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第41話 パーティーの開催

―――ルミア 視点―――


 豪華絢爛な様式、煌びやかな装飾。見惚れてしまうようなドレスに、目が飛び出してしまうような料理の数々。

 見渡す限り誰も彼も身なりがよく、女性に至ってはとても美しい。


「凄い......」


 ここはとある屋敷の大きなパーティー会場です。視界に入る人物は貴族や商人の中でも大物ばかり。

 そんな人達の中に、一介の冒険者である私がいます。

 お上りさんもいい所で、どれもそれも気になってしまい。

 はしたないと思いつつも、興味が全く削がれないので......にしても、ここがあの.....。


「ふふっ、興味深々といった様子ね。

 ワタシの都合で振り回して申し訳ないと思ったのだけど、案外悪くなかったかしら?」


「いえ、頼まれて承諾したのは私ですから......ただ、少し憧れてたんですよね。

 その、よくある物語のお姫様がこういう会場で王子様とダンスを踊るというのを。

 もちろん、小さい頃の憧れだったので期待はしてなかったのですが......まさかこんな形でこうしたパーティーへの参加が叶うとは思いませんでした」


「そうね、まだまだ初心者冒険者であるあなたには夢物語の世界かもしれないわね。

 でも、そういう割にはあなたのドレス姿......とても似合っているわよ」


 そう言ってメルトさんが私のドレス姿を褒めてくれました。

 私のドレスは黄色をベースとした明るい色で、メルトさんから拝借したものなんですが......正直、ここまで肩を大胆に出したものは着たことなくて少し恥ずかしいです。


 それにメルトさんには申し訳ないですが、胸が少しキツい。

 そんな私の恥ずかしさを察したのか、メルトさんが微笑みながら答えます。


「安心して、あなたの姿はその他の女性にも負けてないから。

 なんだったら元の素材も良いし、貴族育ちの女性よりもよっぽど純粋な心を持ってるから、そんなあなたがドレスを身に纏えば下手な貴族よりもよっぽど魅力的に映ると思うわ」


「それはさすがに褒め過ぎですよ。ですが、自信は貰いました。ありがとうございます」


「別に褒め過ぎてるつもりはないわ。

 でも、そうね.....あなたからすればトール君からの感想だけで十分なのかもしれないわね」


「――!?」


 そう言われた瞬間、妙に顔が熱く感じました。なんだか図星を突かれたような気がして......嘘です、完全に図星です。

 実際、どの男性に褒められたとしても、トールちゃん一人に「綺麗」って思われればいいとは思ってました。


「顔が真っ赤よ」


「い、言わないでください。でも、さすがにこの感じる視線が私だけとは思いませんよ。

 贔屓目はあるかもしれませんが、メルトさんも十分に美しいと思います。

 少なくとも、同じ女性である私が見惚れてしまうぐらいでしたから!」


「あら、ありがとう。でも、ワタシの場合はそれだけじゃないと思うわ。

 完全に皮肉ってるのを理解しているのよ。見ればわかるでしょ? 他の人との違い」


 確かに、メルトさんのドレスは喪服のように真っ黒です。

 もともと雪のような肌色を持つメルトさんが着るのですから、そのコントラストが美しいと思うのですが......「皮肉」という言葉通り、その色がこの場に相応しくないというのは私でもわかります。


 私がメルトさんの頼みを引き受ける過程である程度の事情を聞きましたが、それほどまでにルーベルト会長のことがお嫌いなのですね。

 もはや全身からその人に対しての嫌悪感が滲み出てるような気がします。


「メルトさん、そんな衣装を着てまでどうしてこのパーティーに参加したんですか?」


「それは私に守りたいものがあるからよ。

 言ったはずよ、ワタシが持っているものは本来ワタシ自身すら持っていてはいけないものだって。

 つまり、違法所持であり、その弱みをハムドの奴が握っているの」


「それで今回のパーティーへの参加を強制されたんですよね?

