Lood..021 赤眼の騎士(1)
スカルライダー捜索中のアイリは、建物から建物へと跳び移り上空を走る。そして〔広域マップ〕に映るエネミー反応を探っていた。
「あ~もう、どこ行ったのよ~あのデカブツちゃんは」
舌打ち混じりに周囲を見渡していると、時折飛び出すボーンナイト。時には迎撃し、時には避けながら前進を続けるアイリ。
ナツキの支援魔法《敏捷性上昇》の効果から、走る速度はもはや車並み。その速度を維持したままに、視界を埋め尽くす高層ビル街に突入。廃墟とはいえ、急に狭まる視野を広げようと、垂直に立つビルとビルの壁を交互に蹴り上空へと上がっていく。その高さは20メートル。ビルの中腹に差し掛かった瞬間――…
「ブオォォォォォォォッ!!」
思わず耳を塞ぐ程の、何モノともとれぬ唸り声がビル街に鳴り響く。驚くアイリはすぐさまマップのエネミー反応を見るも、何も反応は無い。だが今のは?っと疑問を抱きつつも、少し離れた前方のビルへと跳ぼうと壁を蹴り、道幅50メートル程の広い通りに飛び出すと――…
「ブオォォォォォォォッ!!」
再びの声に、左側から視界に映り込む巨大な影。突然の気配に、上空に飛び出した状態で振り向くアイリの視界に映るものは、身の丈30メートルはあろう巨大な馬。鎧のような鉄の防具をまとい、露出する肌は一部白骨化したもの。赤く光る眼が空中のアイリと合わさった。
瞬間、アイリの展開した〔広域マップ〕に赤い点――エネミー反応が表示される。それも〔Dead Rodeo〕と。
「ッ!!」
「ブオォォォォォォォンッ!!」
アイリを確認したデッドロデオの頭が下がり、走る前脚が大地を割って踏み込まれた。
「ヤバッ…!!」
ッ――ガァアァァァァァンッ!!
「きゃあぁぁぁぁッ!!」
宙に浮かぶだけのアイリを、踏み込むデッドロデオの頭突きが直撃。全身に殴られたような衝撃が襲い、吹き飛ばされる視界がグルグルと回る。
ドッゴォォォォンッ!!
まるで爆発でもしたかの音を発て、ビルの壁へと突き刺さるアイリ。灰煙の中、壁に埋まるアイリのLGがみるみると減り、緑→黄→赤と変化するゲージの半分を切る、黄色ゲージへと落ちた。
「…ったぁ~…遭遇チェック型、バンディットタイプかよ…つーか…」
未だに揺らぐ視界に映るデッドロデオ。蹄で大地を削りながら、鼻息荒くアイリを見据えている。
「何でLv.70強のボスエネミーがいんのよ…」
舌打ち混じりに、片手に握る拳銃を構えた瞬間――…
「バォオォォォォォォッ!!」
振り上げた前脚を叩きつけるように地に刺したデッドロデオが、まるで側転でもするかの如く巨体を舞わせ、弧を描く後脚をアイリの前へ。
「!!――うっそォォ!!」
そして狙い撃つように蹴り出した。
ドッガァアァァァァンッ!!!!
◆◆◆――…
その頃、1人――…いや2人。廃墟の町並みを走るチエコ。泡吹くヒートを抱いたまま、不安げな表情を左右に向け走っている。何やら口がパクパクと動いており、周囲には(誰もいないが)聞こえないくらいのボリュームで、妹エリコの名を繰り返しているようだ。
しかしこれは戦場を進むには注意散漫。どこから敵が狙っているとも――…
…――ガッ!!
