第15話 旅は山あり谷あり
網膜が焼ける。新しい朝の到来だ。
しかし、それは朝日によるものではなく。パチパチと音を鳴らす焚火のもので。
目を覚ますとすぐ近くで焚火台で料理をするルミアの姿があった。
相変わらず家庭的な雰囲気が似合う子である。そんな子に料理を振る舞ってもらえるなんて一体どんな徳を積んだのか......ってその前に猫だ、俺。
寝ころびながら俺は大きく伸びをする。
もうさすがにこの体にもだいぶ慣れてきたな。いや、慣れたくねぇんだけども。
とはいえ、いつ戻れるか分からない以上、この体とも長い付き合いになりそうだしな。
「あ、おはようございます。今準備するので少し待っててくださいね」
俺の目覚めに気付くとルミアがすかさず挨拶してきた。
その時の彼女の表情は非常に晴れやかだ。
焚火の明かりしかないこの場でも彼女の周囲だけ明るく見える。
見てるこっちがドキドキしてしまうような素敵な笑顔だ。
恐らく、回復魔法が使えるようになったことで、心のつっかえが取れた感じだろう。
まぁ、相当追い詰められてたしな。いや、自分で追い詰めたって感じか。
ともあれ、彼女の精神が良い方向に向いたのは良い兆候だ。
「トールちゃん......こちらへ」
朝食が出来るとルミアは相変わらず俺を抱えて食べさせようとしてくる。
相変わらず俺を甘やかしたくてたまらないらしい。
悪い気はしないが、このままではダメ人間ならぬダメ猫になってしまう。
というわけで、今回は伝えることがあるということで離れさせてもらった。
実際、確かめたいこともあったしな。だから、そんな悲しそうな顔しないでくれ。
ただでさえ下がり眉で目尻まで下げられると、本当に可哀そうなことしたみたいじゃないか。
「『ルミア、現状で確認しておきたいことがいくつかある。今、自分達がどの位置ぐらいにいるかわかるか?』」
「私達の位置ですか? う~ん、そうですね......」
俺の質問にルミアがバッグから地図を取り出す。
川の中を通って来たというのに、バッグの中に入ってた濡れておらず地図は無事だ。
やはり異次元と繋がってるという噂は本当だったか。魔法バッグ様々だな。
「えーと、確か私達が前回地図で確認した位置はこの辺りぐらいで......それから真っ直ぐ川に向かって目指していたはずなので、こっちの方角とすると.....」
深層に入った場所を覚えていたルミアが、その位置を指さす。
それから川のある方向へゆっくり指を動かし、川岸辺りで指を止めた。
「恐らく川に入る前にいた最後の地点はこの辺です。ただ、その後は川に流されたはずなので、どのくらい流されたかは......少なくとも、滝があるとされる場所よりは手前なのは確定ですね」
ルミアの話を聞きながら、俺は朝食のスープに溶けたパンをちびちびと食べる。
本当は浸パンよりつけパン派なのだが、手が使えないので仕方ない。
というのは、どうでもよく――、
「そうだな。滝に行ったら真っ先に滝壺にドボンで、その場合俺の体は恐らく耐えらない。
それを考えると滝よりも前で、幸い遺跡も滝よりも前の位置にあるからそう離れてはなさそうだな」
「プギュ」
「ん? 『ここ』って......場所知ってるのか?」
その時、突然スー子が器用に指を作り、それでとある川岸を指さす。
そこには誰かが手書きしたようなバツ印のマークがあった。
これは最初からあったもので、深層が初めてのルミアのものではないだろう。
だとすれば、以前誰かが使っていた地図ということになるが、こういうのは時折見かける。誰かの中古を買ったやつとか。
新人冒険者時代はとにかくお金がないので、比較的に安く済むそういったものを買いがちなのだ。
「ここは私が初めて買った時からありました。
一時、『ここに何かが隠されてる』って仲間の男の子が言ってまして、そこを目指して中層に挑んだのですが......それ以前の問題で。
ただいつかここを調査してみようという話にはなってました」
ルミアの話を聞きつつ、チラッと隣の半透明の相棒を見てみる。
すると、スー子はまるで自信があるかのように力強く跳ねた。
なので、意見を伺うようにルミアに視線を飛ばせば、
「なら、場所を確かめに行きましょう。どちらにせよ、水分補給用に水筒の準備をしたかったですしね」
「『いいのか? 予約していた仲間との思い出を一つ消すことになるけど』」
「そうですね。ですが、いいんです。今はトールちゃんやスー子ちゃんとの思い出を増やしたいので。
一緒に楽しく幸せな思い出を増やしていきましょう」
「――!」
そんな優しい笑みをにへらぁと浮かべるルミア。
彼女からそんなことを言われ、思わず俺の心がドキッと跳ねる。
え、なにそれ可愛い。ど、どうしよう......俺、この子好きになっちまう!
