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第20話 自分のことのようで気分はスッキリ

 サイバル森林近くにある街スクルト。そこの冒険者ギルドには、施設内に酒場があり、そこでは昼からにもかかわらず酒で飲んだくれている冒険者が多い。


 彼らが話す内容は、新しいダンジョンの噂、有名なクランの活躍話、新進気鋭のルーキーに対するやっかみと様々だ。


 そんな冒険者ギルドの一部の席では、酒こそ飲んでないが仲睦まじく話す男女四人の冒険者がいた。

 赤髪の少年剣士フィン、茶髪の魔術師少女リトリー、藍髪の盗賊少年ダッカ、緑の弓使いロトン。


 彼ら四人は全員が同い年であり、結成してからまだ一年しか満たない新人冒険者パーティだ。

 たった一年の冒険歴ではあるが、冒険者として活動していくという意味をそれなりに知ってきた。


 それこそ、冒険者らしく魔物を倒したり、ダンジョンでアイテムを回収して資金にしたり、未踏の地へ踏み出してそこでの冒険の怖さを知ったりと様々な経験をした。

 もちろん、パーティの誰かが死んだという経験も。


 冒険者にとって誰かが死ぬのは日常茶飯事だ。

 それをキッカケに冒険を止める人もいれば、心の病を抱える人もいる。

 幸い、彼らはその死を乗り越えた側であるが、その傷は未だ完全に癒えたとは言い難い。

 しかし、これでも癒えた方なのだ――なぜなら、裏切り者が消えてくれたから。


「そういえば、ルミアにあの依頼を突きつけてからもう一週間ぐらいになるわね」


 最初に裏切り者に対して口火を切ったのはリトリーであった。

 髪の毛を指で摘まんでねじりながら、もう片方では頬杖をついている。

 そんな他に話す話題がないから仕方なく出したような言葉に対し、フィンが反応する。


「もうそんなに経つのか。てか、ぶっちゃけ今の今までその名前忘れてたわ」


「ちょ、それは酷過ぎだろ。俺は思い出してたぞ。

 ほら、あの意志薄弱な感じで無駄にスタイルはいいだろ? 巨乳だし」


「ちょ、それ普通私達がいる前で言う?

 っていうか、覚えてないよりサイテーな覚え方してるじゃん。ウケる」


 フィンの言葉に続き、ダッカとロトンが続けざまに言葉を重ねた。

 そのどれもが裏切り者に対する悪口であり、その言葉が悪い言葉だと指摘しておきながら、彼ら四人の顔には誰一人悪びれた者はいない。

 すると、フィンが果実水の入った木製ジョッキを一口飲み、それを机に叩きつけると尋ねた。


「で、ぶっちゃけさ――生きてると思う?」


「無理無理。無理に決まってんじゃん。

 聞けばあの依頼書にあったミダモフルーツってサイバル森林の深層にあるんでしょ?

 中層の、それも入ってすぐで逃げ帰った私達なのに、あの子一人でいけるわけないじゃん」


「それにさ、あの子は治癒師だし。といっても、治癒が出来ない治癒師だけど。

 攻撃魔法があるたってタカが知れてるし、絶対に魔物の餌になってるよ。

 ほら、胸やお尻に可食部蓄えてるじゃん」


「発想エグ。だったら、俺は魔物の苗床になってる方に賭けるね。

 一部の魔物には、他の魔物を犯して種を増やす個体もいるんだろ? ゴブリンとか」


「お前が一番発想エグいじゃねぇか」


「「「「はははははは」」」」


「――そんな風に思っていたんですね」


 仲睦まじく会話していた四人の笑い声が、凛として聞こえた声で一瞬にして凍える。

 全員が息を殺したように笑い声を止め、そして油を刺し忘れた機械のように首を向けた。

 その時、リトリーがその声に主に対して呟く。


「る、ルミア........」


 *****


 その対面は実に”最悪”と言えた。

 スクルトに戻って来た俺達は、早速依頼完了を伝えるためギルドに向かった。

 そして冒険者ギルドに入れば、割と大きめな声でルミアの悪口が聞こえて来るではないか。

 んでもって、聞けば随分と胸糞悪いじゃねぇの。とても仲間に対する発言とは思えねぇ。

 すると、ルミアが覚悟を決めたような表情で近づき、


「そんな風に思ってたんですね」


「る、ルミア......」


 茶髪のちょっとギャルっぽい魔術師が面食らった表情で呟く。ルミアと同い年で、容姿も整っている。

 胸は控えめだが、一部の人には十分需要があるだろう。

 そんなことを思いながらルミアの自主性に任せていると、突然赤髪の少年が立ち上がり、


「な、なんで生きてる!?」


 そうルミアに言い放ったのだ。おいおい、そりゃいくらなんでも言葉が悪すぎねぇか?

