第22話 夜中の出会い
――一人目の入団希望者
「ぼ、僕はそ、そそそその......『導きの猫騎士団』に入りたいのはですね。
もちろん......お近づき――じゃなかった、このパーティを有名にしたいと思ったからで。
リーダーのる、ルミアちゃんには何か大事な目的があるみたいだから、その、おお手伝いをしたいと」
そう言ってルミアの目の前に座る少年は、しどろもどろの口調で入団希望を告げる。
その際、一体何度チラ見すれば気が済むのかってぐらいルミアの胸を見てやがった。
大体「顔:胸=2:8」ぐらいの頻度で見ており、下心も丸出しだ。というか、普通に言葉漏らしてたしな。
その止めようない下心だけは尊敬してやるよ。娼婦の店でも行ってろ。
そんなことを思いながら、テーブルの上で腕を組みながら聞く俺。
その近くには当然スー子もおり、この子はただひたすら俺がテーブルに叩きつける尻尾を目で追っていた。
すると、こんな相手にもルミアは真面目に面接するようで、
「なるほど......つまり、私の助けになりたくてパーティに入りたいと」
「そ、そうなんだ! ぼ、ぼぼぼ僕はルミアちゃんを見た瞬間に、この子は僕が守護らねばって――」
「間に合ってるのでお引き取り下さい」
「ぎゃああああ!」
なんかヤバイ片鱗が見えたので、俺がすかさずその男を蹴り飛ばした。
そして空いた席に対し、「次の人~」と声をかけていく。
―――五人目の入団希望者
「やぁ、麗しの姫君よ。僕は君を見た瞬間、運命と思った。
君のような素敵な女性がこんな小さな街の冒険者にやってきている事実。
そしてそこで仲間を集めていると。聞かずともわかる、これは僕を求めているのだと」
「違いますね」
「ハハハ、どうやら恥ずかしがり屋さんのようだ」
そう言って貴公子風の男が前髪をサラッと手で靡かせる。
コイツ、今ルミアがキッパリと否定したのを軽くスルーしやがった。明らかに都合の悪いことを聞かない姿勢......うわぁ、こいつもヤベー奴だ。
しかし、真面目なルミアはコイツにも面接するようで、
「まず名前と職業を――」
「しかし、君のような美しく麗しい女性がこのような薄汚れた場所にいるのは相応しくない。
僕も事情があってここにいるのだが、一刻も早くこのような生活から抜け出したいと思っているのだ。
故に、ここから僕と共に新たな人生を歩もうではないか」
「あの、名前と職業を――」
「そうだな、まずはここよりも空気が綺麗な場所に移ろう。そこで家を建て、仲睦まじく暮らして行こうじゃないか。
子供は君が求める限り何人でも構わない。これでも僕は貴族の出だからね、そこら辺の冒険者よりも教養がある――」
「なら、『人の話を聞く』っていう一般常識教養から学び直せ!」
「ぐへぇっ」
さすがに聞き続けてたら耳が腐りそうだったので、俺が蹴り飛ばして強制退出させた。
そして疲れたように、「次の人~」と声をかけていく。
―――十人目
「おい、お前。俺の女になれ。お前のようなガキがいる場所じゃないが、俺の女としてついて歩くなら別だ。
もちろん、女が果たすべき奉仕ってのはしっかりやってもらうが――」
「消えろ、ゲスが」
「ぐはっ――何しやがる、畜生が!」
「寝てろ」
腹を蹴り飛ばしたらスキンヘッドの男が耐えやがったので、続けざまに顎を殴って気絶させた。
さすがに猫であってもステータスが高ければどうにでもなるらしい。
ふっ、安心しろ。顎近くに幸運の肉球スタンプがついたぐらいだ。
「次の人――」
―――夜
「ハァ~、さすがに疲れました」
食事も終え、そう言ってルミアがベッドに腰をかけ、そのままゴロンと倒れる。
そこにスー子が近づけば、スー子をクッションのように抱いて横向きになった。
そんな彼女に対して、俺は「お疲れ」ぐらいしか言えない。
現在、俺達はスクルトを出発し、次なる街メルボールにやってきていた。
そこにある冒険者ギルドでパーティを作り、メンバー募集をかけたまでは良かったが――、
「全くどいつもコイツも下心丸出しで見やがって。ルミアをなんだと思ってるんだ」
募集参加は盛況で、多くの人が面接にやってきた。そこまでは良かった。
しかし、やってきたどいつもこいつもルミア目当てなのだ。
真面目に冒険をやろうって奴が全くいないし、挙句全員男だ。
ルミアの容姿からしてこんな展開になることは想像していたが、だとしても多すぎる。
おかげで五人目の貴公子風の男から若干ルミアの対応に荒さが漏れ始めるし。
っていうか、ルミアって見た目で意思が弱そうに見えるだけで、案外そうでもないんだよな。
それこそ、今日全部で三十人の面接をやってみせるぐらいだし。
「なんつーか、結局全員俺の裁量で蹴っちまったんだが......あの中でルミアが気になる奴とかいたか?」
「気になる人.......あ、あのなんか無駄に爽やかさを演出する人――」
「え、あの貴公子風の!?」
「――のあの頭の中身が気になりました。一体どういう想像力の飛躍をしているのかと」
「あぁ、そういう......」
つまり、ルミアの中でもお眼鏡の相手はいなかったようだ。
にしても、今回女子が一人もいなかったのは痛かったな。せめて女子が一人でもいれば、ルミアの精神回復的な感じで良かったのに。
ともあれ、過ぎたことを考えても仕方ない。それに俺的に聞きたいことは別にあって――、
「そういや今更だけど......あのパーティ名何? えーっと......」
「”導きの猫騎士団”ですか?」
「そう、それ。なんつーか、これもだけど妙に俺の主張強くない?
