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第6話 臨時パーティ結成

「ここがトールちゃんのお家......」


「じゃなくて、ただの空き家だけどな.....って聞こえないか」


 ルミアに同行を申し出た後、俺は一度小屋に戻ってきていた。

 せっかくスー子に紹介してもらった好物件だったのに、こうも早く手放すことになるとは。

 といっても、彼女のことは見過ごせないし仕方ないけど。


「勝手に決めちゃって悪かったな」


「プギュ!」


「『大丈夫。気にしてない』ってか。相変わらず良い奴だな。これからも世話になるぜ」


「プギュ!」


 事後報告になるが、一応スー子にも同行の旨を伝えれば、特に気にしてない素振りを見せてくる。

 跳ねているだけなのだが、それでも不思議と感情は伝わってくるもので。

 にしても、些か懐きすぎな気もするが......そんなに俺なんかしたか?


 そう思いながら、俺はテーブルの上に置いてあったウエストポーチを回収。

 ただ、それを俺が持つと両手がかさばるので、ルミアに持ってもらおう。


「これ、私が持てばいいのですか?」


「『そうそう。俺が持てば動けなくなるしな。それに腰につけるだけだから両手は空くはずだ』」


「なるほど、わかりました」


「『それから冒険者カードを見てみろ。それが俺だ』』


 いちいち筆談でないと(しかも外で)会話出来ないのが面倒だが、これから伝えることは重要なことだ。

 即ち、俺は人間で、悪しき魔術師によってこんな醜い......ことはないが、姿に変えられてしまったと。

 ルミアは「開けていいの?」とオドオドしながらも、ポーチのチャックを横に引く。


「冒険者カード......ってこれか。トール......え、同じ名前?」


 俺の冒険者カードを見て、ルミアが大きく目を見開く。驚いた顔も美少女だ。

 それはともかく、これで俺がトールであることは分かったはずだ。


「えーっと、これはご主人様の名前?」


 なんでやねん! って慣れない関西弁のツッコミが出てしまった。

 いやいや、そうじゃなくて! それが俺の名前だから!

 そう胸に手を当てて必死に喚き散らすも、ルミアはうーんと首を捻り、


「ってあれ? 冒険者カードって使い魔も登録できたんでしたっけ?」


「『違う! そうじゃない! それ、俺!』」


「.....本当にこの冒険者カードの名前の人が?」


 地面に書き起こした俺の必死な訴えに対し、ルミアは冒険者カードと俺の顔を交互に見比べる。

 眉間にしわが寄った顔.....なんだかイマイチ信じてない顔だな。

 まぁ、無理もないっちゃないけど。俺も逆の立ち場なら絶対疑うし。


「そ、そうなんですね......」


「ハァ......いいや、どうせミダモフルーツさえ手に入ればまるっと解決だし」


 ルミアの気を遣ったような反応を見て、そう独り言ち、俺はルミアへの必死な説得を諦めた。

 互いの信用度が薄いってのも理由にあるが、何よりも伝えるのが面倒になったのだ。


 だって、伝えるには地面に経緯を書かないといけないわけだし。この状態で、だぜ?

 それに時間をかけるぐらいなら、さっさとミダモフルーツを探しに行くための建設的な話をした方が良いしな。


「それでその......ミダモフルーツはどこに向かえばあるのでしょうか?」


「『ミダモフルーツは森の深層にある。詳しい場所はわからないが、太陽と月の光が良く当たる場所にあるとは聞いたことがある』」


「なるほど。とりあえず、森の深層に向かえばいいのですね」


 というわけで、俺が案内する形でルミアと一緒に移動していく。

 俺はスー子とスラ〇ムナイト形態になりながら、周囲を索敵。

 もちろん、スー子に乗る意味なんてない。ただ歩くのを楽したかっただけだ。

 まぁ、スー子もなんだか嬉しそうだし、別に構わないだろう。


「「.......」」


 歩き出してから数分間、気軽にしゃべれないことも相まって凄い無言の時間が続く。

 それが精神的に辛い。俺が元人間だからとても辛い。

 だから仕方なく、俺は一度止まって筆談で話題を提示しながら進むことにした。


「どうして冒険者になったか.....ですか。

 そうですね、トールちゃんだから言いますけど、正直冒険者になるつもりは無かったんです」


 その言葉を皮切りに、ルミアは少しだけ自分の過去を話してくれた。


「私の両親は二人とも偉大で、凄腕の魔術師と治癒師でした。

 しかしある時、お父さんがとある依頼で帰らぬ人になり、それがキッカケかどうかわかりませんが、お母さんも病に伏せるようになりました」


「大変だったんだな」


「心配してくれてるのですか? ありがとうございます。

 それでお母さんの病は原因がわからず、現状の治療方法では延命が精一杯。

 でも、この世界には万病に効く”トコハナの果玉”という実がどこかにあると聞いて、それでお母さんの病気を治すために冒険者に......そんな感じです。その果実に聞き覚えはありますか?」


