Lood..019 vs スカルライダー(4)
「も、申し訳ありません…つい興奮しすぎて我を見失っておりましたわ、オホホ」
あの訛り発言から、おしとやかな口調に戻った――…いや、作った?そんなセレアは口元を覆いながら笑ってみせる。
人種のアバターの場合、フェイスの基板は本人のものが使われるもの。見た所セレアは20歳よりは下で、乃愛より少し歳上くらいの印象のある、白く透き通った綺麗な肌の少女。真っ白で腰まで伸びたロングヘアーに、丸く優しい印象のある紫色の瞳。身長は150センチ前半で、小人種のアイリより少し高いくらい。赤い袴に、赤いリボンの装飾がついた巫女の装備で、お坊さんが持つ『錫杖』を背に差している。
そしてその身は――…
「あ…あの…セレアさん?」
「はい?」
「そろそろ離れてくれませんか…」
セレアの腕はナツキの腕に絡むように巻かれ、ピタっと密着した状態。ナツキが少しでも離れようとすると、すぐにセレアが追ってくる…その姿には当然、アイリの苛立つ顔がついてもくる。
「ちょっとアンタねぇ…いつまでひっついてる気よォ…」
この怒れる視線に対し、当のセレアは無反応。チラっとだけアイリを見、ナツキの胸に擦り寄っていく。
「あ~んナツキ様ぁ~、この人睨んできますぅ~。わたくし怖ぁ~い」
「え、あ…ア、アイリ、セレアさんが怖がってるんだ。抑えて抑えて」
「はあ!?っんなぁ~にが『抑えて』よ!デレ~っと鼻の下伸ばしっぱなしで」
「だっ、誰も鼻の下なんて伸ばしていない!」
「そうですわ。ナツキ様はそんな殿方ではありませんわ」
「まぁ確かにコイツは絶食系に近い――…ってアンタにナツキの何がわかんのよ!?知った口利かないでよね!!」
「じゃあ貴女はナツキ様の事、全て理解してるとでも!?」
「え!?…あ、あ~そうよ!全部よ、全部!全部知ってる系だわ!!」
「は!?ちょっと待てアイリ!全部って気持ちが悪いぞ!」
「気持ちが悪いのはアンタよ!!…っていい加減離れなさいよ!!」
「イヤですぅー!!」
「はぁーなーれーろぉー!!」
「イーヤーでーすぅー!!」
えー…っと…今の状況を説明しようと思います。立ったナツキを軸に、抱きつくセレアの足をアイリが引っ張り、そのセレアはナツキにしがみつき宙に浮いた状態だという事。
そして忘れてはいけない。ここは戦場であり、今はボス戦中である事を…
「室長!!アイリちゃん危ねぇ!!」
「えっ?」
「へっ?」
ドッガァァァァァンッ!!
「うわあぁぁぁっ!!」
「ほげぇぇぇっ!!」
「きゃあぁぁぁっ!!」
スカルライダーの放つあの煙玉が、ナツキ達を直撃。瞬間、ギャグ漫画の1シーンのように並んで綺麗に飛んでいく3人。
「お前ら何してんねんっ!」
「緊張感無さすぎだな…」
一部始終を引いた戦線から見てたゴンザレスとヒデが、ツっコみ頭を抱える。
黒い煙りを倒れた体から立ち上らせる3人の元へ、ヒートにチエリコ姉妹。ゴンザレスにヒデも集まった。そしてチエリコ姉妹がゴンザレス、ヒデと〔スイッチ〕。スカルライダーへと武器を構えて走って行く。
残るヒデが周囲を見渡し、今立つ場所が戦闘エリア外である事を確認。見張り役として周囲の警戒を続けた。
「室長、何やってんだよ…ありゃバカっぽ過ぎるぜ」
「ホンマや…アホやで、お前ら。こっちは真剣に戦っとんねん」
「すみません…セレアさん、大丈夫でしたか?」
「あたしは無視かい!」
「はぁい、わたくし"は"大丈夫でございま~す♥」
セレアは『は』を強調させながら答え、再びナツキに抱きついた。そしてその状態から、チラっとスルーされたアイリを見る。これにはアイリも再びのカチン!握り拳に歯をギリギリ鳴らし、セレアを睨み返す。
「小娘がぁ~…!」
「あ~んナツキ様ぁ~、またあの"オバさん"が睨んできますぅ~」
「オバさっ――…!?あたしはまだ26だっつーの!!」
「え?"もう"26歳なんですか?」
「だァーッ!!いちいちムカつくーっ!!」
天をあおぎ、「キーッ!!」っとなるアイリ。そして再び「離れろ」「イヤです」のやり取りRound.2に突入していく。これには他の男性陣は呆れ顔。
「室長、何だよこの娘…かなり濃いな」
