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第30話 脱出のヒント・・・?

 ベルニカから言われた言葉に、俺は思わず目を見開く。

 咄嗟に顔を向けるも、それに合わせて言葉は出ず。

 少しして思考が回り始め、その言葉の意味を問い質した。


「どういう意味だ?」


「そのままの意味よ。大した理由は無いわ」


「だが、それでもベルニカが俺に協力するメリットがねぇ。

 そちらさんはメルトの指示で俺を監視してるんじゃなかったのか?」


「監視? もしかして、そんなことずっと思ってたの?

 ハァ、信用ないというか疑り深いというか......なんだか悲しいわね」


「うっ......」


 そう言って大きくため息を吐くベルニカの反応は、なんだか本音に感じた。

 だからか、俺もその言葉に多少なりの罪悪感を覚える。これで類稀なる演技センスで行っているなら、もうそれはお手上げだ。

 そんな俺の反応に対し、ベルニカは「まぁいいわ」と楽観的に済ませると、


「メリットと言ったわね。強いて言うとすれば、反応をみたいからかしら?」


「反応......?」


「ほら、ご主人様って常に冷静で何でもできるって感じでしょ?

 だけど、あんたからの言葉を受けた時、珍しく取り乱してた」


「取り乱してたっていうか......あれは完全に俺を襲ってたけどな。

 今まであんな捕食者の目なんかされたことねぇよ」


「それだけ嬉しくなったってことでしょ? それで思ったの――他の反応も見てみたいって。

 私はご主人様のことは好きだし、好きな相手の反応を全て見たいって思うのは普通のことじゃない?」


「つまり、ベルニカはメルトの反応を見るためだけに俺に協力するってことか?」


「そういうこと」


 俺の言葉に、ベルニカは素早く答える。その言葉を嘘であると決めつけることは出来るが、さすがに決めつけはな。

 ベルニカの言い分も......まぁ、わからない範囲ではない。小学生がやるようなキュートアグレッションの延長線上だろう。


「もっとも、アタシに出来ることとすれば、ここを教えるぐらいしかないけど。

 抜け道らしい抜け道はないわよ。というか、あっても今のあんたじゃ出れないでしょ」


「それは確かに......」


 結局、この屋根裏部屋を教えてもらったけど、脱出経路になりそうなところはない。一応、確かめてはみるが......っと――、


「うん、やっぱり無理だな」


 近くの木箱に飛び移り、そこから土魔法で簡易的な手を作るとストッパーを外し両開きの窓を開けた。

 そして外に向かって手を伸ばしてみるも、案の定窓を超える前には透明な壁で阻まれる。


 右手にある土塊の手で人差し指だけを伸ばし、それを透明な壁に向かって突き出すも結果は同じ。

 それどころか突き出した先から魔力が霧散して指が削れていく。


「結界そのものに魔法阻害効果が付与されているようね。

 その首輪といいご主人様にしては随分本気だと思ってたけど......ちょっと想像を超えてたわ」


「ようやく俺の今の現状に気付いてくれたか。俺はきっとどこかにいるだろうメルトの味方になれそうな一般人の言葉を代弁しただけなのにな。この猫の姿がだいぶ不味かったのかもしれん」


