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第4話 スライムが仲間になりたそうにこっちを見ている

 跳ねるスライムの上に乗る俺。なんだかホッピングに乗っていた頃を思い出す。

 あまり上手に跳ねれた記憶はないが、スライムの上はそれよりも安定している。

 そんなことを思いつつ、しばらくして移動した先で見えてきたのは――、


「小屋?」


 そこはもう小屋としか言えない建物だった。それも小さな物置小屋レベル。

 いやでも、一応一人暮らし出来る程度の大きさはあるのか?

 そんなことを考え中、スライムが小屋の前で止まった。どうやらここが終点らしい。


「ここに連れてきたかったのか?」


「プギュ!」


 一旦降りてそう尋ねれば、スライムが肯定的に跳ねた。顔もなんだか嬉しそうだ。

 小屋の方へ視線を向けるが、そこに誰かが居る気配がしない。

 生活音らしきものも聞こえなければ、人らしきニオイも感じない。

 てっきりこのスライムは誰かの使い魔で、主人を紹介してくれたのかと思ったが......どうやらそうではないらしい。


「無人ということは、もしかして居住地を紹介してくれた感じなのかな?」


 確かに、今や猫の身である以上、クラフト能力なんて皆無に等しい。魔法も全然だしな。

 洞窟や大きな樹のうろ辺りで過ごさなきゃと思っていたから、そういう意味ではありがたい。


「教えてくれてありがとな」


「プギュ!」

 

 感謝の言葉を述べれば、スライムが嬉しそうに目元をニッコリさせる。

 ......なんか可愛く見えてきたな。


「とりあえず、中を見てみるか」


「プギュッ」


 そう呟くと俺の言葉に反応してスライムが先に移動。

 小屋のドアノブにぴょんと飛び移り、そのまま自重でドアノブを捻った。

 おぉ、思ったより器用なことするな。ここまで行動的なスライムは初めて見る。


 いや、そもそもスライムなんてサーチ&デストロイだったから知る由もなかったか。

 そう考えるとむやみに経験値稼ぎで殺してきたことに罪悪感が湧いてきた。

 少しだけ今のスライムに優しくしよう.....そう胸に抱きつつ、小屋の中に入る。


「うっ......」


 小屋の中はハッキリ言って埃まみれだった。

 今の俺でも歩けば軋む床だったり、床や椅子は白く染まっている。

 歩いた足跡ができるぐらいだ。相当長い間人の出入りがないのだろう。


「雨風がしのげるってのはありがたいな。さすがに食料はないみたいだが」


 テーブルに飛び移り、改めて一通りを見渡してみる。

 小さなキッチンに食卓、そこから繋がるようにしてすぐ近くにベッドが見える。

 年季は入ってそうだが、あの布は未だ使えそうだ。温かくして寝れるのはありがたい。


「良い居住スペースだ。改めてありがとな、教えてくれて」


「プギュ!」


「もう十分にお礼は受け取ったから、後は好きに生きていいぞ」


「.......」


 そう言ってベッドの方へ移動しようとするとスライムの動く音がしないことに気付く。

 振り返ってみれば、スライムは玄関の前で鎮座したままだった。え、帰んないの?


「どうした? もう仲間のとこに戻っていいぞ?

 それとも、仲間のところまで送って欲しいのか?」


「プギュギュ」


 そう尋ねれば、「違う」とでも言いたげに首を横に振った。

 いや、スライムに首の概念はないから全身を振ったか。

 どちらにせよ、俺の提案はスライムの意に沿わないらしい。


「......もしかして、俺と一緒に来たいのか?」


「プギュ!」


 今度は肯定的にぴょんと高く跳ねる。表情もなんだか嬉しそうだ。

 まさかあの時助けた影響で懐かれたのか。そう考えると悪い気はしない。

 とはいえ、俺も今は自分で手一杯だ。誰かを守ってやれるほど力もない。

 しかし、一方的に突っぱねるというのも些か強引すぎるか。


「ならば、これからテストを行う!

 このテストに合格したならば、お前を仲間に入れてやろう!」


「プギュッ!」


 腕を組んで宣言した俺の言葉に、スライムは「やってやるぞ」とばかりに跳ねた。

 というわけで、一旦荷物を置くと、外へ移動。スライムの前に立つと早速俺は尋ねた。


「さて、お前は俺に対して何ができる?

