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第18話 森の王との戦い#3

 手数が足りない――そう思った時に現れた救世主。

 その正体は今戦っている個体と同じドグラベアであり、もっと言えばルミアが助けた幼体だ。


 それが自分よりも大きい存在に勇猛果敢に挑みかかり、タックルを食らわせている。

 その攻撃にはさすが大きい方のドグラベア――デカベアも体を怯ませた。


 しかし、ぶっ倒すまでにはいかなかったのか、数メートル押した所で止まる。

 その光景はまるで大人相手に子供がぶつかり稽古しているみたいだ。


「グァ」


 瞬間、チビベアの方が俺に視線を送り、何かを訴えかけてきた。

 内容こそわからないが、言いたいことは何となくわかる。「今のうちに攻撃しろ」......そんな言葉が瞳から訴えかけてくる。


「これはルミアという女神に感謝だな!」


 彼女が見せた優しさが、この局面で重要な一手を加えてくれた。そのチャンスを絶対に潰させるわけにはいかない。

 このまま一気に勝負を決める。それぐらいは漢を見せろよ、俺ぇ!


 拮抗状態の二体のドグラベア。その状況を利用し、俺はチビベアの背中を足場にデカベアの頭に接近する。

 それから一気に跳躍するとデカベアの顔にしがみついた。


「ぐっ!」


 瞬間、デカベアはチビベアを吹き飛ばし、俺を引き剥がそうと頭をブンブンと振り回す。

 その勢いはもはや絶叫マシンで、必死に爪を立てて掴んでなけりゃ振り落とされそうだ。


「グアァ!」


 暴れるデカベアに対し、チビベアがもう一度タックルをかます。しかし助走がない分、そのタックルでデカベアを動かすことが出来なかった。

 それどころか、デカベアの背中から生える五体の蛇の内三体がチビベアに噛みつき、残りの二体がこっちに来る。


「させません、<光槍(ホーリーランス)>!」


「プギュ!」


 俺に襲い掛かる蛇を止めようとルミアとスー子がそれぞれ魔法を放った。

 放たれた光の槍はドグラベアに直撃し、ほんの僅かな怯みの隙をスー子の風魔法が蛇を迎撃。

 しかし、その攻撃は頭を斬り落とすまでにはいかず。外野の攻撃を無視するように変わらず俺に蛇が向かってくる。


「チクショウ、このまま振り落とされてたまるか!」


 そう思いを言葉に吐き出し、俺は自爆覚悟でその場で<火球>を放つ。

 瞬間、丁度デカベアの頭の振り上げとタイミングが重なり、爆風によって思いっきり上空へ飛ばされた。


「くっ!」


 空中で全身が投げ出されるかのような気分を味わいながら、高く高くクルクルと回る。

 しかし、その勢いもやがて失速すると、前面に空が広がった。わぁ、空青い。

 その直後、遥か下に見えるデカベアに向かって落下し始めた。


 そんな俺に対し、最優先脅威を俺と定めたデカベアが全ての蛇を送り込んでくる。

 待ち構えたように口を開け、そこから闇の波動を放ち始めた。

 それに対し、俺は右手に砲筒をセットして、そこから放つ<風弾>で微妙な位置調整をしつつ回避。


 波動による攻撃が意味ないとわかれば、五体の蛇はその首を伸ばして噛みつきにかかった。

 どうやらそうまでして俺を仕留めたいらしい。そうすれば、この場はどうとでもなると思っているのだろう。

 だとすれば、甘いな。なぜなら――、


「それよりも先に俺がお前を仕留めるからだ!」


 落下の軌道を微調整しつつ、迫って来た蛇を躱し、炎の剣にセットし直した右手を振り払う。

 そして蛇の頭を一つ、斬り落とした蛇の胴体を足場にもう一つ。

 流れるようにして二体の蛇の頭を回避し、最後の一体は天辺から縦に切り裂く。

 また、その行動をブレーキ代わりにして――デカベアの頭に着地する。


「ここまで来たぜ。今度は絶対にミスらねぇ」


 デカベアの首に向けて炎の剣を振り下ろす選択肢もあった。

 しかし、それだときっと今の俺の自重では、最初の背中を斬った一撃と同じだろう。

 それに首の骨の切断というのは、想像以上の力と技術がいる。

 今の完全に体を使いこなせていない俺では斬り落とすまでにはいかない。


 だから、デカベアの頭に着地するとむしろその炎の剣をしまう。そして両手を大きく開き、そこからシャキンと爪を出した。

 ドグラベアの毛は硬質であり、俺の爪なんかじゃ傷一つまともにつけられない。

 しかし、そんな俺であろうと確実に攻撃が入る箇所がある。それは――目だ。


 目はスライム系やゴーレム系、アンデッド系などを除き、ほぼ全ての生物に共通する弱点。