「それもあるだろうけど、言葉にして伝えてくれたってのも大きいでしょうね。

 悪意ある言葉ってのは、言った本人が何気ないことだと思っても、聞いている側からすれば十分な猛毒なのよ。

 それこそ自分に味方してくれている人の言葉すら真黒く塗り潰してしまうぐらいにね」


「......随分と実感の籠った言葉だな」


「ただの持論よ。猫のアタシに何を言ってるの?」


 そう言って鼻で笑うベルニカに対し、俺は返す言葉が見つからなかった。

 一瞬、「コイツも人間じゃないか?」と思ったが、さすがにそれは考えすぎだろ。

 獣人族の中では動物に変身できるものもいると聞くが、好んでずっと猫でいるわけないと思うし。ましてやサイズ感がな。


「それにそういう味方ほど案外声をあげてくれないのよ。

 優しい故にそういう勇気が無いのか、はたまた自分まで被害に遭うのを怖れてるのか知らないけどね。

 でも、あんたはハッキリとご主人様に味方であることを言葉でもって証明した」


「俺も元々言うつもりはなかったがな。だが、あの寂しそうな顔を見てなんつーかモヤモヤしたんだ。

 メルトは俺よりも強く博識で自信を持っている最強種の竜人族だろうけど、それでも俺と変わらない人間の女の子だしな......って竜人族だと子じゃなくて女性か」


「あんたは猫でしょ」


「茶化すな。ともかく、あんな寂しそうな顔を見てほっとけなかっただけだ。

 だから、例え結果的にこんな状態になろうとも言った事に後悔はない」


「まるでありきたりな物語に出てくる正義感の強い主人公のようね」


「悪かったな、ありきたりで」


「いいじゃない、ありきたりで。結局、皆王道は好きなのよ。かく言うアタシもそういったあんたを気に入ってる。

 だからこそ、ご主人様も目の前に現れた唯一の味方を囲っておきたいのよ」


「......そうか」


 なんで俺はベルニカの言葉に一瞬ドキッとしたんだ。相手は猫なのに!

 不味い、この体になってからというもの身も心も猫の生き方に近づいてるのか?

 いやいや、それは勘弁してくれよ! 俺はこのままでいたくないぞ!


 猫相手に童貞卒業なんて絶対に嫌だからな! 獣姦は性癖タグ外だ! 猫狂いのメルトには悪いが、俺は必ず人間の姿に戻ってやる!

 そのためにも、まずはここからの脱出を図らないと――、


「ともかくだ。この屋敷から脱出するためにも情報を集めないと」


「情報と言っても......そもそも出来ることも少なくない?

 恐らくこの屋敷自体に結界が張られているだろうし、屋敷を壊しても出れない。それに私が知ってる限りに部屋は全て教えたわ」


「とはいえ、お前は最初からこの屋敷にいたわけじゃないんだろ?

 なら、逆にメルトしか知らない部屋や道みたいなのがあってもおかしくないはずだ」


「そうでしょうけど......どうやって探すの?」


「一番良いのは、メルト本人がその場所を利用するのを目撃すること。

 ただでさえ静穏性能が高い猫だ。<気配立ち>も使えば早々バレることはない。

 逆に聞くが、メルトの何か不審な行動ってのは見て無いのか?」


「不審な行動ねぇ。悪いけど、思い当たることは。

 あ、でも、使いもしない書斎室に時折入ってる気がするわ。

 ご主人様の場合、使わない部屋は一切出入りもしないのに」


「おい、それってこの場所がバレてるんじゃないのか......?」


「毎回本を持って帰ってくるから、単純に読みたい本を取りに行ってただけじゃないかしら。

 たた、ご主人様は一度読んだ本は、ほぼ一切再読しないはずなのよね。少なからず、アタシが見た限りの範囲だけど」


 その言葉を聞き、俺はチラッと窓を見た。

 外は気持ちのいいぐらいの快晴であり、屋敷を囲っている森が活き活きとしている。

 空気的にも澄んでいて、時折聞こえる野鳥の鳴き声も心地よい。まるで隠居するには持ってこいの場所とすら言える。


 正直、まだこの結界に対して検証したいことはあるけど......一先ず後でいいか。

 それよりも気になるのは、再読しないはずのメルトが再読する本っての。

 それが脱出のカギに関係あるか定かじゃないが、今はただ情報が欲しい。

 というわけで――、


「ベルニカ、その本ってどれかわかるか?」


 一度書斎室に戻り、先ほど開けたカラクリ装置を元に戻す。

 そこに部屋があるってのに、元通りに戻ればホントにただの本棚だ。

 パッと見じゃなわからないなぁ。でも、よく見れば棚の足元が擦れてる。


「えっと、確か青っぽい本だったはず......あ、これだったと思う」


 そう言ってベルニカが視線を向けるが、そこには濃い青だったり、藍色だったり、水色だったり、一般的な青だったりと様々な青がある。脳内で一瞬「白って二百色あんねん」という言葉が流れるほどには、どれ? って感じ。


