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第107話 帰る約束

 滝は制服に身を包み、司法省の執務室にいた。


 本来なら、倒れたミネーのそばにいるつもりだった。


 だが今朝、寝台の上で微笑む本人に送り出された。


⸻


「仕事へ行ってください」


⸻


 滝は当然のように断った。


 まだ顔色も完全には戻っていない。


 無理をさせたくなかった。


⸻


 だが、ミネーは小さく首を横に振る。


⸻


「もう、私達の気持ちは通じ合っていますから」


⸻


 そう言って、どこか安心したように笑った。


⸻


「今は、それだけで充分です」


⸻


 滝は返す言葉を失う。


⸻


 するとミネーは、少し悪戯っぽく目を細めた。


⸻


「それに……この事件が終わったら、あらためて迎えに来てくれるのでしょう?」


⸻


 その言葉に、滝は思わず咳払いをした。


 この前、サカンやコーナンの前で交わしたやり取りを、どうやら聞かれていたらしい。


⸻


「みんなが待っていますよ」


⸻


 穏やかに背中を押され、滝はようやく頷く。


⸻


「……必ず事件を解決して帰ってくる」


⸻


「そして、今度こそ迎えに来る」


⸻


 ミネーは嬉しそうに微笑んだ。


⸻


「はい」


⸻


 その笑顔が頭から離れないまま、滝は司法省へ来ていた。


⸻


 執務室へ入った瞬間、コーナンが不思議そうに滝を見る。


⸻


「滝大佐、何か良いことでもありましたか?」


⸻


「……そう見えるか?」


⸻


「ええ。いつもより表情が柔らかい」


⸻


 滝は無意識に口元へ触れた。


 確かに、気持ちが昂っている自覚はあった。


⸻


 一方で、向かいの席にいるサカンは酷い顔をしていた。


 目の下には隈まで浮かんでいる。


⸻


「サカン殿もどうされたのです。昨日は休まれていたのでしょう」


⸻


 コーナンが呆れたように聞く。


⸻


 サカンはゆっくり顔を上げた。


⸻


「……独身者にはわからん」


⸻


「は?」


⸻


 意味が分からずコーナンが首を傾げる。


⸻


 するとサカンは、恨めしそうに滝を見た。


⸻


「私はもう、山芋は見たくもない……」


⸻


 滝はそっと視線を逸らした。


 昨日は食卓に大量の山芋料理が並び、そのあと奥方が――。


 そこまで察した滝は、何も言わなかった。


⸻


 コーナンだけが完全に置いていかれている。


⸻


「なんの話です?」


⸻


 その時だった。


⸻


 勢いよく執務室の扉が開く。


⸻


 入ってきたのはミヤーノだった。


⸻


「目星がつきました」


⸻


 先程までの和やかな空気が一瞬で変わる。


⸻


 ミヤーノは真剣な表情で資料を机へ置いた。


⸻


「火薬を隠していた倉庫、それに爆破に関わった連中です」


⸻


 滝、コーナン、サカンの表情が一斉に引き締まる。


⸻


 和やかな空気は消えた。


 執務室は再び、事件を追う者たちの顔へ戻る。


⸻


 王都爆破事件。


 黒幕との戦いが、いよいよ始まろうとしていた。

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