第35話 ハトの任務
どうも、ワイはポロや。とはいえ、それも今や過去の話。
今のワイには「ハト」という大層な名前があり、確かどこぞの猫が付けてくれた名前や。
そんなワイの朝は早い。動き出しは日の出から始まる。
外敵から身を守るためにいた森から飛び立つと、すぐ近くにある街に向かっていく。
その時間帯は人間も思ったよりおらんからな。食べ物が食い放題ちゅわけや。
人間は贅沢な生き物で、多少食べ物を零そうが気にも留めない。全く潤沢に食べ物があって羨ましい限やで。
ま、そのおかげでワイらもぎょーさん餌にありつけてるわけだから文句も言えへんけどな。
時折、ワイらを羨ましいそう見る人間もいるが、大抵はなんか小汚いんよな。
別に、ワイらはあんたを拒んだりせんから好きに食べたらええのに。
もっとも、近づこうとは思わんけどな。先日、仲間が普通に襲われかけてたし。
そんな時間も程よく経過すると、人間が活動する時間になる。
ワイらが集まっていた噴水近くはあっという間に多くの人に囲まれた。
しかし、囲まれたからといって何かあるわけじゃない。なんなら何もない。
とはいえ、たまに食料配り人間もいるから、その時は競争率が激化する。
もはや他のポロと身体を張り合いながら、どちらが多く口に餌を放り込めるかの勝負や。
かー、やっぱこの茶色の美味いな。渡さん、全部ワイのもんや......あ~、うんちでそ。
食事も程よく済めば、自由気ままに街の中を飛び回ってみる。
にしても、人間っちゅうのは可哀そうな生き物やな。飛べへんて。
いや、飛べる人間もいるんだっけか。でも、ほとんどの人間は地上を歩いている。
空はこんなに自由で遮られるものもまずないちゅうのに。
ま、全く危険がゼロというわけじゃないけどな。
あー、今日もお天道様が気持ちええな。あんなに空高く昇って......ん?
「なんか.......こう、なんかあったような.......?」
この時間帯、いつもなら適当にうんち出して気ままに飛行であるが、何かが違う。
そう、なんたやるべきことがあったような......あー、あかん、豆がのどに詰まった感じの不快感や。
「しゃあない、こういう時は気分転換や」
妙な感覚を抱きつつも、ワイは大きく旋回して移動を開始する。
向かった先は街の外れにポツンとある大きな人間の家や。
そのすぐ近くに生えている木から横に伸びる枝が丁度良くてな。
留まるのに丁度良い太さで、んでもってお天道様がよう当たんねん。
「お、今日はワイ一人みたいやな」
ワイが見つけたベストプレイス。そこにはたまにワイの弟妹達が留まりに来る。
っちゅーのもワイが教えたんやから当然やけどな。
そこで弟妹達との会話を楽しみにしてたんだが......残念や。
「お、忘れずに来たようだな」
その時、背後から声が聞こえてきた。
そして振り返ってみると、窓際にけったいな格好をした猫がおる。
人間のように帽子を被り、首元も布なんか巻いていて明らか他の猫と違いそうや。
せや、どうせ暇しておったとこだし、せっかくやから話しかけてみよか。
「よう、兄ちゃん! ワイに話しかけて何の用や?」
「何の用ってお前に手紙を渡してもらうために待ってたに決まってんだろ。
幸い、今はメルトも外出中だし、実行に移すなら今しかないんだよ。
というわけで、今から手紙をお前の足に巻くから待ってろよ」
「え、は......ちょ、急に何すんねん!?」
一方的に言葉を並べられたかと思えば、なんや妙にデカい手を伸ばしてくる。
だから、咄嗟に飛び立とうとすれば、なぜか光のつるのようなものが体を縛って動けない。
それどころか片足だけが窓の奥へ引き寄せられる。
え、は......ほんまなんやねん!? っていうか、これ魔法っちゅーやつやないか?
なんでこの猫の兄ちゃんが魔法使えんねん! ツッコミどころ多すぎやろ!? 頭おかしなるわ!
「よし、これで完了」
その言葉と共に拘束が解け、ワイは慌ててベストプレイスに移動する。それから視線を下に向け――、
「おい、兄ちゃん......なんちゅうもん足につけてくれるんや」
ワイの足首に細長く巻かれた紙がある。これが手紙かいな。
手紙とはいえ、片足に重さが寄ってしまったために酷く飛びづらい。
「なぁ、これどうやって外すんや?」
「すぐ外そうとすんじゃねぇよ! だが、外す方法ならあるぞ」
「なんや?」
「俺の現主にその手紙を渡すことだ」
「主っちゅーと......人間やないか。おいおい、ワイが自ら人間に近づけと?
