第54話 黒幕の語り
ウィンベルト=ギルバート......ルーベルト商会のハムド会長の敏腕秘書。
大人しく中性的な見た目とは裏腹に、随分と黒いことをしてる噂もある。
ましてや、今回に至ってはあの怪物を生み出すキッカケに至った首謀者なんだっけ?
「いやぁ、こんなに綺麗な夜空を見れたのはいつぶりでしょうか。
さっきまであんな雷鳴渦巻く曇天だったというのに.....いやはや、実に見事」
「「「「「......」」」」」
「見事と言えば、先程の怪物を倒したこともそうですね。
アレ、一応魔神だったんですが、まさかこんなあっさり倒されてしまうとは。
もっと街とか破壊されるかと思ったんですが、これはこれで面白い結果ですね」
.....は? アイツ、今なんて言った?
「おい、お前! 今サラッと”魔神”とか言わなかったか?」
「はい、言いましたよ? といっても、所詮は力に飲まれただけの半端者ですが。
きっとやたら傲慢不遜だったでしょ? それで倒されたら.....ぷふっ、ダッセェ~」
俺の疑問にアッサリと答え、ウィンベルトが一人でに笑い始める。
当然ながら、俺達は笑えるはずもなく。その温度差に風を引きそうだ。
そんな俺達の空気感を読もうともせず、ウィンベルトはしゃべり続けた。
「さてさて、そんな頑張ってくれた皆さんにご褒美を与えねば」
「ご褒美......?」
「当然、何事もクリアした暁には報酬はあって然るべきでしょ?
骨折り損はさすがに可哀そうだ。ある種世界の危機を救った皆さんは特にね」
そう言うと座っていた塀の上に立ち上がる。
月光による逆光で若干見づらかったが、それがより黒幕っぽさを演出していた。
「それじゃまず一つ、これは僕個人からのご褒美。
僕は本当に気に入った相手には本来の姿を見せることにしてるんだ。
ってことで――じゃじゃーん!」
瞬間、ウィンベルトは細い足場の上でクルッと回転する。
すると、彼の体に光が纏われ――ちょっとした変態が現れた。
具体的に言えば、水着に猫耳パーカーを来たような格好だ。
パーカーは中途半端に半分まで閉じられており、長い美脚の下には分厚いブーツを履いている。
猫耳フードの奥からは、バツ印の紅の双眸がニコッと閉じられ、
「これが本当のアタシ――エルロコ=リディキュールでーす! どんどんぱふぱふ。
親しみを込めて『エルちゃん』でも『ロコちゃん』でもいいよ♪
個人的には、ロコちゃんの方が響きが可愛いな~......なんて」
「では、ロコちゃんはに質問していいですか?」
「お、早速呼んでくれるんだね。いいよ、そういう素直な子は好きだよ。
もちろん、元よりそれが二つ目の報酬だったからね」
「あなたは何者なんですか? それにどうしてウィンベルトという姿になってまでルーベルト商会にいたんですか?」
ルミアのロコちゃん呼びに「呼ぶんだ」と思いつつ、質問内容へ意識を向けた。
確かに今の姿が本当であるなら、彼女はルーベルト商会に姿を偽って潜入していたわけだ。
そんなことをする以上、目的がないとしないわけだが......どう答える?
「それは一言で終わるよ――アタシにとって面白おかしい方のそばにいたいから」
「......どういう意味かしら?」
「おや、アグニシュカ嬢も興味を持ってくれて嬉しいな~。
でも、別に大した意味は無いよ。アタシが面白おかしい展開が好きってだけ。
あの汚豚ちゃんの近くにいたのは、最初は面白いと思ったから。
でも、途中で飽きちゃった。別に欲に目がくらむのはいいんだけど.....思考が浅はかで」
「なら、捨てればいいじゃない。なのに、どうしてわざわざハムドの思惑にまで乗って封具を狙ったの?」
「狙ったのは別の理由、これは企業秘密だから話せない。ごめんね。
ただ、介入したのはあの汚豚ちゃんのやり方だと面白くなかったから。
だってせっかく封具という存在があって、その利用目的が王家に取り入るためだよ?
