第46話 襲撃者#2
盛大に爆発音が鳴り響き、それが戦闘開始の合図となる。
どうやら予測通り二階の窓から侵入をしようとして爆破罠に引っかかったようだ。
廊下の窓からは黒煙で覆われていて外の様子は一切確認できない。
これで終わってくれるならそれに越したことはないが......まぁ、そんなわけないよな。
「来たか」
メルトが魔法で構築できる罠の数上限により、それが仕掛けられたのは二階だけだ。
つまり、一階の窓から普通に侵入されるし、俺の<魔力探知>からもそいつらの動きがわかる。
それから二階に上がるまでにどれだけ数を減らせるかは罠とアイツら次第だが――、
「「「ぐあああああ!」」」
「どうやら景気よく暴れてるみたいだな」
一階から聞こえてくる爆発音と襲撃者達の叫び声。
どちらの仕業かわからないが、距離的にスー子の頑張りじゃないだろうか。
とはいえ、奴らもそれなりに数を用意していると思うし、雇った相手も生半可じゃないだろう。
「こっちだ! あんなスライムに時間を取られている場合じゃねぇ!」
「罠に警戒しろ! 敵はいるか?」
「いない。いるのは猫一匹だけだ。執務室の前にいる」
「先程のスライムと同じ訓練されたペットかもしれない。気を付けろ!」
「そいつは良い読みだ」
「――ッ!? 猫がしゃべ――」
「というわけで、勘の鋭い人間にはご退場願おう」
そう言って俺は左手を伸ばすと、同時に掌もとい肉球から魔法陣を作り出す。
それは罠を任意で発動させるためのトリガーであり、鍵を開けるように中央の魔法陣を横にガコンと動かした。
瞬間、廊下を走ってくる襲撃者達の真横の壁から一斉に土の拳が現れ、彼らを殴って壁に叩きつけていく。
「クソ、ここにも妙な猫がいるぞ。仲間がやられてる!
邪魔者は何であろうと排除しろ! 一人でも執務室に辿り着け!」
「お帰りくださいませ、お客様!」
再び魔法陣を生み出し、先程とは別の罠を起動させる。それにより二番目の団体客には天井から炎の雨を降らせ、三番目の団体客には感電足場で全身をビリビリと焼いた。
そうして倒した連中を土の拘束具で動けなくさせて適当に部屋にぶち込めば終わりだ。
さすがに廊下にあんな寝転がられてちゃ邪魔で仕方ないからな。
「とはいえ、さすがにこれで罠は打ち止めだな。もう来ないことを期待するが.....」
「あの猫も排除しろ!」
「ま、ですよねー」
今丁寧にフラグ立てたもんね。様式美とでも言うように、フラグ回収早かったね。
となれば、ここからは肉体労働が伴うわけか。仕方ないやるか。
これからお前に屈辱的な猫への敗北劇を見せてやるよ!
四足歩行で走り出すと、一気にトップスピードまで加速した。そのまま四人の足元を華麗に通り抜けると最後尾に回り、一気に反転。
ブレーキと共に溜めを作り跳躍すると、最後尾の刺客に後ろ回し蹴りを食らわせる。
すると、男の側頭部に足が当たった瞬間、その男の頭が一気に弾け壁にめり込んだ。
「なっ、なんだこの猫は!?」
「猫騎士トールだ。覚えておきな」
床に着地すると後ろから二人目の男が逆手に持ち替えた短剣を振り下ろしてきた。
なので、俺は咄嗟に横の壁に跳び、そこを足場にするとしゃがみ込んだ男に猫パンチ。
相手は死ぬ......ことはないけど、気絶するには十分な威力だろう。
さらにその男を足場にし、三人目の男の剣の薙ぎ払いを跳躍して躱す。
そのままその男の肩に乗れば、強靭な後脚によるゼロ距離ドロップキックを決めて吹き飛ばした。
それによってノックダウンさせ、同時に最後の男を巻き込んでそいつを一時的に動けなくさせれば、
「あらよっと」
再び壁を伝って高さを稼ぎ、その男の頭に向かって着地。
男の後頭部を踏みことで顔面を床に思いっきりぶつけて昏倒させれば一丁あがりだ。んで、こいつらも邪魔なので当然部屋の中にぶち込んでおく。
にしても、罠も含めてだいぶ人数がいたな。どれだけ雇ったんだよ。
「金があるって羨ましいな......」
「お前、どうやらただの猫じゃねぇみたいだな」
部屋から出ると見知らぬ紺色の髪をした男が壁に寄りかかってカッコつけていた。雰囲気からしてこれまでの襲撃者とレベルが違うようだ。
格好も襲撃者達は顔をフードやマスクで隠していたのに、コイツは隠してない。つまり、隠す必要がないという事なのだろう。
