第24話 強制入浴タイム
「放せ......この、俺はまだそんな気分じゃない! つい昨日だってちゃんと水浴びはしたぞ!」
「今のあなたは猫ちゃんなんだから水浴び程度で汚れが落ちるわけないじゃない。
それにあなたが元人間というなら、別に水に濡れるのが苦手なわけではないでしょ?」
そう尋ねながら、メルトはササッと脱衣所に突入する。
それから抱きかかえていたベルニカを下ろすと、慣れた手つきで衣服を脱ぎ始めた。
両手で上の服を脱ぎ、スカートのチャックを下ろせば、衣服が床に散らばる。
尻尾があるからどうやってスカートを脱ぐかと思えば.....なるほど、丁度尻尾の通し穴の上付近にフックみたいなのがあってそれで留めてるのか――ってそうじゃない!
は、はわわわ、目の前で堂々と脱いでやがる......なんつー白い肌。ルミアの件公的な肌とはまた違う美しさをもった肌だ。
猫目の俺でもわかる肌のキメの細やかさと柔らかそうな質感......やっば。
「ふふっ、ガン見じゃない」
「み、見てねぇよ。勝手に決めつけんな!
だったら、言わせてもらうが俺は元は人間の男だっての!
そんな見ず知らずの男にあっさりと肌を見せていいのかよ!」
「随分と紳士的に見せかけてただの初心な回答......さてはあなた童貞ね?」
「なぜ、バレ......じゃねぇ! あぁ、そうだよチクショウ!
だが、そうじゃなくても普通はもっと恥ずかしいもんだろ!?」
「普通はそうでしょうね。でも、ワタシの肌に何も恥じることはないわ。
ワタシは可愛くて美しい......そうあるべき姿を日々磨いて維持しているの。
その一体どこを恥じるというの? むしろ、他を魅了するこの肉体は誇りだわ」
そう言い切るとメルトは尻尾をそっと自身の正面に動かした。
それはつまり、俺の体がメルトと正面から向き合ったことを指すわけで。
まるで「目に焼き付けなさい」とでも言わんばかりに、目の前で下着を外す。
最後の砦であったはずの布は床に崩れ落ち、彼女の秘部が露わになる。
「――ぁ」
それはまるで精巧に作られた芸術作品のような美であった。
言うなれば、顔、腕、胸、腰、足に至るまで全てのパーツの均整が取れている。
野性味を帯びた縦長の瞳、その力強さを強める細く凛々しい眉。
比較的小柄な体形に適合した大きすぎず小さ過ぎずの胸に、長い美しい足。
咄嗟に目を塞ごうと手を動かした俺の視線が、目の前の光景に魅了される。
「スゲェ......」
「ふふっ、心からの言葉が漏れてしまっているわよ。
ワタシの玉肌を見れる殿方なんて恐らく今までに一度もいないわ。
猫になれて良かったわね。案外、あなたは幸運なのかもしれないわよ」
「い.....いや、俺は猫は嫌じゃ! だから、もうこれ以上は見ないぞ!」
と言って両手で顔を覆うも、さっき普通にガッツリ見てしまい頭から離れない。
ルミアの巨乳に勝るものなしと思っていたが、まるで別角度から刺された気分だ。
もし俺が男の姿だったら絶対襲ってる......嘘です、絶対そんな度胸はありません。
「どうでもいいけど、早く入らない?」
「あら、ごめんなさい。しゃべれるからつい構ってしまったわ。
ベルちゃん、お風呂に行きましょう。さ、あなたも来るのよ」
そう言って依然として俺を尻尾で捉えたままサッと俺が身に着けていたものを外し、メルトはベルニカと一緒に浴室へ移動する。
広い浴槽であった。さすが屋敷という感じで大人二、三人は余裕で入れるスペースはあるだろう。
そんな浴槽は当然ながらお湯は張ってない。そりゃ、さっき風呂に入ることを決めたしな。
すると、メルトは慣れた手つきで魔法を使って水をドバッと入れ、指先を水面につけると再び魔法を行使し始めた。
「うん、このぐらいの温度が丁度良いわね。さ、ベルちゃん、トール君、順番に綺麗にしてあげるからね♪」
それからメルトは最初にベルニカの体を石鹸で優しく洗い始め、浴槽からすくったお湯を水球にして浮かすと、それをチョロチョロと流してベルニカが纏った泡を洗い流していく。
「綺麗になったわ。ワタシと同じ真っ白な毛並みよ。
体が冷えたら困るから浴槽で温ったまってらっしゃい。それじゃ、次はあなたね」
尻尾を動かし、メルトの正面で俺を下ろす。
そんなどこか狂気的なランランとした目に俺が苦笑いを浮かべながら、そっと背中を向けた。そして諦めたようにその場に伏せる。せめて正面は向くまい。
