第131話 突入
「旦那様!」
使用人が館内から慌てて駆け込んでくる。
「大変です!」
「憲兵隊が!」
テラスにいたリアタとザキは同時に振り向いた。
直後――
ドンッ!
館内から重い破壊音が響く。
「憲兵隊だ!」
「全員動くな!」
怒号が館中に響き渡る。
リアタの表情が険しくなった。
ザキも顔色を変える。
複数の足音。
武装した憲兵達が次々と姿を現した。
そして、一人の男が前へ出る。
サカンだった。
「久しぶりだな、リアタ」
リアタが顔を歪める。
「サカンか……」
サカンは薄く笑った。
「今度は不起訴にはならんぞ」
リアタは鼻で笑う。
「何の話だ」
「密輸のことなら観念してやってもいい」
肩をすくめる。
「だが、それが何だと言うのだ」
「たいした罪にもならん」
「また稼げば済む話だ」
憲兵達を見回しながら続ける。
「そのために普段から貴族を飼っている」
「世の中、金で動くのだよ」
勝ち誇った笑み。
だが、サカンは首を傾げた。
「誰が密輸だと言った」
リアタの笑みが止まる。
「……何?」
「お前が飼っているクサツー男爵の屋敷にも踏み込んでいる」
「コーナン少佐が率いる一隊がな」
リアタの眉がぴくりと動いた。
その時。
バサリ。
何かがサカンの足元へ投げられる。
帳簿だった。
投げたのはユダ。
腕を組み、無言で壁際に立っている。
サカンが帳簿を開いた。
ページをめくる。
そして、にやりと笑った。
「なるほど」
周囲を見回す。
「聞いたな?」
憲兵達が頷く。
サカンは帳簿を閉じた。
「密輸についても、十分な証拠が揃った」
「余罪として起訴させてもらう」
リアタの顔から余裕が消える。
だが、サカンの表情はさらに冷たくなった。
「もっとも」
「本命は別だがな」
空気が変わる。
「リアタ」
「王都爆破事件への関与の容疑で、お前を拘束する」
リアタが凍り付いた。
「な……」
言葉が出ない。
その瞬間。
ザキが走った。
一直線にテラスの手すりへ向かう。
だが、その身体が止まった。
ユダが腕を掴んでいた。
ザキが振り払おうとする。
しかし、ユダの動きは一瞬だった。
腕を引く。
ザキの身体が宙を回る。
そして――
ドンッ!
石畳へ叩き付けられた。
息が詰まる。
起き上がる前に、ユダの膝が背中へ落ちた。
完全に制圧される。
憲兵達が駆け寄り、縄を掛けた。
サカンが見下ろす。
「その男にも聞きたいことが山ほどある」
「職人達の誘拐」
「監禁」
「殺人」
「そしてホウブ殺害事件」
ザキの顔が青ざめた。
サカンは薄く笑う。
「当然、指示役についてもな」
その言葉に、リアタが叫んだ。
「馬鹿な!」
「私にこんなことをして、ただで済むと思うな!」
憲兵達に縄を掛けられながら怒鳴る。
「クサツーなど小物だ!」
「私にはもっと大きな後ろ盾がいる!」
サカンは肩をすくめた。
「残念だったな」
そして、にやりと笑う。
「こちらの後ろ盾は皇帝陛下だ」
リアタが言葉を失う。
ユダは横目でサカンを見た。
やはり。
こいつは性格が悪い。
リアタの怒声が背後で響く。
だが、サカンは振り返らなかった。
ゆっくりとテラスへ歩く。
夜風が外套を揺らした。
その先。
王城の灯りが見える。
サカンはしばらくそれを見つめた。
そして静かに呟く。
「……そちらにも、話を聞かねばならんな」