「見てないで助けて下さいよ、ヒートさん…」
「何を言うてんのや。こない可愛い娘に好かれて。『助けてくれ』なんぞ贅沢な――…ってその腕章は…!」
ため息混じりに歩み寄るゴンザレスが、ナツキにしがみつくセレアの左腕についた腕章を見て動きを止める。
手の平サイズの長方五角形の腕章で、翼と剣が交差した模様。紫を主体とした、妙に毒々しくも感じられる腕章であった。
すぐにゴンザレスはヒデの方を向き、セレアの腕章を指差し見るように促す。
「おいヒデ!見てみぃ、あの腕章…」
「これは…!ギルド【幻翼の戦乙女】の紋章!?まさかっ…!?」
「何だよお前ら…室長の愛人と知り合いか?」
「ちょっ、ヒートさん!!愛人ってなん――…もがぁ!」
赤面で否定するナツキの口をゴンザレスの手が覆い、自分の言葉を続けた。
「この、娘と直接的な知り合いやないけど、『幻翼の戦乙女』は、NOAH界の五大ギルドの一角。Lv.40以上で妖精種の女性プレイヤーしか入れない、特殊縛りギルドや」
「五大ギルド?…何だそりゃ?」
「日本五大都市を自陣として作り上げた、でっかいギルドの事や」
よくよくは理解してはいないが、『でっかいギルド』という所だけで、とりあえずは『すごい存在』っと呑み頷くヒート。その横でヒデは考え込むように顎に指をかけ、口を開く。
「何でここに幻翼の戦乙女の団員が…?クエスト開始時にはいなかったはずなのに…」
「ほんなら聞いた方が早いわ。…おーい、お嬢ちゃん。アイリ嬢の相手もええけど、ちょいとおっちゃんの質問に答えてんか?」
「離れろ」「イヤです」合戦中のアイリとセレアの頭を、同時にポンポンっと叩き、合戦を中断させるゴンザレス。
「え?あ…何でしょうか?」
「お嬢ちゃんは、幻翼の戦乙女のもんか?」
「あ、はい。そうですけど…」
キョトンっと答える瞬間、抱きつくセレアの力が弱まった。その隙にナツキがセレアの肩を掴んで、抱きつく身を引き離す――…が、後でセレアの体を引っ張っていたアイリの顔面に、セレアの後頭部が勢い余って激突。
「ふブぉッ!!」「あ痛っ!!」
互いに強打箇所を押さえ蹲る2人。
「あっ、ごめん…」
「ナツキ様ってば~、ひっどいごどすねでけろぉ~…」
「い…1度とならず2度までも…乙女の顔を~…」
「何やってんだよ、3人してよぉ…」
ため息のヒートに、同じため息をつくゴンザレス。頬を指で掻き、質問を続けた。
「…ええか?お嬢ちゃん。何でこのクエスト内におるんや?レイド結成ん時、お嬢ちゃんおらんかったはずやろ?」
「…んだ。このクエストでのレイド結成はしてねぇだ。別にこのクエストも、とっぐの昔にわだすはクリアしてっがらて、受げるつもりもねぇがら」
「んじゃあ何でや?」
「ほっだなわだすの方が知りたいず。ギルド拠点の【アイチ】さ戻ろうとしったげんと…何でわだすはチバさ来ったんだが…」
っとの返しに、ゴンザレスは急に難しい顔つきとなり、ナツキらを鋭く見た。
「おい、ナツキ…この娘…」
「は…はい…?」
低く緊迫感も含む声色に、思わず生唾を飲み込むナツキ。
「この娘…あんまり『訛り萌え』せぇーへんな。半分何を言ーてるかわからへん」
「そっちか!」っと皆がコケる中、ナチュラルに訛ってしまっていた事に気づいたセレアは、耳まで真っ赤な顔を両手で覆い、その身を「イヤイヤ」と揺らす。
「いやいやすまへん。何やお嬢ちゃん、現実事やから言えたらでええけど、出身どこや?」
「リトアニアです」
「って海外かぁーい!!てかそのチョイス!!」
「リトアニア出身の東北系ですわ」
「何やその『東京出身渋谷系』みたいな言い方ぁ!!」
ゴンザレスのツっコみに、更に「イヤイヤ」と身を揺らすセレア。どうやら素になると、つい方言が出てしまうようで…
とりあえず話しを戻そうと、ゴンザレスは咳払い。
「…って、何かナツキらと同じ感じやな」
「そうですね。まさかセレアさんも、クエストSLの暴走ですか?」
「え?ナツキ様もなんだべが――…って、ですの?あ、でもわたくしは暴走と言うより…バグ?」
「バグ?…ですか?」
