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第34話 ベルニカも知らない隠し部屋

「......なるほど。んで、兄ちゃんはこの家(す)から出るために協力して欲しいと。

 魔法やら結界やらは正直聞いてもさっぱしだが、あれか? 人間がビュンビュン飛ばしてる奴か?」


「そう、それだ。ともかく、俺は自力じゃこの家を出れねぇ。

 だから、街にいる俺の仲間に助けを呼びたいんだ。

 その仲間に手紙を届ける役割をあんたに担ってもらいたい」


「ええで。んで、その手紙っちゅうのはどれや?」


「いや、まだ用意できてない。それはこれからだ。

 だから、明日の......そうだな、昼頃に同じようにここに来て欲しい。

 そしたら手紙を渡すから、それを届けてくれ。渡す相手も明日教える」


「オーケー、ようわかったで。

 んじゃ、明日の同じ時間にここに来ればいいんだな?」


「うんうん、そう.....じゃねぇ! さっき昼頃っつったろ!

 昼な、昼の時間にここに来てもらえればいいから!」


「昼時な。覚えたわ。んで、なんでワイに手紙を渡すんやっけ?」


「いや、それは俺が自力じゃ脱出出来ねぇからって話で! なんだ俺をからかってんのか!?」


「からかうなんてことはしとらんよ。まぁ、その......なんだ、長いこと覚えてられんのや。

 基本、ワイらは飯調達して糞して子供こさえるぐらいしか考えてないしな。これだけは覚えとけってのを教えてくれや」


 その言葉に、俺はとても頭が痛くなった。

 そこまでハトが知能が低いと思わなかったというか、ハトの種族的に知能が低いというか。とはいえ、もうちっと色々考えていてもいいだろうに。


 しかし、そんな文句を言ったところで数分後には綺麗さっぱり頭から抜け落ちてるだろう。

 なんだったらこの約束すら忘れそうな勢いだが......やっておくに越したことはない。

 とりあえず、「昼にここに来て」と一番重要な情報だけ伝えると、ハトは「わかった」と元気よく返事をしてその場から飛び立っていく。


「不安だ......」


 飛び立っていく姿を見届けながら、俺は大きくため息を吐いた。

 しかし、ここで不安がってばかりもいられない。俺もやることをやらねば。

 というわけで、俺は屋根裏部屋を出ていくと、そのまま慎重に書斎室も抜ける。


 幸い、この一部始終を誰かに見られることはなかった。となれば、次は手紙を書く準備だ。ベルニカを探さなければ。

 というわけで、居そうな部屋を訪ねたのだが......あいにく彼女の姿はない。ましてや、メルトと一緒にいると思ったが、それすらも外れらしい。


「あら、誰かをお探し?」


「ベルニカに用があってな。アイツは今どこに?」


「たぶん外じゃないかしら。たまに散歩しに出かけるのよ。

 帰ってくる時間はあの子の気分次第で、遅ければ夕方ぐらいになるんじゃないかしら」


「あんにゃろめ.......」


 さすがにメルトに「手紙を書きたい」なんて言えねぇし、これじゃ動くに動けねぇじゃねぇか。となると、この無駄な時間をどうするか。


 普段なら何らかの魔法実験を繰り返しているが、さすがに魔法を使えることをバラすのはリスクあるよな。こちらが切れる手札は出来る限り取っておきたいし。

 そんなことを思っていると、読書中のメルトが突然口を開き、


「そういえば、あなたは字が読めるのかしら?」


 そんなことを尋ねてきた。その質問の意図を読むために、俺はすぐに回答することを控える。

 字が読めるからなんだというんだ? もしかして何かを探っている?