 まるで死んでいることを願ってるみたいじゃねぇか。

 すると、緑髪の少女が落ち着いた声色でフォローを入れる。


「落ち着きなって。どうせ逃げ帰ってきたんでしょ? で、偶然私達の会話が耳に入っちゃっただけ。

 ま、治癒師としての役割も果たせずに、ロクに戦えない冒険者には出来なかっただけの話だから」


「な、なんだ~......ってこたぁ、この一週間必死に依頼をこなしているように見せかけて、実はずっと一人で縮こまっていたってわけか。はぁ~、ビビらせやがって」


「ロトンとダッカの言う通りだな。コイツに依頼が果たせるわけがねぇ。

 だって、コイツは俺達の仲間を殺した人ご――」


「ちったぁ、黙りやがれクソガキども!」


 あまりの口ぶりに、さすがの俺も堪忍袋の緒が切れた。

 ぴょんと彼らのテーブルに乗り上がり、俺はビシッと指を突きつける。


「黙って聞いていれば、ルミアのことを悪く言いやがって。いいか、ルミアはな――」


「キャー♡ なにこの可愛いしゃべる猫!」


「ぬわっ!」


 ここぞとばかりに言おうとした瞬間、突然俺の体が後ろから持ち上げられる。

 その人物を見てみれば、先ほどの茶髪の少女であった。

 その子は俺に愛玩動物を見るような目をすると、そのまま一気に胸に抱き寄せたのだ。


 おっふ、背中側から小さいけれども確かな柔らかさが感じる......ってここで童貞発揮してる場合じゃね!

 この俺がそのちっぱい如きに負けると思うなよ? ルミアの前にひれ伏――、


「放してください」


 瞬間、全身が総毛立つような恐怖に襲われた。というか、総毛立っている。

 まるで冷凍庫にぶち込まれたような寒さを感じ、その視線を確認すれば、


「放してください」


「は、はい......」


 笑顔なのになぜか全く笑ってないルミアの顔があった。

 それこそ、先ほどの明らか悪口を言われた時よりも怒っている気がする。に、人間ってあんな圧のある笑顔出来るんだ......。

 そんなことを思いながら、同じく圧に負けた茶髪の少女が返事をしながら俺を机に下ろす。


「トールちゃんは自分の立場をわかっていますか? 後でお仕置きです」


 同じくきょとんとする俺に対し、冷たい視線のルミアがそう判決を下した。

 え、なんで!? 俺は「0:10」で被害者のはずなのに!?

 そう思いながらも言い返す言葉が思い浮かばず、なんか俺のせいで妙な空気になってしまった。

 なので、俺は仕方なく一つ咳払いして空気を戻し、


「ごほん.....えー、ともかくだ。ルミアがちゃんと依頼をこなしてきた証拠を今から見せてやるよ」


 そう言ってルミアに目配せすれば、彼女は一人受付窓口へ向かう。

 そこで受付嬢と向き合うと魔法バッグからミダモフルーツを取り出した。

 最初こそ取り出された植物を疑っていた受付嬢だが、取り出した本と見比べるとすぐに目の色を変え、


「ほ、本物です......本物のミダモフルーツです」


 その瞬間、俺の周りにいるクソガキどもの表情が一瞬にして強張るのがわかった。

 同時に、俺は侮っていた相手にやり返されるクソガキどもの表情に愉悦が抑えきれない。


「見たか、クソガキども。これが結果だ。これが事実だ。これが運命だ。

 たった今まさに――お前らはバカにしていた奴らに実力で劣っていると証明されたんだよ」


「嘘だ!」


 そんな俺の言葉に、赤髪の少年が否定する。そしてがなり声を混ぜたまま反論し始めた。


「ありえない! ルミアは俺達と同じ冒険者歴一年のはずだ!

 そんな奴が森の深層に生えるミダモフルーツをもってこれるはずがない!