「あら、随分と素直になったようね」
「仕方なくな。どうやら力勝負で俺はあんたから逃げられないみたいだしな」
というのも、実は尻尾で体を持ち上げられた時から俺はずっと抗っていた。
バカみたいにレベルアップした筋力ならどうにかなると思ったが、あいにく話はそう簡単に上手くはいかないようで。
どれだけもがいても尻尾の拘束からは逃れることが出来ず、結局ここまで来てしまった。
もはやこれ以上の抵抗はこっちが疲れるだけだ。相手は猫というだけで狂ってしまっているからな。
そんな俺の回答に、「竜人族だからね」と返答したメルトはそっと指を立て、
「あなたはだいぶ汚れてるから念入りにやるわ。
変な所を触ったらごめんなさい。でも、猫だから諦めて」
「.......ヤサシクシテネ」
もはや男の尊厳が諸々崩れ去った所で、石鹸が俺の背中を滑る。
それで俺の体を軽くなぞっていくと、そこから指に切り替え、わしゃわしゃと動かし始めた。
その瞬間、俺の体に電流が走る――き、気持ちえぇ.....。
な、なんだこの感覚......全身をまさぐられてるはずなのに、むしろ心が落ち着いていく。
まるで小さい頃に母さんに頭を洗ってもらった時のような安心感が全身を包み込む。加えて、猫を飼っているおかげか動きに淀みがなく、力加減も絶妙だ。
「あんた、ゴロゴロと音鳴らしてるわよ」
「ハッ、違う! これは生理現象だ!」
「気持ちいいのね。なら、このまま堕ちてしまいなさい」
「違うって言ってんだろ! これはただの生理現象.....のはずで......」
ヤバい、このままではこの快楽に堕ちてしまう。この快楽を求めるようになってしまう。
これ以上気持ち良くなりたくないのに......テクニシャンすぎて無理だぁ。
わぁ、意識が落ちる。気持ち良すぎて眠くなってくる。
ダメだ、耐えろ。耐えるんだ。俺には、帰りを待つルミアが――、
「なら、このまま総仕上げといくわ」
「え、これ以上は、ちょま――わあああああぁぁぁぁ......あっ」
結局、メルトに全身を撫で回されるように洗われ、水で泡が流された時には綺麗になっていた。
それこそ、すわ俺ってばこんなに綺麗な毛並みしてたのかってぐらいには。
そして全身綺麗になった俺はそのまま浴槽に入る。
浴槽の手前側は段差のようになっているらしく、どうやら猫用に設計されているみたいだ。
先程からベルニカが縁に手をかけて温まってる時点でそうであろう。
すると、そのベルニカが俺の近くにやってきて、
「どう? ご主人様のテク、凄くなかった?」
「やばかった......じゃなくて! お前、わざとこうなるように仕向けたな?」
「別にそんなことないわよ。ただ、あんた小汚いしずっと臭うんだもの。
よその猫が小汚かろうがアタシはどうでもいいんだけど、ご主人様が連れて来てしまった以上、最低限の身だしなみというのは必要よ」
まぁ、街についたのもつい最近だしな。スー子に水をかけて貰っていても落とせる汚れに限界あるし。
とはいえ、石鹸なんて高級品は早々手に入るもんじゃねぇんだよ。ましてや、俺達が泊まれるような一介の宿屋なんかにはな。
「で、どう? あんたもここで過ごしたくなったんじゃないかしら。
今ならご主人様の裸も見放題よ。良かったわね」
「あぁ、それに関してはお礼――は言わねぇ。違う違う、そうじゃない。
落ち着け、俺......このままじゃスケベ心でずっと動いていると思われるじゃねぇか。
とはいえ、そこにあるのなら据え膳という考えも......」
「そこで悩む当たりさすが童貞ね」
「うっせ。礼儀をわきまえていると言え」
仮に俺が童貞じゃなかったらもう少し別の対応が出来たのだろうか。
今でも俺は目がメルトの裸に吸い寄せられそうになるのを必死に堪えるので精一杯。
もう少し女性経験というのを積んでおくべきだったか。
「にしても、どうしてそんなこと聞くんだよ。ここで過ごしたいとかどうとかって」
「そりゃ、個人的にアタシがあんたを気に入ってるからよ。
あんたが元人間だからかもしれないけど、どいつもこいつもダメでね。
アタシの容姿が美しすぎるせいか邪な目でしか見ないのよ。
発情期の時なんて外出れたもんじゃないわ。亡者の群れかっての」
ペットは飼い主に似ると聞いたことはあるが、まさか同じ美意識とは。
まぁ、実際猫の容姿にしては美人もとい美猫寄りだとは思う。
だがまぁ、さすがに俺の性癖は人間の女だしな。可愛いいとは思うが、それは動物に対するそれだ。
