第47話 襲撃者#3
竜人族の血を取り込んだことにより、あらゆる肉体強化がされたラパン。
どうやら俺の角柱の攻撃も大したダメージはなさそうだ。
せっかく隠し玉として魔法まで使って正中線を攻撃したってのに......これじゃ魔法の出し損だな。
「さっきの戦闘から魔法を出し惜しみしていた所を見るに.....不意打ちで放って勝負をつけたかったって所だな?」
「あぁ、全くもってその通りだよ。だが、それもさっきので意味を為さなくなっちまった。
だから、ここからは俺の本来のスタイルでやらせてもらう」
「へぇ、いいねぇ! 滾るじゃねぇか! だったら、俺も遠慮いらねぇな!」
そう言って立ち上がると、ラパンは自身の足元の影を広げた。
同時に、その陰から大量の手を出現させ、一気に俺に向かわせた。
なので、俺も壁や床から<隆土衝>でもって数多の角柱を出現させて迎撃。
「メルト、悪いな。この屋敷の玄関ホールのデザイン変えるわ」
そんなことを呟きつつ、俺の周囲に数多の雷の槍を出現させる。そしてそれを一斉にラパンに向かって解き放った。
その攻撃に対し、ラパンは――、
「夜は俺の領域だぜ」
「――ッ!?」
トプンッと水に沈むかのように影に潜った。
当然ながら、俺の攻撃は当たらない。周囲を僅かに発光させただけだ。
周囲を見渡しても気配はなく、<魔力探知>でも探れない。
影を使った移動方法.....確か<影潜り>つったか。
名前には聞いたことあるが、実際に使われるとここまで厄介とは。
「上か!」
瞬間、俺のヒゲが僅かな空気の振動を検知する。同時に頭上を見上げると、壁から上半身を出したラパンが右腕を振り被っていた。
すぐさまその場から離れれば、俺がいた床に奴の拳が直撃する。
「勘がいい奴だ」
「こればっかりは猫様々だな」
実際、俺が生身の人間だったら、間違いなく今の不意打ちで勝負がついてた。
猫だけが持つヒゲというセンサーがなければ、気付くことすら出来なかっただろう。
にしても、こうして実戦で使ってる辺り、俺も猫の体が板についてきたな。
「<苛魔威太刀>」
ラパンから距離を取ると同時に、俺は風の刃で壁から半身出ている奴に攻撃する。
しかし、再び影に潜られ、あえなく壁に傷跡を付けるだけに終わった。
「どうやらここが奴のフィールドってのは言葉通りのようだ。
影がある限り潜り続けられるなら、こっちの攻撃はいくらたっても当たらねぇ。なら――」
天井に向かって、俺はいくつもの<光球>を放つ。
そしてそれを弾けさせると、一気にこの空間の影を消し飛ばした。
特製の閃光弾だ。影がなければ奴ももぐっちゃいられねぇはず!
「そこか!」
一気に照らされたことにより、階段の一か所から影がニュッと現れる。
その場所に向かってすぐさま走り出すと、俺は右手のバングルから炎の剣を取り出した。
そしてそれで一気に切断する――!?
「実体がない.....まさか影か!?」
「ご名答。んで、これが報酬だ! 受け取りな!」
「がっ!」
背後から現れた大きく振りかぶった左拳による裏拳、それが俺の胴体に直撃する。
当然、俺の軽い体では受け止めることは出来ず、まるで砲弾のように打ち出された。
階段の柵を突き破り、勢いは止まらず一階の扉を突き抜ける。
血反吐を吐きながら飛び込んだのは、長方形の長い食卓が置かれたダイニングだ。
その食卓の上に着地し、テーブルクロスを巻き込みながら壁に激突する。
相変わらず一撃が重てぇ......咄嗟にガードは間に合ったが、腕が痺れてる。
「よぉ、生きてるか? 生きてるよな? だって、ガードしたもん――なぁ!」
「チッ!」
最後の語気の強さとともに、ラパンが食卓をひっくり返した。
漫画でしか知らないちゃぶ台返しだ。それが俺に向かってくる。
なので、すぐさまその軌道から逃れるように横から抜け出すと、
「やっぱり来たか!」
俺が避けた先、それに合わせてラパンが襲い掛かる。咄嗟に炎の剣で激激すれば、その体はスッと切り裂かれた。
その直後、俺の背後の壁からもう一人のラパンが現れる。
「ハハッ、引っかかったな! そいつも偽物だ!」
「知ってるよ、影の化身。ならば、この光はさぞ苦手だろ?」
「――ッ!?」
炎の剣を振り抜いた右手とは逆、体で隠すように構えていた左手の先には光の球体がある。
そしてそれをラパンに向かって突き出すと<閃光>でもって思いっきり放った。
「があああああ! 目がああああぁぁぁ!」
