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18.軽率な外出 その2

 ターゲットの女が拳銃を二丁取り出すのを見た時、不良グループのリーダー、キーザスは“かっこつけやがって、くだらねぇ”とそれを馬鹿にした。

 二丁拳銃は現実的じゃない。命中精度が大きく下がるからだ。

 だから、突然消えたと思ったターゲットの女が目の前に現れ、自分の隣にいた仲間に向けて銃弾を撃ってやはり命中しなかったのを見て、“それ見ろ”とそう思ったのだ。

 が、彼の予想は見事に外れた。

 彼女は銃弾を二発撃ち、二発とも当たらなかったのだが、その次の瞬間、赤く光る細い線がその二発の銃弾の間に走ったかと思うと、その線はそのまま仲間に絡みついて、なんと動きを封じ込めてしまったのだった。

 “捕縛の魔法だぁ?”

 恐らく、彼女が放った銃弾は二つとも特殊な呪術を施されていたのだろう。弾と弾の間にいる敵の動きを封じてしまうのだ。

 銃撃の欠点の一つは、その攻撃範囲が“点”である事だ。だからこそ、相手に当てるのが難しい。しかし、この攻撃方法ならば、“点”ではなく“線”になる。相手に銃撃が当たらなくても、二つの銃弾の間に敵がいさえすればそれで攻撃が成立するのだ。

 

 “かっこつけ”じゃねぇ! この女、ちゃんと考えてやがる!

 

 直ぐにキーザスは、ターゲットの女に向けて銃を撃って応戦したが、どうやら高度な移動魔法を使えるらしく、あっさりと逃げられてしまった。

 “くそう! 意外に手強いぞ、あの女”

 彼らはターゲットの女が戦闘訓練を受けているとは知らされていた。だが想定以上に強い。もしかしたら、仲間をバラけさせたのは失敗だったのかもしれない。

 「気を付けろ! 捕縛の魔法を使うぞ! 弾が外れたと思っても気を抜くな!」

 大声でそう忠告したが、そう言った途端に銃声が響き「うわぁ」という悲鳴が聞こえる。恐らく、誰かがまた捕縛されてしまった。

 “殺す必要はない”と言われていたが、殺す気でいかなければ、全員捕縛されて終わりかもしれない。

 キーザスはそれから懐を探った。魔法解除の呪符を彼は持っている。ただし、一枚しか持っていない。仲間全体でも5枚か6枚くらいしかないだろう。横で転がっている仲間を解放するのに使っても良いが、それでは自分の分がなくなってしまう可能性がある。考えて慎重に使っていかなければ。

 “取り敢えず、他の連中と合流するか。あの捕縛の魔法は、多人数を一度に拘束できないんだ。だから、あの女は仲間がバラけるのを待っていやがった”

 そう思って、移動をしようとしたところで、再び悲鳴が聞こえた。今度は銃声が伴っていない。直接、捕縛の魔法を使われたのかもしれない。

 キーザスはその悲鳴が聞こえたのとは逆方向に向かって動き始めた。ターゲットの女を避けつつ仲間達と合流して体制を立て直そうと考えたのだ。

 が、甘かった。

 気配を察知したのか、動きを読まれたのか、少し進むと忽然とそこに女が現れたのだ。驚いた彼はそれでスリップして転んでしまう。女は銃口を彼に向けた。

 「ヒッ!」

 小さく悲鳴を漏らす。

 “終わった。撃たれる!”

 そう彼は覚悟したのだが、何故か一瞬女は躊躇したように思えた。そして、幸運にもそのタイミングで逆側から気配がする。どうやら仲間の一人が援護をしに来たらしい。女は片方の銃をそちらに向ける。威嚇射撃をしたようだった。その隙で逃げられれば良かったが、キーザスは動けない。竦んでしまっていたのだ。

 女が再び彼を見る。

 片方の銃は自分に向いている。

 外すような距離ではない。今度こそ終わった。そうキーザスは思った。だが、女は何故か銃を撃たなかった。

 そこで再び仲間の気配がした。女は少し迷ったようだったが、また移動の魔法を使った。姿が消える。

 「おい、キーザス。大丈夫か?」

 彼が起き上がると仲間が三人駆け寄って来た。「ああ」と彼は返す。

 「ちくちょう、あの女め。絶対に犯してやる」

 そう彼が言うのを聞くと、仲間の一人が言う。

 「おい。さっきあの女を見たんだが、背負っていた猫のバックをどっかに置いてきたみたいだぞ?

 猫を奪えば手っ取り早いのだろう? 猫のバックを探そうぜ」

 そう言われて彼は先ほどの女の姿を思い浮かべる。冷静さを失っていた所為で気が付いていなかったが、確かに猫用キャリーバッグを背負ってはいなかった。動き難いので、何処かに置いたのだろう。

 そこでまた銃声と仲間の誰かの悲鳴が聞こえた。また一人拘束されたらしい。

 迷っている暇はなさそうだった。キーザスは頷く。

 「オッケーだ。猫を探そう」

 

 銃弾で捕縛する魔法は多人数に対しては使えないと仮定して彼らは固まって工房内を進んだ。女は現れない。気配も感じない。どうやら自分達以外の他の仲間達は既に拘束されてしまっているようだ。

 やがてしばらく進むと、棚の影に猫用キャリーバッグが置いてあるのが見えた。

 “あった!”

