第43話 策略#1
―――ルミア視点――
ハムド会長さんの宣戦布告により、私達はすぐに戦闘態勢に入りました。
メルトさんの話では、このパーティーには既に刺客がいるそうなので。それは先程のダンスの際に、メルトさんが確認済みです。
そんな私達の敵意を感じ取ったのか、ハムド会長さんはすぐに全体に言葉を届けました。
「見てください、この態度を! 私に在処が看破されたというのに、未だ抵抗の意思を見せています!
とはいえ、私も器の大きな人物故、この言葉を持って最終勧告とさせていただきましょう」
そう言ってハムド会長さんは指をパチンと鳴らしました。
その瞬間、私達を囲むようにホールスタッフの皆さんや一部貴族の方が前に出てきます。どうやら貴族の方にも変装していた様ですね。
「さて、ご覧の通り今ここで力を持っているのは私の方です。
そしてここでアグニシュカ殿が抵抗すれば、それは封具を渡すつもりもないと同義。
つまり、それは違法所持であり、引いては管理を託したスラクト聖法国への反逆でもある。
その問題については教会ですら黙っていないでしょう」
私達を説得、否、脅すような言葉を並べながら、ハムド会長さんがゆっくり近づいてきます。
その表情には余裕たっぷりといった感じで、もはや勝ち誇っているようにも見えました。
そしてそのまま三メートルほどの近さまで来て立ち止まると、
「言いたいことがお分かりですか?――お前はたったそれだけのために世界を敵に回すということだ。
さすがの竜人族といえど、世界を相手にしてはさすがに勝ちなど望めまい。
死にたくなければ変な意地を出さず、とっとと渡すことだ」
「ハッ、それが強者としての優しさとでも言うつもりかしら? 反吐が出るわね。
あんな挑発的な宣戦布告をしておいて、今更交渉を持ちかけるとか馬鹿にしてる?
怖気づいたのだったら納得してあげるわ。納得した上で踏み潰してあげる」
そう言った途端、ハムド会長さんは鼻で笑い、周囲の観客へ目線を配ります。
「皆さん聞きましたか? どうやらこれが彼女の答えのようです! なんと愚かでしょうか!
そしてその愚かな選択を聞き届けたのが、この場にいる勇気と信頼の足る皆様です!
つまり、この場においてアグニシュカ殿は罪人となりました! 世界の敵です、おめでとうございます!」
「どういたしまして。どうやら後世にも残る偉業を果たしてしまったようね」
「チッ、減らず口を。まぁいい、もはやお前に未来はない。
お前がどのような回答をしようと、お前がここに来た時点で私が勝つ未来は決まっていたのだからな。
とはいえ、お前は良い土産を持ってきてくれた。その点だけは褒めてやろう」
メルトさんとの舌戦の最中、突然ハムド会長がこちらを見ました。
瞬間、全身を舐られるような視線に、全身がゾワッと震えます。
もはや服を透かして見ているような卑しい目つきに、醜い表情。
その嫌悪感に吐き気すら感じてきました。私、この人苦手です!
「安心しなさい、ルミア。あなたのその感情をぶつけるに足る相応しい相手だから。
なにせ、トールちゃんを探している最中のあなたを捕まえるよう指示した張本人なのよ」
「――ッ!?」
「おいおい、なんの根拠を持ってそんなことを。
男達に騙されて襲われかけたのは可哀そうだが、それを私のせいにされても困る」
「あら、私がいつルミアが男達に騙されて襲われたなんて言ったかしら?
語るに落ちるとはこのことね。どうやら勝ち誇って油断が過ぎるみたいね」
「チッ.....まぁいい。どうせこの場にいる以上、それは何も起こっていないと同義なのだから。
罪人なのは私ではなくお前だ。そしてコイツに加担するお前もな。
安心しろ、私は罪人にも寛容だ。堕ちた時は私がしっかり躾けてやる」
「あなたが躾けるには過ぎたる存在よ。どこまでもあなたの思い通りに行くとは思わないことね。
それから言っておくけど、ワタシはあなたの思惑を承知で来たの。この意味おわかり?」
「本当に挑発が好きなようだな。だが、今更屋敷にいないお前に何が出来る?
せいぜいお前に出来ることは、私の慈悲に頭を垂れて自ら奴隷に堕ちることだ。
でなければ、せいぜい国家反逆の罪と共に無駄な罪を増やすことだな!」
その瞬間、ハムド会長さんがサッと左手を頭の横に掲げました。
同時に彼の背後の壇上では、ウィンベルトさんが後ろを向き、指揮棒を構えます。
そして左手が振り下ろされると楽師の演奏が始まり、同時に周囲の刺客が襲い掛かってきました。
盛大な音楽と共に、懐から短剣を取り出した刺客が近づいてきます。
こっちは無手というのに、相手は容赦なく武器を使って来ますか。
それなら、こっちだって手加減はしません!
