第17話 森の王との戦い#2
ドグラベアとの第二ラウンド。というか、それ以前の問題。
攻撃が当たるとわかった以上、現状でも倒せることはわかった。
しかし、問題は依然火力不足ということだ。これはだいぶ時間かかるぞ。
それに俺達は揃いも揃って紙装甲と来た。いくら魔法で強化したとしても、ドグラベアクラスになれば焼け石に水だ。
つっても、やるしかないんだけどな。ほぼノーミス縛りか、ヒヤヒヤするな。
「うし、やるか!」
そう独り言ち、俺はすぐさまドグラベアに特攻を仕掛ける。
当然、五体の蛇が猛然と襲い掛かり、その巨大な口で迫って来た。
毒があるかどうかは定かじゃないが、どちらにせよ当たれないし検証は無理だな。
ドスドスドスと連続で降り注ぐ蛇頭の槍をギリギリで躱し、斬れる頭は斬っていく。
先程の俺への攻撃で再生されることはわかったが、何も即時再生ってわけじゃないらしい。
多少の時間がかかるとすれば、減らせば減らすだけ安全地帯が増えるということだ。
蛇の頭を適度に炎の刃で切断し、フィジカルで薙ぎ払おうとするドグラベアの腕振りを回避する。
それから攻撃するも、俺の攻撃が背中よりも固い腕の装甲に阻まれ苦戦。
そんな最中、遠くにいるルミアが魔法を発動させた。
「<光弾>、<光槍>」
魔法は二つで、一つがドグラベアを中心に空中に展開させた大きさ三十センチほどの数多の光球。
そしてもう一つが一メートルぐらいのサイズをした光の槍だ。
それは数多に浮かぶ光とは別に、輪を描くように矛先がドグラベアに向いている。
なんという幻想的な殺意だろうか。もっとも、ルミアにそこまでの意思はないだろうが。
しかし、ここまで彩られたとなれば、俺も見てるだけじゃいられねぇ。
今は魔術師よりのステータスなんだ。その芸術に別の色どりも加えよう。
「大盤振る舞いと行こうか!」
俺が使える攻撃魔法である<火槍>、<水弾>、<雷剣>、<風弾>、<石槍>をルミアと同じように空中に展開させる。
いくつか道中で生み出した魔法であるが、ルミアと合わせた数はざっと五十ぐらい。まるで冬のイルミネーションのように色とりどりが向かう先は一つ。
「いくぞ、ルミア!」
「はい!」
俺とルミアは、意思疎通もなく同時に魔法を行使した。
腕を振り下ろし、それらが一斉にドグラベアへ向かい――着弾。
激しい明滅と爆発を繰り返し、発生した爆音が風を薙ぎ払う。
黒煙と砂塵が周囲に舞い散り、踏ん張らなければ吹き飛ばされそうなほどの風が吹いた。
俺とルミアのコンビネーション技と言えるやつだ。さっきの俺の一撃よりはダメージは入ってるはず。てか、入っててほしい。でないと、マジで渋い戦いになりそうだから。
「やりましたかね?」
「あ、フラグ!」
「まだ生きてるんですか?」
咄嗟に呟いたルミアのもはや有名なフラグ回収言葉に反応すると、こっちに質問を返してきた。
恐らく俺の言葉は「ニャ」ぐらいしか伝わってないのに、「まだ生きてる」と勝手に解釈してくれたのだろう。
それで油断しなくなってくれたのはありがたい。それにそう簡単に殺られてくれるような相手だったらどんなに楽か。
そう思っていれば、僅かな黒煙の揺らぎが俺の視界に入る。
「グオオオオォォォォ!」
黒煙を羽衣のように纏い、悠然とドグラベアが飛び出してきた。
先程の一撃が大したことがないように、動きのキレも先程変わりない。
そして走った勢いのまま大きく跳躍して、俺の頭上に降り注ぐ。
俺からすれば、巨岩が降り注いできたような圧迫感だ。
加えて、そののしかかりが来るよりも先に、蛇の頭が俺の逃げ道を塞ぎにかかる。
逃げ出す先を潰すように先回りして攻撃し、挙句再生途中のやつも躊躇なく叩きつけてきた。
「ちょ、ま、これはヤバイ。ギリ範囲外へ間に合うかどうか――」
「<波動光>」
「プギュ!」
瞬間、視界の端で杖を突き出したルミアが、光の奔流を放つのが見えた。同時に、その攻撃に合わせてスー子が飛び出し、作り出した大きな人の手に炎の剣を握って斬り下ろしている。
その同時攻撃はドグラベアを空中で撃墜し、その巨体をほんの少し横へ移動させた。
落下までの時間、それを回避に利用して距離を取る。並行して右手に砲筒をセット。
圧縮させた火球を振り向きざまに放ち、その反動で俺はルミアの近くまで後退した。
