第57話 新メンバー加入
唐突な光が瞼を突き抜けて目を焼いた。
その光から逃れようと寝返りをうっても、どこかまだ眩しい。
仕方なく目を覚ませば、まるで思い出したようにお腹が空いてきた。
「朝か......」
ゆっくり開ける目に、太陽光が差し込んでくる。眩しい。
それと同時に、非常に香ばしいニオイが漂ってきた。
美味しそうなお肉のニオイ......より一層お腹が減って来たな。
「おはようございます、トールちゃん」
俺の目覚めに気付いたようで、ルミアの声が聞こえてきた。
その声の方を向けば、メルトと一緒に朝食の準備をしているようだ。
そっか......そういや、昨日は外で寝たんだっけな。
「おはよう、トール君。ゆっくり眠れたかしら?」
「ふぁ~......あぁ、二人ともおはよう。ベルニカの姿が見当たらないが......アイツは?」
「眠気覚ましの散歩に行ったわ。今は屋敷の様子を見てる所ね」
猫特有の目覚めのストレッチをしつつ、メルトが促す方を見てみる。
すると彼女の言う通り、外観から屋敷の様子を眺めてるベルニカの姿があった。
まぁ、アイツにもあの屋敷は思い出深い場所だったはずだしな。
「ボス、おはよ!」
「あぁ、スー子もおはようだな。ってことは、俺が一番眠りこけてたのか」
「それは仕方ないわよ。昨日あんなことがあったんだから。
むしろ、限界ギリギリの付け焼刃で竜人族の血を飲んでおいて、翌日には平然と動けている時点で十分におかしいわよ」
「そこはほら、トールちゃんですから」
「......ハァ、そうみたいね」
「え、どういうこと?」
なんか二人だけ通じ合ってるみたいな雰囲気出されても。むしろ、その言われ方で蚊帳の外にされると非常に気になるんですが。
しかし、楽しそうな雰囲気を邪魔するのも野暮なので、仕方なく我慢した。
未だに巨大化しているスー子から降り、朝食会場に向かっていく。
と言ってもすぐそばだ。広い庭にポツンと焚火台があるのはシュールだな。
「なんだか凄い張り切ってるな。朝食にしてはちょっと豪勢にも感じるが」
「勝ったなら宴をしなくちゃね。いつまでも暗い気分に浸ってられないわ。
まぁ、昨日の出来事で半端にダメになった食材を使い切りたいという理由もあるけど」
「メルトさん、このくらいの味はいかがですか?」
メルトと話していれば、鍋をかき混ぜているルミアが小皿にスープを移す。
それをメルトに渡すと、彼女は味見役としてその小皿に口を付ける。
「えぇ、美味しいわ。それに家庭的で温かい優しい味。あなた、良い奥さんになりそうね」
「ふふっ、ありがとうございます。みたいですよ、トールちゃん!」
「うん.....? おぉ、良かったな」
そう言葉を返せば、ニッコニコだったルミアが急に頬を膨らませる。
あら可愛い......じゃなかった。なぜにそんな不服そうな顔を?
そんなことを思っていれば、スルッと伸びてきたメルトの尻尾に頭を撫でられ、
「そういう所はてんでダメね。もう少し女心を知らないとダメよ。鈍すぎたって失礼なんだから」
「なんで俺が悪いみたいな流れになってるの.....」
「悪いから悪いと言っているのよ」
なら、その悪い所を教えて欲しいのだが、それを言う気はないらしい。そこに気付くことから始めろということなのか。
「さて、そろそろ準備が出来たわ。皆で豪勢な青空朝食と致しましょ!」
全員が集まるれば、焚火台にある鍋を囲って座っていく。
そしてそれぞれの前に料理が並べられ、俺の前に置かれたのは当然アレだ。
「さ、あなたが好きなカリカリよ。今日はしっかり食べてもらいたいから、栄養価の高い香草で焼いたささ身を入れてあるわ」
「すみません、トールちゃんに普通に料理を出そうとしたら、メルトさんに止められてしまいまして。
ですが、代わりにそのささ身はしっかりと美味しくなるよう調理してあります!」
「いくらトール君が元人間とはいえ、今は猫であることに変わりないわ。
ともすれば、人間の料理は塩分も油分も脂質も色々多すぎるわ。
トール君を人間扱いしたいのはわかるけれど、そこは割り切らないと」
「言いたいことはわかってるよ。俺のためだってことも伝わってるから。
それよか、早く食おうぜ。俺はもう待ちきれねぇよ......このカリカリをキメてぇ!」
「あんたもすっかりハマったわね。まぁ、美味しいのはわかるけど」
「ボス、そんなに美味しいの?」
「あぁ、スー子も食ってみるか?」
「それじゃ、さっさと食事の挨拶をしないとね。ルミア、代表してお願いするわ」
「はい、それでは.....この地を創りし女神イリアス様と豊かな実り、私達の血肉となる動植物の全てに感謝を込めて――いただきます」
「「「「いただきます!」」」」
ルミアの合図とともに、俺達は一斉に食事にありつく。
俺は目の前のある皿にあるささ身を乗せたカリカリに一心不乱に噛り付いた。
人間の時ほどすり潰すのに適していない歯ではあるが、それでも唾液と混ぜれれば適度な感触を残したまま食べることが出来る。
たまごボ〇ロより少し固いぐらいだろうか。
しっかりと味が付いたそれに、香ばしいささ身の油が乗っかって......う~む、デリシャス。
まさか猫になって猫用の食事を食レポする日が来るとは思わなんだ。
「ボス、スー子も食べてみたい!」
「お、いいぞ。ほら、あーん」
皿にあったカリカリとささ身を風魔法で浮かせる。
せっかくなのでとっておいた一番大きいささ身をあげれば、スー子がそれを体を使って飲み込んだ。
なんだか一部から猛烈に羨ましそうな視線が飛んできているが......さすがに気のせいだよな?
