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第49話 顕現せし怪物#2

 衝撃が全身を包む。しかし、とりわけ大きかったのは横っ腹からの衝撃だ。

 視界が砂埃に覆われて何も見えない。ただ、俺が吹き飛ばされているのはわかる。

 意識がある。生きている。あの攻撃を? どうして?


「あの攻撃は明らかな範囲攻撃で、さすがの俺でも避けるのは難しかったはず......いや」


 吹き飛ばされる最中、生きている現実に取り乱す俺の意識が落ち着きを取り戻す。

 それと同時に、怪物の巨大なハンマーが振り下ろされる直前のことを思い出した。


「あの時、横から何か水っぽいものが来て......ぐっ」


 肉体が重力に引っ張られ、地面に叩きつけられていく。

 まるで水切り石になったように地面を跳ねながら、俺は遠くまで吹き飛ばされた。

 しかし、それでも生きている。咄嗟に正面を向けば、なぜ生きているか理解した。


「スー子......」


 遠くに見えるスー子の体から触手が伸びているのだ。

 恐らく、あの手で俺が潰されるよりも早く体を弾いたのだろう。

 全く、さすがうちのエースだぜ。一体心身ともに救われるのは何回目か。


 もういい加減、一人でどうにかしようって考えは止めた方が良いかもな。

 俺は最強主人公でもなければ、チート能力を持っているわけでもない。

 いい加減、その事実を認めるべきだ。考慮するべきだ。


 確かに俺にとってスー子もベルニカも大事な仲間だ。

 二人が傷つく姿を見るぐらいなら、俺が一人でどうにかする.....その気概は大切。

 しかし、俺一人で出来ることなんてたかが知れてるだろ。うぬぼれるな。


「この意識は......ゴホッ、さすがに傲慢すぎるな」


 現状で生き延びるためには、俺の力だけじゃ足りない。

 だからこそ、俺は頼るべきなのだ――大事な仲間の力を。

 そう心に決め、俺は怪物に向かって思いっきり走り出す。


 怪物が伸ばした腕から大量に射出される黒い触手を躱していき、そのまま大きく旋回。

 そこから<風弾>を地面に放ち、砂煙で目くらましをしてから二人のもとへ近づいた。


「ベルニカ、スー子......突然で悪い、力を貸してくれ」


「ハァ......あんたねぇ、言うのが遅いのよ!

 あんたと相手の戦力差なんか見ただけでわかるんだから!

 それに戦いが始まる前に言ったでしょ――連帯責任だって」


「ボス、無事で良かった! うん、スー子はボスのためなら頑張れる!

 ボスがスー子を助けてくれた時のように、スー子もボスを助けたい! 力になりたい!」


「ありがとう、二人とも。なら、どうにかしてアイツの触手を邪魔できないか?

 直接対決は引き続き俺がやる。なぜかわからんが俺にご執心のようだしな。

 このお礼は必ずしたい。だから、死ぬなよ」


「それはこっちのセリフよ、猫騎士さん」


「うん、ボスもだよ!」


「んじゃ、いっちょ行こうか!」


 掛け声を出すとともに、俺は真っ直ぐ怪物に向かって直進。スー子とベルニカは左右から挟みこむように旋回し始めた。

 所謂、三方向から攻撃するトライアングルアタックというやつだ。しかし、その陣形になっても怪物の狙いは依然俺だ。


「いい加減、お前の動きにも慣れたよ!」


 繰り出される触手の数々、それらを躱しつつ、右手のバングルに火の術式をセットして剣を作り出す。

 その剣で触手を切断しながら、そのまま一気に怪物へと近づこうと試みる。

 だが、それは難しいようだ。相手の手数が多すぎる。


「<火槍掃射>!」


「<ボルトショック>!」


 その時、怪物の左右後方から挟むようにして、ベルニカとスー子の攻撃が加えられた。

 ベルニカは空中に展開した炎の槍を突撃させ、スー子は空中の雷球から高電圧の紫電を浴びせる。


 しかし、それらの攻撃を受けれも、怪物が怯む様子は一切ない。

 防御力も怪物並みならしい。これも魔王の呪いの影響とでも言うのか。

 とはいえ、それでも手数に多少なりとも変化が起き、僅かに少なくなった......気がした。


「その力、捧げよ」


「――ぬわっ!?」


 瞬間、触手を放っていた右腕が禍々しい刀身へと変形する。

 まるでフ〇ムゲーに出てくるようなデザインをした刃を一薙ぎ。

 咄嗟に、足と尻尾を抱えるようにして躱せば、数センチ下に刃が通り過ぎる。


 着地後に聞こえたザンッという音に背後を振り返れば、十数メートル先にあった木々が切断されていた。何つー威力だ、絶対に当たりたくねぇ!