「はい。わたくし、別のクエストで【ミヤギ】より『ササカマ鉱石』を持ち帰る途中でしたのです。そしてクエストSLに乗って、動き出したかと思えば、突然目の前がカメラのフラッシュのように光り、目を開くと…窓の外にはこのチバに向かう景色が広がっていました」
これに反応するのはアイリ。
「え、それって…」
「はい。わたくし、ナツキ様達と同じクエストSLに…後ろの車両に乗っていたんです」
「そうだったんですか!?なら何故声をかけなかったんです?」
「かけようと思いました。でも、車両の扉が開かなくて…その後、横転した車両からようやく外に出られた頃には、既に皆さんが不在で…」
ナツキとアイリは「どういう事だ?」っと互いに視線を合わせ、首を傾げる。
「おかしいわよ…クエストSLは1パーティ。もしくは同クエスト参加プレイヤー以外は、同じSLにはならないはず…」
「まさかこれも、僕らのログインのせいなのか…」
「たぶんね。でも…」
小さく頷くアイリは、チラっとセレアのステータスを見た。するとそこには【Celaire Lv.59】との表記。
「Lv.59の白魔導士…とんだレベルだわ」
「そのレベルで、あの時腰が抜けるとは正直思えませんけどね…」
「えっ?あ…いっ、いえ、本当に怖かったのですわ。オホホホホ~」
「か弱き乙女を演じたな…小娘ぇ~…」
「ま、まぁいいじゃないか。回復役が堅くなった上、レベル的…ましてやこのスカルライダー戦の経験者ともなれば、僕らとしてもありがたいよ」
そう言ってナツキがセレアに笑いかけると、案の定――…
「きわぁ~ん♥『ありがてぇ』あてナツキ様、わだすすんごぐ嬉すいべよぉ~♥」
…――っと再び抱きつくセレア。
「ってまたアンタ…っ!だから離れなさい!」
「はぁ…また始まったで…まぁええわ。そろそろ戦闘エリアに戻るか、ヒデ」
「そうだな。このままエリア外にいると、ボーンナイトが押し寄せてくる。回復役も増えたんだ、一気にいこう」
「賛成や。…ってホラ、いつまでジャレ合っとんねん!シャキっとせんか!」
っとゴンザレスから頭を叩かれていくナツキら3人。突然叩かれた頭に、セレアがハっとなる一瞬を突き、アイリがナツキとの間に入り込む。
だがその次の瞬間、突如戦闘エリアで起こる大爆発。
「どわァ!今度は何だよ!?」
驚き向けた視線の先では、その大爆発の元はやはりスカルライダー。黒い爆煙に赤い眼を光らせ、その巨体が急浮上。
「マズい!エリアを移動する気だ!」
声を上げるナツキは、再び風精霊の羽根を発動させ飛び上がる。
「待ってナツキ!あたしも行――…くぅおッ!!」
飛び上がったナツキを見上げるが――…そのアイリに、突如落下してくるナツキの体。
その様子に、同じく走り出そうとしていたゴンザレスが振り向く。
「オイ!何してんねんバカ夫婦!」
「コっ、コラゴリりん!誰が仲良し子好しのラブラブ夫婦だっ!」
「いやそこまで言うてへんって」
「そうですわ!わたくしは夫婦などとは認め――…」
キィィィィィィィン……
っと割り込むセレアの声を切り、辺りに響く飛行機のエンジン音。その音に、ナツキは潰してしまったアイリの体を起こしながら自分も立ち上がり、再び風精霊の羽根を発動させようとする――…が、何も起きない。「あれ!?」っとなるナツキのステータスを見上げるアイリが気づく。
「ちょっ、ナツキ!TGが切れてるわよ!」
「っ…しまった…!」
「だったらナツキはヒートと待機!残りはダメージ覚悟で対空攻撃行くわよ!!アンタは回復専念しなさい、小娘!」
「誰が小娘だべさ!このオバさん!」
「んなっ、まだ言うか!この田舎っぺ娘ぇ!!」
「2人共!!いい加減にしないか!!」
睨み合うアイリとセレアの間を裂くように入り込むのはヒデ。そして飛び立たんとするスカルライダーの方に向き、大きく息を吸い――…一気に、
「全ッ員ッ退避ッ!!」
周囲に響き渡る大声を発したヒデ。あまりの大声に、ナツキ達も固まり驚くばかり。もちろんそれは一部のプレイヤー達も、「何だ?」や「誰だ?今の声」などとキョトンとする者達もいた。その姿に、ヒデは同様の大声を続けて発する。
「何をボーっとしている!!死んだら終わりだぞ!!早く逃げろォ!!」
キィィィィィィィン――…カシャン!!