「…あっ…」
転がる瓦礫に足をとられ、ヒートを抱くまま転んでしまうチエコ。…もはや『戦場』と言うまでもない、単純な不注意によるもの。
こうした単純なものも、極度の人見知りが心の拠り所にした妹とはぐれた為、仕方のない事とも思われるが……しかし巻き込まれたヒートは運が無い。腹を絞められ落とされて、意識無きまま連れ廻され、投げられ潰され追撃の頭突き――…っと先を行きすぎました。つまり転んだ拍子にチエコはヒートを投げ出してしまい、放られたヒートのお腹が今度は倒れるチエコの顔を守るクッションとなったのだ。『追撃の頭突き』はもちろんバウンドによるもの。
「ふグォっ…!!」
これにはたまらずヒートも目覚め、腹部から込み上げる"何か"を堪えるように、両手足をバタつかせる。それでも込み上げる嘔吐感から、思わず腹に乗るチエコの頭をその身ごと突き飛ばしてしまう。
「ッ――…だァーっ!!吐くっちゅーの!!」
「…あ…」
…――ゴチンっ!
突き飛ばされたチエコは力無きまま、つまづいた瓦礫に頭を強打。その瞬間をスローモーションの視界に捉えていたヒートは、
「どわァー!!サスペンスで『殺すつもりは無かったのに』的なあるあるで死んだぞこれーっ!」
っと妙な説明口調の悲鳴を上げ、倒れたチエコに駆け寄る――…瞬間、チエコはガバっと起き上がる。
「うおっ!生きてたァ!?って大丈夫かよ!?」
「…エリコ…」
「は?」
「…エリコは…?」
「エ、エリ――…って、あの強ぇ姉ちゃんの事か?」
「…違う…エリコは妹…」
「あ~そっかそっか、悪ぃ悪ぃ――…ってそーゆー事じゃねぇーよ!」
「…エリコ…どこ…?」
「『どこ』って、そんなん知らねぇよ。むしろ(気を失ってた)オレにとっちゃ、ここがどこ?だっつーの…」
そうヒートが言い切るか、の所でチエコは立ち上がり辺りをキョロキョロ。そして視線を泳がせたままにウロウロとし出した。
もう迷子としか見れない姿に、ヒートはため息と共に頭を掻く。そしてヒートも辺りを見渡し、再びのため息。
「室長にアイリちゃんもいねぇし…これヤバくねぇかマジで…」
スカルライダーの強さを目の当たりにした後、気がつけば見知らぬ景色の中に2人。しかも自分は戦えるようなレベルでもなく、戦える者は迷子の不安定な状態…言葉にした通りのヤバい予感に、ヒートの目も泳ぎ始めた。
「な、なぁ…」
「…エリコ…エリコは…?」
「おーい…」
「…どこ…エリコどこ…?」
「おい!」
身長140センチ代のチエコに対し、今のヒートは耳を含めて120センチ…そのチエコの視界に映り込むべくヒートはジャンプ。
一瞬だが、突然現れたヒートに驚き(基本無表情だが…)動きを止めたチエコ。降り立つヒートをゆっくりと見下ろした。
「…何…?ウサ之助…」
「誰だよそれ!?」
「…ウサ吉…?」
「ペットみてぇに呼ぶな!!ヒートだヒート!オレはヒート!!」
っと抗議するヒートの耳が揺れた瞬間、チエコの表情が僅かだが「ほわぁ~」っとなり、頬を赤らめながら再び耳を掴み出す。
「うおっ!何すんだコラ!!」
「…モフモフ…」
「オイ!ヤメろって!耳を触るな気持ち悪ぃ!!」
「…モフモフ…」
「ヤメろ!落ち着くなァ!!――…って、落ち着く…?」
耳を触られながらも、おとなしくなったチエコに気づいたヒート。ゆっくりと見上げるチエコの表情は、先程までの『不安』は感じられない。
「…ま、まぁこれで落ち着くなら…いっか、別に…」
多少違和感を感じるが、これで落ち着くなら…っとヒートも静かに抵抗をヤメた。
すると――…
「あっ!やっぱりヒートだ!」
突然ヒートの名を呼ぶ声が。その声にヒート自身も「え?」っと周囲に目を向ける。すると少し離れた位置にある崩れかけのビルの入口に、3つの人影が揺れた。その人影はヒートにとっても見覚えのある影。
「…お前ら…!3バカトリオじゃねぇーか!」
ビルの入口からヒートの元へと駆け寄る3つの人影。それはタケシ、トモキ、セキカワの3人であった。そしてその後方にはヒコマルの姿も見えた。
駆け寄る3人はヒートとチエコの元へ。その流れのまま、トモキがヒートの背中をバシっと叩く。
「ひでぇーぞ、ヒート。『バカ』は余計だろ?」