食われてもうたらどないすんねん! まだこちとら繁殖果たしとらんぞ!?」
「ルミアはお前を取って食ったりしねぇよ! .......スー子はわからんが」
「おい、不安要素を残すな!」
「ともかく! それを外したきゃ今すぐにでもルミアにこの手紙を渡してこい。
そうすれば、その煩わしさからも解放されるだろうよ」
クソ......つまり、もう足に手紙を括りつけられてしまった時点で逃げ道なしってことやないか。
この猫、他の猫よりも明らかに異質と思っていたが、頭も小賢しゅうて仕方ない。
可愛らしい見た目の割に、どんな猫よりも腹黒な悪魔猫やないか。
「んで、受けるよな?」
「ハァ、しゃあないな。
せやけど、さすがのワイでもあの街から人間探し出すのはしんどいで。
ぶっちゃけどれも同じ顔にしか見えん。畑でじっとしている人間と一緒や」
「全部案山子に見えてるとかそれはそれでどうなんだよ......とはいえ、そういうことなら仕方ない。
今から特徴を教えてやる。いいか、よく聞いて覚えろよ? そんで渡すまで絶対に忘れるなよ」
「わーったわーった。はよ、教えんかい」
悪魔猫の念押しの言葉に若干煩わしさを感じて、ワイはおざなりに返事をする。
しかし、悪魔猫は特に気にすることなく、特徴を言い始めた。
「その子の特徴は全体的に”白い服”を着た”黒髪”の”女の子”だ。
その傍らにはたぶん”スライム”も一緒にいると思う」
「お、スライムなら知っとるで。
いつも人間にいたぶられて殺されてる弱っちぃのやろ?」
「認識の仕方が歪み切ってるだろ......そして間違ってないから言葉に困る。
ともかく、最悪困ったらスライムを探せ。うん、そうだな。それがいい。
スライムと一緒にいる女の子がルミアだ。よろしく頼んだぞ」
「......ハァ、話すだけがなんでこないな目に......」
そうため息を零しながら、ワイは翼を動かしながら飛び始める。
案の定、体が左足に傾き、飛びづらいったらありゃしない。
とはいえ、ワイはこれでも長兄や。これぐらいの負荷なんともあらへん。
不快感を胸に秘めながら、まずは上空からザックリ周りを見渡してみる。
眼下に見える人間は本当にどれも似たような顔にしか見えへんな。
もはやどれが男でどれが女かもわからん。
ちゅーか、あの悪魔猫に言われたことなんやったっけ?
えっと、「白」か「黒」の格好をした人間の女やったような......あかん、ぼんやりしとる。
えーっと......せや、スライム! スライムを探せばええんやった!
「とはいえ、この街にスライムなんてほんまにおるんかいな?
そも人間の群れにスライムおったらすぐさま殺されてるやろ。
まさか、犬や猫のようにペットにしてるんか?
人間やないからってスライムをペットにするなんて......ハァー、傲慢な生き物やで人間は」
んで、その傲慢な人間はどこにおるんかいな......ん?
街をグルグルと旋回してしばらくして、眼下に人間とは明らかに違う物体が動くのが見えた。
そう、言うなれば水色の球体がぴょんぴょん跳ねながら移動しとるんや。
確か、森で見かけたスライムもそんなあんな姿をしてたような。
となると、あのスライムのそばにいる人間っちゅーとあの黒い姿をした人間の女か。
にしても、あの人間......他の人間に比べて随分と外見が変わっとるな。
頭からは角が生えとるし、腰からはぶっとい尻尾生やしとるし。
ま、でも、「スライムの近くにいる人間に渡せ」って話やったからな。
あー、これから人間の前に降り立つのか。えらい緊張してきたな。
加えて、この手紙を外してもらうまでじっとせんといかんのやろ?
どないしよ、本当に食われたりせんかな? あーでも、ずっとこのままなんは嫌やなぁ。
「プギュ!」
「あら、久ぶりの再会ね。
こんなに勢いよく飛び込んでくるなんて......全く警戒心はないのかしら?
