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第26話 猫を探して

―――数時間前 ルミア 視点


 窓から差し込む日差しに網膜が焼かれ、それでも襲い掛かる眠気が二度寝を促す頃。

 私の肩を優しく揺さぶるような感覚を感じました。

 誰かが起こしている......そうとわかれば、きっとトールちゃんしかいません。


 なので、目も開けず手を彷徨わせると、一つの感触を捕まえそっと引き寄せました。

 そしてギューッと抱きしめれば、頬からひんやりとした感触。

 頬だけではなく、抱きしめている両手からも感じました。これは――、


「プギュッ」


 そっと目を開けると、そこにはスー子ちゃんの姿がありました。

 どうやら私が抱きしめていたのはスー子ちゃんのようで......なら、トールちゃんは?

 目をこすりながら起き上がると、周囲を見渡してみました。


 トールちゃんの姿がどこにもありません。それこそいたような気配すらも。

 代わりに、窓が少しだけ開いており、恐らくそこから出て行ったのでしょう。

 早起きしてお散歩にでも行ったのでしょうか?


「おはようございます、スー子ちゃん」


「プギュ、プギュギュ!」


 スー子ちゃんに挨拶をすれば、元気よく返答した後に続けざまに何かを伝えてきました。

 こういう時トールちゃんがいれば通訳してくれるのですが......さすがにまだわかりませんね。

 とはいえ、これでも一緒に旅をしてきた仲間です! フィーリングで読み取って見せましょう!


「プギュ」


 そんなことを思っていれば、スー子ちゃんは自身の無形の体を利用して二つのものを作りました。

 一つは平べったい板のようなもので、もう一つが円柱上で先端が尖ったもの。

 これは「紙」と「ペン」でしょうか。というか、フィーリング全然いらない......。


「紙とペンですね? 用意すればいいですか?」


「プギュ!」


 というわけで、私はバッグから紙とペンを取り出すと、それを渡しました。

 すると、スー子ちゃんはそれらを受け取り、紙を床に置くとペンを走らせます。拙い字ですがちゃんと読める字でした。

 え、スー子ちゃんいつの間に字なんか書けるように......やっぱりフィーリング全然いらない。


「えーっと、最初は『ぼ』でしょうか。ぼすいない......なるほど、『ボスいない』ですね。......え、トールちゃんがいないんですか!?」


 スー子ちゃんの字を理解できた喜びの後、少し遅れて衝撃が頭を打ち付けました。

 それで少し頭が真っ白になりましたが、いつまでも呆けてる場合じゃありません。

 でも、トールちゃんがいなくなるなんて......。


「何かの勘ち......いえ、落ち着きましょう」


 確かに、スー子ちゃんの勘違いと思いたいですが、そう決めつけるのも早計です。

 なぜなら、スー子ちゃんは頭がいいですから。現に字を書いてますし。

 それにわざわざ私に聞いてまで伝える辺り、恐らく今の事態はスー子ちゃんにとっても予想外なのでしょう。


「スー子ちゃん、トールちゃんがいなくなった時のことを順を追って説明してくれますか?」


「プギュ!」


 それから、スー子ちゃんが頑張って字で伝えるため時間がかかりましたが、おかげで正確に状況を理解できました。


「えーっと、私とトールちゃんが話した後、トールちゃんは『夜風に当たる』と言って外へ。

 スー子ちゃんは睡眠が必要ないですから、ずっとトールちゃんの帰りを待っていた。

 しかし、いつまでも帰ってこないトールちゃんが気になりつつも、トールちゃんの言いつけ通りにスー子ちゃんは私のそばに居続け......私が目覚めたことで現在ってことですね」