「どうだ? 味は?」
「う~ん......魔物の内臓よりは美味しいって感じかな」
「そこの評価で下回ってたら、俺は自分の舌を疑う所だったぞ」
「でも、ボスに食べさせてもらったら、なんだか美味しいよりも嬉しい方が大きい!」
「コイツ、可愛いかよ」
可愛いなこんにゃろ。俺の愛着パラメーターは上限を突き抜けてるぜ。
そんなことを思っていれば、なぜかメルトがそっと背中に手を置いてきた。
そして一切しゃべらず、なぜか生暖かい目線で俺を見つめてくる。やめろ、見るな。
「これでワタシの気持ちがわかったでしょ?」みたいな顔をするな。勝手に仲間意識を芽生えさせてすり寄ってくるな。
「あんた達は仲が良さそうね」
「混ざりたいなら混ざってもいいぞ。その代わり、ポジションチェンジな」
「遠慮しとくわ」
ベルニカにすげなく断れつつ、俺は食事を再開する。そしてそれも終われば、一日屋敷の掃除に取り掛かった。
全員で分担しながら作業を続けると(ベルニカはサボってたけど)、一応最低限の雨風が防げるスペースを確保することに成功。
もっとも、それが出来た頃にはすっかり夕方になっており、そのままそこで夕食を済ませる。
それすらも終わり後はまったりタイムとなった頃、唐突にメルトが目の前で正座し口を開いた。
「突然だけど、皆に聞いて欲しい話があるの。特に、トール君とルミアにはね」
スー子の上で香箱座りになっていた俺は、隣で座るルミアと顔を見合わせる。
それとなくベルニカにも視線を向けたが、首を横に振られた。どうやらこの行動はメルトの独断であるようだ。
ルミアがその言葉の続きを促していく。
「聞いて欲しい話とは何ですか?」
「ワタシの過去の話よ。そして昨日のことに関する話」
昨日のこと......となりゃ、あの怪物.....じゃなかった魔神か。
それに関しての話となれば、さすがの俺も聞かなきゃならん。
結局、俺の耳にある重力の指輪もとい「重力のイヤーカフ」は取れずじまいだしな。
「今から数百年前、ワタシには一人の恩人であり友達がいたの――」
それから聞かされたのは、メルトと勇者パーティの一人であるシトラス=アルダリアとの出会いと別れの話。
そしてシトラスが経験した不審な国と教会の動きに関する話であった。
「......なるほどなぁ、メルトが封具を国に渡すことをやたら拒否してたのはそれが理由か。
にしても、勇者を輩出した国が随分と不審なことをするじゃねぇか」
「トールちゃんの言う通り、シトラスさんを始めとする勇者の方々はこの世界を救ってくれたのに。
なのに、こんな非道な扱いを受けるなんて......あんまりです」
「そして昨日の騒動というわけよ。加えて、本来誰に対しても平等に呪いを振りまくはずの封具が、なぜかトール君だけには影響を与えなかった。
この事実を受けて、最後に現れたエルロコという人物が何も思わないはずないわ」
「だろうな。この封具を『預けとく』って言ったのもアイツだし」
これより以前から、俺は既に「魔神の敵対者」だからな。
サイバル森林で初めて猫になり、そこでステータスを確認した時には無かった。
そして異形のドグラベアを倒し、その後にステータスを確認すれば、その称号を得ていた。
一体いつの間に......と思うが、心当たりがあるとすれば、絶対最後のドグラベアだろうな。
あんな様子のおかしい奴は他に居なかったし。てか、頭吹っ飛ばされても生きてる時点でそうだろ。
「となりゃ、こっからその魔神信者? とやらに狙われる可能性があるわけか。
ただ人間に戻ろうと方法を探していたはずなのに、何がどうしてこうなるのか。
起きてしまったことは仕方ないと言えど、限度はあるよなぁ」
「えぇ、あなた達を巻き込んでしまったのは、完全にワタシの落ち度。
そしてワタシにはシトラスから託された”封具を守る”という使命がある」
そう言うとメルトは立ち上がり、自信の右手をそっと胸に当てた。
