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第2話 現状確認

 前回のあらすじ――目が覚めたら追放されてて、さらに猫だったよ。ふざけんな!


 いや、猫が悪いわけじゃない。猫は好きだ。

 確かに、元いた世界では動画に出演している猫様になりてぇと思ったことはあった。

 だが、あれは一種の感想であり、なんだったら自分に対する冷めたネタのようなものだ。

 これでも俺は人間としての誇りがある。


 ということで、今の俺は非常に不機嫌である。

 それはもちろん、俺をこんな姿にしてもらったクソメンバーに対しての怒りも相まって。

 しかし、これ以上怒りを抱えていても疲れるし、何も解決しない。

 それに――、


「まだ猫だったことが唯一の幸いか......」


 朧げな記憶の中で、俺の姿を変えたハイネは「何に変身するかわからない」と言っていた。

 つまり、この世界に存在する数ある動物や魔物、昆虫の中で猫が選ばれたというわけだ。


 これに関しては、ガチのマジで不幸中の幸いだっただろう。

 魚だったら目が覚めた瞬間に死んでいただろうし、ましてやあの不快生命体Gになってたと思うと......。


「ええい、やめやめ。自らSAN値を削る行為をしてどうする。それよりもこれからの行動だ」


 人間に戻る目標を定めたのはいい。

 だが、それは無事に俺がこの森から脱出が出来たらの場合だ。

 まずは今の自分に出来ることを把握しなければ。現状確認というやつだ。


「ステータス......は、冒険者カードを見ないと確認出来ないか。

 となると、まずはこの肉体で出来ることを確かめよう。

 非常に不本意ではあるが、これからこの体にお世話になるしな......ん?」


 その時、俺は今の姿に対する違和感に気付いた。というのも、体勢がおかしい。

 たった先程まで俺は一人耽っていたわけだが、なんかナチュラルに腕組みしてる。

 いや、それもそうだが、当たり前に二本足で自立していることもそう。


「段々と身体の違和感が薄れてきたから気づかなかったが、思ったより人間寄りの動きが取れるぞ?」


 バランスを取るのが若干難しいが、二本足で歩くことは可能。

 加えて、腕の可動域も思ったより動かせる。

 ただし、しゃがむとおしりまでペタンと座ってしまう感じだ。


 二本足で走るのは出来なくはないが、難しい。

 バランスを取ること自体が難しいのもそうだが、人間のように後脚の可動域があまり広くない。

 代わりに、四つん這いになるとめちゃくちゃ速かった。


「よし、この姿でも出来そうな人間の動きは大体把握できた。

 次は猫の動きを確かめるか。となると、やはり気になるのは......」


 そう呟きながら、俺は木の前で一度しゃがむ。というか、座る。そこから思いっきり後脚で地面を蹴った。

 瞬間、俺の目線がぴょーんと高くなる。跳躍力はさすが猫様だ。半端ない。


 そこでさらに爪を立てると木の幹にしがみつき、四肢を這わしてロッククライミングならぬツリークライミングで木の枝まで登った。

 すると、そこから見える景色は――、


「めちゃくちゃ怖ぇ.......」


 人間の頃の木登りは大した恐怖も抱かなかったのに、今では一番低い木の枝でさえ若干足が竦む。

 なるほど、これが木に登ったはいいものの降りれなくなった猫の気持ちか。


 だけど、俺は人間なんだ。これぐらい降りれなければ、本当に猫になってしまう。

 というわけで、俺は意を決して降り――ようと思ったが、この状態での怪我のリスクも考え、幹にしがみつきながら慎重に降りた。


「ともあれ、猫ならではの跳躍力は確かめられた。

 ただ、ハイジャンプするには一瞬溜めが必要だから、使うタイミングは考えとくべきだな」


 後は頭さえ通れば体も通るというのも確かめてみたかったが、あいにくここら辺に柵はないのでそれはまた別の機会だ。


 ちなみに、当たり前だけど物は片手では持てないようだ。回収する荷物は厳選すべきだろう。

 ともあれ、取り急ぎ確認したいことは終わった。次はステータスだな。


「練習がてら歩いて行こう」


 それから数分後、俺は自分の抜け殻へと戻って来た。

 戻れるか不安だったが、妙に人間っぽい服のニオイがすると思って歩いて行けばそこだった。

 そしてそこには、俺が着ていた衣服と放置されたウエストポーチがある。

 誰かに盗まれた形跡はなく、魔物に荒らされた様子もない。


「クソぉ、気に入ってた一張羅だったのに......」


 置き去りにされている衣服を見て、悲しさがこみ上げてくる。

 あまりオシャレにこだわる方ではないが、これはそんな俺が一目惚れした服ばかりだ。

 デザインとしては無難だが着心地が良く、洗うのも楽。ブーツに至ってはほぼ新品である。


 だが当然、こんな姿では持っていくことも難しい。

 荷物がパンパンで拾えなかったアイテムを泣く泣く見捨てるような物悲しさを感じつつ、俺はウエストポーチの方へ視線を向ける。


 これは俺が異世界へとやってきた際の唯一の相棒だ。小さい頃に買ってもらって、それから長年重宝している一品。

 だいぶほつれているが、それでもまだまだ現役だ。これはさすがに持っていきたい。

 だがその前に――、


「ぐぬぬぬぬ.......」


 チャックの取っ手を歯で噛み、手を使いながらなんとか開ける。

 そこからチラッと見えた冒険者カードに触れ、「ステータスオープン」と唱えた。

 瞬間、俺の顔の前に半透明なウィンドウが表示される。良かった、どうやら魔力も使えるらしい。



===ステータス===


名前:トール(渡来徹) 性別:オス 

年齢:19 職業:なし【重戦士ロック

種族:子猫精霊【人族ロック】 レベル:48


筋力:32(-158)

敏捷:115(+5)

防御:29(-173)

魔力:132(+80)

器用:50(-51)


【技能スキル】

盾術:レベル5(ロック) 剣術:レベル4(ロック)

体術:レベル2 挑発:レベル3 

投石:レベル1(ロック) 盾殴り:レベル2(ロック) 

シールドバッシュ:レベル3(ロック) 

ウォークライ:レベル3 斬鉄壊:レベル2(ロック) 