「プギュ」


「ずっと不安だったのに、私のそばにいてくれてありがとうございます」


 そう言って私はそっとスー子ちゃんの頭? 付近を撫でました。

 スー子ちゃんは良い子ですから、忠実にトールちゃんの言いつけを守っていたのでしょう。まずはその頑張りについて労わないとダメですよね。

 ともあれ、それが結果的に今の状況を生みました。


 もちろん、これはスー子ちゃんが悪いわけじゃありません。

 過失というならスー子ちゃんを抱いて眠ってしまった私にもあるでしょう。

 もっとも、そうでなくても過保護なトールちゃんのことですから、スー子ちゃんは私のそばにいたでしょうが。


 なので、私が考えるべきは今の結果の責任の所在ではなく、トールちゃんがどこへ行ったのか。

 スー子ちゃんから聞いた口ぶりからすると、夜の散歩に出かけたという感じで、特別何か目的があるようには感じませんでした。


「とはいえ、トールちゃんは私より先輩冒険者......一人何かに気付いて確かめたという線も。

 もしそうなら、今のトールちゃんは何らかの事件に巻き込まれている?」


 トールちゃんは贔屓目に見ずとも、かなり強い部類に入ると思います。

 だって、あの様子のおかしかったドグラベアを単独で倒してしまうぐらいですかえら。

 それを考えれば、大抵のことならトールちゃんは切り抜けられるはず。


 しかし、そんなトールちゃんが今の今まで帰っていない。

 何かの事件に巻き込まれているのは一つの疑問の選択でしかなかったですが、途端に可能性が浮上してきました。


 とはいえ、それで冒険者ギルドに捜索依頼を出すのは早計でしょう。

 単に、何か別の事情があって今まで帰れていないというかのうせいもありますし。

 ......これ以上は、さすがに情報不足でしょうね。となれば、やるべきことは一つです。

 素早く靴を履き、杖を持ち、バッグを肩にかけて出かける準備を整えると、


「スー子ちゃん、聞き込み調査に行きます。ご協力お願いします!」


「プギュ!」


 一声かけた瞬間、スー子ちゃんは元気よく返事をすると同時にジャンプ。

 そのまま私の左肩に飛び乗ってきました。これで完全に準備完了です。


「それじゃ、”導きの猫騎士団”の最初の任務.....ではなかったですね。

 二つ目の任務――消えたトールちゃんを探しましょう!」


「プギュー!」


 そう意気込めば、途中宿屋の女将さんからお弁当を頂きつつ、外へと繰り出しました。

 そして早速この宿周辺の人達に聞き込みをしていきます。

 最初に声をかけたのは、宿屋の丁度向かい側に住むおじいさんでした。


「おはようございます。私はルミアという者なんですが......あ、こっちはお友達のスー子ちゃんです」


「プギュ!」


「おはよう。元気でいいねぇ。それでこんな朝からどうしたんだい?」


「実はトールちゃん......猫ちゃんを探していまして。

 茶トラの猫ちゃんで、帽子にスカーフを付けているのですが......」


「あぁ、嬢ちゃんと一緒にいたあの猫ね。

 随分としゃれた格好だったから印象に残っているよ。その子を探しているのかい?」


「はい、実は昨日の夜からいなくなってしまって。

 どうやら夜にお出かけしたみたいなんですが、今まで帰ってきていなくて。

 少しでもいいんで何か見ていませんかね?」


「昨日の夜か......夜はさすがに見て無いなぁ。ごめんね、力になれなくて」


「いえ、普通は夜はあまり出かけないですもんね。大丈夫です。問題ありません」


 そして頭を下げてお礼を言うと、すぐさま次の知ってそうな人を探し始めました。

 一人目は見事な空振りでしたが、初っ端から情報が手に入るとは思っていません。

 私だって冒険者を始めてそれなりの社交経験を得たんです。これぐらいじゃへこたれません!


 それから一人、二人と声をかけていき、お話を伺いましたが見事に空振り。

 時には、お話を聞くために男性冒険者の方とお茶までしたのですが、結局知ったかぶりをされただけのただのナンパであったため急いで逃げ帰って来ました。


 いつもならトールちゃんが率先して守ってくれますが、今はいませんからね。

 にしても、トールちゃんがいるといないとでここまで心持ちが変わるなんて。

 どうやらだいぶ彼に甘えっぱなしだったのかもしれません。


 もう少し自衛できるように色々勉強しないといけないですね。

 むしろ、今はトールちゃんの飼い主的立場なので守るぐらいでないと!

