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第3話 猫だからと侮るなかれ

 結論から言おう――ヒロインではなかった。

 まぁ、ヒロインだった所ですぐに信用出来るか怪しかったし別にいいんだけど。

 でも、危機的状況を見て見ぬふりを出来るほど腐っちゃいないので、出来る限り急いで来たが……茂みから様子を伺うとそこいるのはホブゴブリン三匹に、一匹のスライム。


 ホブゴブリンとは、小人型のゴブリンよりデカい成長個体だ。ちょっと大柄な中坊ぐらいの大きさはある。

 とはいえ、腕力は中坊以上なので、出来れば相手したくない相手だ。


「今の自分の力を確かめたいが、いきなり三匹は分が悪い。

 あのスライムには悪いが、ここは見捨てさせてもらお――」


「プギュ」


 来た道を戻ろうとした瞬間、なんか高い声が聞こえた気がした。

 その声に振り返れば、スライムがホブゴブリンに大きく吹き飛ばされたようで地面に転がっている。


「ギュー、プギュ!」


 声の発信源はスライムからのようだ。あれ、スライムってあんな声してたっけ?

 ダメだ、これまでスライムのことをまともに気にかけたことがないからわからない。

 それこそ、街の序盤の魔物のように経験値稼ぎに狩りまくったことぐらしか。


「ギギャギャギャ!」「ギャッギャ!」「ギャギーギャ!」


 こっちは時々聞くホブゴブリンの声だ。もっとも、ここ最近はほとんど見なかったけど。

 そんなホブゴブリン達が吹き飛ばしたスライムに対して、醜悪な笑みを浮かべて笑っている。

 その瞬間、俺の脳裏に過ったのは――俺が猫になる前の記憶だ。


 信用していた仲間に裏切られ、一方的に追放された挙句こんな姿にされた。

 スライムが俺で、醜悪に笑うホブゴブリンがアイツらで......そう考えると無性に腹が立って来たのだ。

 アイツらはあの夜も俺に対してあんな風に笑っていたかと思うと俺は――、


「死ね、クソゴミがぁ!」


 四つん這いで走り出し、最高速からのジャンピングドロップキックを決めた。

 それが一匹のホブゴブリンの顔面に直撃し、衝撃で大きく吹き飛んでいく。

 仲間達二匹は何が起こったか分かっていないような顔で呆けていた。ハッ、笑える面だな!

 そして着地した俺はすぐさまスライムの前に立つと、


「プギュ?」


「ん?『助けてくれたの?』とでも言いたそうな声だな。

 言っておくが、別に助けるつもりはなかった。今の俺に誰かを守れるほど余裕ないしな。

 だからこれは.....そう、ただの自己満だ! 俺自身が気持ちをスッキリさせるためのな!」


「プギュー!」


 俺の言葉が通じているのか、いないのか。

 それはわからないが、スライムが跳ねる姿からはなんだか喜びの感情が見える。

 ハァ、随分と嬉しそうな顔しやがる。お前は勝手に助かっただけだよ。


「......ってあれ? スライムって顔あったっけ? 」


 少しまじまじと見れば、そこにはデフォルメしたスライムのようなまん丸な瞳が。

 いやいや、さすがに無かったはずだ。アイツらは水まんじゅうみたいなボディの中に心臓である核があるだけで......でも、確かに顔が見える。

 おいおい、まさかたった数時間しか経ってないのにもう人会いたさに飢えたのか?


 もしくは、このスライムにヒロイン性を見出そうとしているのか。

 どちらにせよ、勘弁して欲しい。思ったよりも裏切られたことがメンタルに来てたんだな。


「ギギャ!」


「っと、いつまでも話に耽ってる場合じゃないな」


 視線を向けると、二体のホブゴブリンが怒っていて、もう一体が頬を擦りながら戻って来た。

 最高のドロップキックであったが、どうやら相手をノックアウトするには威力が足りなかったらしい。

 ハァ、こうなったら仕方ない。ここで力試しと行こうじゃないか!


「後ろの! 離れてろ、あぶねぇぞ!」


「プギュ!」


 そう声をかけると構図を理解したのかスライムがこの場から離れていく。

 その姿を少しだけ見届け、すぐに視線を正面に向けた。

 ホブゴブリン達は先程のお遊びが邪魔されて随分と不機嫌らしい。ハッ、ざまぁないね!