俺ってば別に騎士じゃないし。どっちかって言うと魔術師よりのステータスだし」
パーティ申請をした後にルミアが初めて教えてくれた時はビックリしたもんだ。
だって、事後承諾なんだもの。え、その名で申請しちゃったの!? って思ったし。
その後も変更を勧めたが、「これが絶対にいいんです」って譲らなかったし。
「いいんですよ、私猫好きなんで」
「ルミアってそんな猫好きだったのか? なるほど、どうりで俺をやたら撫で回すわけだ」
「.......バーカ」
「突然の罵倒!? なぜに!?」
同じくベッドの上で腕を組む俺に対し、ルミアが唇を尖らせる。
スー子を抱き枕のようにして横向きで寝そべる姿はなんとも可愛らしい。
それこそ、どこぞのグラビア写真よりも可愛さとエロスを感じるもんだ。着衣なのに。
そんな環境下で男と女(+スー子)が二人っきり、何も起きないはずが――ないんですよね~。だって、猫ですもの。
ここで俺が人間だったらワンチャンあったかもしれないのに.....って、これまで妹目線で見ていたルミアに対してこの発想をしたらダメだろ。面接してきた奴らと同レベルじゃねぇか。ハァ、泣けるぜ。
「これって明日も面接した方がいいですか?」
一人自己嫌悪に陥っていると、ルミアがそんなことを聞いてきた。
う~ん、どうしようか。ぶっちゃけ、今日の二の舞になりそうなんだよな。そうなると、ルミアが可哀そうだし。
「ま、明日は普通に観光でいいんじゃねぇか?
昨日の夕方頃について、今日には面接のラッシュだろ?
観光でもしてゆっくり休めばいいさ。仲間はそのうち見つかるだろ」
「そうですね.......ふぁ~~......すみません、なんかもう凄く眠くなってきて」
「いいよ。今日は頑張ってくれたから十分に休んだらいい。
スー子もそのままルミアの癒しになってあげててくれ」
「わかった!」
それからすぐにルミアが寝息を立てる。ベッドで中途半端に横になったまま。
なので、俺はルミアの靴を脱がし、それから風魔法で彼女を浮かせて姿勢の向きを変えると、そっと掛け布団をかけ、
「ボス、どこ行くの?」
「少し夜風に当たってくる」
そう言って窓から近くの木の枝に飛び移り、一人夜の街に繰り出す。本当に何の目的もないただの夜の散歩だ。
まぁ、強いて目的を言うなら、夜でしか聞けない情報を盗み聞きするぐらいか。意外な所から元の姿に戻る方法が見つかるかもしれないからな。
「ねぇ、もっと来て♡」
「おいおい、欲しがりだな。仕方ない。ワガママな君に答えようじゃないか」
「あん♡」
そんな淡い期待も一瞬にして夜風に流され、現在ちょっとした屋根で横になりながら、どこぞのカップルの情事をぼんやりと観察していた。
何が悲しくて人の情事を見ているのかわからないが、猫になったせいかその光景を見てもあまり興奮しない。
体が猫になってしまったせいなのか。それともいよいよもって性欲も猫寄りになってしまったのか。
もはやいつ本格的な猫になってもおかしくない.......え、待てよ? ってことは、俺は下手したらこの状態で発情期を迎えてどこぞの猫に童貞を捨てる可能性があるのか?