「うん。『バカ』はトモキだけで十分だから」
「そうそうおれだけで――…ってコラセキカワー!」
「まぁバカはコイツだけってのは、オレも薄々――…」
「ヤメーい!確立しちゃうからヤメーい!」
まるで本題に入らぬ絡みに発展してきた流れに、苦笑いのタケシがヒートを見る。
「すぐに安全区域に避難できる場所で戦闘の練習してたら、ヒート君の声がしてね。それで来てみたら案の定、ってトコかな」
「あ~そういう事だったのか…つー事は、オレらはあの安全区域の所に戻って来てたって訳か…ひとまずよかったぜ」
「俺らもよかったよ。ヒート君が無事で。あとチエコさんも」
「っ!!」
タケシがチエコに向いた瞬間…小さなヒートの後ろに、更に小さくなり震え出すチエコ。
「あ…確か人見知りでしたね…チエコさん…」
「それよかブロッコリー・タケシ?」
「いやいやヒート君、ファミリーネームみたいに容姿をイジるのヤメてくれないかな…」
「お前ら何で外に出てんだよ?安全区域にいねぇと危ねぇだろうが」
『ブロッコリー』発言に対してはスルーのヒートに、苦笑いを返すタケシの後ろから、セキカワがその問いには答えた。
「オレ一応ジョブが黒魔導士なんだけど、魔法の使い方わかんなくてさ。ヒコマルに使い方教えてもらって練習してたんだ。安全区域の中じゃ、攻撃魔法は実行出来ないらしいからね」
「それといい情報あるんだぜ、ヒート」
「お?馬鹿の浅知恵か?」
「今絶対『馬鹿』って書いて『トモキ』って呼んだろ!?」
「おう」
「あれ即答っ!?サラっと言っちゃうんだねっ!?」
っと、あいかわらずのリアクションのデカいトモキの横で笑うタケシが、1人落ち着いた様子で口を開く。
「まぁトモキが言いたいのは、TGは使用したとしても、1秒に1ポイントは回復するらしいんだ。ただし戦闘可能なフィールド内のみで、安全区域ではTGは回復はしないって事だよ」
「うぅ~わタケシさんひでぇ!!おれの台詞取りやがった~!」
「だから外でTGを使用した技の練習もしてたって訳」
「今度は無視かぁ~い!」
「トモキ、今無視してるんだから黙ってくれよ」
「報告とかヤメてーっ!泣いちゃうからヤメてーっ!」
もはや内容が頭に入ってこない程の大振りなリアクションを続けるトモキに、さすがのヒートも苦笑い。するとそのヒートの肩を、指でツンツンと突くチエコ。振り返るヒートの耳元にチエコの顔が近づき、何やらボソボソと呟いている。
「え?何なに――…『うっせー小僧だな。黙らねぇならその口二度と開けねぇようにしてや――…って口悪っ!」
思わぬ口調に驚くヒートだが、それ以上に驚いた様子なのはトモキ。「え?今何て…?」っといった表情でチエコを見つめ、その目をパチパチとさせる。
するとトモキの後ろから、いつの間にか歩み寄ってきていたヒコマルの手が、ポンっと肩を叩く。
「チエコさん、マジで怖い人だから黙った方がいいよ」
「えー…あんなに小さくて可愛いのに…?」
「うん…過去にエリコさんに言い寄ったプレイヤー所属の60人ギルドを、5分で壊滅させたり。チエコさんの腕力ステータスをもってすれば、ちょっとした岩ならドカン…らしいし」
この言葉に、トモキを始めとしたヒコマル以外の全員が、ゆっくりと自分の口を両手で覆った。
◆◆◆――…
ひとまず元の安全区域へと、タケシら4人と共に避難したヒートにチエコ。すると出立前は薄暗かった安全区域の地下室は、光々と電気が点いているように明るくなっていた。
「うお、何で明るくなってんだ?」
部屋に入るなり驚くヒート。するとトモキがニヤついた口元で、そのウサギ耳をツンツンとつつき出した。
「それはねぇ~ヒート氏。あのランタンを見てごらんよ」
「は?ランタン?」
トモキがつつく手を「触んな」っと弾きながら、指し示す先を見るヒート。するとそこには、部屋の中央に置かれた20センチ程の火の灯ったランタンが1つ、小さな木箱の上に置かれていた。
「ん?どうしたんだ?このランタン」
「これはだねぇ~ヒート氏ぃ、おれが見つけた『灯り』と言う名の『優しさ』な・の・さ」
「…コイツ絡みづれぇ~…」
「何言ってんだヒート氏ぃ~、ついて来いこぉ――…」
ポキッ! ポキポキッ!
