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第38話 勇者が封印せし宝具

「トールちゃん、罰がご飯抜きだけだと思わないでくださいね」


「え、まだ何かあるの!?」


 ルミアとスー子と再会した続き、俺はメルトの策略に嵌りルミアに詰められていた。

 確かに、一緒に入ったことは事実だ。しかし、それは仕方なかったのだ。

 強制的に連行されたし、俺も男だし。それでも必死に見ないように意識したんだよ?


 .....まぁ、今でも鮮明に思い出せる程度には記憶に焼き付いてしまっているが。

 ハァ、現状ルミアの機嫌を取る方法は思いつかないし、大人しく罰を受け入れよう。

 というわけで、これで一旦この話は終わり! 次行こう、次!


「ルミア、スー子......ここで一つ相談というか、お願いがある。俺が街に戻るのはもう少し後でもいいか?」


 そう言った瞬間、メルトの目が大きく開かれた。たぶん俺の言いたいことを先んじて理解したのだろう。

 だって、その直後には俺を見る目が随分と優しくなってるし。


「何か用事があるんですか?」


「あぁ、実はメルトから頼まれてたことがあってな。それが今日の午後にありそうなんだ。

 どうせ帰るなら、その前に少しでも恩を売っておこうと思ってな」


「そうなんですか。では、夕方頃にまた迎えに来ます。

 使い魔が街へ入るには、必ず飼い主本人と同伴らしいので」


「わかった。スー子もそれでいいか? また、これが終わったらいっぱい遊んでやるから」


「わかった! 頑張ってね!」


 俺の言葉に、スー子が元気よくぴょんと跳ねる。

 相変わらず根明な感じが伝わってきて、スー子のそばにいると実に居心地が良い。そんなコイツのもとへ帰るためにも、いっちょ仕事やったりますか。

 それからルミアはメルトと少し女子トークをした後、スー子を抱えて一時帰宅。そんな彼女の姿を俺は玄関の入り口で見送った。


「ふぅ、これで軟禁事件も一件落着ってもんだ。

 首輪も無くなったおかげで首が随分と動かしやすいし、軽くなった」


「あら、まるでワタシの首輪(あい)が迷惑だったみたいな言い方ね」


「別に本気で住もうと思ったら首輪なんてされずとも図々しく居座ったさ。

 だが、俺にも目的があったからな。このままってわけにもいかないし」


 そういえば、結局メルトは俺が人間に戻る方法は知らないんだよな。となると、また一から振り出しに戻るわけか。

 つーか、今回は完全に棚ぼただったし、そもそも始まってすらいなかったか。今度は何かしら情報集める手段考えないと。


「ありがとね」


 その時、凛としながらも小さい声が聞こえた。

 しかし、俺のキャットイヤーは優秀なので、ぽつりと零した言葉ですらハッキリ聞こえてしまう。

 二足歩行で立つ俺は、そのまま腕を組むとメルトに視線を合わせる。


「何が?」


「決まってるじゃない。あなたがワタシとの約束を守ってくれること。

 本来、ワタシのお願いはあなたの目的と一切関係ないもの。

 加えて、あなたには既に迎えが来ていた......でも、ワタシを選んでくれた」


「いつも余裕そうなお前が珍しく困っていたからな。

 俺だってそんな顔を見なければ、普通に帰って今頃仲間と楽しく談笑タイムよ。

 というわけで、俺はこれから諜報員になるわけだが......具体的な指示はあるか?」


「いえ、これといって特に......あ、でも、一人の人物には注意して欲しいかも」


 そう言いながら部屋に戻り始めたので、俺もテクテクと横に並んで移動する。


「そいつの名前は?」


「ウィンベルト=ギルバート......若くしてルーベルト商会のトップであるハムドの秘書となった男。

 特徴としては、少し長い黒髪に右目にモノクルを付けた人物ね」


「お前が注意するように促すほどの人物なのか......」


「注意.....はそうなのだけど、厳密には得体が知れないから見てて欲しいの。

 ルーベルト商会には途中加入のはずなのに、そこからまるで駆け上がるように右腕の座についた。

 あまりにも鮮やかな手腕で、同時に彼の功績があまりにも綺麗すぎるの」


「物事がすんなりと進み過ぎってことか」


「そういうこと。それが本当に実力通りならそれで構わない。

 ただ、もしそれが裏社会との協力で成り立ってるなら、真に脅威はウィンベルトの方になるの。

 加えて、彼の加入とほぼ同じくしてルーベルト商会も大きくなってるしね」


「なるほど......」


 綺麗すぎるのも疑わしいってか。そういうもんかね。

 ま、山あり谷ありってのが人生って言うし、失敗をまるで聞かないってのもおかしな話か。

 つまり、そのウィンベルトって奴が実は陰から操ってる可能性があるんだな?