 そんな一種の祈りが籠っている質問に、俺は首を横に振るしか出来なかった。

 すると、さすがのルミアもわかっていたように「ですよね」と答える。

 気にしてないように笑みを浮かべていたが、その表情は明らかに落ち込んでいた。


 トコハナの果玉、か。その名前を知らないのは、俺がこの世界生まれではないからか。

 割と結構なことは勉強したと思ったが、所詮それはこの世界の常識の範囲内でしかなかったということか。


 そう考えれば、なんだか自分の無力さが浮き彫りになるようで嫌だな。

 無力にならないように頑張って来たってのに。でも結局、俺の今の姿が全てを物語っているんだよな。


「プギュ?」


「ん? あぁ、心配かけて悪いな」


 一人自己嫌悪に陥っているとスー子が心配そうに声をかけてきた。

 そうだな。確かに、前の俺は無力だった。それは紛れもない事実だ。

 だが、いつまでもそのままってわけにはいかないよな。

 少なくとも、この中では俺が一番冒険を知ってるんだから、俺が皆を守らねぇと。


「ん? この音、複数あるな。魔物の気配か?」


「トールちゃん、どうしたの?」


 その時、俺の耳がピクッと反応する。ガサガサと動く音が聞こえたからだ。

 スー子からぴょんと降りると俺は慎重に歩きながらその方向へ歩き出す。

 少し待ってろと手で合図すると斥候に適した体を活かして一人先へ進んだ。


 茂みから顔を出すと、そこにいたのは狼の群れだ。

 名称はワーウルフで、数は四匹。前の姿なら問題ないが、今は少し厄介だな。

 片耳が少し傷ついている狼を囲むように三匹がいることからして、恐らくその傷ありワーウルフがあの群れの中のリーダー的存在だろう。


 それを確認すると俺は一度ルミアとスー子のもとへ戻り、現状の戦力を確認する。

 これから深層に潜ろうって話なら、この先も魔物とは戦い続けることになるだろうし。

 といっても、全てと戦うわけにもいかないから、戦力を確認して作戦を立てないと。


「『ルミア、冒険者でのポジションは?』」


「私は主に支援と.......回復、でした。一応、多少なら攻撃も出来ます!」


「 なるほど、ヒーラーか。それはこのパーティーにとっては助かるな」


 俺は回復魔法は現状持ってないし、スー子もそれは同類。

 となると、彼女はポジション通りに後方支援に徹してもらうか。


「スー子、俺達は前衛だ。といっても、今回の相手は爪や牙を使ってくる。

 斬撃系の攻撃はスー子にとって脅威だ。だから、無理せずに敵の注意を分散させてくれ。 

 隙があれば体当たりしてもいいが、くれぐれも気を付けてくれ」


「プギュ!」


「良い返事だ。それじゃ、俺が合図を出した行くぞ」


 というわけで、俺は自身の身軽さを活かし、慎重に攻撃タイミングを伺う。

 今回の相手はゴブリンと違い、聴覚も嗅覚にも優れている。

 奇襲をしかけるつもりだが、当たれば御の字という感じだろう。

 間違ってもまともにやりあってはいけない。体格は相手の方が上だからな。

 それから程よく距離を詰めると俺は手をかざす。


「火球!」


 文字通りの火の球を放ち、それがワーウルフの一体に直撃する。

 一瞬の混乱に乗じて俺が勢いよく飛び出し、半死の焼けたワーウルフの背中に飛び乗った。


 すぐさま手から爪を出し、それを首に触れさせると同時に<ひっかく>で掻き切る。

 そして背中を強靭な後脚で背中を蹴って、バク宙しながら後退。


「突然の奇襲、悪いな。だが、俺達はこの先に用があるんだ。

 だから、申し訳ないが食料になってもらうぜ。いい加減、肉を食いたい気分なんだ!」


「ウォン!」


 リーダーが吠えた瞬間、二体のワーウルフが一斉に俺に襲い掛かって来た。

 そんな二体に対し、スー子とルミアが攻撃を仕掛ける。


「プギュッ!」


「<光鎖>!」


 一体のワーウルフに向かってスー子が横からタックルをかまし、もう一体が光の鎖で雁字搦めになる。ルミアが拘束魔法で捕まえたようだ。

 なので、その動けないワーウルフの首を掻き切りながら、俺はリーダーと対峙。


「ウォン」


「わぁ、この目線でお前と戦うとバリ怖いな!」


 振り下ろされた右前足、それが俺の顔面の少し手前を通過する。

 今まで人間の状態でなんなく倒してきた相手だが、今や相手の方が図体は上である。

 ルミアを下から見上げた時も思ったが、人間が巨人みたいに見えるんだよな。

 だから、常にジャイアントキリングを求められているようで心臓に悪い!