いやいや、それはさすがにないって。ビビり過ぎ。萎えちゃうよ」
そう答えながら塀の上で蹲踞のような姿勢になる。
そのまま自身の太ももに肘をつけるとエルロコは頬杖をついた。
フードに逆光と表情は分かりずらいが、やたら目立つ紅い瞳が退屈を語っていた。
「だから、汚豚ちゃんの思い通りにならない展開にしてみた。
てか、普通のやり方じゃどうせそこにいる猫ちゃんによって失敗に終わると思ってたし。
だったら、封具の呪いの性能を確かめるついでにアタシ好みにしてみた」
「やっぱり俺のことに気付いてたか......」
「まぁね。てか、今更だけどしゃべれるの? うわー、超ラブリーじゃん。
ちなみに、今めっちゃ君に興味あるよ。名前は何て言うの?」
「それを言ったら味方になってくれんのか? 面白おかしい方のそばにいたいんだろ?」
「う~ん......いや、なら今はいいや。君は泳がせる方が面白くなるってアタシの勘が言ってる。
それにどうせ、その姿も名前も隠しきれないほど有名になるだろしね」
若干慣れてきた視界が、彼女の妖しく笑みを浮かべる表情を捉える。
「俺に興味を持った」という発言もあながち間違いじゃないらしい。なんだか嫌なタイプに目を付けられたな。
「で、結局あなたが封具を解放した本当の目的は?」
「おや、どうしてそう思うのかな?」
「あなた自身が言っていたことでしょ。封具の呪いの性能を確かめるって。
なら、その検証の先には目的があって然るべきでしょ?」
「確かに、そりゃそうだ。
アタシ達の目的っていうか、アタシが協力してる相手の目的は.....あ、ごめん。
それに関しても口留めされてんだよね。一応、今は味方だし、しゃべれないや」
「なら、今この場で力づくで吐かせることも出来るわよ」
「わぁ、怖い。でもでも、最初に答えた通り”魔神”に関係することは間違いないかな。
もっと言えば、四百年前に倒された魔王も魔神に関係している。
現状で言えることは、君達人類は世界を守った気でいるってことかな。おめでたいね」
「どういう意味かしら......?」
エルロコの一言に、メルトが怒気を孕んで声色で答える。表情もいつもに増して怖かった。
そんなメルトに対し、エルロコは「怖いな~」と笑いながら反応し、
「そんな怒っちゃやーよ。これ以上答えるには好感度が足りません。なんちって」
「目的は?」
「それは――って、躊躇なくもう一回聞いてくるじゃん。危うく言いかけちゃった。 やるじゃん。
でも残念、アタシが気づいちゃった以上、言うわけにはいかないな。
だけど、またどこかで会ったなら話してあげなくもないかな」
そう言うとエルロコはスッと塀の上に立った。
直後、彼女と目が合い、すぐさまの目と口がのニィと弓なりに曲がった。
まるで俺の今の思考を読み取ってそれを嗤うように。
「――」
あぁ、そうか......そうだった。コイツは最初に言ってたな――面白おかしい方が好みって。
つまり、口留めされてた割にベラベラとしゃべったのは、俺達を巻き込む気満々だからだ。
そっちの方が面白おかしいことになるかもしれないから。
ある種欲望に忠実でなんとも分かりやすい性格だ。だからこそ、実に厄介とも言えるが。
「さてと、そろそろお暇しますか」
エルロコがその場でスッと立ち上がる。それから手元に双刃の大鎌を取り出した。
あの武器も随分と禍々しい気配がする......魔剣の類か?
そう思っていれば、彼女ははその武器を背後へ無造作に振った。
「空間に切れ目.....?」
鎌が振るわれた直後、空間に切れ目が出来て、その切れ目が僅かに左右に開く。
どういう効果かわからないが、俺の漫画やラノベ知識をフル動員するなら転移類だろうか。
あの切れ目は別の場所の空間に繋がっており、そこに移動できる的な。
でなければ、メルトを目の前にここまで余裕の態度は取れないしな。
その切れ目にエルロコが手をかけた瞬間、「あ、そうだ」と俺達を見る。
「ちなみにだけど、あの封具までの結界を破ったのは魔道具の力だよ。
だけど、封具自体の結界を破った方法は.....アグニシュカ嬢ならとっくに気付いてるんじゃない?」
「.....」
「それから猫ちゃん、その指輪は君に預けておくよ。せいぜい取られないように頑張ってね。
ま、取られるようなことがあったなら、その時は死んでるだろうけど」
「じゃあね~」と別れの言葉を言いながら、エルロコは切れ目の中へ消えた。
直後、切れ目は何事もなかったように閉じられ、そこにはただの夜空が広がっている。
「何がどうなっているのでしょうか......?」
ある意味、嵐のような女であったエルロコが消え、静寂が訪れる。
その中でポツリと呟かれたルミアの声だけがやたら鮮明に聞こえた。
するとその時、メルトが注目を集めるように一度手を叩く。
「さてと、難しい話は後にしてもう休みましょうか。
今日は皆色々あったでしょ? それにちゃんと休まなきゃいけない子もいるしね」
そう言ってメルトが俺を見てくるが、それはお互い様のような気がする。
ルミアによって治療してもらったとはいえ、それですぐに体が全快するわけじゃない。
いや、体自体は無事かもしれないが、気力が持たないと言うべきか。
十分な休息は何も俺に限った話じゃないということだ。
「とはいえ、屋敷は壊れてしまっていますし、街へ戻ろうにももう門は閉じられてますよ?」
「確かにこの時間じゃもう開いてないでしょうね」
「スー子はボスがいるならどこでも!」
実に可愛いことを言ってくれるスー子を撫でたいが、あいにく体が動かない。悲しい。
とはいえ、ルミアの言う通り屋敷は半壊していて使い物にならないだろう。
特に寝室に使っていた場所は執務室側に集中していた気がするし。
そんなこと思っていれば、メルトがスッと口角を上げた。
「あら、せっかくこんなにも綺麗な夜空を皆で見れるというのに、わざわざ屋内に戻るの?」
という彼女の主張だが、遠回しに野宿と言ってるよな、それ?