 国に報告して犯罪者となりたくなければって条件で。

 ですが、私でもその判断は危険だってことはわかりますよ?」


「危険なことは承知の上よ。ハムドが宝を狙ってるのも知ってる。

 もっと言えば、ワタシ達がこうして誘い出されてる間に、屋敷に刺客が送り込まれてることも。

 だから、屋敷にはワタシが信頼できる護衛がいるのでしょう?」


「それはそうですが......」


 護衛というのは、トールちゃんとスー子ちゃんのことです。

 メルトさんとトールちゃんが屋敷にたっぷり罠を仕掛けたとは言っていましたが、それでも全部の刺客がその罠で排除できるとは思いません。

 少なからずの戦闘は避けられないでしょう。ましてや、私が関われない状況で。


「それと並行してワタシに対する口封じも行ってくる可能性がある。

 相手が竜人族と知ってただ誘い出して終わり......なんてことはないでしょう。だからこその抑止力としてあなたがいる」


「ですが、どこまで力になれるか......」


「そんなことを考える必要ないわ。あなたはただいてくれるだけでいい。

 相手はワタシ一人であればどうにかなると思っていたかもしれないけれど、あなたという不確定要素が現れた。

 加えて、あなたは新人冒険者で知名度も皆無であれば、実力も未知数。その不確定要素による一秒の逡巡があれば、ワタシからすれば十分よ」


「た、頼もしい......!」


「それにあなたはバフや回復が出来る......それも大きいわ。

 相手はあなたを狙おうとするけれど、それをすればワタシに阻まれる。

 それじゃワタシを倒そうとなっても、竜人族相手じゃ一筋縄じゃいかないでしょう。

 そうして時間をかけているうちに、ワタシは強化され回復もされる。

 相手からすれば最悪な組み合わせってことね。あら、案外相性いいかもね、ワタシ達」


 そう言ってメルトさんはいつもの余裕そうな笑みを浮かべました。

 その幼さもありながら大人びた目つきのギャップ、それでいて溢れ出る強者感に思わずドキッとしてしまいます。


 確かに、メルトさんにそう言われるとなんだかそんな気がしてきました。

 杖の持ち込みが出来なかったので不安でしたが、イケそうな気がします!

 そう思っていれば、メルトさんが突然一つ息を吐き、


「ただ問題があるとすれば――」


「失礼、お嬢さん方。初めまして、僕はダムザ=ゴーマンと言います。

 あなた方のような見目麗しい女性を放っておくのが忍びなく思い、なので提案なのですが......僕の妾になりませんか?」


「女性特有の面倒事に巻き込まれやすい」


 話しかけてきたのは、顎髭を少しだけ生やした貴族の男性でした。

 髪型も顎髭も整えられてあり、当然身なりに関してもほつれ糸一つありません。

 身長も高く、年上ですが自信を持っている雰囲気がある。加えて、貴族。


 恐らく、世の女性からすればこれ以上ない玉の輿の相手でしょう。

 実際、私の目から見てもカッコいい男性の部類に入るとは思います。

 しかし、不思議とそれ以上の評価はなく、特に心は動きません。


「なりませんかと言われましても.....初対面ですし」


「えぇ、そうですね。ですが、それは関係性を結んでから知っても遅くないのでは?

 私としては、あなた方のような存在が汚らわしい存在に汚されるのが見るに堪えない。

 なので、私はあなた方の輝かしい未来と幸福を守りたいのです」


「あら、そんなにワタシ達の未来を思ってくれるなんてありがたいわ。

 でも、その汚らわしい存在にあなたが含まれない根拠はあるのかしら?

 どうしてあなただけはそうじゃないと言い切れるの?」


「私には力もある、お金もある、名声もある。そしてその力を得るためには、僕自身は清廉潔白でなくてはならない。

 でなければ、こうして公の前で堂々と顔を出すことは出来ないでしょう。

 なので、僕はそこら辺の方とは違う――」


「よく口が回ることでゴーマン殿。

 それは綺麗な所から見せないように情報操作してるからだろう。

 綺麗な部分しか見せなければ、それは当然清廉に映るというもの。

 だが、俺は貴様が陰でコソコソ動いているのを知っているぞ」


「ノロマン殿、随分と勝手な妄言をおっしゃるじゃないですか。

 それもこのような美しい女性の前で。少しは品性を磨き直した方がいいのでは?

 あなたのような存在がいるせいで、こうして僕も疑われてしまうのですから」


「随分と醜い争いをしているようですね。五十歩百歩もいい所ですよ。

 ささ、お二人とも.....ここはさぞ耳障りでしょう。私とあちらで談笑はいかがですか?