待て、待て待て待て、それは.....それだけはあってはならない! 獣姦なんてそんなマニアックな性癖は持ってねぇぞ!
「ってことは、俺は発情期になるまでに人間に戻らねぇといけねぇってことじゃねぇか。
マジかよ......つーか、猫の発情期っていつだよ。うわぁ、先の見えないタイムリミットが設けられてしまったよぉ」
「何一人でぶつくさ言ってるのよ」
「いやさ、聞いてくれよ。俺の童貞にタイムリミットが出来て......」
そう言って振り返ると、まん丸お月を背景にいつの間にか白猫がいた。
首輪にリボンをつけたその猫はそっと俺のお尻に顔を近づけ、
「キャー何すんのエッチ!」
急に人のお尻を嗅ごうとしてきたので、俺は咄嗟にお尻に手を伸ばして距離を取る。
こ、この猫、初対面相手にお尻のニオイ嗅いで来ようとしてきやがった。
そんな俺に対し、白猫は怪訝そうに首を傾げ、
「何って......あんたが何者か知ろうとしただけだけど。
ニオイを嗅ぐことで相手の素性がわかる。猫なら当然の知識でしょ?」
そう言う白猫だが「まぁいいわ」と言うと、俺がいた位置に座り、
「で、一体何を見てぼやいて......あー、なるほど。
なに、あんた交尾したいの? 発情期でもないのに?」
「随分と直球で聞いてくるな......まぁ、そういう気持ちがないわけではないが、猫相手にはないな」
「猫相手はって......え、もしかして人間とやりたいの? マニアックぅ~」
「釈然としねぇ......」
今の俺が猫のせいか、ガチの猫からマニアックな性癖を抱えてると思われたようだ。
確かに、猫側の視点からはマニアックに見えるけど、そうじゃねぇんだ。そうじゃねぇんだよ!
「それであんた本当に何者なの? さっきの猫らしからぬ動きもそうだけど、その珍妙な帽子とスカーフもそうだし」
「俺はトールだ。今は仕方なく猫をやってる」
「仕方なく猫って......元は違うみたいな言い方ね。あ、ちなみに、アタシはベルニカっていうの。
ご主人様からは『ベルちゃん』って呼ばれてるわ」
「実際、違うからな。俺は元人間だ。でも、猫にされたからこの姿からの戻り方を探している」
「なんだか面白そうな話ね。どうせなら一から聞かせてくれない? ちょうど話し相手に飢えてた所なの」
なんだか気安いギャルのような距離感の詰め方だな。
つっても、俺のギャルの知識は、ヲタクが想像力で持つタイプのギャルでしかないんだけど。
でもまぁ、俺も会話は嫌いじゃない。せっかくだから話してみるか。
そう言って俺は自分が猫になった経緯を話した。それから、ここにどういう目的で来たのかも。
そんな話を、ベルニカがリラックスしたポーズで聞いていた。
「あんたも随分な目に遭ってるわね」
「まあな。だが、当然このまま終わるわけにはいかねぇ。
発情期が来るまでに俺は必ず人間に戻って残りの人生を全うしてやる!」
「ふぅん、ま、せいぜい頑張りなさい。その時が来たら......諦めて受け入れることね」
「相手が猫は勘弁だ!」
もしそんな日を迎えてみろ。もはや色々なものを失う気がするぞ。
ルミアからもなんて目で見られるかわかったものじゃない。
あんな純粋な子に幻滅されたら普通に死ねる自信がある。
そんな未来を回避するためにも――、
「なぁ、ここら辺で魔法に詳しい奴って知ってたりするか?
ベルニカはここら辺に詳しそうだし、何か噂を聞いたでもいいんだ」
「必死ね」
「そりゃ必死だよ! 色々な意味で!」
「まぁ、知らないわけじゃないけど、別にアタシもここで暮らしてるわけじゃないわ。
普段はもう少し山側にある屋敷。そこにご主人様と暮らしてるの」
「となると、お前......意外と遠い所からここに来たんだな。
こんな夜に出歩いてちゃ、そのご主人様とやらも心配しないか?」
「大丈夫よ。ちょうど迎えが来たようだし」
「は、迎え......?」
その瞬間、俺の背後から猛烈な気配がした。俺の獣としての気配感知も潜り抜け、何かが後ろにいる。
正体を確かめるようにゆっくりと顔を上げて振り返ると、
「あら、可愛いお友達ね」
そう言って銀髪のツインテールを夜風に揺らし、琥珀色の瞳を宿すゴスロリ少女が獣のような縦長の瞳孔を月光で輝かせた。
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)