手に持っている剣を片手でジャグリングさせながら、こちらに体を向ける。
窓から差し込む月明かりが僅かに廊下を照らし、紫色の瞳と目が合った。
その目は随分と好戦的であり、俺を舐めている様子はない。
「誰だ、お前?」
「俺は『強奪』のラパンってもんだ。にしても、まさか猫に名乗る日が来ようとは。
だがまぁいい、俺は強ぇ奴に飢えてるからな。お前が強いなら何でもいい」
「『強奪』のラパン.....闇ギルドの人間か」
闇ギルド――殺し、盗み、違法取引と犯罪でもって生計を立てている組織のことだ。
てっきり自分の私兵から出しているかと思えば、こんな連中にまで依頼してたなんて。
ましてや、この世界で二つ名を付けられる場合、それは一定以上の強さが証明されてる証。
そしてコイツの名前は、俺がまだ人間だった頃にも聞いたことがある。
「ハッ、まさか猫にまで知られてるとはな。
どうやら俺は強さにおいて相当有名人になっちまったようだな」
「強さ? 違うな。お前が有名なのは――イカれたバトルジャンキーだからだよ。
知ってるぜ、お前は任務中でも強い奴を見つければ、その任務を放棄してまで戦いに挑むってな。
敵が強ければ強いほど燃え上がり、そしてそいつを殺して自分が強いと証明する。
強者である相手から命を奪う......故に『強奪』だろ?」
「へぇ、こりゃまた随分と物知りな猫がいたもんだ。
本当はこの屋敷の持ち主である竜人族の女と殺りあってみたかったが......その体から溢れる圧からして退屈はしなさそうだ」
「お前もオーラが見えるタイプか......」
つまり、もう俺の実力がバレている以上、不意打ちは難しいか。
まぁいい、もとより俺もコイツを一目見て小細工が通用するとは思ってなかったしな。
それにコイツがきっとこの襲撃者達の長だろう。とすれば、コイツを押さえれば勝ち!
「お前が親玉ってんなら、お前をぶっ飛ばして仕舞にしてやるよ」
「畜生風情が言うじゃねぇか。せいぜい退屈させんなよ!」
瞬間、ラパンが視線の先から消え、すぐさま眼前に現れる。思ったより速いな。
そしてそのまま右手に持った剣を振り下ろしてくるので、俺は左の壁へと跳躍。
そのまま壁を足場にし、がら空きの右側から回し蹴りを入れた。
「ほぉ、これを躱すか。存外楽しめそうだな」
「お前の動体視力も存外悪くないみたいだな」
俺の蹴りは、ラパンの左腕によって受け止められた。
なので一度距離を取れば、再びラパンが距離を詰めてくる。
今度は一撃で屠るのではなく、数多の突きを放って手数で攻めてくるようだ。
それらを俺は猫の動体視力、並びに自身にかけた<身体能力向上>を利用して見切る。
とはいえ、存外早くて紙一重だ。反撃に回る隙がねぇ。
「背後から迫る影」
「――!?」
ゾクッとする威圧感を感じ、俺は背後を振り返った。
すると、背後に黒い影が立体的に浮かび上がっており、両手に爪を携えている。
どのくらい鋭いかはわからないが、俺のピリピリするヒゲからすれば普通の刃物と同じかそれ以上。
つまり、この男は最初からこの挟撃を狙っていたというわけだ。
「だが、猫の身体能力を舐めるなよ!」
俺はすぐさま壁の方に跳躍して背後からの影の攻撃を躱す。
瞬間、俺より獣のような紫色の双眸が俺を睨んだ。
「甘ぇな!」
剣の追撃を警戒して右側に跳んだ俺の動きを先読みするように、ラパンが左拳で裏拳を放つ。
その拳が月明かりが差す窓近くの壁に直撃し、バコンと壁が一気に砕け散った。
発生した砂煙が、風穴から外へ排出されていく。
「それが舐めてるってんだ」
「――ッ!」
ラパンが振り抜いた左腕、それを足場にして俺は顔面に向かう。
そのまま連続猫パンチでもってラパンの顔面を乱打し、最後に後ろ回し蹴りでフィニッシュを決めた。
それにより、相手の体は盛大に吹き飛んでいき、床をゴロゴロと転がる。
「どうだ? 俺の拳は効くだろ?――ん?」
その時、俺のヒゲが僅かに風の揺らぎを感じた――それも真横から。
だが、先程ラパンが開けた風穴の可能性もあるし、今は目の前に集中すべきか。
それにどうやらそう簡単に終わってくれる相手じゃないみたいだしな。
「ハハハハハ! いいねぇいいねぇ!
こんぐらいやってくれねぇと張り合いがねぇってもんだからな!