両手で目を押さえ飛び出してくるラパン。
奴の体を足場に飛び越えて後ろに回ると、右手に作った雷の砲筒を向ける。
左手を支えにし、標準を構えるとそこから砲弾を放った。
「<雷榴砲>」
「がぁ!」
ラパンの背中に直撃し、玄関ホールまで奴の体が吹き飛ぶ。
雷エネルギーを凝縮させた一発だ。衝撃とともに感電する二重設計。
そのまま痺れて動けなくなってくれればいいが......まぁ、そう簡単じゃねぇだろうな。
「くっ......なぜ俺が背後から来るとわかった?」
照らされた玄関ホールにて、体から焼き焦げた蒸気を纏うラパンが体を起こす。
それなりにダメージは与えたようですぐには立てないようだ。かといって、俺もさっきのダメージが響いて追撃も難しいが。
食事場から玄関ホールに迎えつつ、俺は呼吸を整えるついでに答えた。
「単純な話だ、お前はバカじゃない。つまり、余計な博打はしない。
食卓をひっくり返した時点で、俺が取る行動は左右に避けるか、食卓を壊すかのどれかだ。
そして俺がどの選択を取っても攻撃を成功させるためには、影による囮を使った二段構えが最適。
丁度食卓で俺からお前の姿も見えなくなってたしな」
「だが、お前は俺の攻撃を予測して反撃.....クク、やるじゃねぇか。
それにどうせ、俺が背後から攻撃しなくても迎撃出来るように<閃光>を放ったんだろ?」
「あぁ、背後に一点がけじゃ外した時のデメリットが大きいからな。
ま、そうじゃなくても、いくら夜目が聞くからといって暗い場所で戦いたくないし」
「ハッ、クレバーな猫畜生だぜ。こんな力まで使っておきながらここまで追い詰められたのは初めてだ」
「嘘つけ。俺より強い奴はきっといくらでもいる。
それでも勝ち続けてきたとなりゃ、そりゃギリギリ勝てる相手としか戦ってなかっただけだろ?」
「――ッ!?......その言葉は効くなぁ。そんで否定も出来ねぇかもしれねぇ.....ぐぼぉ」
ラパンがゆっくり立ち上がる。しかし、すぐに口から大量の吐血をした。
どうやら竜の血がだいぶ悪さしているようだ。立ってるのもやっとだろう。
それでも戦闘意思を一切鈍らせない......その姿勢だけは評価してやるよ。
「決着を付けようぜ.....いい加減な」
「同感だ。俺もいつまでも男とイチャイチャする趣味はねぇ」
そう言ってラパンが身構える。先程の俺の攻撃で剣を落としたのか、無手で挑むようだ。なら、俺も肉体だけでやってやるよ。
「なんだ? 魔法は使わねぇのか?」
「敬意を払ってお前には完璧な敗北として俺の拳で決着をつける。攻撃として魔法を使うつもりは一切ねぇ」
「へぇ、お優しいこったな!」
瞬間、ラパンが高速で迫ってくる。
先程の俺のダメージ、竜人族の血の代償......その二つが相まって奴の動きが目で追えた。
とはいえ、少しでも反応が遅れれば致命傷は間逃れないが。
「とるぁっ!」
ラパンの拳が床を叩き、破砕。それをすくい上げるようにして投げ飛ばした。
その攻撃を紙一重でスウェイで躱しつつ、すぐさま反撃とばかりに俺は飛び込んだ。
咄嗟に右足で蹴りを入れたが、その攻撃はラパンの腕に阻まれる。
すると、ガードした腕をそのまま薙ぎ払い俺に距離を取らせると、今度はラパンが一気に前に詰める。
そして俺が反撃する隙を潰すように、一気に両拳による乱打を放ってきた。
ビュンビュンと風が拳で切れる音と幻覚でなく見える無数の拳、それらを俺はスウェイと重心移動で紙一重で躱し続ける。
正直、この見切りとて俺のヒゲが僅かな振動をキャッチしてくれてるからだ。まさかここまで猫の体に助けられる戦闘になるとはな。
「がはっ!」
「今だ!」
ラパンが吐血し、一瞬の硬直が生まれる。その隙を突くように防御から一点して攻めに入り、今度は俺が乱打を始めた。
俺の攻撃のほとんどは直撃し、無抵抗のラパンの体が揺れる。
ただ、感触からしてとてもダメージを与えられてる気がしない。竜人族の防御力が俺の攻撃を大幅カットしているのだろう。
とはいえ、俺の体格を考えるならどう考えても速度で挑むしかない。
「だったら、もっとその攻撃回転率を上げるだけ!」
一度距離を取ると、四足形態でもってラパンの周囲をグルグル回り始めた。同時に、<幻視>でもって俺の分身を作り出し、ラパンの目を欺く。
恐らく今の奴には、俺が何体も周囲を走っているように見えてどれが本体かわからないはず。そしてスピードを活かした攻撃となれば、当然ヒット&アウェイ!