「<パワーウェイト>、<身体能力向上>、<重鎧化>、<クイックムーブ>、<自己治癒強化>」
「随分なバフの量ね。あなた、本当に新人冒険者?」
私は一気に五つのバフをかけると、メルトさんにそう疑われました。
まぁ、無理もないですね。ですが、本当にまだペーペー冒険者なんですよ。
ただ、サイバル森林での大物ドグラベアで思った以上にレベルアップしただけです!
「まだ終わりませんよ――<光刃の天輪>」
バフをかけ終わってすぐ、次に私は攻撃魔法を発動させました。
自身の頭上に、天使の輪のように光剣を浮かべ、さらに両手に光剣を握ります。
そして頭上に浮かべた光剣は標的に向かって自動発射。両手の剣は自衛用。
実はこの魔法、トールちゃんのアイデアで作った魔法だったりします。
「メルトさん、これで付け入る隙が生まれるはずです!」
「あなた、最高ね!」
メルトさんが動き出したのを確認し、私も攻撃に集中します。
しかし、今の私に出来るのはせいぜい固定砲台になって光剣を討ち続けることだけ。練度が足らないため、攻撃を放ちながら動くという事が出来ないのです。
また、光剣は自動発射ですが標的は目視で定める必要があり、近づかれて防御姿勢を取れば、その発射も止まってしまうというデメリットがあります。
なので、万全に使えない私の役割は、強力な攻撃手段を持っていると誤認させること。
「魔法主体の相手が剣もそれなりに使えるとなれば、相手にとって厄介この上ない」――というのが、トールちゃんの話であり、その僅かな警戒による硬直もしくは意識の空白が起これば、そのうちにトールちゃんがなんとかするというのが現状の使い方です。
そしてトールちゃんの代わりがメルトさんであり、その意図を察した彼女は既に行動を開始しました。
私の魔法を見て一瞬動きを止めたい人、または放たれた光剣を短剣で迎撃した人から順にその場から消えるように高速で動くメルトさんにぶっ飛ばされていきます。
「す、凄い......もうこれ、私の出番なんてないんじゃ......」
「いえ、そうでもないわよ」
そんなことを呟いていると、メルトさんが近くに戻ってきました。
そして私の呟きに対して、そんな返答をします。
「どういう意味ですか?」
「普通ならワタシの腕力に耐えられる人なんてそういない。
それぐらいの実力を持っているなら、まずあの男の下に着こうと思わないもの。
だけど、死なないように手加減したとはいえ、あんなに早く復帰するのはありえないわ」
「確かに、殴られたり蹴られたり尻尾で打ち付けられたりしたはずなのに.....まるで何事も無かったように立ち上がりますね。顔のどこにも大きな傷が見当たらない」
「となると、考えられるのは......」
そう言ってメルトさんが視線を向ける先は、この場から離れたハムド会長さんがいる檀上。
もっと言えば、そこで気持ちよさそうに指揮をこなすウィンベルトさんと楽師の皆さんです。
「もしかしてあの演奏に何か意味が......?」
「儀式魔法って聞いたことあるかしら? 本来術式で魔法陣を組み魔法を発動させるのが一般的なのだけど、儀式魔法は特定の行動で発動させる魔法なの。
歌ったり、踊ったり、捧げたりとかやり方は色々あるけれど、それに伴って動けなかったり、戦闘に向かなかったりのデメリットがある一方で、通常の魔法よりも強力な効果を全体に与えることが出来るというメリットもある」
「つまり、メルトさんが攻撃した皆さんがピンピンしているのって......」
「そう、あのうさん臭い男が演奏しているせいでいつまでも倒れない。
効果は自己治癒の大幅強化や防御力の大幅向上といった所かしら。
身体能力や腕力に左程脅威を感じない点からすると、ここで時間を稼ぐことが目的ね」
「時間を稼ぐってそんなことじゃメルトさんは倒せないのに......違う。
ここで私達を釘付けにすることで得られるメリットが一つだけある」
「気付いたようね。今あなたの考えている通り、この時間稼ぎは全て屋敷襲撃のためのもの。
殺してしまえば問題も解決するけれど、それだと観衆の目がある。
仮にトール君達が屋敷の防衛に成功しても、ここで私達が殺人犯になったら元も子もないわ」
「手加減していればいつまでも立ち上がり、殺せば今後私達の動きは大きく制限される。
となれば、あの儀式を止めればいいわけですね。それらなら――」
メルトさんの意見を聞き、私は右手の光剣を正面に突き出しました。
その刀身の形状を<光鎖>へと変えると、それをウィンベルトさんに向かって飛ばす。
ちなみに、その間にメルトさんは私に近づいてくる迎撃に当たってくれました。ありがとうございます。
――ガンッ
「――!?」
「そう上手くはいきませんよ、お嬢さん」
空中を疾走する光鎖がウィンベルトとさんの直前で弾かれました。
どうやら見えない結界が張られているようですね。いや、儀式という固定された魔法を安全に使うには結界の構築は不可欠。盲点でした。
とはいえ、たった一度で諦めるわけにはいきません! 屋敷で頑張るトールちゃんやスー子ちゃんのためにも!