だぁ! でも俺、猫だぁ、チクショウ!
「『そうだな。朝食を食べたら早速出発だ』」
荒ぶる内心を抑えつつ、文章では冷静を装って返答した。
そして朝食を食べ終えると俺達は地図をもとにその場所に戻ってみる。
一旦川岸まで移動し、そこから周囲を見渡してバツ印の位置を捜索。
地図に印を残すぐらいだから、当然隠し場所にも目印があると思うんだけど。
「プギュ!」
その時、スー子が「見つけた!」と元気よく何回も跳ねる。
なので、その場所に案内してもらえば、とある木の根元に確かに同じ印があった。
ナイフで掘られたような特徴的なバツ印。さすがに魔物ではあるまい。
「見た感じ何もありませんね......」
ルミアの言う通り、そこにあるのは印が施された木だけだ。となれば、相場は土の中と決まっている。
ならば見せてやろう――猫になった俺の穴掘り技術を。
「おりゃりゃりゃりゃりゃ!」
瞬間、土魔法と<魔力操作>を併用して地面を掘りやすいよう柔らかくしながら、俺は木の根元の地面を一気に掘り返し始めた。
魔法で掘れれば一番であったが、あいにくまだその熟練度には達してないしな。
ともあれ、一心不乱に掘り続けるとやがて土や根っこ以外の感触に辿り着く。
今度はそこの周りを掘り進めれば、現れたのは小さな宝箱だった。
「な、なんたるロマン!」
「宝箱......! 何が入ってるんですか?」
「プギュ!」
ルミアもスー子も興味深々のようで、かく言う俺もドキドキしながら宝箱を開ける。
すると、そこにあったのは魔石がハマった黄金のバングルと一枚の手紙だ。
バングルは一般的なアクセサリーサイズよりかは少し横幅が広い。
恐らく魔石の関係だろうが......この透明感のある魔石は見たこと無いな。
「手紙にはなんて書いてあるんですか?」
「そうだな。見てみよう」
ルミアに言われ、俺は付属していた手紙を両手に取る。
それからルミアに開封してもらうとそのまま読み上げて貰った。
その内容を要約すると、ここに宝箱を埋めたのは自称ロマン求道者で生い先が短くなった頃、自分が味わった宝を見つけるロマンを世の冒険者にも味わって欲しく世界各地に宝を埋めていったらしい。
その埋めた宝はほぼどれもが売れば一攫千金を得られる代物ばかりであり、同時に物によっては売るよりも使った方が有用なのもあるようだ。
というわけで、俺達はそのロマンの一つを手にしたらしい。
「ということは、そのバングルは何か効果が付与されてるのでしょうか?」
そうだなぁ、大抵こういうやつは装備すると効果を発揮――っと!?
右手をバングルに通した瞬間、俺の手首に合うようにバングルの大きさが変わり、ピタッとくっつく。
同時に、俺の脳内にこのバングルの使い方が一気に流れ込み、この魔道具――いや、魔宝具の使い方を理解した。
これは......自分のイメージに合わせて自在に形を変える魔力武器......だと!?
ってことは、俺がイメージできるものなら何でも再現してくれるってことか?