また、放たれた大きめの火球はドグラベアに直撃し、再びオレンジ色に爆ぜながら、その場一帯を黒煙が隠す。
「助かった、二人とも。ありがとう」
にしても、ルミアが意外に攻撃魔法を多く持っているのもそうだが、スー子の器用さには毎度驚かされる。それこそ、スー子が俺TUEEEのテンプレを演じているかのようだ。
もちろん、その場合の配役はスー子が主人公であり、俺は主人公の強さに口をあんぐりさせる相棒だ。
それぐらい気が付けば俺の知らないところで戦闘レベルを新幹線並みの速度で上達させている。
さっきの炎の剣だって恐らく俺のバングルを使用した攻撃の模倣であろう。
それも俺はバングルを使ってやってるというのに、スー子は生身だ。
うん、なんだろうね。嬉しんだけど、ちょっと俺の立場が食われそうで焦る。
自分の心の狭さが浮き彫りになって、自分で自分を悲しく感じるよ。
「グルルルルォォォオオオオ!」
瞬間、再びドグラベアの咆哮が轟き、震えた大気が黒煙を消し飛ばす。
同時に、ドグラベアの背中にいる蛇の頭はそれぞれ口を開け、禍々しい魔力を込めていた。
おぉ、なんつーか――嫌な予感しかしねぇな!
「――っ!」
五体の蛇から一斉に闇の波動が放たれ、それが瞬く間に硬質な石床を削っていく。
咄嗟に俺達はその場から回避し、ルミアとスー子、そして俺と二手に分かれ、柱の後ろに隠れる。
とりあえず二人とも無事のようだ。それは良かった。
「にしても、あの状態......どうすっかな」
闇の波動は蛇の動きに合わせしっちゃかめっちゃかに動き回り、周りにあるものを手当たり次第に破壊している。
となれば、俺達がいる場所もいつまでも安全とは限らない。
あのブレスを止めるには、当然距離を詰めて攻撃すること。
さすがにこの役割はルミアとスー子には荷が重い。てか、させられない。
となりゃ、男トール、カッコつける場面が来たってこった。
「トールちゃん!?」
一瞬の隙を見極め、俺はドグラベアに向かってまっしぐら。
その光景を見ていただろうルミアから声が飛んできた気がするが、さすがに波動音の方が大きすぎてわからないし、それを確かめる余裕も無い。
一体の蛇が俺を視認し、ブレスをそのまま薙ぎ払ってくる。俺を追いかけるように地面が削れ、少し遅れて爆発が一気に連鎖した。
気分はまるで赤いレーザーを避けるアクション俳優のようだ。
もっとも、猫であるためカッコよさよりも可愛さが勝ってしまうのが悲しいが――って、ちょまっ!
「間に合えっ!」
瞬間、一気に二体の蛇が両側からブレスを放ってくる。俺の進行方向を予測したような三方向の挟み撃ちだ。
今の速度では追いつかれると思い、咄嗟に反転しつつ、右腕に砲筒をセットする。
それから現状最大チャージの<風弾>を放ち、その反動を推進力にしてほんの少し早く離脱した。
「ぐっ!」
砲弾を放った直後、すぐにその腕から<土壁>を創り出し、同時に盾へと変形。
直後、三つのブレスが一点で重なったことにより巨大な爆発が発生し、それに伴う爆風が俺を襲った。
火傷しそうな爆炎にも飲まれも、辛うじて直撃を防ぐことに成功する。
「ぐはっ!」
しかし、悲しいかな。俺の体は猫なのだ。つまり、軽い。
容赦なく吹き飛ばされた後、俺の体はどこかの瓦礫に背中から打ち付けられた。
凄まじい衝撃が背中を襲い、鋭利な激痛と持続する鈍痛が同時に襲い来る。
動けはするが......なんとなくわかる。これは内臓が傷ついたなと。
喉の奥から込み上げてくる特有の血の味。これまでで何度も味わった味である。
たった一撃吹き飛ばされただけで、俺のHPは三分の一を下回ったようだ。
もうちっと上手くカッコつけたかったが、どうやら世の漫画の主人公みたいにはいかないらしい。
それにすぐに動きたいところだが、まだちっと時間がかかりそうだ。
「おいおい、頑丈さぐらいが俺の取り得だろうが......」
今は無き元の肉体、その頃の俺はパーティで重戦士――タンクをやっていた。
パーティの編成理念により強制離脱されたが、それでも俺の心は未だタンク。
鈍重な構えで誰よりも長く立ち、絶対に死なせない覚悟で仲間を守る。
そう、パーティで仲間を守る以上、誰よりも心が折れちゃいけねぇ。
激痛だろうがなんだろうが、立って盾を構えるのが俺の仕事のはずだ。
今の俺にそれが出来なくなったからと言って、心まで猫になった覚えはねぇぞ!