掌底:レベル2

(NEW)ひっかく:レベル1 (NEW)かみつく:レベル1(NEW)尻尾を振る:レベル1

(NEW)暗視:レベル- (NEW)追跡:レベル1 

(NEW)探知:レベル1


【魔法スキル】

生活魔法:レベル- 魔力操作:レベル2 

防御強化:レベル4 身体強化:レベル4

(NEW)火球:レベル1 (NEW)水弾:レベル1 

(NEW)ビリビリ:レベル1

(NEW)風弾:レベル1 (NEW)石礫:レベル1 

(NEW)フラッシュ:レベル1 (NEW)暗幕:レベル1 


【固有スキル】

会話術:レベル2


【称号】

女神の加護 重騎士の誇り(ロック) パワーファイター 会心の重撃 鈍重の鉄塊ロック 迷い人

(NEW)追放されし者 (NEW)人を辞めし者 

(NEW)精霊になりし者


======



「......なるほど」


 久々に見たステータス画面にて、口から渋い声が漏れ出た。

 正直、色々時になることはあるが、まずは順番に確認していこう。

 まず種族だが、どうやら俺はただの猫じゃないらしい。

 子猫精霊......俺は精霊になったようだ。にしては、サイズ感は成猫であるが。


「ステータスは軒並み下がってるなぁ。まぁ、猫だからか」


 このマイナス補正値は、恐らく種族補正だろう。

 そりゃ、こんな姿になってしまった以上、本来のタンクとしての活躍は見込めないわな。

 ギリギリゴブリンなら勝てるぐらいだろうか。


「その代わり、敏捷値が微増の、魔力値が大幅増加している」


 これも先言った種族補正だ。たぶん、精霊自体が魔術師みたいなステータスなのだろう。

 つまり、魔法主体の遠距離型。当たり前だが、ステータスを一から鍛え直しかぁ。


「一応近接攻撃もあるけど、『ひっかく』に『かみつく』、そして『尻尾を振る』って......ポケ〇ンかよ」


 もっとも、筋力値がカスなので、大した攻撃力にはならないだろう。

 武器を持てれば別だっただろうが、この手では持つのは難しいし。


「これまで近接戦主体から魔法主体に変わったのは仕方ない。諦めよう。

 しかし、ずっと鍛えてきた筋力値がミソッカスになっているのは納得いかん」


 これは言うなれば、「プライドの問題」である。

 この世界に来て早三年……俺の心は既に一人の剣士だ。

 にもかかわらず、頼りの筋力が頼りにならなくなっている。泣きそう。


「とはいえ、もともと魔法がロクに使えなかった身としては、魔法が使えるのは嬉しいな」


 確かに、剣士としてのプライドはあった。

 しかし、それはそれとして魔法を使える人を羨ましく思っていたのも事実。

 魔力が低かったので、人間の時に使い勝手と相性のいい「防御強化」と「身体強化」ばかり使ってたが、これはなんとも遊び心が湧いてくる。


「そんでアイツらは俺にロクなスキルも見られないと言ってたが、一応固有スキルはあんだよな。

 ただ、攻撃スキルや有用そうなスキルじゃないから知らせなかっただけで」


 「<会話術>」――転移者ボーナスと言うべきか。

 俺が初めて冒険者になり、自分のステータスを確認した時からあった。