正直、封具だなんだなんて死ぬほどどうでもいいんだよ! 強ぇ奴と殺り合えればな!」
「うっわ、是非ともこれ以降関わりたくない相手だな。
さっさとぶっ倒して一生牢屋でおねんねしててくれ」
「やってみることだな、猫畜生!」
「――!?」
ラパンが懐から出したポーションを飲む。その瞬間、威圧感が急激に増していく。
肉体は衣服が張り裂いて隆起し、赤くなった皮膚からは血管が浮き出った。
俺のヒゲがよりピリピリと感じ、全身からも毛が逆立っていくのが分かる。
な、なんだこの猛烈な怖気は? まるでドグラベアのような強大な敵を相手にしているかのようだ。
「うが......ぐがあああ!......だぁ、ハハッ、コイツはキマるなぁ」
「お前、何しやがった?」
「今飲んだのは、竜人族の血って代物らしい。デブの小間使いがくれたもんだ。
『もしかしたら使う機会があるかもしれないから』ってな」
「ウィンベルトの奴か......」
「確か、そんな名前だったな。まぁ、今となればどうだっていい。
この内側から溢れ出る力、今ならあらゆるものをぶっ壊せそうだ。
この力を試したいからよ――簡単に潰れてくれんなよ!」
そう叫んでラパンが動き出す。目で追うよりも早く目の前にいた。
この動体視力でも追い切れなかった。だが、まだ防御が間に合――
「こっちだぜ」
「――!」
俺が咄嗟に腕をクロスさせる頃には、ラパンが眼前から消えてきた。
そしてすぐに聞こえてきた位置は背後。つまり、あの一瞬で背後に回ったのだ。
咄嗟に振り返ろうとするが、その前にラパンの蹴りが飛んでくる。
「がっ!」
俺の肉体が簡単に蹴り飛ばされ、スーパーボールのように天井と壁を何度も反射する。
その勢いのまま玄関ホールに続く扉をぶち破って床を転がった。不味い、執務室の方からだいぶ離された!
「スー子!」
「――!......ボス! どうし――」
「俺の代わりに執務室を死守してくれ!
そこに続く廊下に誰もいれないようにしてくれるでもいい!」
「おいおい、余所見たぁつれねぇじゃねぇか!」
スー子に伝えるべきことを伝えるとすぐにラパンに意識を向ける。
奴は容赦なく剣を振り抜き、それによって発生した斬撃を放った。
「このまま防御してても埒が明かない」
というわけで、俺はあえてその斬撃に向かって飛び込み、四足で走りながら躱す。
そのまま柵の上に飛び乗り、ラパンが振り抜く左腕を躱しながら右手の爪を振り抜いた。
「斬爪!」
「痒いな」
「なっ!?」
俺の爪は確実にラパンの顔面を引っ掻いた。しかし、左目から頬に向かって浅く傷跡を作れただけで大したダメージはない。
「竜人族の血」というだけに、身体能力も防御力も跳ね上がっているのか。
「そらよ!」
「ぐっ!」
そんな俺の攻撃の後隙に付け込むように、ラパンが右手の剣を頭上に投げる。同時に、俺の体を右手で鷲掴みにするとそのまま壁に押し付けた。
メコッと壁が凹み、押し付けられる圧力に骨がメキメキと音を立てているのがわかる。加えて、相手は器用に左手で頭上から落ちてきた剣を掴み、
「まさかこれで終わりか? 存外他愛ねぇのな」
「んなわけねぇだろ――<隆土衝>」
「ぐがっ!?」
剣が突き出される直前、俺は壁に手を付ける。
壁の素材を媒介に魔法を発動させ、そこから三つの角柱を出現させた。
それぞれ角柱は股間、胸部、顔面と直撃し、そのままラパンを一階へと押し出す。
「がはっ......あぁ、生きた心地しねぇ」
それによって拘束が解かれた俺は床に着地し、せき込みながら呼吸を整える。
さすがに掴まれた時は終わったと思った。つーか、竜の血は反則だろ。
これじゃ実質、竜人族と戦ってるようなもんじゃねぇか。
「ボス、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。悪いな、心配かけて。
大丈夫だから、スー子はあの廊下に誰も入れないでくれ」
「わかった。ボスも気を付けてね」
心配で近づいてきたスー子の頭を撫でつつ、指示通りに移動してもらう。
あいにく思ったよりダメージがあって全然大丈夫じゃないが、スー子に任せるわけにはいかないしな。
それにあのタフネスモンスターがたったアレだけで倒れるとは思わない。
「ハハッ、まさか魔法まで使えるなんてな。コイツは一杯食わされたな」
「そのまま寝てりゃいいものを」
「こんな楽しい戦いを寝るなんてもったいねぇだろ」
玄関ホールから続く大きな階段の最上段から見下ろせば、胡座をかいているラパンが見える。
どうやらまだまだ戦えるようだ。だが、あの強大な力......なんの代償もねぇとは思えねぇ。
命を削るか時間制限か、はたまた両方か......ともあれ、動けなくさせるのは確定事項だな。
「さっさと大人しく地面に這いつくばれ、肉だるま」
「まだまだ可愛がりがたりねぇよ、猫畜生」
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)