「なめんじゃねぇぞ! クマ公がぁ!」
ヨロヨロの状態で四つん這いになるも、俺は全身の毛を逆立たせて威嚇。
いや、それもあるが、今の俺からすれば自分を鼓舞するための行動と言うべきか。
薄くなった煙の隙間からドグラベアのシルエットを捉え、一気に走り出す。
すると、煙の奥から俺の姿を捉えたように蛇の頭がキランと光り、それが一瞬で大きくなった。
「――っ!」
煙の壁を突き破り、蛇が大きな口を開けながら現れた。
しかし、その噛みつき攻撃が届く前に、俺は一手早く跳躍し、炎の剣で頭を切断。
それにより安全空間を作り出したのも束の間、今度は一気に四つの頭が煙から出てくる。
咄嗟に左手の爪を切断した蛇の胴体に引っかけつつ、右手を砲筒に変え<風弾>を後方に打ち出すことでで前方へ移動する。
それにより蛇の四つの頭の攻撃を回避し、掴んだ蛇の胴体を足場にして一気にドグラベアに接近した。
「トールちゃん、ご無事でしたか!?」
「プギュ! プギュギュ!」
「え.....あ、アシストですね! では、私は遠隔でトールちゃんを回復させます!
スー子ちゃんはトールちゃんの後ろから追いかけてくるあの蛇を迎撃してください!」
「プギュ!」
蛇の頭を移動している最中、俺の鋭くなった聴覚が二人のそんな会話を捉える。
あのルミアの反応、まるでスー子の言葉を理解しているような口ぶりだな。
この度を通じてなんとなく相手の伝えたいことを理解してきたというのか。
そんなことを思っていれば、俺の体が少し軽くなる。恐らくルミアの<回復>の影響だろう。
治癒師としての能力を復活させてから活躍が目覚ましいな。
「全く頼もしいな! なら、俺も期待に応えてやるか!
ルミアから貰った帽子に相応しい猫もとい男として、ジャイアントキリングを見せてやる! その頭、貰うぜクマ公!」
蛇の胴体から跳躍し、そのまま炎の剣を横に振り抜く。
しかし、その攻撃に対して、ドグラベアはすぐに振り返ると口で噛んで止めやがった。
もちろん、炎で構成された剣なので触れるだけで火傷する。
だが、その口の火傷を一切気にすることなく、痛がる素振りすら見せない。
「本格的に痛覚死んでんのかよ!――ぬわっ!」
あのままカッコよく勝負を決めたかったが、さすがにそのムーブは予想外だ。
結局、ドグラベアの首振りに合わせて俺は地面に吹き飛ばされる。
せっかくのチャンスを活かしきれないか。そういうとこだぞ、俺。
「とはいえ、反省しつつ再トライ!」
俺を投げ飛ばしたクマ公がそのまま巨体を走らせ、前足を振り下ろす。
咄嗟に躱せば、地面に叩きつけられたそれは一撃でその場を軽く凹ませた。
「グオオオォォォォ!」
「ぬあああああ!」
ドグラベアとの激しい剣戟――と呼べるかはわからない。
しかし、俺がドグラベアの攻撃を紙一重で躱し、カウンター気味に反撃。
それをドグラベアは肉体で受けたり、腕の装甲で弾きながら攻撃し返す。
そんな流れが続いていき......いや、続けられているというべきか。
本来なら俺はドグラベアの圧倒的な手数に防戦一方になっててもおかしくない。
しかし、それが維持できているのは、後方でルミアとスー子が蛇を迎撃してるからだろう。
だからこそ、俺はドグラベアとのタイマンに集中できる。
とはいえ、このままではジリ貧であることは確か。
一手、あと一手足りない。あともう一人誰かが居れば、決着までもっていける。
せめて何か俺の決め手までの時間稼ぎをしてくれる存在が――、
「グオオオォォォォ!」
瞬間、大きな咆哮が聞こえた――それも背後から。
振り向いて確かめたかったが、そんな余裕はない。
そう思っていれば、その声の主は自ら俺の近くに現れる。
「お前は.......」
目の前にいるドグラベアに向かってタックルをかます二回りほど小さいドグラベア。
その姿に見覚えがある。こいつは確か――ルミアが助けた幼体のやつだ。
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)




