幕間 僅かな違和感
―――魔術師ハイネ=マトローネ 視点
―――迷宮都市ハクトラフ グリジア迷宮
アタシ達「鉄の狼群」はこれまで何もかもが順調だった。
若くしてBランク冒険者となり、周りからも一目置かれる存在。だからこそ、アタシ達はさらなる快進撃を求め、使えない仲間を切り捨てた。
それから何もかもが一変した。
最初は些細な違和感で、いつもより少し神々の試練である迷宮攻略に苦戦した。しかしそれでも攻略自体は出来ていたので、問題は無かった。
強いて言えば、いつもより回復道具やサポート道具の出費が痛かったけどそれぐらい。
でも、その攻略の勢いが今ではみるみる失速している。
「ハイネ! ちゃんと攻撃しろ!」
「やってるわよ! スレア、支援魔法が切れかけているわ! しっかり時間管理して!」
「わかってますよ――筋力強化! 魔力強化!」
「あーもう、固ったいなぁ!」
現在、アタシ達が相手にしている魔物は、なんてことないアイアンゴーレム。
これまでも何度も倒したことのある迷宮の魔物であり、苦戦なんてなかった。
しかしなぜかトールを追放してからというもの、妙に苦戦するようになった。
「クソ、コイツも特殊個体か! 最近妙に増えてるな!」
未だ倒せないアイアンゴーレムに対し、ディースがそう言葉を零す。
ディースは苦戦するようになったこのゴーレムを特殊個体とずっと思っている。恐らく、今戦っている相手がこれまでと同じ相手とは思いたくないのだろう。
「なんかこの迷宮おかしくない? なんで誰もおかしいと思わないんだろ?」
そんな彼の意見を真に受けるのがリンデだ。
彼女は素直なだけに、リーダーであるディースには盲目的な言動を見せる。実際、気があるのもその行動に拍車をかけているのだろうけど。
「ハァハァ......これで魔力ポーションが二本目。最近はやたら値段が高いからあまり使いたくなかったのですが......全滅するわけにはいきませんからね」
そして魔力ポーションを飲んで、なんとか戦況を維持しようとするのがスレアだ。
彼女はリンデと違って今の状況に違和感を感じているけど、彼女もディースのことが好きなようで彼の意見には自分の違和感すら押し殺している。
「ハァハァ、なんで倒れないのよ......」
そういうアタシもディースのことが好き。たぶん本人以外にはバレバレな具合には。
けれど、そんなアタシでも明らかにこの状況、こんな日々が続けばおかしいとわかる。
そう、全てはトールを追放してからおかしくなった。
あの男は、別に普通の男であった。それこそモブの中のモブ。
いや、迷い人という付加価値があった分、ちょっと珍しいモブではあったかもしれない。でも、使えない男には変わりなかった。
タンクとしての能力も一般的なもので、せっかくの迷い人でありながら特別なスキルもない。
だから、アタシ達はいつまでもタダ飯ぐらいを置いておくわけにはいかなかった。
完全な足手まといを捨てて、身軽になったパーティでもっと活躍するはずだった。
「それがどうしてこうなるのよ......」
正直、わけがわからない。なんでアイツがいなくなっただけでここまで変わるのか。
そしてそう思っているのはたぶんアタシだけで、他の三人はその違和感にすら気付いていない。
だからといって、本当にアイツがいたから実はこれまで順調だったとかは絶対嘘。そんなのありえないし、あってはならない。
だってそれを認めてしまったら、アタシ達は自ら栄光の可能性を潰したわけになるのだから。
「絶対無い。そんなのあってたまるか」
そう思って両手で握る杖に魔力を込める。
いつもより数倍の魔力量をその杖に込め、それで大きな火球を作り出す。
以前なら最低でもその半分で済んでいた魔力量だ。戦闘が長引いてるせいで今は疲労が凄い。
そしてその火球を回避タンクをしているディースを狙うアイアンゴーレムにぶつけた。
「これなら――っ!?」
盛大に爆ぜ、オレンジ色の炎が燃え広がる。
確実に直撃した一撃。しかし、その黒煙の中から未だ倒れないゴーレムが現れる。
ここまで頑丈であるなら、確かに特殊個体と思いたくなる。けれど、アタシの<魔力探知>ではこれまでのゴーレムとなんら変わらない。
「なんでよ......!」
だからこそ、この状況に、この結果に苛立ちが募る。
理解が出来ない。どうしてあの男がいなくなっただけでここまで変わるのか。
あの男がやっていたこととすれば、ただ相手の注意を引きつけ、攻撃を受け止めたり受け流したり弾いたりして、その僅かな隙に反撃していたぐらいだ。
どのタンク役でもやっているだろう技術のはず。特別な技術なんかじゃ絶対無い。加えて、強力なスキルがあるとかでもなければ、どこで使うかもわからない<会話術>とかいう戦闘には何の役にも立たないスキルを持っているだけ。
それがどうして一人いなくなっただけでここまで戦闘に影響が出るのか。
おかげで主戦力であるディースは回避タンクがメインとなってしまい、ほとんど攻撃が出来ずに戦いは長期戦の一途を辿っている。このままじゃ、アタシ達の冒険が終わってしまう。
―――戦闘開始から十分後
「ハァハァ、やっと倒せた......」
ようやくアイアンゴーレムを倒せた頃には、アタシ達はヘトヘトになっていた。
全員がその場に座り込み、大きく肩で呼吸している。
そんな中、消滅していくゴーレムをみながらディースが言った。
「にしても、せっかく特殊個体を倒せたってのに全然レベルアップしないな。
前に倒したデススパイダーの時は一気にレベルアップしたはずだぞ。まぁ、その代わり死にかけたけど」
「それだけ私達が強くなったってことじゃない?」
「そうですね。相手が特殊個体であるなら、魔力ポーションを二つ使用したのはむしろ安く済むと言えるでしょう。
ただ、特殊個体を倒したはずなのに、相変わらずいつものアイアンゴーレムと同じ魔石が出てくるのはなんででしょうか。
ギルドで鑑定してもらっても、評価はただのアイアンゴーレムで終わりですし」
「本当にふざけてるよね。そのせいで段々懐も寂しくなるし。
そもそもアイアンゴーレムなら前にも倒した事あるし、その時はこんなに苦戦しなかった!」
「リンデの言う通りだ。あの時はトールがいたが、あの男がいた所で余裕で倒せてただろう。
あの男がいたから攻略しやすかったとかは絶対にないはず――ハイネもそう思うよな?」
「.......あ、えぇ、そうね」
そう、ディースの言う通り、決してトールがいた影響のはずがない。だって、アイツは何の特別な力もないただ少し珍しいだけの人間なんだから。
でも、仮にこれまでの冒険が全てトールがいたおかげだったのなら――、
「――ネ。ハイネ!」
「え、あ、何!?」
「ほら、出発するぞ。さすがにもう少し粘りたい」
「だねぇ。さすがにこの稼ぎじゃ今後の攻略が危ういし」
「ハイネさん、あなたは魔法だけが取り得なんですから。
ここでうずくまっては足を引っ張るだけです。立って下さい」
「『だけ』って何よ、『だけ』って。はいはい、やってやろうじゃない。これでも魔術学校を成績上位で卒業したんだから」
ディースに引っ張り起こしてもらい、スカートの土埃を払う。
少し前にいる仲間三人を見て、少しだけ活力が蘇って来た。
きっと大丈夫よ、アタシ達なら。辛いのは今だけ。この三人が一緒なら必ず乗り越えられる。
「それじゃ、行きましょ」
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)