「それにあんたと話すのは嫌じゃないみたいだからね。
アタシ自身もまともに話せる相手を欲してたし丁度良かったのよ」
「なんかギャルみたいな距離感の詰め方してくるじゃん.....」
「ぎゃる?」
「いや、なんでも......」
この猫が逆に人間になったら、ダウナー系のギャルにでもなりそうだ。
わぁ、とっても需要がありそうな属性だな。実にモテそう。
そんなことを話していると、メルトが体を洗い終わったようで、
「随分と楽しくおしゃべりしてるじゃない。うちのベルちゃんはどうかしら。可愛いわよ?」
「可愛いとは思うよ。あくまで動物に対するそれだけどな。つーか、普通に浴槽に入ってくるのかよ」
「当然じゃない。ここはワタシの屋敷よ?どう使おうがワタシの勝手だわ。
むしろ、こんな近くでワタシの美肌を眺められるのだから役得だと思って欲しいわね」
「意地でも見ねぇ」
そう言って俺はメルトから顔を背ける。すると、 メルトの身長に対して長い足が重ねられるようにして俺の横に現れた。
どうやら俺達がいる段差を利用して足を伸ばしながらくつろいているようだ。
そんな彼女の足を見て、俺は今更ながらに気付く。
「お前の足って青いんだな」
正確には水色っぽい感じだが、それが膝下から足先にかけてグラデーションのように色が変わってる。
まるでたまに見るソシャゲのキャラみたいな感じに感想を零せば、メルトが口を開き、
「ワタシ達が竜人になる前の時の名残とされているわ。
竜同士でも細かく種族があって、その種族ごとで多少色の差があるのだけど、その異色同士が番になって生まれた子供は色が混ざるの。
人間の姿をしてからはあまり発現しなくなったようだけど、ワタシの場合は隔世遺伝って感じらしいわ」
「へぇ~」
「あなたはこれを気持ち悪いと思う?」
ただの雑談だったはずの空気が一瞬、冷たいものに変わる。
それは怒りに触れたというよりシリアスモードに入ったという緊張感だった。
その言葉に一瞬振り返りかけたが、それをぐっと堪えて聞き返す。
「......どういう意味だ?」
「そうね、唐突過ぎたわね。それに関してはごめんなさい。
ただ個人的に気になっただけよ......あなたの回答を。
ワタシ達のこういう色の違いは、人間からすれば呪い人や魔に近い存在と誤解されるの」
「呪い人や魔に近い存在?」
「例えば、人が呪われた時、呪いの種類によってこうした肉体に症状が出るの。
だから、こういった一部の色が変化していると、”呪い人”と邪推される。
そして呪いの中には伝染するものもあるから、近寄りたがらない」
その話に耳を傾けていれば、メルトは「それに」と言葉を続け、
「魔物中にはその姿を進化させ変容させるものもいる。
そんな魔物が進化の途上で肉体の一部の色を変化させる場合があるのよ。
人間に悪さしていら竜もいたからね。そういった偏見を受けるの」
要するに、メルトは自分が他者からどう見られてるのか気になってるって話か。
なるほどな、「自分に恥じる所はない」と言っていたのは、ある種その気持ちの裏返しか。
他者から嫌な偏見を持たれてるかもしれないから、それを払拭しようと美を磨いている。
その過程で美に対する自信を持ったという感じだろう。それが自分の盾なのだから。
「おかしいわね。人に聞くことはないと思っていたのだけど、あなたにはつい話してしまった。
あなたが猫ちゃんの姿をしているのが原因ね。ついつい警戒心が緩んでしまう」
そう言うとメルトはザバッと水飛沫と共に立ち上がり、そのまま浴槽から出る。
俺の目の前に彼女の美しい背中やお尻が映り、俺は咄嗟に背を向けた。
そんな俺の背中から彼女の視線をどこか感じる。
「......やっぱり答えなくていいわよ。ただの戯言だから。
ワタシは先に上がるわ。浴室のドアは少し開けているから好きなタイミングで出なさい。
ただし、浴室から出る時は、必ず近くに配置したゴーレムに声をかけること」
「なら、アタシは先に上がるわ。十分に温まったしね」
メルトの言葉を聞き、ベルニカが一足先に浴槽を出た。
それからドアノブがガチャリと音を立て、一人と一匹が浴室へ移動する。
そんな彼女が板であろう場所に振り返ると、俺は伝えるべき言葉を考え始めた。
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)