 だが結局、俺はこのスキルの活かし方が理解できず、腐り続けたスキルでもある。


 追放者もののラノベで言えば、追放された者が持っていたスキルが実はチートだった......みたいな展開で、それを失った追放した側は冒険に苦しむみたいなのがテンプレだ。

 だが、あいにく俺のスキルはそういった発展性がまるで見えない。


 なんだったら、俺が転移してから三年間で独り言も含めかなりしゃべってきたが、結局レベルが上がったのは一回限りで、その効果も『説得力を少し強くする』というものだ。


 この悲しさが一体どうしたら伝えられようか。

 別に英雄になりたいとか、そんな大きな野望は持っていない。

 ただ少しぐらい俺TUEEEEを経験させてくれてもよかったんじゃないかと思う。

 あぁ、なんか一周回って腹が立ってきた! そんで猛烈に毛づくろいしたくなってきた!



―――一分後



「ふぅ、毛づくろいしたらめっちゃ落ち着いた。ちょっとした賢者タイムみたいな気分だ」


 俺の家は猫を飼っていたが、怒って散々暴れた後に突然毛づくろいする理由がわかった。

 これ、めっちゃリラックスできるし、ついでにちょっと涼しい。体温調節も兼ねてるのか。


 なんかもうナチュラルに毛づくろいしてしまったが、もはや生理現象みたいなものだな。

 潔く諦めて受け入れよう。さすがにこればっかりは仕方ない。

 っていうか――、


「......今更ながら、このスキルに向き合うと絶対商人向きだったよな」


 落ち着いてくると如何に昔の自分が愚かだったか見えてくる。なんで冒険者やってんだろう。

 たぶん商人をやっていれば、今頃こんな思いもせず俺TUEEEを味わえたかもしれないのに。


「いや、俺が恩返しに冒険者になった時点で話は終わりか。

 それにどっちにしろ、この世界に来た以上、冒険者にはなってたかもだしな」

 

 剣と魔法の世界での冒険者の生き方に憧れた。結局、俺も一人のファンタジーヲタクだったわけだ。

 もちろん、実際に経験した身とすれば、そんな甘くねぇぞって感じだったが。


「冒険.....楽しかったな」


 この気持ちにはさすがに嘘はつけない。

 どんな形であれ、結局俺はこの道を選んでいたのだろう……そんな気がする。

 というわけで、俺はやっぱり冒険者だ。以上、証明終了。


「――ん?」


 その時、流れてきた風に乗って何かが聞こえた気がした。

 それを分析してみると.......これ、魔物の騒ぐ声か?

 となると、もしかしたら第一村人ならぬ第一冒険者にあえるかもしれない。

 そしてこれはよくある追放ものにあるヒロインとの出会いの予感!


「待ってろ、俺のヒロイン!……って、俺はそのヒロイン候補に裏切られたばかりじゃん」


 ため息混じりに呟くとウエストポーチのチャックを閉じ、それを両手で抱える。

 それから拙い足取りで聞こえた声の方向へポテポテと歩き出した。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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