 もちろん、これを考えることからがテストだ」


「プギュッ」


 そう言うとスライムは俺の前に近づいてきた。

 それからもう一度「プギュッ」と言って、俺に踏むよう伝えてくる。

 踏む? まさかお前にそういう趣味が......ってさすがにそれはないか。


 とりあえず、言われた通りに右前足を押し付けてみる。ふにっと沈み込んだ。おぉ、良い感触。

 その次は左前足、もう一度右前足、さらに左前足とそれを交互に繰り返していく。


「ほほ、ほほ~ほぉ」


 俺がやっているのは、所謂猫マッサージというやつだ。

 子猫が母猫のミルクを飲む際に母乳を押し出す動作なのだが、どうにもこれが癖になる。

 しかもなにより、このスライムボディが少しひんやりしていて、さらに反発が良い。


「っていかんいかん。この程度で俺を懐柔しようたってそうはいかないぞ!

 なにより、俺は猫じゃないからな! 今は猫だけど。だから、この程度じゃ揺らがない!」


「プギュー」


 すると、今度はスライムが俺の体の内側に潜り込み、そのまま体を持ち上げた。

 相変わらず意外なほど力がある。どこに筋肉があるという見た目なのだが。


 にしても、ここで何をしろと......「寝そべろ」だ? また俺を猫扱いしやがって。

 だが、文句は一度経験してから言うことにしている。

 というわけで、俺はここで伏せてみれば、


「ほほぉ~、なんというジャストフィット感.......」


 スライムが特殊なボディなだけに、低反発枕のように形にフィットする。

 それがとても居心地がよく、今にもこのまま眠ってしまいそうだ。

 しかも、スライムがいることで固い地面で眠る必要がない!


「って違う違うちがーう! 確かに、ちょっと魅力的だった。

 だが、これで加入承認はしかねる。もっとこう、具体的な活躍を見せてみろ。

 俺に出来なそうで、代わりにお前が出来るようなこと!」


「プギュゥ」


 なんだか「仕方ないなぁ」みたいな反応されたのは気のせいだろうか。

 すると、スライムは近くの木に移動した。

 その木の高い位置には果実があり、リンゴに似ていて丁度食べ頃だ。


 そこで何をするかと思えば、スライムは思いっきり跳躍し、肉体の一部を触手のように伸ばして木の枝を掴んだ。

 その状態から触手を巻き取るように肉体を引っ張れば、勢いで木の枝に登ってしまった。

 ドアノブを開けた時から思っていたが、やっぱり器用に体を使うよな.....あのスライム。


「プギュッ」


 実っていた果実を取り、それを一度体の中に取り込んで枝から降りて着地。

 俺の前に来るとその果実を俺に見せつけてくる。どうやらこれがコイツのできることらしい。

 なるほどなるほど、確かにあの技術は驚かされた。だが、甘い!


「高い所から取ってくるなど俺とて容易い。見ておけ!」


 そう言って四つん這いでダッシュ。勢いよく木の幹に爪を立て枝まで登る。

 そしてその枝に捕まりながら、目線の下にある果実に向かって手を伸ばした。


「後少し届かない......!」


 果実がなっている枝には触れられるが、肝心の果実まではどうにも前足が届かない。

 もう少し、もう少しだけ前足を伸ばせば......後少し、体を内側に傾けて――あっ。

 瞬間、俺の体が傾き過ぎて、そのまま枝から落ちていく。


 咄嗟に、前足を伸ばすが、掴めたのは細い枝ばかりで自重を支えるには頼りない。

 だが、舐めるな。猫様にはどんな高さからでも足を地面に向けられる姿勢制御が――って俺、いきなり猫になったからわっかんねぇ!