「猪口才な」


「俺は猫だぜ!」


 俺が呆けていれば、怪物が間髪入れずに左腕を叩きつけてくる。なので、それをギリギリで躱し、逆にその腕を足場にして登っていく。

 直後、怪物は容赦なく右腕の刃を振るってきた。コイツ、自分の腕が斬れることになんのためらいもねぇのか!?


「だが、それも当たらなきゃ意味ねぇよな!」


 一気に跳躍して躱すとそのままの勢いで後脚による蹴りを入れた。

 それが怪物の顔面に直撃するが、僅かに顔の角度を変えただけで大したダメージはなさそうだ。

 知ってた、それぐらいじゃどうにもならないなんて試す前からな。


「だからといって、効いてないわけじゃないだろ!」


 後脚を蹴った反動で、俺は空中に大きく後退。

 そこから左腕を後ろに突き出し、<風弾>でもって前方への推進力を生み出す。

 その加速を利用したまま、右手の炎の剣を奴の首に思いっきり斬りつけた。


「当たった感触はある。だが.....」


 右手に伝わった衝撃、確かな攻撃の証はある。

 しかし、この程度で終わってくれるなら、俺はたぶんこんなに苦戦してない。

 通り過ぎた先でゆっくりと振り返れば、怪物もまたゆっくりと俺に顔を向ける。


「その半端な姿で抗う姿勢......存外侮りがたし。であれば、さらなる火力でもって殲滅せん」


「ぬわっ!?」


 そう言葉にした瞬間、怪物から溢れ出る威圧の衝撃に体が吹き飛ばされる。

 奴の体から先程よりも一掃禍々しいオーラが溢れ出て、それが辺りを侵食した。

 芝生の庭が瞬く間に枯れていき、植物どころか地面すら死んだように変化する。


 空気はより淀み、呼吸するのが辛い。ここが高山のような低酸素状態だ。

 雷鳴渦巻く曇天はその勢いをより増し、奴が放つオーラが見えない壁のように物理的な干渉を感じさせる。


「ハハッ、ここからは第二形態ってか?」


 怪物が丸めた背中から、バコッと二本の腕が生えてくる。

 最初にあった二本の両腕は刃に、生えた二本の両手は砲筒に形を変えた。

 近接と遠距離、そのどちらにも対応したような形態変化にさすがの俺も苦笑いが浮かぶ。

 さっき奴の右腕の変化を見てフ〇ムゲーと例えたが、これからやらされることまさにそうかも。

 もっとも、一度も死ぬことは許されないが。


「力の統一、器は一つでいい。消え去れ、脆き器」


 その瞬間、俺に向かって二つの砲筒から射撃を開始する。

 連続で射出される弾丸に、俺は迷わず逃げを選び、その場から回避する。

 背後から爆裂音を聞きながら、どうにかこうにか隙を探った。


「<風落刃(エアペンデュラム)>!」


「<隆起土拳>」


 そんな俺の一方で、ベルニカとスー子が好きを作ろうと攻撃を加える。

 怪物の真上から風で構成された刃がいくつも降り注ぎ、左右背後からは地面から生えた大量の土の手が殴りかかった。


 しかしそれも束の間、怪物がクロスさせた腕を解放するとともに、その場で一回転。たったそれだけで二人の攻撃は瞬く間に蹴散らされた。


「小賢しい」


 その一言と同時に、怪物が左右の砲筒をそれぞれベルニカとスー子に向けた。

 明らかな反撃の意思、その隙に付け込むように右手に炎の剣を生み出し攻撃するが、それは左手の刃でもって受け止められる。


「ぐっ!」「ぬわっ!?」


「チクショウがああああぁぁぁ!」


 俺の攻撃も空しく砲撃は射出され、左右から二人のダメージボイスが聞こえてくる。

 その事実にキレる俺に対し、目の前の怪物はニタリと笑った。笑いやがった!


「破滅こそ我が野望、我が本懐。いずれ淘汰される生命になぜ嘆く? なぜ怒る?

 やはり器として不適格。その力は正しく震える者が持つべきだ」


「わけがわかんねぇことを!――くっ」


 怪物が左腕を薙ぎ払うとともに、俺の体は簡単に吹き飛ばされる。

 そのまま地面を転がりつつもすぐに受け身を取れば、起き上がった時には既に奴が眼前にいた。


「死ね」


「死ねるかよ!」


 呪詛の言葉が両手の刃と一緒に降り注ぐ。連続で振るわれる攻撃に対し、俺は左手に土の籠手を纏い、右手は土の盾を作って捌いた。

 直接受け止めるのは対格差と力の両方が劣る俺には悪手の行動だ。だからこそ、出来る限り力を流す方向を意識しろ。

 思い出せ、俺の前職を――重戦士(タンク)として前線で盾を構え続けた日々を!