 情報が正しければ、あの猫を手に入れればこっちの勝ちがほぼ決まる。

 彼らは逸る心を抑え切れず、思わず小走りになってしまった。が、そこで心に隙が生まれた。注意が散漫になる。そこをターゲットの女は狙っていたようだった。

 銃声が響く。それまでは固まって進んでいたのだが、小走りになった事でわずかに隙間が出来てしまっていたらしい。その隙間に銃弾の楔が穿たれたのだ。そして、まるで傷口が開くように仲間の一人が分断される。そこに向って更に銃弾が放たれた。二発。一人がまた拘束された。

 「くそっ!」

 そう言って、キーザスと伴に残った仲間達は急いで機械の影に隠れた。

 「あの猫は罠だったんだ。狡猾な女だ」

 仲間の一人がそう言った。

 その言葉の通りだろう。あの女は猫を囮に使って自分達を誘き出して狙い撃ちにしたのだ。

 ――が、そこにキーザスは違和感を覚えてもいた。

 “なんか、おかしいぞ? どうしてあの女は俺らを直接銃で撃たないんだ?”

 捕縛するのではなく、普通に銃撃で倒すのであれば多人数で固まっていようが関係ない。今のタイミングならば一網打尽にだってできたはずだ。

 “冷静になって考えてみれば、初めからおかしかったんだ。そもそも捕縛になんか拘らないでさっさと銃を撃てば良いのに、あいつはバラけるまでは俺らに銃を撃たなかった。それに、さっき俺が転んだ時だって、簡単に俺を撃てたはずなのに……”

 少し考えるとキーザスは言った。

 「そうか。分かったぞ」

 仲間はそんな彼の言葉に不思議そうな様子を見せる。

 「何が分かったんだ?」

 「あの女は俺らを銃で撃てないんだ。初めは命中率を上げる為の捕縛魔法なのかと思っていたが違うぞ。

 あの女はかなりのお人好しなんだろう? 多分、俺らを傷つけられないんだよ」

 そう言い終えると、彼はにやりと笑った。

 「それなら対策は簡単だ。堂々と全員であの女に向って行けば良いんだ。あいつは銃撃ができないから安全に近づける」

 がしかし、その彼の提案に彼の仲間は納得しなかった。

 「それ、もし違っていたら、俺らは終わりじゃないのか……?」

 それにキーザスは「あ?」と返す。

 「お前ら、ビビっているのか?」

 仲間は何も応えない。

 そこで彼は物影から外を見やる。こっちをあの女が覗いているのが分かった。多分、次の作戦を考えているのだろう。早くしないと、それこそ全滅させられる。

 「チッ! 仕方ねぇな。お前ら、解除の呪符を全てよこせ。俺が一人で行く」

 仲間達は顔を見合わせたが、それからおずおずと言われた通りに解除の呪符を懐から取り出した。全部で三枚。やや少ないが、全速力で突進すればなんとかなるかもしれない。銃を撃つのは諦める。手が塞がれば、解除の呪符が発動できないからだ。

 「よしっ!」と言って、呪符を握りしめるとキーザスは、女のいる方を睨みつけた。

 “絶対に犯してやる!”

 そして、

 「うおおお! おらぁぁぁ! 撃てるもんなら撃ってみやがれぇぇ!」

 そう言って次の瞬間、彼は駆け出していた。女はそんな彼の様子に不可解そうな表情を浮かべて銃口を向けたが、やがて彼が自分に向って一人で突進して来ているのだと察すると銃を下げた。

 やはり銃を撃つ事ができないのだと彼は思ったのだが、どうやら違う。女は“コイコイ”と手で彼を挑発して来たのだ。

 つまり、“素手で相手してやる”という事だろう。

 “舐めやがって、女が素手で男に勝てるはずないだろうが!”

 体格は自分の方が一回りは大きい。力で押さえつければ相手にならないはずだ。

 “そのまま押し倒してやる! 絶対に泣かせてやる!”

 「うおぉぉぉ!」

 キーザスは叫びながら突進していく。女はまったく動じない。彼が近くまで来ても女は逃げなかった。

 “俺はお前みたいな、甘い奴が大嫌いなんだよ! 優し過ぎて敵ですら傷つけられないだ? そんな奴はな、この厳しい世の中じゃ、真っ先に利用されて潰されるんだよ!”

 彼はそんな彼女の肩に掴みかかろうとしながら、何故か自分の母親の事を思い出していた。

 彼の母親は、彼が小さな頃にいなくなってしまったのだ。何処に消えたのかは知らない。ただ、どんなに彼が泣き叫んでも二度と姿を現してはくれなかった。

 女の肩に自分に指が触れる。

 温もりを感じた。

 力を込める。

 そのまま押し倒すつもりだった。

 が、次の瞬間、彼の身体は宙に浮いていた。

 「え?」

 世界が物凄い速度で回転し、気付くと彼の身体は地面に叩きつけられていた。

 ただ、頭だけは優しく手で支えられている。そのお陰で直撃を免れていた。女が護ってくれていたのだ。

 「すいません。少しやり過ぎてしまいました。これは“バリツ”という格闘技の技で、相手の力を利用する事ができるのですが、あなたの力が思った以上に強かったものですから……

 大丈夫ですか?」

 キーザスは茫然となっていた。動く事ができない。その彼女の自分を心配する言葉を信じられない気持ちで聞いている。

 普段の自分なら、敵に心配をされれば屈辱を感じるはずだ。が、何故かむしろその言葉が彼には心地良かった。

 「母さん……」

 と、思わず彼はそう呟いてしまっていた。

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