「お前らの罪は一つ――俺を不快にさせたことだ!」


「「「グギャー!」」」


 俺の言葉に反応してホブゴブリン達が一斉に襲い掛かってくる。

 それに対し、俺は四つん這いになると走り出し、すぐさま相手の背後を取った。

 やはりと言うべきか、ホブゴブリン相手であれば俺の方が圧倒的に速度が上の方だ。


「せやあ!」


 右手を振り被ると、その手からシャキンと鋭い爪を出す。

 そして勢いのままに振り抜き、一体のホブゴブリンの背中に爪痕を作った。

 血がプシュッと空中に吹き出すが、思ったより浅い。ま、レベル1の攻撃じゃこんなもんか。


 俺の攻撃の後隙、そこを狙って別のホブゴブリンが棍棒を横から振り抜いてくる。

 なので、俺はタイミングを合わせて後脚に力を溜めると一気に跳躍。

 そのままそのホブゴブリンの頭頂部に器用に着地した。スゲー、猫のバランス感覚!


「となりゃ!」


 そこを足場に、俺はホブゴブリンが一直線に並ぶように移動。再び背後を取ると、一気に強襲する。

 具体的には、ホブゴブリンの首筋に向かって噛みついたのだ。

 本当はホブゴブリンみたいな小汚い奴に噛みつきたくなんてないが、これも検証のため。


 結果は案の定と言うべきか、一般的な猫みたいな姿のためかそこまで牙は鋭くない。

 つまり、首筋という急所を狙ったにもかかわらず、相手を殺すまでには届かない。

 クソ、人間の頃だったら一撃で両断してたってのに!


「ま、もともとこの種族自体、魔法主体だから仕方ないか。

 攻撃力とかスキルレベル次第では違ったかもしれないし。

 となりゃ、次は魔法でも――っと!」


 一度離れると俺に噛みつかれたホブゴブリンが棍棒を振り抜いてきた。

 それをサイドステップで避け、俺はなんの魔法を使うか思案していれば、


「ぎにゃっ!?」


 突然、尻尾をガシッと掴まれる感覚がした。

 普段感じる余地もない場所を握られた感覚もそうだが、この圧倒的不快感。

 咄嗟に振り返れば、後ろに回っていた一匹のホブゴブリンが俺の尻尾を掴んでいるではないか。


「くっ、放せ――火球!」


「グギャー!」


 咄嗟に魔法のスキル項目で一番最初にあった<火球>を放つ。

 ホブゴブリンの顔面に手から放たれた火球が直撃し、爆発した。

 すぐさまその場にボワッと小規模のオレンジ色の爆炎が広がる。


「熱っちいいいいいぃぃぃぃ!」


 その時、その爆炎が俺の尻尾も巻き込んだ。

 普段まともに......というか、魔法攻撃に関しては初めて撃ったので規模がわからなかった。

 そのせいで尻尾まで巻き添えを食らい、尻尾の先端に火が付く。


 尻尾を掴みながら周囲を駆けずり回り、俺は息を吹きかけながら鎮火させる。

 幸い、毛先が少しだけ焦げただけですんだようだ。

 ちょっとヒリヒリとするが、とりあえず動く分の支障はない。


 クソ、やっぱり魔法は近距離で使うものじゃないな。

 それに明らかに魔法の選択ミスも大きい。これは良い教訓だな。

 それはそれとして――、


「よくやってくれたな、お前らあああああ!」


 やったのは自分なのだが、そもそも尻尾を掴まなければこんなことにはならなかった。

 つまり、尻尾を掴んできた奴らのせいというわけで、俺はその怒りを爆発させる。


「確かに、今の俺は貧弱だがな。これでも人間なんだよ。

 つまり、俺には人間の誰しもが持つチート武器『知恵』があるってことだ!

 この俺を怒らせた罪は重いぞ、お前ら!」


 これでも俺はこの世界から見れば、勉強家の方だったと思う。

 齢十六歳でこの世界に投げ出され、何の知識もないままここを生きるのは難しい。

 だから、冒険者業の傍ら、俺はこの世界のあらゆる知識を出来る限り吸収しようと努力した。


 仲間だったアイツらのために役に立ちたいって気持ちもあったが、単純にゲームやラノベでしか触れられなかった世界に触れられて、常に興味が絶えなかったのも大きいかもしれない。

 ともあれ、そんなこんなで俺はちゃんと今でも目の前のホブゴブリンを殺す解を持っている。


 チラッと視線を横に動かし、火球が直撃したホブゴブリンがちゃんと倒れていることを確認。

 それから今一度意識を目の前に向け、両手の爪先を鋭く露出させる。狙う場所は一か所――頸動脈!


