 クガーは服の乱れを整える。


「見苦しい」


 ただ、それだけだった。


 近衛達が次々と貴族達を連行していく。


 やがて、最後の一人が連れ出された。


 重い扉が閉じる。


 会場に残るのは、皇帝、ミヤーノ、コグシー、ハギー、ミネー、滝、クガー、ヒコ。


 誰も口を開かない。


 クガーはグラスを手に取った。


 そして静かに酒を口にする。


 空になったグラスを見つめる。


「……ヤマー殿らしい」


 誰も反論しない。


 命を懸けて真実を残した男。


 最後まで国を案じた男。


 クガーはグラスを置く。


「さて」


 そして皇帝を見る。


「次は私の番ですかな」


 皇帝は静かに頷いた。


 最初から。


 この夜の本命は――


 クガーだったのだから。

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