「よっ、はっ、おっと!」


 右前足、左前足、そして一気に距離を詰めて噛みつき。

 これまで経験したことのないワーウルフの動きに、少しだけ苦戦する。

 恐らく、この戦い方が自分より体格が低い相手との戦い方なのだろう。

 この体になって気づかされることもあるもんだ。だがまぁ、お前の動きは既に知ってる。


 俺は相手の前足を躱した瞬間、そのままサイドへと潜り込み、ジャンピングひっかき。

 狙いはもちろん顔面。もっと言えば、片目を奪うことだ。

 単純な攻撃力が低い今の俺では、一撃で倒すことは難しい。

 それこそ、先ほどの奇襲であったり、相手が動けない状態でなければ。

 だからこそ、まずは相手の機動力を削ぐ!


「なっ!――ぐへっ」


 その瞬間、ワーウルフはサイドステップで俺の攻撃を空振りさせ、逆に僅かに空いた空間を一気に詰めるように突進してきた。

 それにより、奴のヘッドが俺の腹部に直撃し、体の軽い俺は簡単に弾き飛ばされる。


 くっ、思った以上に、自分のステータス低下を侮っていた。まさか俺の機動力がワーウルフに見切られるとは。

 ゴブリンの時とは違い、速度はほぼ同じで、たぶん力は相手の方が上。


 まさかワーウルフが格上になる日がくるなんて。もうとっくに通過したと思ってたのに!

 クソ、恨むぞアイツら! 俺をこんな不便な体にしやがって!


「トールちゃん、大丈夫ですか!? 今、支援します――身体強化(パワーライズ)


「おぉ、力が......懐かしい感覚だ」


 ルミアから魔法支援を受け、俺の肉体が強化を受ける。体がだいぶ軽くなった。

 懐かしいというのもおかしな話だが、俺は途中から仲間からの支援を受けなくなったのだ。


 今のルミアのポジションにいたスレアからは、「魔力の節約したいから、あなたは自分の支援魔法を使って」と言われ、結局それ以降で支援をまともに受けた記憶はない。


 考えてみれば、たぶんあの時から俺の見切りは始まっていたのだろう。

 具体的な期間まではわからないが、少なくともわかることは、俺がこうなったのはだいぶ計画的だったという事実だ。クソッたれ。


「おっと、今その思考に耽ってる場合じゃない。今は目の前に集中しないと」


「ウォン!」


 俺に向かってリーダーが飛び掛かってくるが、相手の動きが先程よりも遅く見える。

 身体能力で動体視力にも補正がかかったのだろう。いや、もっと言えば、リーダーの動き自体は先程からも見えていた。


 猫の動体視力が凄まじいのか、動いているのが想像以上に鮮明に捉えられるのだ。

 なので、先ほどの油断を除けば、リーダーの攻撃が俺に当たることは無かった。

 逆に言えば、もう身体能力でも上回ったなら、もうこっちのもんというわけだ。


「じゃあな、お前の肉、無駄にしねぇぜ」


 リーダーの前足を避け、噛みつきを誘発させると、その横に移動する。

 同時に、首筋に爪をセットし、一気に掻き上げた。瞬間、首筋からプシュッと血が噴き出る。

 赤い水によるスプラッシュだ。それを浴びないように、俺は距離を取る。


「残り一体は.....っと、おぉ......」


 リーダーを倒し、残り一体を探して顔を横に振れば、スー子が倒していた。

 その方法は、相手の噛みつきを利用して軟体の体を相手の口に突っ込むというもの。


 つまり、窒息死ということだ.....えっぐ。俺、そんなこと一度も教えて無いよ?

 体を器用に使い過ぎだろ、ちょっと怖いぞ。ともあれ――、


「これで戦闘は終了。さっき支援してくれてありがとな......ん?」


 伝わらない声でお礼を言おうとルミアの方へ振り向く。

 その時、少しだけ顔色を悪くし、口元を手で抑える彼女の姿があった。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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