とはいえまぁ、確かに夜空なんて久しくまともに見てなかった気がするなぁ。すぐに見上げればずっとそこにあったというのに。
「そうですね。なら、折角ですしお泊り会としましょう!
実は私、誰かの家にお泊りするの初めてだったんです!」
「あら、その第一号になれるなんて名誉なことだわ。
となれば、早速お夜食と寝る準備を整えなきゃね。屋敷に何か残ってないか見てくるわ」
「青空お泊り会なんてなんとも斬新ね.....でも、悪くないわ」
「ボス、お泊り会って?」
ルミアとメルトが実に楽しそうに動き始め、そんな様子をベルニカが眺める。
スー子は相変わらず可愛くて、動けない俺はただ流れに身を任せた。
それからというもの、「お泊り会」というだけで女子二人は元気だ。
屋敷に残っていた食べられそうなものやルミアの食材で簡単に料理を始める。
また具材が煮詰まる間、屋敷の風呂場がギリギリ残っていたらしく、そこで体を綺麗にしていた。
「......で、ここをこう洗ってあげれば気持ちよさそうにするの」
「なるほど! やってみます!」
「優しくね。そうそう、そんな感じ」
当然ながら、俺もルミアに全身をキレイキレイされましたよ?
もう少し言えば、メルトによる猫の洗い方講習会みたいなのが開かれたのだ。
ベルニカがお手本動物となり、メルトに洗われる。そのやり方を真似てルミアが俺の体を洗うって感じだ。
動けないのをいいことに触られ放題だったよ。そしてそんな情けない姿をスー子にまじまじと見られてた。
そんな時間が終われば、二人とも寝間着に着替え、外にある鍋の近くへ戻る。
もちろん、俺とベルニカはその鍋と別料理だったが、メルト特製のカリカリ飯が食えたので大満足だ。
そして少しの雑談の後、寝る時間となり――、
「メルト、どうやって寝るつもりだ? あいにく俺はこんなんだからスー子ベッドは作れないぞ?」
「そうね。あれが屋敷に残っていれば良かったけれど、衝撃で壊れていたみたいだし無いのよね。
それにさすがのワタシでもまだ一人で作るには技術が足りないわ」
「ボス、スー子ベッドって?」
「スー子のモチモチボディを再現した特製ベッドだ。
これまでずっと座って寝ていたメルトのために作ったものでな、凄い評判が良かったんだ」
「そうなのよ。あの寝心地を味わってしまったせいでもう座って寝る生活に戻れないわ。
生活水準を上げるというのも考えものよね」
「スー子ベッド.....なら、スー子がおっきくなればいいんだね!
実はスー子、さっきの変なのを倒した後、大きくなれるようになったの!」
「どゆこと?」
スー子の言葉に首を傾げていれば、相棒は「見てて!」と言って少し離れる。
それから「おっきくなぁれ!」といった瞬間、ボスンと全身が肥大化した。
うそん、あのクッションサイズだったスー子が、キングベッドぐらいのデカスライムになった!?
正しくキング(ベッド)スライムじゃないか!?
「皆、乗っていいよー!」
「あの子は先程から何を言ってるのかしら?」
「自分をベッドにしていいってさ」
「ベッドに.....?」
「本人がいいんだし、遠慮しなくていいんじゃないの?」
それから俺達はスー子の上に川の字になって横になった。
その際、なぜか俺が真ん中に挟まれ、そんな俺をルミアとメルトの二人が横向きで見てくる。
また、俺の頭の上ではベルニカが丸くなっていた。
正直、めっちゃ見てくることに妙な感覚があるが......気にしないでおこう。
にしても――、
「悪くない景色だ.....」
正面に見える満点の星空。大小様々な光が夜空を照らし、月光が優しく全身を包み込む。
眩しいかと思ったが案外そうでもない。常夜灯のような感じだ。
「よく.....寝れ、そう.....」
夜食の血糖値スパイクか、はたまたスー子ベッドの影響か。
どちらにせよ、俺は泥のように眠りについた。
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)