「少し正面に集中します」と戻って来たメルトさんに一言伝えると、頭上にある光剣の輪の使い方を変更。
天使の輪のように浮かべていたそれを一斉に立てて、剣先をウィンベルトさんに向けました。
これがトールちゃんから教わったこの魔法の攻撃方法。攻防一体をだった状態を捨てて、攻撃のみに特化し連続射撃です。
「光剣機関銃」
そう言って両手の光剣すら魔力に変換し、無手となった手をウィンベルトさんに向けました。
すると、頭上の光剣の輪が先程よりも速く一射ずつ射出され、ビュンと空中を駆け抜けます。
しかし、それだけでは既にある分だけで撃ち終わってしまう。
だから、放たれて無くなった箇所に新たな光剣を装填し、それが次の光剣が発射されると同時にそれを回転させます。
それを繰り返し、加えて段々とその発射速度を上げることでこの攻撃の本領発揮です。
いくつもの光剣が横向きの雨のように降り注ぎ、結界にガンガンガンッと直撃しました。
「ほぅ、それは......もしや彼から教わったのですか?」
「お、おい、あの攻撃はヤバいぞ!? 本当にこのままで大丈夫なのか!?」
「ご心配には及びません。大丈夫ですよ......少なくとも私は」
「ヒッ! 今、結界にヒビが!? あ、今何か言ったか!?
というか、ヒビが入ってるんだぞ!? このままでは私の身が危ないではないか!
秘書なら私を守るのは当然だろ! なんとかしろ!」
「もうわがままだなぁ......それなら、せっかく上手く催眠中のこの人達を使い潰すことになりますよ?
正直、彼らの催眠を強固にするために信頼関係を築くの時間がかかって......その分だけ愛着があって嫌なんだけどなぁ」
「そんなこと知ったことか! 私の身の方が大事だろ! 構わん、やれ!!
どうせこの場にいる者達は全員催眠済みなのだろ? だったら、ここで私達側に人死が出たとしても全部アイツらになすりつければいい!
コイツらの命と私の命では世界への重みが違うんだからな!」
「うわぁ、傲慢と器の小ささが同時に垣間見える。
そういう面白さをもっと前から出してくれれば言う事なしだったんだけどなぁ」
――ガンッ
「ヒッ! 何か言ったか!? 早くやれと言ってるだろ!」
「はいはい、やりますよ」
その瞬間、私達が聞いていた音楽の曲調が一転しました。
先程の曲が穏やかなものであるとすれば、この曲はさながら決闘曲。
激しい曲調に合わせて結界がより頑丈になり、また周囲の刺客にも変化が起きました。
「う......うぐ......うがあああああぁぁぁぁ!」
肉体が1.5倍ほどに膨れ上がり、血管が浮き出るほどのはち切れんばかりの筋肉に服が裂けました。
肌色は一気に青黒く変色し、まるで人の形をした怪物です。
見た目からしても攻撃力は大幅に増加しているでしょう。加えて、十数メートル離れた位置からでもわかる魔力の圧。
それに、きっとこの人達は......もう。
「どうして......どうしてこんなことをするんですか!?」
あの全身の色は恐らくあざと一緒。血管が体内で切れて内出血を起こしているのでしょう。
そしてその一部が目や鼻から流れ出てしまっている。
きっと彼らの命は持って数分......私の力では死ぬまでの時間を少し伸ばすぐらいしか出来ない。
トールちゃんにたくさん人を助けるって誓ったはずなのに!
「こんなのあんまりじゃないですか! 同じ人間のすることじゃない!」
ふと目頭が熱くなり、涙が浮かんできました。しかしそれを流している暇はありません。
すぐさま涙を拭うと、壇上にいる二人に指先を突きつけ、
「私はあなた達を許しません!」
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)