脳内に流れた説明をもとに、早速俺は試してみることに。
ルミアとスー子に離れてもらうと俺はそのバングルに魔力を通していく。
何が起こるかわからないので、一応水属性辺りにしておこう。
イメージ......うーん、そうだな。無難に剣あたりにしておこうか。
「いでよ、我が剣!」
もちろん、こんな言葉を言う必要はないのだが、なんとなくカッコつけたくなった。
それはともかく、俺が魔法を展開した瞬間、手首のバングルから少し浮くようにして水の剣が出来上がった。
それは俺の手の振りに合わせて動き、そこに一切のブレがない。
そんでもってイメージに合わせて変形となれば――、
「ドパンとな」
咄嗟に右腕を川の反対岸にある木に向かって伸ばし、左手を支えにする。
それからイメージを砲筒、同時に水から土に術式を変更してセットした。
直後、ドラ〇もんの空気砲のような土の砲筒が出来上がり、そこから土塊が射出。
弾丸程ではないが十分な速度で飛翔したそれは、目標である木の横を抉るように掠めた。
うん、普通に土の術式を付与した魔力でこの威力だ。
より高度な術式を設定すれば、それこそ弾丸のような感じで放つことが可能だろう。
エイムは要練習だな。にしても、リーチが増えるのは純粋にありがたい。
接近された場合、避けるしか俺に行動選択肢が無かったからな。
イメージすれば盾にもなるし、突然リーチを伸ばして奇襲も可能と来た。
加えて、魔力武器という俺のためにあるようなものだな。術式による効果も反映されるのか気になるが、それは後でいいだろう。
それになにより――、
「『かなり良いものを手に入れたぞ!』」
この文字をスムーズに書ける感覚!
これまでの俺はいちいち枝を両手で掴んで全身を動かしながら書かなきゃならなかった。
しかし、土魔法で細い棒を創り出せば――あら不思議! 片手で書けるじゃないの!
相変わらず文字での意思疎通しか出来ないが、会話スピードが上がったのは嬉しい。
会話テンポは速すぎても遅すぎても相手に不快感を与えるものだからな。
俺はずっとルミアが実はイライラしてたんじゃないかと不安だったのだ。
それが少しでも解消されたのはかなり嬉しい。なんだったら、武器形態よりも嬉しいぐらい。
「良かったですね、トールちゃん」
「プギュ!」
「『あ、なんか俺が使う流れみたいにしちゃったけど、本当に俺でいいの?』」
ゲームのプレイヤーであれば、適正者に適正道具を渡すのが正解なのだが、ここは異世界でも現実だ。
宝の奪い合いとかで余計ないざこざが起きても困る。
といっても、冒険者は割と効率厨みたいな所あるから、揉めたことは少ないが。
そんな俺の質問に、二人は二つ返事で答えた。
「もちろんです。これでトールちゃんの戦術が広がるとなれば、私達の生存確率上昇にも繋がりますし」
「プギュギュ」
「『金色が似合ってる』か。スー子だけ若干コメントの毛色が違うが、俺に勧めてるのだけはわかる。
となれば、このままありがたく使わせてもらうか」
というわけで、俺達は現在地を確かめることができ、さらに棚ぼたで魔宝具まで手に入れた。
まるでこれまでの不幸が嘘のように嬉しいこと続きで、だいぶ調子も上がって来た。
なので、このまま目的であるミダモフルーツの回収と行こうじゃないか。
「『目的地である遺跡までそう遠くはない。
このままいけば明日か明後日ぐらいには辿り着くだろう』」
「そうですね、頑張りましょう」
「プギュ!」
「『だが、こうして調子づいた時に油断するってのもお決まりのパターンだ。
ルミア、スー子......この森に入る前に教えたルールは覚えてるな?』」
「基本的に静かに行動ですね。それから、魔物とは極力交戦はしない。
相手が一体以上であれば、即座に撤退を視野に入れて行動する」
「プギュー」
「『その通り。幸い、今回のルミアの依頼は採取だ。
上手くいけばこのまま交戦せずに採取することも可能のはず。
喜ぶのも程ほどに、気を引き締めていくとするぞ』」
「了解です」
「プギュ」
「『よし出発だ!』」
そう意気込んだのも束の間、俺達はこの森で出会ってはいけない魔物と出会う。
それは体長だけで三メートルあり、棘甲羅を背負ったような硬化した毛並みを持つ大きな熊。
その名も――
「ドグラベア......」
このサイバル森林にて頂点とされる魔物と鉢合わせてしまった。
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)
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