「あ、やばっ」


「プギュッ!」


 地面に激突すると思った瞬間、背中に固いよりも先に柔らかいものが受け止めた。

 そのまま小さくバウンドし、揺れが落ち着いたタイミングで確認すれば、どうやらスライムが受け止めてくれたようだ。


「プギュ?」


「『大丈夫だったか?』って.....え、やだ、なんかちょっとカッコよく見える」


 これが吊り橋効果というやつなのか。先程よりも何割増しかスライムの光沢が輝いて見える。

 心なしか彼? 彼女? の顔も男前っぽく感じるし、どうしようちょっとドキッとしちゃった。


「あ、あー......ごほん、ありがとう。助かった」


「プギュッ!」


「えー、そうだな。審議の結果......採用で!」


「プギュー!」


「ぐわーっ!」


 俺が加入を認めるとスライムは嬉しそうに飛びついてきた。

 その勢いに押され、俺はそのままぐへーと地面に圧し潰される。

 そこはかとないスライムの重さ。人間大ならクッションとして良かったかもしれない。


 だが、今の俺のサイズだと普通にキツい。呼吸がしずらい。

 喜んでいるスライムには悪いが一度離れてもらい、俺は呼吸を整える。

 ともあれ、これでスライムは俺の大事な仲間となったわけだ。


 考えてみれば、人間より信用できるかもしれない。

 俺は俺を追放したアイツらとは違うから、このスライムを大事に扱うぞ。

 絶対に俺と同じような目に遭わせたりはしない。絶対にだ。

 そんなことを思った瞬間、俺の体が僅かに赤く光った。これはたぶん新しいスキルを習得した証だ。


 詳細は冒険者カードを見てみないとわからないが、恐らく<テイム>辺りのスキルだと思う。

 ま、魔物であるスライムを仲間にしたってことだからだろうが。

 となれば、大事な儀式をしなければな。


「う~む、名前はどうしようか」


 これから仲間となるスライムにいつまでも種族名で呼び続けるのも変だろう。

 仮に、目の前に敵対スライムが出てきた場合、どっちのことを指してるかわからないし。

 とはいえ、名前か.......名前、名前。


「スライムだから『スラ』? いや、安直すぎるか。なら、スを抜いて『ライム』とか適当過ぎ?

 中を抜いて『ライ』。捻りがなさすぎるから、もう少し考えるべきか? う~む」


 正直、俺にまともなネーミングセンスがあるとは思えない。

 一周回って安直すぎるぐらいがシンプルでいいのかもしれないが、どうせなら愛着を持たせたいし。


 スライムボディは液体っぽいし、「アクア」とか? もうちょい捻って「マリン」?

 う~ん、悪くない気がするが、これといって俺の中でピンと来ないんだよな。

 仕方ない。ここは一度仮の名で呼ぶか。


「お前のことはこれから『スー子』と呼ぶことにする。

 言っておくが、これはあくまで仮の名前だ。

 あとで絶対良い名前つけてやるから、それまでそれで我慢してくれ」


「プギュッ!」


「『嬉しい』って......幼名みたいなもんだぞ?

 まぁ、喜んでくれる分には悪い気はしないが」


 俺の命名に対して、ぴょんぴょんと跳ねて喜びを示すスー子。

 こんなことで喜ぶなんてなんとも単純な奴だ。

 ともあれ、これで正式に仲間になったわけだし、これから――、


「ぐ~~~~」


「プギュ?」


「そうだな。飯を探さないとな。

 一旦、この果実で腹を紛らわせるか」


 スー子のおかげで「住」はどうにかなったんだよな。

 で、今の俺は猫だから「衣」は考えなくてよくて、問題は「食」の方だ。


 猫になった影響で俺の食にどういう影響が及んだかわからないし、果実だけで生きていけるとも考えずらい。

 となると、いずれ肉も食わなきゃいけないわけだが......魚は無理だし、兎とか?


 でも、解体なんてこの体じゃ出来ねぇし、どうやって......あ、なんか嫌な想像が脳裏を過った。

 うぅ、それはあくまで最終手段だ。ともあれ、今日は一旦おやすみ!


「スー子、俺達の活動は明日からだ。今日はこの果実を食ったら寝るぞ。

 気が付けば陽も傾いて来てるし、今の状態で夜の探索は危険だからな」


「プギュッ!」


 俺の言葉を忠実に聞き入れるスー子と一緒に、俺は小屋へ戻っていく。

 そこで一緒に取った果実を食った後、俺はベッドの上で座るスー子の上で眠った。

 やっぱりこのフィット感が最高なんじゃ~。



******



「......どうすれば、どうすれば、私は――」


 どうして私だけ上手く出来ないのか。

 どうして周りの人と同じことが出来ないのか。

 どうしてこんなにも役立たずなのだろうか。


「もういっそ死んでしまった方が......」


 そう考えるけれど、そんな勇気はない。

 上手く生きれない上に、死ぬ勇気もないならば、もういっそ誰かに殺してもらうしか。

 だけど、それでは敬愛する両親に顔向けできない。


「これが......これがラストチャンス。

 この依頼をクリアすれば、私はまだ――戻れる」

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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