「らぁっ!」
「ぐっ!」
ラパンの死角を狙うように飛び出し、鋭い爪でもって切り裂く。
相変わらず固くて大したダメージではないが、それでも”塵積も”ってやつだ。
切り裂かれた皮膚から血が流れ、失血による体力の大幅消費。何も固い防御を崩すのは、パワーだけが正解じゃない。
「ぐっ.......うっ.......だあああああぁぁぁ!」
「――!」
しばらく体を丸くして防御に徹底していたラパンが、拳を地面に叩きつける。
それによって床は破砕し、同時に周囲に砂煙が巻き起こった。周囲は茶色く濁ってしまい何も見えない。
だが、相手は猫だぜ? 耳で呼吸が聞き取れる。鼻で血のニオイを辿れ、ヒゲが僅かな空気の揺れを教えてくれる。
つまり、俺からすれば位置は丸わかりであるということだ。
仮にアイツが影に潜ったところで不意打ちは通じない。むしろ、この状況は俺にとってメリットしかない。
「そこか!」
自慢の肉球で足音を消しつつ、一気に飛び込んだ。
その瞬間、ラパンが野生の勘とでも言うべきもので拳を横に払う。
しかし、それすらも想定通り! お前の腕を利用して近づくだけだ。
「なっ!?」
俺が最後の一撃とばかりに飛び出した直後、ラパンがそのまま背中から倒れていく。
あの最後の抵抗で事切れたか? いや、奴の目は死んでいない。
むしろ俺を真っ直ぐ見ながら、両掌を近づけていき――、
―――パァン
「がっ......猫だましっ!?」
眼前で強烈な音を浴びせられ、俺の意識が一瞬の空白に襲われた。
耳がガンガンと音を立てたかと思えば、今度はキーンと耳鳴りで何も聞こえない。
それどころか意識すらも揺らいで......不味い、防御が間に合わない。
「そらよ!」
「がっ!」
背中から床に着地すると、その体勢を利用してラパンが足を振り抜く。
ちゃちなオーバーヘッドキックが俺の体に直撃し、易々と吹き飛ばされた。
そしてそのまま壁に思いっきり叩きつけられ、衝撃で壁が僅かに凹んでいく。
「ぐっ.......」
そのまま受け身も置取れず前のめりで床に落ちる。
さすがに.....まともに受けすぎたな。普通に体が軋むし、少し動かすだけで痛い。
耳鳴りは未だ続くし、そのせいで平衡感覚も正常じゃない。
「だが、それでも終わらせなきゃな」
「がぼっ、ぼごっ.......あぁ、そうだな」
俺と同じく起き上がろうとしているラパンも瀕死だ。
立ち上がるのもやっとというぐらいで、ケチャップをぶちまけたように口から吐血してる。
なんとなくわかる......互いに次の攻撃が最後だろうってことが。
「ハァハァ.......」
「ゼェゼェ......」
荒い呼吸するのに精いっぱいで虚勢すら出てこない。
だが、ここが正念場だ。ここを制した者が勝つ。
「うおおおおぉぉぉぉ!」
四足で走り出し、俺は一気にトップスピードに入る。
そのまま思いっきり跳躍するとラパンの間合いに飛び込んだ。同時に、ラパンの足元に土の手を作り出す。
対して、奴は俺の動きに合わせるように右拳を振ってくる。
「読めてるぜ!」
直後、ラパンはその拳をピタッと止めて、最速の回し蹴りを放ってきた。
恐らく奴は俺の土の手を見て「やはり先程の言葉はブラフで、魔法攻撃による決着をつけにきた」――と思っているだろう。
実際、ラパンがそのまま踏み込んで来れば、土の手は顎の真下に来る。そのまま土の手をかち上げれば、アッパーカットで決着だろう。
だが、お前はバカじゃない。だからこそ、そう来ると信じてた。
「なっ!? 土の手で自身を引き寄せた!?」
そう、ラパンの言う通り俺の土の手は攻撃じゃない――移動手段だ。
飛び込んだ以上、俺はどこにも身動きが取れない。
だからこそ、土の手で俺の体を掴み、強制的に床に引き寄せる。
ま、それでも紙一重で躱したってぐらいだけどな。
「言っただろ、『敬意を払って』てな。これで終わりだ」
床への引き寄せと同時に、強靭な後脚に溜めを作る。
その溜めを一気に爆発させると跳躍。ラパンの顎に向かって右手を突き出した。
イメージするは、老若男女問わず愛されるZ戦士の最高の一撃――の猫バージョン!
「猫龍拳ッ!」
「がはっ......!」
その一撃が俺達の勝負を決定づけた瞬間だった。