 肉体の一部でありながら、唯一の軟弱な皮膚......それが目だ。

 つまり、俺が今かるやることはホーンボアを倒した時と同じってこと。


「最大級をお見舞いしてやるよ」


 そう呟き、俺はデカベアの眼球に両手を突っ込む。

 当然その攻撃に対し、デカベアは激しく頭を振るうが、それは耐えるしかない。

 二体の蛇も頭上から迫ってくるが、それよりも早く俺は魔法を完成させる。


 両手から<火球>を生み出し、それでデカベアの脳を焼き尽くしながら、さらに一気にバースト。

 ドグラベアの口から一気に炎がボンッと吐き出される。

 それと同時に、俺もまた目から噴き出した炎によって吹き飛ばされた。


 先程に引き続き、二度目の自爆特攻。

 しかし、一回目とは違い、今度の攻撃はさすがに手ごたえがあった。

 なんせ頭の中で爆発させたんだぞ? これで死ななきゃおかしい。


「トールちゃん!」


「プギュ!」


 勢いよく横に弾き出された俺の背中を柔らかい何かが受け止める。

 包み込むようなそれは、スー子の自慢のスライムボディであった。

 加えて、その少し後にもう一つの衝撃に襲われ、今度は大外から綺麗な手が伸びてくる。


 ルミアの手だ。どうやら俺はスー子→ルミアの順で受け止められたらしい。

 そしてそのまま抱きしめられ、勢いを殺しきれなかったのかルミアが「キャッ」と可愛らしい声で尻もちを着いた。


「すぐに治療します!」


 尻もちの衝撃を気にすることなく、ルミアはそのまま俺を地面に寝かせるとすぐに治療を始める。

 温かい光に包まれ、薄れかけていた意識やもはや感覚がなかった両手が少しずつ復活するのがわかった。


 同時に、急速にお腹が空いてくる。逆に言えば、そこまでのダメージを受けたということだ。

 それに<回復>を受けてすぐに動けない辺りもそうか。


「トールちゃん、無茶し過ぎです」


「プギュ!」


「はは、ごめんごめん」


 そう謝りつつも、次も無茶しないとは限らない。

 なぜなら、現状ではこれぐらいしないと勝てないからだ。

 だから、ルミアには怒られるけど、しばらくはその方針だ。


「ドグラベアの方は......」


 ルミアの怒った顔から目を逸らすように、俺はデカベアに意識を向ける。

 どっちにしろ、ちゃんと倒せたかの確認は必要だからな。

 死んだふりからの不意打ちというのは、思った以上に凶悪で有効手段なのだ。


「......おいおい、マジかよ」


「そんな.....」


「プギュ......」


 黒煙の中から立ち上がる五体の影。それぞれが自由な動きをしつつも、視線は真っ直ぐこちらを射抜いている。

 やがて煙が晴れれば、当然正体はデカベアの背中から生えてる影だ。

 しかし、本体であろうデカベアは既に死んでいる。頭が半分無いし。


 ということは、あの蛇はデカベアに寄生してたわけではなく、そもそも別の個体ということ。

 ハハハ、マジかよ。さすがにそれは想定外すぎるぞ。

 あの息の合った連携みたいなのも全部別かよ。今からやれるか? 俺。


 完全に狙いを定めた五体の蛇が大きく口を開け、そこに闇の球体を創り出す。

 あの凶悪ブレスで完全に仕留めるつもりらしい。

 一本のブレスであればワンチャンあったが、五本となるとヤバイな.....って、嘆いてても始まらねぇ。俺のバングルで最強固の盾で塞ぐ――、


「ん?」


 そんなことを考えてる矢先、五体の蛇の後ろからのっそり動く小さな影――それは勇猛果敢に挑んだチビベアであった。

 そのチビベアが気配を殺し、五体の蛇の背後からゆっくり近づいていく。

 五体の蛇は完全にこちらに殺意を向けているようで気付く気配はない。


「グァ!」


 瞬間、一気に飛び掛かり、両前足で五体の蛇が生えている根本であるデカベアの背中にのしかかった。

 その直後、パキッと硬質な何かが割れる音が小さく聞こえ、同時に蛇の動きが止まる。


 今にもブレスを放とうとしていた蛇の口から闇の球体が消え、やがてゆっくりと肉体が根本から崩れていった。


 その光景はまるで肉体が粒子に変換されていくようで。

 不謹慎であるが、その光景だけはほんの少し幻想的のように感じた。

 ま、もう二度と見たくねぇ幻想ではあるが。


「終わった.....んですよね?」


「プギュ」


「たぶんな......お?」


 そんなことを三人して呟いているとそれを証明するように全身が眩く光る。

 これは敵を倒して一定の経験値を得た時に発生するレベルアップのエフェクトだ。