「そういうことなら、了解」


「とはいえ、あなたがいくら猫だからって視線の飛ばし過ぎには注意よ。

 それから彼をブラフにして動くってのも十分に考えられる。とりあえず、怪しいと思ったらそっちを優先して」


「ラジャー」


 そんな感じでメルトと打ち合わせを済ませる。そして迎えた午後一時、ドアが大きくノックされた。

 ドアベルがチリンとなり、全部で五人の人物が招かれる。

 その光景を、俺は二階の本来なら花瓶が置いてある場所から眺めていた。


 まず最初に入ってきた小太りの男......おしゃれのつもりか鼻ひげを生やしてる。加えて、服装はなんだかスーツを思わせる感じで、黄土色っぽい感じだ。

 それからそのすぐ後ろにいる黒髪にモノクロの男......アイツがウィンベルトか。んで、さらに後ろのがモブっぽい商人風の男三人と。


「本日はご足労頂きありがとうございます。

 お見知りおきとは存じますが、一応自己紹介させていただきます。

 この屋敷の主であるメルトリス=ドラゴ=アグニシュカです」


「これはこれはご丁寧に、アグニシュカ様。

 さて、早速本題に入りたいので、早く場所を教えてくださいますかな。

 なにせ、あなたの立場に関わるお話なのですから」


 メルトの自己紹介に始まり、ハムドが言った意味深の言葉。

 こちら全部俺の耳に入っております。わぁ、めっちゃ音質クリア~。

 元々の聴力の良さに加え、魔法で<部分強化>してるのもあって地獄耳もいい所だ。

 にしても、メルトの立場を危うくするものとは.....アイツ、一体どんな弱み握られてんだよ。


「わかりました。応接室は二階になりますので、このままついて来てください」


 そう言って先導するメルトの後ろに五人がついていく。

 目の前に商会メンバーが通過したその時、ウィンベルトと目が合った......ような気がした。

 相手の方が先に逸らしたし、たぶんただ猫の存在を確認しただけなのだろう。

 にしては、随分と屋敷中を舐め回すように見ている気がするが。


 メルト達が通過した数メートル後ろを、花瓶台から降りて追っていく。まるで猫が気まぐれでついていっているように自然に。

 ドアが閉まり、そこから足音が遠ざかったのを確認。よし、俺も――、


「どうぞ」


「――ッ!?」


 右手のバングルを経由してドアノブを捻ろうとした瞬間、逆にドアが開いた。

 その事態に俺はビクッとして咄嗟に作りかけていた土の手を消す。

 そして顔を上げて確認するとそこにいるのは――ウィンベルトだった。


 その男はまるでレディーファーストを体現する男のようにドアを開けている。それこそ俺がここを通るのがわかっていたかのように。

 な、なんでだ!? まさか俺の正体がわかって――、


「目線で追っていたので、もしかしたらと思いましたが......どうやら正解のようですね。

 ドアノブを開けるのは大変でしょう。さ、こちらへ」


 こ、これは......まだバレてないっぽい? いや、普通に考えて猫の姿をした人間なんて思い浮かべもしないか。

 しかし、そんなに見て無かったはずだが、まさかあの視線だけで? メルトの言う通り、確かにこの男は侮れんな。


「に、にゃ~」


「ふふっ、鳴くのが下手な猫のようですね」


 うっせ、と心の中で反論したその時、突然ウィンベルトに抱っこされる。

 まるで赤子のような抱かれ方に、俺はどういう反応すればいいかわからない。

 とりあえず直観的に思ったのは、思ったより優しい抱き方と妙に甘いニオイだ。

 それから先程からやたらうるさい俺の心音ぐらいか.....ってそれ、俺の情報だろうが。


「おや、珍しいですね。僕はめったに動物には好かれない方なのですが.....君はそうでもないようだ。

 これでも動物を愛でたい欲はあったので、随分と嬉しいですね」


 なんともデカい独り言だ。まるでこっちに話しかけてるようにも感じる。

 まぁ、そいつは良かったんじゃねぇの? 俺は男に抱っこされて嫌な気分だが。

 結局そのまま俺を抱え、ウィンベルトは歩き始める。


「にしても、君は随分と綺麗な瞳をしてるね。まるで宝石みたいに。とてもチャーミングだ。

 僕も宝石は大好きだ。眺めていても良い気分になるし、何より高く売りさばくことが出来る。

 おっと、この発想は商人由来の職業病みたいなものだね。失敬。」


「......」


「それにしても君は随分とオシャレな格好をしているようだ。

 ご主人様の趣味かな? 先程遠くで見かけた白い猫と違い、君はオシャレが苦じゃないようだ。

 時折、色々な格好をさせてみたいとは思うんだけど、それはきっと人間のエゴなんだろうね。

 ま、そもそもの話、僕は動物に好かれないからそれ以前の話なんだけど」


 ひ、独り言がエッグい。え、なに? やっぱ俺の正体に気付いている?