突如ヒートの後ろにいたチエコが拳を鳴らす。その瞬間、トモキを筆頭に全員が黙り、固まった事は想像通りだ。
そして一拍おき、トモキの体を「どいたどいた」と押し退けるタケシがヒートに向く。
「ごめんごめん、あんまり出番が無いもんだから、頭がおかしくなっただけだから気にしないで」
「は?出番?」
「あ~いやいやコッチの話しだよ、それは。つまり、そのランタンはトモキが外で見つけた――…って言うか、実際はヒコマル君が見つけて持ってきてくらた使用可能なオブジェクトだよ」
「オブジェクト?」
首を傾げるヒート。すると無造作に置かれた木箱に腰を下ろしながら、ヒコマルが口を開く。
「オブジェクトはそのまんまの意味だ。ただの道具だよ。たまたま外に落ちてて、持ち出し可能なオブジェクトだったから、明るくしようと思って…持ってきた…」
何やら気まずそうに、チラチラとヒートを視線から外しながら答えるヒコマル。先の一件からだろう…多少なりのわだかまりはあるだろうが、当のヒートは気にしていない様子。いや、忘れてるのだろう。
「持ち出し可能って事は、持ち出せねぇのもあんのか?」
「え?…あ~そりゃあるよ、ゲームなんだから。でも大抵ランタン系のオブジェクトは、こういう暗い所で使えるから持ち出せるんだ」
「へぇ~。ま、暗いよか全然いいぜ」
そう言ってランタンの近くに腰を下ろすヒート。するとチエコも隣に座り、再びヒートの耳をモフモフし出す。この流れには、もうヒートは抵抗をする事は諦めた様子。
その姿を、トモキがニヤニヤとしながら見つめる。
「完全にぬいぐるみ状態ですな~?ヒート氏ぃ~」
「うるせっ…へっ、レディがこれで落ち着いてくれんなら、オレの耳なんぞ安いもんだぜ」
「くぅ~、ウサちゃんの可愛いボディでカッコつけてるぅ~」
「お前っ…!ブっ飛ば――…」
トモキにバカにされ、怒りで立ち上がるヒートだったが…チエコが耳を掴んだままの為に、中腰くらいで己の耳に引かれて地に落ちる。
「…――っ痛ぇ!ちょっ、チエコさん!?離してくれって!」
「…モフモフ…」
「いやモフモフはもういいから離せって!」
「いや~んヒートちゃんぬいぐるみみたいで可愛い~」
「テメェ、トモキ!後で泣かすぞ!ぜってぇ泣かーす!」
この絡みの光景に、今まで表情の固かったヒコマルの口元が、微かな笑みに変わった。
「あいかわらずだな…チエコさんの獣人種好きは」
「え?人見知りなのに?」
笑うヒコマルにタケシが近づくと、ヒコマルは頷き返す。
「うん。毛がモフモフしてて可愛い獣人種なら、人見知りは起きないらしいんだ」
「へぇ~。なら妹のエリコさんがいなくても大丈夫なんだね――…ってあれ?今更だけどエリコさんとか、他の人は?ヒート君」
「ん?いや…それはオレが知りてぇくらいだわ…」
「え?」
…――っと、ヒートはわかる範囲での経緯をタケシらに説明を始めた。もちろん、その最中もヒートの耳はモフモフ状態だ。…補足である。
◆◆◆――…
「…――んで、目が覚めたらお前らと会ったって訳さ」
ヒートの説明を受け、スカルライダーの巨大さと強さに顔を強張らせるタケシとトモキ。
「ナツキさんやアイリさんもいてのレイドでも、完全に仕留め切れないなんて…やっぱあの時、キヨマルさんがトモキを止めてくれて正解だったね」
「そうっスね…話し聞いただけでもヤバそうだし…」