「え、どの青?」


「あの濃い色をした青のやつ。『勇者伝記』って書かれた本」


「あぁ、あれか」


 どの本か理解し、俺は右手にひっかき棒を作り出し、ゆっくり取り出す。同時に、高い位置にあったので風魔法でゆっくり床に下ろした。

 すると、その本の表紙を見てベルニカが呟く。


「考えてみれば、書斎に行くと毎回この本を持ってきてたのよね。なんでかしら?」


「そりゃこの本が好き.....ってこの内容が好きなタイプなのか?」


 この『勇者伝記』は、遥か昔に勇者が魔王討伐を為した偉業の旅が綴られている。言ってしまえば、子供向けに作られた勇者凄い物語だ。

 ザ・王道であり好きな人も多いだろうが(俺も好きだし)、あのメルトが気に入る話なのか。

 内容は序盤は成り上りっぽい内容で、後半はほぼ俺TUEEEみたいな感じだった気がする。


 一先ず本をめくり、序盤の数ページをめくってみる。

 ベルニカの言う通り何度も読み返されているのか、めくったページの反発が少ない。

 猫だからわかるが、本自体からも若干メルトと同じニオイがするし。

 ニオイが移る程度には何度も読み返してるってのは事実なのだろう。


「う~ん、アタシも読んだことあるけど、一回読めば十分なのよね。いやもちろん、嫌いとかじゃないんだけど」


「まぁ、俺も一回読んだものはあんま再読しないな.....ってそういや、ベルニカって文字読めるんだな。それにこの本も読んだことあるのか?」


「あー、その昔の話よ。ご主人様が読んでるそばでくつろぎながら目を通したって感じ」


「ふ~ん......しっかし、さすがにこれを見ただけじゃわからんな。わかっていたことだが」


 しばらく流し読みでページをめくってみたが、これといって何かあるわけじゃない。

 なので、最終的に風魔法でページをズラーッとめくっていると、とある部分が気になった。


 それは最後から数ページ手前にある一ページであり、そこには勇者パーティの死亡履歴が書かれているのだ。享年何年とかそんなやつ。そしてそこのページが不自然にくしゃくしゃだ。

 他のページに比べればという感じだが、何かを零したのが渇いた感じになっている。


「このページがどうかしたの?」


「いや、このページだけ妙に他と違うなって」


「本当ね、よく見ればって感じだけど。う~ん、何かあったかしら......あっ」


「何か思い出したのか?」


「いや、確証は無いんだけど、一度だけご主人様が静かに涙を流してることがあってね。

 それに『また時だけが過ぎていくわ』って言ってたの。印象的だったから覚えてるわ」


「その割には今の今まで口に出してなかったけどな」


「思い出すキッカケが必要だっただけよ!

 ともかく、そんな姿を見たのは確か。それがこの本かどうかはわからないわ。

 夜にロウソク一本灯して読んでいたのを見ただけだから。すぐ寝ちゃったし」


 泣きながらの言葉か......となると、このページだけくしゃっているのは涙が原因か?

 なんというか、違うベクトルで重要な情報を手に入れてしまったが、迂闊には聞けんな。

 さすがにこの話題は地雷だってのはわかる。いくら俺にこんなことしようともな。

 

 いやまぁ、わざと問い質して嫌われようってのも手だが......うん、傷つけるのは無しだな。

 ましてや、これは下手すれば心の傷の類だ。余計なことはしない方がいい。少なくとも、聞く必要に迫られた時以外はな。


「さすがに脱出のヒントにはなり得んな」


 そう言って俺は本を閉じる。その動作を眺めていたベルニカも「さすがにそうでしょうね」と呟いた。

 となると、先ほど中断した結界の検証とでもするか。


―――カランカラン


「あ、帰って来たみたいね」


 そう思った矢先、玄関の方から玄関ベルの音が鳴り響く。

 メイドゴーレムが勝手に客人を招き上げるとは思えないので、十中八九メルトだ。

 さすがに帰って来たとなれば、今日はもうやめた方がいいな。不信感は抱かれたくないし。


「とりあえず、書斎室から離れましょ。ご主人様が読書でよく使う部屋にいればバレないわ」


「わかった」


 というわけで、俺達は素早く移動しその部屋で寝そべる。くつろいでいたのをアピールするためだ。

 あぁ、この体勢になると本格的に猫になった気分。


「ただいま、二人とも......元気にしてたかしら」


「退屈の極みだったよ。なんせ出れないんだからな」


「あら、ごめんなさい。でも、あなたを家猫にするのは”愛”故に、よ。

 だって、あなたはいつかフラッと消えちゃいそうなんだもの」


「そんな人を猫みたいに」


「今のあんたは猫でしょ」


 俺の言葉にベルニカが鋭くツッコんでくる。事実なだけに言い返せないのが歯がゆい。

 そんな俺達に対し、メルトは愛おしそうに見つめると、


「今日は美味しいものを買ってきたの。トール、あなたのおかげで今日という日が素敵な非になったからね。

 だから、今日は豪勢に行きましょう。特別に振る舞ってあげるから楽しみにしててね♪」


「そいつはどうも」


 そう適当な返事をしつつ、俺は俺の立場を全うする。とはいえ、このまま大人しくいるつもりもない。

 脱出のヒントがないなら、ヒントを作り出せばいい。

 ということで、ここからは探偵トール様が、会話からヒントを引きずり出してやる。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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