「くっ!」


 相手の刃が振るわれる角度を見極め、左右の籠手と盾の角度を僅かに変える。

 たったそれだけであるが、刃の結界を作り出すような相手の猛撃を紙一重で耐えていた。

 加えて、あまりにも対格差に開きがあるというのも大きいだろう。


 片や三メートル超えで、片や一メートル未満。ともすれば、デカい相手は攻撃しづらいはずだ。

 腰はだいぶ曲がってしまい、全身を活かした威力はさほど出ない。

 腕力だけで振るわれるならなんとなかる! もっとも、それでも両手の痺れがヤバいが!


「キャッチしなさい!」


 それでもジリ貧なことには変わりない――そう思った時だ。

 一つの声が遥か頭上に聞こえ、流れ星が落ちてきたように怪物に何かがぶち当たる。

 俺の自慢の動体視力で確認すれば、それは飛び蹴りをかましたメルトだった。


「ひゃあああぁぁぁぁ!?」


「......え?」


 「無事だったのか」という声をかける前に、可愛らしい絶叫が聞こえてくる。

 その声に目線を上に向ければ、スカートを両手で抑えたルミアが落ちてきた。え、ちょ、キャッチってそういうこと!?


「上昇気流の.....えーっと、スー子ベッド!」


 咄嗟に俺はその場に言葉通りの上昇気流を生み出し、同時にメルトとの合作の際に再現したスー子のような弾力のある水マットレスを作り出す。

 その行動によりルミアは風で落下速度を低減させ、最後は水マットレスに着地して事なきを得た。


「ルミア、大丈夫か?」


「はい、トールちゃんのおかげで。それよりもこれは一体......」


「俺のミスで封具がある場所に侵入された。

 そして恐らくその封具に触れたことで侵入者の一人が変貌したのが今だ」


「外から様子を見ていたけれど、なんとなく予想はついてたわ。

 それにフォローするわけじゃないけど、一概にもあなたのせいとは言えないのよ」


「どういうことだ?」


 そんなメルトの言葉に首を傾げれば、その場に立ち上がったルミアが代わりに答えた。


「先程までパーティー会場にいたのですが、その時にウィンベルトさんが言っていたんです、

 ハムド会長さんが送り込んだ刺客の中に一人自身の患者を潜りこませた、と。

 そしてその患者は気配を隠すのが上手いようなんです」


「加えて、ハムドの奴はそれを知らなかったようだわ。

 つまり、こうなることは全てウィンベルトの筋書き通りだったというわけよ。

 だから、あなたの油断もあるけれど......いや、それも考慮して組まれた巧妙な計画だったかもね」


「となると、一概にあんたを責められなくなったわね」


「やっぱりボスは悪くなかった!」


「二人とも無事だったか!」


 俺達の会話の中に、先程砲撃で吹き飛ばされたベルニカとスー子が戻って来た。

 二人ともボロボロといった様子であるが、それでもしっかりと歩いている。

 ベルニカの生存を知ったメルトが嬉しそうに抱き上げ、そのまま抱きしめようとした。

 しかし、それはベルニカのピンと張った両腕で阻止されたようだ。


「正直、二人が来てくれて助かったぜ。相手は妙に俺に執着してるようでな。

 力は強いし、動きは早いしで反撃の隙が見当たらなかったんだ。

 だから、メルトの存在は大きい。それにルミアの回復があるだけで俺もまだ戦えそうだ」


「そうね。アレが封具の力を纏った人間の姿......もはや怪物ね。

 加えて、ワタシでも一人で戦うのはしんどいと思われるわ。

 最初ぐらいは時間を稼ぐから、その間にあなた達はルミアに回復してもらいなさい」


「皆さん、こちらへ! まとめて回復します!」


 そう言ってルミアがパッと出現させた杖を地面に突き立て、そこから魔法を発動させる。

 杖を中心に地面に現れた魔法陣が淡い光を放ち、それが優しく体を包んでいった。

 どうやらこの範囲にいる限り回復効果が付与されるようだ。


「ベルちゃん、回復したらアレを持ってきてくれるかしら?」


「わかったわ。アレね」


「良いお返事よ。さて、ワタシの家をあんな目にしてくれた落とし前をつけてもらおうかしら」


 そう言って掌に拳をぶつけ、メルトは勇ましく歩き出した。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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