「えーオレはスカルライダー見てみたいなぁー。ヒートだけ連れてってもらっていいなー」
だがセキカワだけは2人とは対称的な反応。これには「おいおい…」とトモキが残念そうな表情を浮かべて肩を組む。
「『いいな』ってセキカワお前なぁ…おれ達みたいなザコプレイヤーが行ったって、ナツキさんやアイリさん達の足手まといになるだけだって」
「何言ってんだよ。そう言うトモキだって、あの時行こうとしてたじゃんか。装備が強くなったからって調子こいてさー」
「いやあの時はあの時で――…って調子はこいて無いってガチで!」
何に慌てているのか、周囲に「調子はこいて無いよ」とアピールしはじめるトモキ。そのトモキを「まぁまぁ」と宥めるタケシ。そんな光景を、「また始まった…」っとため息をつくヒートが――…
「あれ?トモキどうしたんだ?その装備…」
ようやくトモキが初期装備から、『浮き世人』の装備に変わっている事に気づく。
「えぇ!?まさか今気づいた!?」
「あぁ、なんとなく」
「いや『なんとなく』所かけっこう変わってると思うんだけどぉ!?」
「…――オレもだけど、チエコさんも『うるさくて気づかなかった』だってよ」
「いやいやチエコさん?見た目に関しては『うるさくて』の表現は間違ってるかと思うんですが?」
「…――『うるせぇ。黙れ。ハゲ』だってよ」
「ハゲてないもぉ~ん」
泣きながら肩を組んでいたセキカワにしがみつくトモキ。しかしそんなトモキを無視するように、セキカワはチエコを見た。
「チエコさんって鍛冶屋なんですよね?」
そう問うと案の定、体をビクつかせ、体の小さなヒートの背中に隠れるように身を潜める。そして何やらボソボソと……これにはヒートは苦笑いとため息を見せ、何かを納得するように数回頷いた。
「『そうだけど、何か?』だってよ」
っとチエコの言葉を引き続き代弁。
「なら、オレ達の新しい装備を作ってくれませんか?」
「は?お前何言って――…え?…『いいよ』って、こんな場所でも作れんのかよ?」
ヒートの言葉に、コクっと頷くチエコ。続けてボソボソと何かを語る。
「『匠や店主をナメんじゃねぇーぞ』って、マジかよ…え、じゃあオレのとかも作れんのか?」
己を指差すヒートに頷き返すチエコ。するとタケシもサっと手を上げ身を乗り出す。
「あ、あの、俺も欲しいです!新しい装備」
「それならおれも!防具じゃなくて武器。『浮き世人』装備に似合った武器が欲しいです!」
各々手を上げるメンバーを、ヒート越しに目で確認するチエコ。そして再びヒートの耳元でボソボソ…
「ん?あ~、えっと…『ワタシは鍛冶屋。だからお金と素材を持ってくるなら誰にでも装備を作って上げる。だからお金と素材、早く渡して』…だってよ――…って金取んのかよ!?」
「…一応『鍛冶屋』はお店だから…」
その言葉には、「そりゃそうか…」っと表情を引きつらせるヒート。
「まぁ金払うのはしょうがねぇけど、オレらゲーム世界の金持って無ぇぞ。それとも現実世界で払えって言ーのか?」
「…違う…NOAH通貨の【Elk】で払って…」
「え?える…えるく?」
「…うん…それがこの世界のお金…」
ヒートはすぐさまタケシ達を見た。
「お前ら金持って――…る訳ねぇよな」
「あるよ」
「はぁ!?マジで?」
驚くヒートに頷き返すタケシ。