でもまぁ、信用してくれてるということなら悪い気はしないわね」
「すみません、いきなりスー子ちゃんが走り出して......ってメルトさん!」
「ルミア......やはりあなたの使い魔だったのね。元気にしてたかしら?」
とりあえず、近づこうと思ったらなんか別の人間も現れたんやけど。
なんや話し込んでるみたいや。さすがに何を話してるかわからんけど。
え、ここを行くの? 無理なんやけど。ちょっと屋根の上から様子見てよ。
「それであなたが探している猫ちゃんは見つかったのかしら?」
「いえ、それが全く手がかりも見つからなくて......。
夜に出かけたことはわかっているのですが、その時間帯はさすがに目撃情報が少なくて」
「そう......それはなんだか可哀そうね。
でも、今もめげずに情報を集めているのでしょう?」
「そうですね。ただ、資金不足にもなりそうなので、今日は一日簡単な依頼で稼ごうかと思いまして。
今はそのおつかい依頼の完了届を頂けたので、一度冒険者ギルドに戻るところだったんです」
「そうなの。冒険者ギルドの方には頼ろうとは思わないの?
ワタシは少し諸事情で今日からしばらく家を離れられないから手伝うことは出来ないけれど、冒険者ギルドの方達なら手伝ってくれそうじゃない?」
「言えばたぶん手伝ってくれると思いますが......その、私はまだ新人冒険者なので金銭的に余裕がありませんし、その状態ではお礼をするのも難しくて.......」
「そうね、それにあなたぐらいの容姿なら妙な連中が絡んできてもおかしくないわ。
それこそ、ワタシが初めてあなたと対面した時のようにね。今は大丈夫なの?」
「今はスー子ちゃんが周囲の警戒に当たってくれていますし、私自身も気を付けてますので。
心配してくださりありがとうございます。もう同じ過ちは繰り返さない予定なので」
「良い心がけね。そうね、少し時間あるかしら?
こうして会ったのも何かの縁だし、奢ってあげるわ」
「いえいえ、そんなご馳走になるわけには――」
「良い女はこういう時は変に遠慮しないものよ。さ、いらっしゃい」
そんな特殊な言語を交わしつつ、二人は一緒に動き始めた。
おい、結局二人揃って行動するんかいな。ワイの待ち時間はなんやったんや。
っちゅーか、そうなるとワイが自らあの空気感に突入せなあかんやん。
ハァ、嫌な感じや。なんでワイがこんな目に......でも、行かな外せんし。
うだうだ考えててもしゃあない。踏ん切りがつかなくなる前に思い切っていくで。
というわけで、ワイは翼を動かし、スライムを抱える角の人間の前を横切る。
それからワイに注目が集まった所で上空を何回か旋回し、やがて地上に降り立った。
こんだけアピールすれば、さすがの人間でもワイに注目するやろ。
にしても、このじーっと見られてる感じ......たまらなく不快や。
「あら、このポロ......足に何かついてるみたいね。
それにやたらワタシの前で飛んでいたということは.....ワタシ宛ての手紙かしら?」
なんや角の人間が呟くと、スライムをもう片方の人間に預け、ワイに近づいてくる。
それからしゃがみ込むとそっと両手を伸ばしてきた。
怖い、せやけど我慢、我慢や! この手紙さえ外れればすぐにおさらばすればええだけ!
「取れたわね」
角の人間が手紙を取ったのを確認すると、ワイは急いで翼を動かす。
ハァ、もうこんな仕事、懲り懲りや~~~~~!
*****
―――ルミア 視点―――
目の前でメルトさんがポロの足についていた手紙を回収しました。
すると、同じくその光景を見ていたスー子ちゃんが突然大きく反応を示し、
「プギュ! プギュギュ!」
「スー子ちゃん?」
何やら手紙が気になるのか、しきりに指をさすように触手を向けます。
その行動に首を傾げていると、手紙を受け取ったメルトさんも何やら首を傾げた様子で、
「何かしらこれ......文字?」
「どうされたんですか?」
「その、てっきりワタシ宛ての伝書ポロかと思ったのだけど、それにしては内容が不可解過ぎて。
正直、ワタシは大抵の人より知識があるのよ。長生きでもあるからね。
でも、そんな竜生の中でも......こんな字は今まで見たこと無いわ」
「プギュ!」
「あの......宜しければ見せていただくことって出来ますか?」
「えぇ、構わないわよ」
スー子ちゃんがあまりにも反応するので、私はメルトさんに頼み手紙を受け取りました。
すると、その手紙には――、
『五二 二一 一三 七五 三三
五一 六七 六三
三七 七六 六三 七六
三二 七五 五三 五六』
という文字が羅列されていました。
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)
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