 嘘をつくべきか......いや、元人間であることがバレてる以上、安易な嘘は相手の信用を損なうだけだ。

 俺は人間であり、猫である。この曖昧な存在を上手く活用しろ。


「まぁ、さすがに元人間だしな。それがどうしたんだ?」


「いえ、なんとなく気になっただけよ。読みたい本があったら読んでいいわ。

 取って欲しい時は言いなさい。手を貸してあげるから」


 そう言うとそれ以上、メルトが俺に口を開くことはなかった。

 相変わらず窓際で風で髪を遊ばせながら読書する姿がよく似合う女だ。まるで絵画にあるそうなワンシーンかっての。


 ともあれ、本当にただ聞くだけが目的っぽい感じだな。

 なら、俺も下手に藪を突く必要はない。ここは俺も大人しく身を引いた方がよさそうだな。

 それに棚ぼただが読書許可も出た。ここには魔法に関する本もあるだろう。

 となれば、ただ脱出するのも味気ない。少しぐらい魔法を盗んでやろう。

 そう決めると俺は早速メルトに要求する。


「んじゃ、魔導書みたいなのあるか? それが読みたい」


「あら、あなた魔法に興味があるの? そんな体なのに?」


「こんな体になろうと、俺の好みが変わるわけじゃねぇ。俺は俺だ。

 それにそういったのって眺めてるだけでも案外面白いもんだろ?」


 小さい頃、俺は虫や魚、動物の図鑑をひなが一日読んでいた。

 特別、生き物に詳しくなりたいとか、生き物博士を目指してるとかさしたる理由はなく。

 ただそこに絵や写真があり、その生き物の特徴を読んでいるのが好きだった。


 という理由で魔導書を求めているわけでは全然ないが、それに近いって感じではある。

 俺が魔法主体のステータスになってからは色々と魔法勉強のために読み始めたが、なかなかどうして奥が深く面白い。だから、今は単純に興味があるのだ。


 あとせっかく魔法が使えるようになったし、もっと強力でカッコいい魔法も使ってみたい。

 そんな俺の要求に対し、メルトは「そうね」と短く返事をすると立ち上がった。

 それからこの部屋にある本棚をじーっと眺めていくと、一冊の赤い本を手に取る。


「ワタシが読むような魔導書を理解できるなら、この本はオススメよ。

 あなたと一緒に作ったウォーターベッド......それで用いた”結界術<結>”もこの本にあったものだから」


「ほーん。それは俄然興味が出てきたな。読ませてくれ」


 というわけで、その本を床に置いてもらうと、俺は本をめくっていく。

 正直、最初っからあらゆる基礎魔法理論を完璧にマスターしている前提で話が進んでいたため、理解できるところもあるが、さっぱしわからない部分の方が多い。


 しかし、最近その魔法理論がパズルを解く様な感覚になっているためか、それに悩んでる時間があまり苦ではないのだ。ふむふむ、なるほど.......さっぱしわからん。だが、面白い。


 この魔法陣の術式構築が出来るようになれば、俺は強いこの魔法が使えるってことだからな。

 これは魔物を倒してレベルアップして有用なスキルを身に着けるとはまた違った面白さだ。

 これは時間が溶けるぞ~! 実にいい時間潰しになるかも!


―――夕方


「手紙を送りたいから紙とペンが欲しい?」


「あぁ、至急用意頼む......じゃなかった。それがある場所を教えてくれ」


 夕方になり、ベルニカが満足気の様子で帰って来た。

 そんな彼女を早速捕まえて、俺は必要なことを問い質す。

 すると、ベルニカは後ろ足で耳を掻きながら、


「それなら普通に書斎室にあると思うけど......そこになかったら知らないわね」


「おいおい、もう少し候補地があったっていいだろ」


「そんなこと言われても、ご主人様が何か書いてるとこなんてほとんど見たことないもの。

 ほぼずっと一日中読書してるみたいな生活よ。出かける時も少ないし」


「なら、この家はもっと大図書館みたいな感じになっててもおかしくないだろ」


「読み切った後に自分のお気に入りに入らなければすぐに売ってるみたいよ。

 そんなんでこの屋敷にある蔵書は思ったより増えていないらしいわ」


 そいつはなんとまぁ、老人みたいな生き方してるな。

 どうせ長命種ならもっと世界中を旅したっていいだろうに。

 それともこの屋敷に留まり続ける理由が何かあったりするのか?

 ともあれ――、


「書斎室だな。わかった。んじゃ、また例の如く引きつけ頼む」


「夕食までにはここに戻って来なさいよ。たぶん探し回ると思うから」


「あいあい」


 ベルニカからの忠告を受けつつ、俺はすぐさま書斎室に移動していく。

 現在、メルトはキッチンにいるはずだから、動くなら今しかない。

 念のため<隠密>で気配を最低限にしながら、さらに足音を殺して進んでいく。さながら気分は忍者にでもなった感じだ。


 人目を盗み、書斎室のドアノブを捻って中に侵入。

 それから執務用机の上に乗ると、右手に土魔法で手を作り出し引き出しを引いてみた。

 すると、一番上の引き出しに色々と手紙が出てきてまさかの全て未開封。

 

 おいおい、読んでやれよと思った束の間、その手紙が赤い蝋で閉じられていることに気付いた。

 こんなやり方するのは貴族以上かそれぐらいの影響力がある人物だろう。

 そんな相手からの手紙をオール無視してるわけだが......それは大丈夫なのか?