「マジだし、たぶんヒート君もお金持ってるはずだよ。メニュー開いてみなよ」
首を傾げながらも、言われるままメニューを開くヒート。するとメニューウィンドウの右上に、『42,700Elk』との表記があった。
「ん?これが金なのか?」
「そうそう、それがお金だよ。ポロン戦とか、ここまでの戦闘の報酬金だと思う。俺らも30,000Elkくらいはあったし。だからたぶん俺らにもあった素材も持ってるはずだよ」
するとチエコが後ろから半ば強引にヒートの腕を操作する。抵抗出来ない程の力に流され、ヒートの持ち物リストが開かれた。そしてヒートの手を操作しながらリストを確認していくチエコ。
「…この素材で42,700Elkなら…武器も防具も新しいの作れる…」
「えっ!?マジで!?」
「…うん…マジで…出来た装備で…今のレベルから5は引き上げられる…」
「マジかよそれ!?」
「…マジマジ…だから素材プリーズ…」
「いや『プリーズ』言われても、何をどうすりゃいいかわかんねぇって」
「…ならまた手を貸して…」
チエコは再びヒートの手をとり、持ち物リストを操作し始めた。すると次々と骨や鉱石、毛皮などがヒートの前に出現して並んでいく。驚くヒートを他所に一段落したのか、並んだその素材を1ヶ所に集め出す。
「…スキル〔練金鍛冶場〕…発動…」
声に反応して、チエコの手元に少し大振りな金槌が出現。すると並んだ素材が白い光をおび出した。その光を確認して、小さく頷くチエコが手にした金槌を振りかぶると――…
「…武器も防具も…まとめてやるね…」
カァン! カァン!
っと、まるで金属同士を打ち鳴らしたかの音を響かせ、素材が2回叩かれる。そして3回目の打ち鳴らしと振り上がる金槌。
「…ほいさ…」
カァァンッ!!
落とされた金槌が一際いい音を響かせると、並んだ素材が一塊の白光となり、徐々に形を成していく。1つは拳を包むような石のナックル。もう1つは、上半身を覆う胸当てのような骨素材の鎧。
「…完成…」
「うお~…マジで出来てやんの…」
「…これはウサ吉の分…次…3人のも作るから…素材とお金準備して…って伝えてウサ吉…」
「お、おう、わかった」
っとチエコの言葉を代弁しようとした瞬間だった。とてつもない爆音と地響きのような衝撃が地下室にはしり、突如襲いくる灰煙と粉塵。その衝撃は、座っているだけだったヒート達をも地面に転がす程の衝撃。
「どわぁぁあっ!!」
「なっ、何なのガチどぅえーッ!?」
転がるヒートの視界には、灰煙を縫って一瞬開けた空が映り込む。ここは地下室…映るはずの無い空に、錯覚でもしたか!?っとしりもちのままに上げる視線の先……晴れゆく灰煙から覗く灰色の空に浮かぶ、黒の巨大なマシンに跨がる漆黒の衣をまとった巨大な死神。赤い目を光らせ見下ろす白骨の顔……忘れもしないこの姿――…
「ッ!?…う、嘘だろ…何でコイツが…!?」
唖然とするヒート。あるはずの天井の無きその視界の中、未だ残る灰煙の中に浮かび上がる新たな無数の影…それは死神を知らぬタケシ達も知る死者達が、囲み見下ろす姿。
「タ…タケシさん…あれってまさか…」
「ボーンナイト…だよね…」
タケシの言葉通り、取り払われた天井の10メートル程の穴を囲む無数のボーンナイト。そしてその上空から見下ろしている死神――…スカルライダーの握る大鎌が、ゆっくりと振り上がっていった。