「だから、お願いがあるの――ワタシをあなた達と一緒に同行させて欲しい」
その言葉に、俺はルミアと再び顔を見合わせ向き直すと、
「えーっと、そもそもの話、俺達の目的は”俺が人間に戻る”ためなんだが......それはわかってる?」
「えぇ、わかっているわ。けれど、その道中で魔神信者が襲ってこないとも限らない。
加えて、あなたの耳にある封具......その管理はもともとワタシの仕事だった。
となれば、トール君、ひいてはあなた達を守護する者は必然だと思うの」
確かに、封具に人間が触れただけで魔神になるんだもんな。
そしてその魔神の戦闘能力は今の俺達では勝ち目がないと言っていい。
メルトの奮闘と竜人族の血という切り札でギリ勝てたようなものだ。
ここでメルトという戦力を切る選択肢がない。それに――、
「トールちゃん......」
ふとルミアの方へ視線を向ければ、優しい目つきをした彼女と視線がぶつかる。
それにルミアにも親しい同性がいた方が嬉しいかもだしな。
彼女自身もメルトが仲間になるのは嬉しいようだ。やっぱり笑顔が良く似合う。
「ルミア、俺達のパーティのリーダーは君だ。だから、リーダーらしくビシッと決めてやれ」
「わかりました。では.....」
俺の指示にルミアは大きく頷き、その場に立ち上がる。
それから小さく深呼吸をすると、そっと右手を差し出した。
「ようこそ、”導きの猫騎士団”へ!
リーダーを務めているルミア=フォルトルです。
これから一緒に旅が出来ると思うと嬉しく思います」
「素敵なパーティ名ね。ワタシ好みだわ。
メルトリス=ドラゴ=アグニシュカよ。これからお世話になるわ。
あなた達の信頼に応えられるよう尽力するつもりよ」
ルミアの差し出された手、その手をメルトが掴む。
パーティからのけ者にされた俺達が求めた信頼できる仲間。
それがメルトであるなら、もはや文句はあるまい。
「あ、それから.......はい、これどうぞ」
「これは......猫の刺繍が入った布?」
ルミアが魔法バッグから取り出したのは、俺達全員がつけている仲間の証だ。
にしても、一体いつの間に複製をつくっていたのやら。
「トールちゃんと経緯は違いますが、実は私も仲間から見放されたことがありまして。
いえ、それ自体は私の問題なので仕方ないのですが......でも、信頼できる仲間が欲しくて」
そう言ってルミアは両手に握る布に力を込める。
しかしすぐに自分で感情が暗くなっていることに気付くと、顔を上げた。
「で、トールちゃんがこれを全員が身につければ、仲間意識が芽生えると教えてくれたんです!
あ、いえ、別にメルトさんが信用しきれていないとかそういうわけじゃなく――」
「ルミア、落ち着きなさい。リーダーが慌てていれば、それは全体の指揮にかかわるわ。
それに言いたいこともわかってる。ワタシ達は仲間であり、友達だから」
瞬間、メルトは自身のツインテールの片方のリボンを取る。
その代わりとして、ルミアから貰った仲間の証で髪を結んだ。
それから外したリボンは自身の左手首に結び、
「これでワタシも晴れて仲間ね.....どうかしら?」
「よく似合ってます! あ、それからベルニカちゃんの分もです。
メルトさんが一緒に来るとなれば、ベルニカちゃんも同じはずなので」
「そうね。それじゃ、あなたは首元のリボンの代わりにしましょうか」
メルトがしゃがみ込み、足元にいるベルニカのリボンを交換する。
そんな様子を眺めるルミア――を含めて眺める俺。
すると、すぐそばからスー子の元気な声が聞こえてきた。
「皆、楽しそう!」
「あぁ、そうだな」
大変なことがあった後だが、雨降って地固まる的な感じでその光景に俺は大満足だ。
そう思うと昨日の出来事も悪くないように思え......いや、やっぱ悪いや。
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)




