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118/165

第118話 繋がる先

 部屋の空気が、凍り付いていた。


⸻


 誰も、すぐには言葉を発せない。


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 クガー侯爵家。


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 その名前が持つ重みを、この場にいる全員が理解していた。


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 コーナンが、地図の一点を指で叩く。


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 「ザキと呼ばれる男は、ここへ入っています」


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 重い沈黙。


⸻


 サカンが、静かに口を開いた。


⸻


 「クガー侯爵」


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 「現皇帝カンク十七世陛下の后――スサー様の実兄です」


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 「つまり、ハギー殿下の叔父にあたります」


⸻


 ミヤーノが続ける。


⸻


 「外戚でありながら、皇族待遇」


⸻


 「加えて、貴族会議の議長でもあります」


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 「爵位だけではありません。スオー地方の領主でもある」


⸻


 「王都でも、最上位の権力者の一人です」


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 誰も言葉を継げない。


⸻


 ザキ。


 セキ。


 失踪したチョウ。


 リアタ館。


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 それらが。


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 皇族の外戚へ繋がろうとしている。


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 「現時点では、“接触した”という事実しか確認できていません」


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 コーナンが冷静に言う。


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 「クガー侯自身が関与しているとは――」


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 「決め付けるな」


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 滝が遮った。


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 全員の視線が向く。


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 滝は地図へ目を落としたまま、静かに続けた。


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 「考えることをやめたら負けだ」


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 「希望で捜査するな」


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 「事実で考えろ」


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 部屋が静まり返る。


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 「クガー侯が組織から接触を受けている可能性」


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 「あるいは――組織側の人間である可能性」


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 「両方を残して考える」


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 ミヤーノが苦い顔をする。


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 「しかし……動機がありません」


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 「皇族の外戚です」


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 「地位も権力も、既に持っている」


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 「何故、そんな危険を――」


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 滝は、少しだけ目を細めた。


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 これまで見てきた。


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 賄賂。


 保身。


 私欲。


 権力争い。


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 そして。


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 他人を踏み付けながら、平然としている人間達。


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 人が狂気に走る理由など。


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 他人には理解できないことの方が多い。


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 滝は、刑事としてそれを嫌というほど見てきた。


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 「……動機を先に決める必要はない」


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 静かな声。


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 「まずは事実を積み上げる」


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 誰も反論しなかった。


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 やがて。


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 ミヤーノが、疲れたように額を押さえる。


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 「……陛下への報告は、どうしますか」


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 相手は皇族の外戚。


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 しかも、貴族会議の議長でもある。


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 国を揺るがしかねない話だった。


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 だが。


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 滝は静かに答える。


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 「報告はする」


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 「だが、今じゃない」


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 全員の視線が向く。


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 「現状は、ザキと呼ばれる男が屋敷へ入ったというだけだ」


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 「それだけでクガー侯を疑えば、逆にこちらが潰される」


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 コーナンが、ゆっくり頷く。


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 「……証拠不足、ですな」


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 「だから積む」


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 滝は地図へ視線を落とす。


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 「接点」


 「流れ」


 「金」


 「人」


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 「全部だ」


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 部屋が静まり返る。


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 ミヤーノが、慎重に口を開いた。


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 「つまり……まだ動くおつもりで?」


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 滝は小さく笑った。


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 「ここまで来て、引けるか」


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 その声に。


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 わずかだが、空気が戻る。


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 滝は、机の地図を見つめたまま呟いた。


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 「それに――」


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 「多分、あの皇帝は何を聞いても驚かん」


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 誰も笑わなかった。


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 だが。


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 その場の空気だけは、少しだけ戻っていた。


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 そして。


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 滝の視線は、クガー侯爵家の印から動かない。


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 まだ。


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 何かが足りない。


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 だが――


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 確実に、核心へ近付いていた。

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