「「グギャアアア!」」


「せやあああ!」


 同時に襲い掛かって来たホブゴブリンに対し、俺も一気に走り出して加速。

 振り下ろされる棍棒を躱し、両者の間を抜けるように飛び越えた。

 刹那、体を捻って爪を二体の首筋に当て勢いのまま抉り切る。そんでもって最後は華麗に着地。

 背後ではホブゴブリン二体による血の噴水が完成していることだろう。これで悪は滅した。ざまあみろ。


「ん?」


 その瞬間、俺の体が僅かに赤い光を纏った。

 時間は一瞬であったが、俺はこの現象を知っている。これは俺のスキルレベルが上がったことを示す現象だ。


 つまり、今回使った<ひっかく><かみつく><火球>のうちのどれかがレベルアップしたのだろう。

たぶん使用回数最多の<ひっかく>だと思うけど。


「ふぅー......ともあれ、ある程度の戦闘検証も終わったな。

 まぁ、もう少し色々な魔法も試してみたかったが、それは別の機会でもいいだろう。

 この体でもやり方次第ではここまで肉弾戦やれるのは嬉しい誤算だ」


「プギュ!」


「ん?」


 戦闘も終えて一段落がついたところで、背後から声がした。

 振り返ってみれば、先ほど助けたスライムであった。

 てっきりあのままどこかへ逃げ出したかと思っていたが、まさかお礼を言いに来たのか?


「プギュッ! プギュッ!」


「う~ん、わからん」


 子供が履く音が出る靴みたいな声を出しながら、スライムがぴょんぴょんと跳ねる。

 とりあえず、なぜか今の俺にはスライムの表情が見えるので、喜んでるのはわかる。

 ただし、相変わらず何を言っているのかはサッパリだ。


「ま、助かったなら良かったんじゃないの?

 お礼も別に言われるようなことじゃない。この世界じゃ弱肉強食は当たり前だ。

 弱い奴は死に方も選べねぇってやつだ。助かったのは運が良かっただけ」


「プギュ?」


「あと、さっきも言ったけど、俺が助けたのは気まぐれだ。

 俺にとって不愉快な光景が目の前に広がってたから、その元凶を片付けただけ」


 復讐を捨てたとはいえ、鬱憤まで捨てきれたわけではない。

 結果的にとはいえ、それが特殊な形で達成されたのだ。

 おかげでちょっとだけ心がスッキリした自分がいる。


 にしても、案外やれるもんだな。猫の姿になった時はどうかと思ったが、何事もやりようか。

 とはいえ、少しぐらいは森でレベルを上げておいた方がいいかもしれない。

 でなければ、人間に戻る前に死んじまう。


「お前との出会いはこれでおさらばだ。助かって良かったな。それじゃ」


 一方的に言葉を放って、俺は茂みに置いていたウエストポーチを回収すると、川の方へポテポテと歩き出した。そこら辺の近くで拠点を作って暮らすことにしよう。


「......」


「プギュッ、プギュッ」


「..........」


「プギュッ、プギュッ、プギュッ」


「......え、ついてくるの?」


 後ろから聞こえてくる効果音というか声。

 振り返れば案の定、そこにはスライムが跳ねながらついてきていた。

 質問すれば、肯定するように笑顔でその場で跳ねる。

 まさか――、


「助けた俺に恩返ししようとでも考えてる?」


「プギュ!」


「『そう!』じゃねぇよ! いいんだよ、余計なことは考えなくて!

 どうすんだよ、実は俺がお前を利用しようとしている悪い奴らだったら?」


「プギュギュ!」


「『そんなことない』って.....ハァ、随分と甘い考えだな――ってうぉ!?」


 その瞬間、スライムが俺の股下に入り込み、そのまま俺の体を持ち上げた。

 わぁ、スライムボディ、凄い! 人をダメにするソファみたい!......じゃねぇ!

 意外とスライムって力あるんだな.....ってそれでもねぇ!


「突然、何して――」


「プギュー!」


「ちょ、おま、人の話を――!」


 結局、スライムは俺を乗せたまま、ぴょんぴょんと跳ねながら移動し始めた。

 なんだかスライムナ〇トの気分を味わいながら、俺は為すがままに運ばれていく。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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