 気づいてるから話しかけてる? それとも本当に単純にやたら独り言が多いだけ?

 ダメだ、わからん。すっごい黒幕っぽいけど、そうでもないような。


「失礼します」


 そんなことを考えてる間に、ウィンベルトがスッと応接室に入っていく。

 すると、到着の遅い彼にハムドが眉間にしわを寄せた。


「遅いぞ。どこで油を売っていたんだ。あと、なんだその猫は?」


「動物に避けられなかったのでつい.....遅れて申し訳ありません、アグニシュカ様」


「えぇ、私は問題ないわ」


「その割には随分と睨まれているような.....」


「気のせいよ」


 ウィンベルト、たぶんそれ俺の視線だわ。睨まれてるの俺。

 いや、ごめんて。独り言エグいなーって思ってたら降りるタイミング逃したんだって。

 仕方ない.....ここで外に出るのも不自然だし、一旦メルトに身を寄せよう。


 というわけで、俺はウィンベルとから降りると、メルトの隣に移動する。

 すると、俺の行動を察した彼女がスペースを開けてくれたので、俺はそこで丸くなった。

 ご主人様に懐いてる猫! これぞいかにも猫って感じだろ。


 それに単純にメルトが苦手としている相手というのも気になるしな。

 つーか、今思ったんだが.....他の三人はこの部屋にはいないんだな。<魔力探知>で残りの三人の動きの注意しよう。

 だから、この部屋以外(そと)のことはベルニカに任せた!


「さて、互いに準備は済んだことだ。話に入ろう」


 第一声を聞き、正面を見る。ハムドという男は”ザ・成金”みたいな感じだ。

 仕立てが良い服はいいとしても、なんだその指輪の数。

 疑似的にメリケンサックでも再現してんのかってぐらいゴツゴツしてるぞ。


 そんな男が座るソファの後ろに、ウィンベルトが立ち尽くす。

 時折、俺と目が合ってはニコッとしてきて、俺は猫なのに鳥肌が立った。

 え、もしかしてなんかターゲットにされた? またメルト的展開は嫌なんだけど。


「あら、随分と性急ね。せめて紅茶が入るまで待ったら?

 味と香りにはこだわっているの。きっと気に入ると思うのだけど」


「私は無駄話が嫌いだ。一銭にもならないからね。

 それぐらいなら一銭が千金に化ける話を長くした方がいい。

 単刀直入に聞く――勇者一行の封具を渡す気はないか?」


 勇者一行の封具? なんだそれ、全く聞いたことがないぞ。

 そんな驚く俺の一方で、メルトは真っ向から突っぱねる。


「散々言ってると思うけれど、そんなものはない。

 そもそも”封具”がどんなものか理解しているのかしら?」


「あぁ、理解しているとも。大昔、この世界では人類側と魔族側による大きな戦いがあった。

 もっと言えば、人類が崇める女神と魔族が崇める魔神の代理戦争というべきか」


 聞いたことある.....といっても、あくまで物語本での話だ。本の話である以上、だいぶ脚色されてると思ったんだが......案外マジなのか?

 それに「魔神」って言葉には嫌な感じしかしないんだよなぁ。

 なんたってなぜか称号で敵視されてるし。まさかここで絡んでくるとは。


「そして偉大なる勇者一行は魔王城にて、強大な魔王を打ち破った。

 その際、魔王が身に着けていた数々の宝具を戦利品として持ち帰り、同時に再びこのような戦争が起きないように、また魔族側が力をつけすぎないよう各勇者がその宝具を封じた。

 故に、我々人類は封印した宝具――略して”封具”と呼んでいる」


 なるほどな、解説助かる。んで、コイツはその封具とやら欲しいと。

 ......なんで? 勇者が封じるほどの物をなんでコイツが欲しがってんだ?

 そんな疑問を、メルトが代わりに聞いてくれた。


「どうしてそこまでそれにこだわるのかしら? 何か望みがあるの?」


「決まっている。私は非常に欲深いのだ――私は国が欲しい」

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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