 お近づきの印と言ってはなんですが、プレゼントがあるんですよ」


「所詮物でしか釣れない矮小が何を言い出すかと思えば」


「はぁ、その行動からして器の小ささが見て取れますね」


「.......」


 ......なんというか、気が付けばわらわらと人が集まってきました。

 そして集まった三人で互いの足を引っ張るような罵り合い。

 その隙を狙って他の男性が近づけば、三人に捕まって争いが膨らむ。

 これは.....なんというか――、


「醜いわね。腹の底の汚さが見え透いてる。

 自分が美しいと自信を持つのも大事だけれど、こういう面倒事は勘弁ね。

 さ、この隙に離れましょう。綺麗なあなたにはこの場は毒よ」


「は、はぁ......」


 私が胸に抱えていたモヤモヤをバッサリ両断するメルトさん。

 その言葉に不思議とスッキリしていると、彼女に背中をそっと押されました。


「あぁして見ると人間も獣だってわかるわよね。メスへのアピールのために、オス同士で戦い合う。

 同じ獣であればそれでいいのかもしれないけれど、あいにくワタシ達は理知的だから。

 ましてや、ワタシ達はあんな連中よりも魅力的な殿方を知ってる......でしょ?」


「そうですね。あいにくその人を超えることはないでしょうし」


 それから近くのテーブルにまで移動すると、少しだけ料理を頂きました。

 さすが一流の料理人が作っただけに舌が蕩けるほど美味しいです。


 この料理......ヤムッカとキャディッシュを主に使ってますが、他にも何かありますね。

 少し強い塩っ気の中に、隠し味のように混ざった酸味.....ポロッカでしょうか。

 この美味しさをトールちゃんにも届けるために、この料理を分析せねば!


「ふふっ、どうやらあなたを掴んだのは薄っぺらい甘言よりも料理だったようね。

 もっとも、掴まれたのは心ではなく胃袋の方だったようだけど」


 そう言ってメルトさんは片手に持つグラスに口を付けます。

 シュワシュワとした黄金色のお酒を飲んでるだけなのに絵になるなぁと思っていると、どうやらこの会場でも動きがありました。


「レディース&ジェントルメン!

 今宵はこのようなパーティに参加していただきありがとうございます。

 いつもうちの商会をご贔屓にされている方々に、感謝を込めて楽しんでいただければと思います」


 パーティ会場の奥にあるちょっとした壇上。そこにモノクルをつけた一人の男性が現れ、恭しく礼儀をしました。

 その瞬間、私の心はゾクッとした感覚に襲われました。

 それはどことなく嫌悪感に近く、あまり初対面の人にすぐに嫌悪感を抱くことはないのですが......確実に苦手の部類に入る人物であることは断言できます。


 あの人がウィンベルト=ギルバート――メルトさんが要注意人物に挙げていた人。

 確かに、不気味な感じと言いますか......どことなく嫌な気配を感じる人物ですが、まだ危険と判断するには早いような......。


「我々、ルーベルト商会はよりよい品を皆さんにご提供するためにお金をかけているため、普段こうしたパーティーは開かずに信頼のおける商品でもって感謝を返しているのですが......我々にとってお客様は大事な『商売相手』であり、互いに世の中を良くしたいと思う『友人』であり、共によりよい未来への発展を目指す愛すべき『隣人』でもあります」


 ウィンベルトさんが言葉を重ねる度に、不思議な説得力が波及します。それこそ、普段の”トールちゃんと同じ”ように。

 しかし、その性質はなんだか違うように思いました。


 言うなれば、トールちゃんが「光」とすれば、ウィンベルトさんは相反するような。

 ......いやいや、まだ話してない相手に勝手に苦手意識を持っては失礼ですよね。

 ですが.......やはり警戒はしておくべきなのでしょう。


「そんな隣人への感謝が商品だけで収まるはずがない。

 ましてや、我々にとってよりよい商品を届けるのは義務である以上、それにかまけていては『商売相手』であり『友人』であり『隣人』である皆さんに対しての感謝の怠慢になってしまう。

 故に、このような会を開かせてもらいました。楽しんで頂ければ幸いですし、お楽しみはこれからでございます。

 それでは皆様......ごゆるりとパーティーをお楽しみください」

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)


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