「まぁ、メルトは種族的に腕っぷしもあるし、頭も良い。

 何か理由があって放置してるんだろう。さすがにそこまで首を突っ込む必要はあるまい」


 もとよりアイツの事情に関わるつもりはないのだが。

 ウォーターベッドの件は俺的に見ていられなかったからやっただけだ。

 言わば、ただの思いやりの気持ちであり、見返りを求めたわけじゃない。

 それよりも早くこの屋敷を脱出せねば、俺はアイツに捕まれた胃袋によって家猫化してしまう。


「使ってない手紙入れに紙、それからペン......は机にあったのを見かけたな」


 若干手こずったがそれを机の上まで取り出すと、<光球>を浮かせてライト代わりにする。

 それから土の手の形をより人っぽく整えると、ペンを持ってインクをつけ、内容を書いていく。

 そしてそれも書き終わるというその時、突然「トール君?」という声が聞こえてきた。

 メルトの声だ。俺を探しているらしい。足音がこちらに近づいてくる。


「不味っ」


 俺は咄嗟に紙を持って机の下に隠れた。同時に<隠密>で気配を殺す。

 すると少しして、ドアがガチャリが開いた。


「あれ、てっきりドアが開いてたからここに居ると思ったのだけど」


 な、何やってんだ俺のバカ! 戸締りはしっかりしなさいって親に教わらなかったのか!?

 ササッと書いてすぐに戻る予定だったとはいえ、このミスはデカいぞ。

 内心ヒヤヒヤしながらメルトがこの部屋から出ていくことを願っていると、


「ん? 机にペン.......それもインクがついてる」


 本当に何やってんだ俺のバカ(パート2)! 隠すならちゃんと隠しなさいよ!

 なにすぐにバレる子供のイタズラみたいなミスしてんだ!

 不味い、これは非常に不味いぞ。このままではバレ――、


「まさかこの屋敷に侵入を......? それに警報が機能していない?

 ここら辺で漁られた形跡はないし、ゴーレムが暴れた感じも無かった。

 何か魔法的な細工は.......調べた感じなさそうね。ますます不可解......いえ、確認はしておくべきよね」


 そう言ってメルトは机を離れた。

 直後、ズゴゴゴゴと音がし、彼女の気配が音の方向に移動していく。

 机から出てみると、屋根裏部屋に続く隠し扉が開いていた。


 なんだかわからんが助かった。俺の仕業とは思ってなさそうだ。

 つーか、やっぱりここの存在は知ってたか........待てよ、何か忘れてるような。あ、結界検証に使った剣をそのまま放置してた!

 不味い、それがバレたら屋根裏部屋に出入りしてることがバレる! そしたら芋づる式に俺のたくらみもバレる恐れがある!

 そう思い俺は急いで隠し扉の方へ移動し、階段を慎重に駆け上がって屋根裏部屋を覗いてみれば――、


「ん?」


 俺の抱えていた不安が一瞬にして霧散する。

 というのも、その屋根裏部屋にメルトの姿がまるでないのだ。

 彼女がつけている香水のニオイすらしない。つまり、ここに来てない。


「でも、隠し扉は普通に開いてたよな? でも、居なかった。

 まさか部屋の角にクモみたいに張り付いていたり......もないか」


 イメージするだけなら面白い光景だが、メルトがそのような行動をするとは思えない。となれば、本格的に彼女はどこへ行ったのか。

 そんなこと思っていれば、下の方から階段を上るような音が聞こえてきた。

 すぐさま屋根裏部屋の入り口から頭だけ出して覗くと、


「問題はないみたいね。結界もちゃんと機能している。

 となると、増々あのペンの存在が怪しいけれど......一旦保留ね。

 わからないことはわからない。しかし、ここが無事であればそれでいいわ」


 そんなことを呟きながら階(・)段(・)の(・)下(・)からメルトが現れた。

 ん? この階段って普通に梯子が斜めがけされたような感じで、何もなかったはず。

 となると、もしかして階段の下にまたまた隠し部屋に続く何かがあるのか?


 メルトが隠し部屋を出ていくのを見届けると、俺は彼女が出てきた場所を確かめる。

 真っ暗だったので照らしながら慎重に床を見てみれば、一瞬床の模様にも見えるが、確かに人が入れそうな大きさ程度の切り込みがあった。まさかこの下に何か秘密があるのか?


「.......調べるのは明日だな。今日はもうやめておこう」


 そう心に決めると、俺はその場所から出てベルニカがいる部屋に戻った。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)


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