 逆に言えば、このエフェクトが出たということは、完全に倒した証になる。

 もっとも、レベルアップした時限定にはなるのだが。


「なんだか体が熱くなるほど力が湧いてくるな」


 体を起こし、俺はスー子を背もたれにだらしなく座りながら、自分の手を見つめる。

 すると、俺と同じ感想だったのかルミアとスー子もその声に反(・)応(・)した。


「そうですね、私もここまでの経験は初めてです」


「スー子もだよ、ボス」


「二人とも同じ反応か。となると、思った以上の強敵を倒したかもな」


「ですね.....ん?」「だねー......ん?」


「........ん?」


 二人の的確は反応を受けて、サラッとスルーしてしまったが明らかな違和感だ。

 それはルミアもスー子も同じようで、揃いも揃って視線をこちらに向けてくる。

 そして三人して首を傾げる(スー子もそんな顔してる)と俺は口を開き、


「えーっと、一つずつ確認するけど、ルミアは俺の言葉がわかる?」


「はい.......ハッキリと。これまで『ニャ』にちょっとしたバリエーションがあるだけで、行動や態度からなんとなく言葉の意味を探っていたんですが......今は何も意識せずとも言葉が聞こえます」


「そっか、言葉が聞こえるんだ.....」


「はい......聞こえます!」


 その瞬間、胸の内側から猛烈に熱が沸き上がってくるのを感じた。

 それはマグマのように灼熱で、だけど怒りによる激情といったものではない。

 嬉しい......そう、ただひたすらに嬉しいのだ。感動しているというべきか。


 猫だからか上手く泣けないが、それに匹敵するぐらいの心の震えを感じている。

 そんな俺と同じように感化されているのか、ルミアの目が赤く染まる。

 同時に、その瞳はうるうると揺らぎ、両手はそっと口を塞いだ。


「聞こえます......聞くことができます......」


 そう呟き、ルミアの両目から涙がこぼれた。

 その小さな川はやがて大河へと代わり、口を押える手を通過し、地面に滴り落ちる。

 言葉に出来ない感情の一部が嗚咽に代わり、嬉し涙に声を震わせていた。


 その表情は、まるでずっと目を覚まさなかった大切な人が目覚めた時のように。

 いや、さすがにそれは俺の誇張がすぎるか。でも、それぐらいに匹敵している。

 そんなに俺としゃべれることを喜んでくれるなんて.......わっ!


「聞こえます、聞こえます!」


「あぁ、そうだな」


 突然、ルミアに抱き寄せられ、俺の顔に頬をくっつけてくる。

 今までであれば、抱き上げられるだけで猫扱いのようで嫌だったのだが、今回ばかりはいいか。

 だって、ここまで喜んでくれているんだ。好きにさせてあげよう。


「ボス?」


「あぁ、そうだった。スー子にも用があったんだ」


 依然ルミアに抱きしめられたまま、俺は眼下に見えるスー子に声をかける。

 なんというか、より表情から感情が見れようになったのは俺だけだろうか。

 それに声を聞く限り女の子っぽく聞こえるのは俺補正? スライムって雌雄なかったはずだけど。


「スー子は俺の言葉聞こえるのか?」


「ん? スー子はもともとボスの言葉わかるよ? でも、なんかよりハッキリわかるって感じ!

 今までのボスの言葉は冷たい石みたいな感じだったけど、今は温かいお花みたい!」


「そうなのか。実を言うと、今までスー子の言葉は『プギュ』ぐらいにしか聞こえなかったんだ。

 だから、これまで意思疎通出来てるように見えて、実際に聞き取れてる保証はなかったんだ」


「あー、なるほど。だから、時々ボスってば何言ってんだろって時あったんだ」


 え、それは一体どの場面? なんか如何にもわかってる風で間違ったこと言ってたなら、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!?


「でも、これでボスはスー子の言葉がちゃんと通じるようになったんだね!

 やったー! ボスともっとおしゃべりできるー!」


 そう言って言葉通り嬉しそうにスー子がぴょんぴょんと跳ねる。

 そんな嬉しそうなスー子に対し、俺も思わずほっこり。

 仲間内で団らんとしていると近くにチビベアがやってきて、


「あのー、和んでるとこすみません。自分、お邪魔ですか?」


「お前もしゃべるんかい」

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)

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