 それにわけのわからないしゃべる猫もいるし! 実はお前が取ったのを渡しただけだろ!?」


「何を言い出すかと思えば、俺は死にかけた所をルミアに助けられたから恩を返しただけだ」


「な、なら、たまたま表層で生えていたのを取っただけとか? それならありえるでしょ!?」


「なら、もう一つ証拠を見せてやろうか。ルミア!」


「はい」


 茶髪の少女が食い下がるので、俺はもう一つの証拠を提示するようルミアに指示する。

 すると、ルミアは魔法バッグからもう一つのものを取り出した。

 それを見た瞬間、受付嬢は目を見開き、


「こ、これはドグラベアの爪......それも爪が黒くなっている。

 ドグラベアは爪が黒ければ黒いほど歴戦の個体と言われています。

 しかも、この黒さ......歴戦の中でも並みのドグラベアではありません! 超歴戦個体です!」


 え、そんな奴を俺達は命懸けで相手してたの? そりゃ、倒したら頭がおかしいほどの経験値を貰えるはずだ。

 にしても、今更ながら思うが、俺達が勝てたのって寄生状態だったからだよな。

 もし蛇がいなくて純粋なフィジカル勝負のドグラベア相手だったなら、正直死んでるだろう。

 ともあれ――、


「どうだ? ドグラベアは深層に生息域を持つ個体。これが深層の証拠だ」


「つ、爪が剥がれたのを拾っただけでしょ!?」


「それかたまたま出会った冒険者に助けてもらっただけとか!

 だったら、この依頼は達成されたとは言えないな!

 残念だったな、もうこれ以上は嘘つけないぞ!」


 藍髪の少年と緑髪の少女が必死に食い下がる。

 もはやここまで来るといっそ哀れに見えてきた。人間性的な意味で。

 なんとうか、お前らの方が冒険者向いてないぞ。意固地になってすぐ死ぬね。


「はぁ......お前ら猫(おれ)よりも状況を理解できないんだな。人間なのにな」


「「「「――ッ!!」」」」


「いいんです、トールちゃん。ここから先は私に言わせてください」


 その声に視線を向けるとルミアがニコッと笑っていた。

 今度は温度を感じる優しい笑みだ。よかった、いつものルミアだ。

 というわけで、俺はルミアにターンを譲るようにテーブルから降りると、スー子が近くに寄って来たので、可愛く思えて撫でた。

 そうこうしていれば、ルミアは”元”パーティメンバーに近づき、


「ごめんなさい」


 綺麗な姿勢で頭を思いっきり下げた。

 それからゆっくり上げ、ルミアは自分のありのままの気持ちを言葉にする。


「私は確かに、パーティのリーダーを救えませんでした。

 私の未熟さが、本当だったら救える命を失わせる結果に導いてしまいました。

 それは紛れもない事実であり、皆さんが私を許せないのはもっともです」


 顔を上げたルミアは、視線を受付窓口にあるミダモフルーツに向ける。


「本当はこの依頼を果たして皆さんに許してもらう予定でした。

 しかしたった先程、私は皆さんの本音を聞いてしまいました。

 それが皆さんが望む結果であるなら、私は望み通り皆さんの前から消えます」


「ルミ――」


「私にも事情があるため、冒険者業を続けることはお許しください。

 元パーティメンバーとして、皆さんのご活躍を心よりお祈り申し上げます」


 茶髪の少女の言葉を遮り、ルミアがもう一度頭を下げる。

 それは事実上の脱退報告であり、遮ってまで言ってみせたことが揺るがぬ意思を証明させた。

 そしてルミアはゆっくり歩き出し、俺を抱き上げ、


「あ、ちなみに、私はトールちゃんのおかげで無事に治癒魔法が使えるようになりました。ですから、もう皆さんのお怪我を治すことは叶いません。

 そして私は私で、これからは今度こそ救える命は救っていくつもりです。

 皆さんが無事に素敵な冒険者ライフを過ごせることも祈っております」


 そう捨て台詞を吐き、堂々とした姿勢で冒険者ギルドを出ていく。

 そのあまりにも清々しいほどのやり返しっぷりには俺もスカッとした。

 それこそ、俺が放棄した見返しざまぁをやってのけた感じで。


「にしても、ルミアがあんな風に言えるようになるなんてね」


「だな」


「スー子ちゃんが何か言ったんですか?」


「『ルミアがあんな風に言えるようになるなんてね』だってさ。

 確かに、出会った頃のルミアを考えるとこんな展開になるのは想像つかないよな」


「そうですね。あの時の私ではあんな風に言えることはなかったでしょう。

 ですが、トールちゃんと出会って、トラウマを打ち明けて......それで変われたんです」


「おいおい、スー子も忘れてるぜ」


「そうですね。スー子ちゃんもいてくれたから今の私があります」


「とにもかくにもまぁ――」


 スルリとルミアの腕から降り、そっと手招きした。

 それでルミアがしゃがんだのを確認するとそっと手を突き出し、


「お疲れ」


「はい、お疲れさまです」


「お疲れー!」


 そう俺達は同じ言葉を口にして、三人で仲良くハイタッチを交わした。

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)


「期待してる!」

「早く続きが読みたい!」


と途中で少しでも思っていただけましたらブックマークと↓にスクロールして★★★★★評価を入れていただけますと執筆の大きなモチベーションになります!

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