 そう、飼い主......なので......見つけたら心配させた罰としてたくさん甘やかしましょうか。

 それこそトールちゃんが嫌がってもってぐらいに.....うん、そうしましょう。


「あの、すみません――」


 そう心に決めてからさらに聞き込み範囲を広げて尋ねまくりました。

 しかし、時刻が夜というタイミングだったためか、目撃者はほぼ皆無といった感じで。

 トールちゃんは一体どこへ行ってしまったのでしょうか。無事だといいのですが。


「トールちゃん、見つかりませんね......」


「プギュ」


 時刻はお昼時、宿屋の女将さんからいただいたサンドイッチを食べながら休憩タイムです。

 噴水の縁に座りながら、スー子ちゃんと一緒にお腹を満たしていきます。

 そんなお弁当の美味しさに舌鼓を打ちながら、思わず不安の言葉を漏れてしまいました。

 そしてその気持ちはスー子ちゃんも同じようで、心なしか元気があまりないです。


「大丈夫ですよ。トールちゃんならきっと。私達が信じなくてどうするんですか?」


「プギュ!」


 そんな風に言ってスー子ちゃんを鼓舞しますが、これは私に対する言葉でもあります。

 昨日の夜からいなくなったとすれば、もう半日以上経過している。

 仮に、トールちゃんが怪我しているのだとすれば、その時間は一刻を争います。

 だから、どんなに強がってもやはり不安というのは出てしまうのですね。


「あ、そ、その......」


 そんな時、一人の青年が私達に声をかけていました。

 表情はどこか遠慮がちといった感じで、しゃべり方にも緊張が見えます。

 ナンパをしに来た......という感じではないのですが、どうしてか妙な気配を感じます。


 チラッととスー子ちゃんを見てみれば、そっと私の服の裾を握っていました。どうやらスー子ちゃんも同じ気持ちのようです。

 ですが、情報を持っているかもしれない。聞くだけ聞いてみましょう。


「どうされました?」


「いや、えーっと......その、猫を探しているとかって......あなたですか?」


「はい、そうです。もしかして、何か知っているんですか?」


「あ、いや、僕は知らないんだけど、友達が知ってるとかで......」


 友達、ですか。だとすれば、なぜこの人はお友達と一緒に来なかったのでしょうか。

 邪推かもしれませんが、今自分を守れるのは自分だけ。

 トールちゃんがいない今、私がトールちゃんに倣って相手を見極めましょう。


「プギュ」


「......そうでした。私は一人ではありませんね」


 そして私はお弁当を片付けると、その場に立ち上がりました。

 スー子ちゃんが肩に乗るのを確認すると、その人の話に目線を合わせ、


「では、そのお友達の方に案内してもらっていいですか?」


 それから彼――パクズさんの後ろを歩いていくこと数分、大通りを抜け、小さな通りの方へ私達はやってきました。それなりに店があり、人通りも極端に少ないわけではないようです。


 「路地に連れ込まれそうになったら疑え」とトールちゃんに言われましたが、一先ずその心配はなさそうです。

 それからパクズさんが訪れたのは、果物を売っている露店でした。

 お友達というのはその店の店主のようで、彼が事情を話すと――、


「あー、悪い。実は俺もただ人伝に聞いただけなんだ」


「はぁ? なら、誰に聞いたってんだよ?」


「冒険者やってるドワングって奴だ。丁度今日は休みの方だから宿にいるはず。確か、『西の止まり木』って店だ」


 どうやらパクズさんのお友達もまた誰かから聞いただけのようです。

 情報伝達に若干の不自然さを感じますが、騙されたのはパクズさんも同じ。

 であれば、パクズさんは一先ず信用できるかもしれませんね。


「ごめん、なんか早とちりしたみたいで」


「いえ、そんなことはありません。私のために行動してくれただけで嬉しいです。

 では、先ほどの店主がおっしゃっていた宿屋に向かって見ましょう」


 それからまた数分歩き、目的地である「西の止まり木」の一階食事処にて、


「俺はそういう話をジャックから聞いただけだぜ。

 んで、お前が先に尋ねたトロイには面白半分で教えてやっただけ。

 ジャックの奴に聞きたいならこの先の通りを歩いた古本屋にいるはずだぜ」


「はぁ、またか......」


「にしても、本当に可愛いな。なぁ、その探している猫ってのを後回しにして、このまま俺としっぽり――」


「ご協力感謝します。失礼します」


「え、あぁ、ちょっと......!」


 というわけで、今度は古本屋に向けて足早に移動を開始しました。

 先程の発言、少しムカつきました。トールちゃんを後回しになんてできません。

 そんな先を歩く私に、パクズさんは慌てて追いかけてきました。


「ご、ごめん、ジャック......とは付き合いはそんなに長くないけど、知らない仲じゃないんだ。アイツも悪い奴じゃなくて、その......」


「大丈夫です。わかってます」


 そしてまた歩くこと数分、古本屋に辿り着きました。

 そこには本を物色しているジャックさんらしき眼帯の男がいたので、その方にパクズさんが事情を説明すると、


「あぁ、知ってるぜ。確か、こっちだ」


 そう言って場所を案内し始めてくれました。

 ただその先はどんどん人気がない方で、「この先」と言われた方向は路地裏でした。

 その場所に一抹の不安を抱えながらも、意を決して進んでいくと――、


「さ、ここだ」


「どこにもいませんが」


 そう言って振り返るジャックさんの言葉に反応しながら、周囲を見てみます。しかし、そのどこにもトールちゃんの姿が見当たりません。

 見渡す限りどこにでもある薄暗い路地裏であり、叫んでもすぐに人が来なさそう。

 やはり、これは――、


「は、何言ってんだ。いるじゃねぇか、目の前に純粋で無警戒なのが――なぁ、子猫ちゃん」


 その瞬間、ジャックさんがニタリと邪悪な笑みを浮かべました。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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