浮上していくマシンのエンジン圧が黒煙を吹き払う中、スカルライダーが両手を広げ天を仰ぐ。そして大砲のような巨大な銃口がマシンから複数飛び出し、地面に向いた。
その瞬間――…
…――ッ…ガァアァァァァァァンッ!!!!
これまでに無い大爆発がスカルライダーの真下で巻き起こり、10数人のプレイヤー達が宙を舞う。そしてスカルライダーの巨体は空高くに舞い上がり、その姿を視界から飛び去らせた。
一気に静まり返ったエリアには、爆発による灰煙が立ち込める。
「ケホっ…ケホっ……チー姉、無事?」
「…うむ…無事…」
その灰煙の中、LGを4分の1まで削られ、危機的状態を表すレッドゲージとなったチエリコ姉妹が、ゆっくりと起き上がる。
「…あちゃ~…やっぱ逃げちゃったかぁ~、スカルライダー」
「…うむ…また捜さなきゃ…」
「だね。とりあえず回復して体制を立て直そっか」
「…賛成…」
頷くチエコに笑みを返し、周囲を見渡すエリコの視界には、自分ら同様にLGをレッドゲージにしたプレイヤー達がゴロゴロと横たわっていた。そして視界にナツキ達を捉えると、大きく手を振り呼びかける。
「おーい、ナっちゃ~ん!回復プリーズ!」
「…プリーズ…」
呼ばれるナツキも、その視界にチエリコ姉妹の姿を捉え、回復に向かおうとするも……
「すみません、僕のTGが切れてしまって…セレアさん。皆さんの回復をお願い出来ますか?」
「はぁい、喜んで♥では行って参りまぁす♪」
っと笑顔で手を振り駆け出すセレア。応えるようにナツキも、「よろしく」の意味を込めた手を軽く振り返す。その姿に、ムス~っとした表情のアイリが深いため息を1つ。
「…このロリコン…」
「何がロリコンだ…ただ回復を頼んだだけだろ」
そう言い返すナツキに、アイリは無言のまま。不機嫌そうな表情を浮かべ、その場を離れていく。そのアイリの背中を見つめ、ただ首を傾げるだけのナツキに、ヒートが歩み寄り尻を叩く。
「あたっ!…何ですか?ヒートさん」
「『何だ』じゃねぇよ、室長。アンタは何もわかっちゃいねぇ…あれじゃダメだ…」
「…そ…そうですよね…」
ヒートの言葉に急に気を落とし、ゆっくりと俯くナツキに、ヒートは「お?気づいたか!?ついに」っといった目線を送る。
「自分のTG消費量を把握せずに切らしてしまい…スカルライダーを逃がしてしまった」
「は?」
「またスカルライダーを捜索するためには、今のレイドを何組かに分けなければならない…そうすれば危険度も格段に上がってしまう……僕は何て事をしてしまったんだ…くそっ!」
唇を噛み締めるナツキだが……「いやそっちじゃねぇーよ!」っと、心の中でツっコみを入れてしまうヒート、ゴンザレス、ヒデ、3人の視線がナツキに刺さる――…も、当の本人は全く察しないまま。
するとそんなナツキに歩み寄り、ポンっとナツキの肩に手を置くヒデ。ナツキが振り向くと、ヒデの手には〔テクニカルポーション〕があり、ナツキの前に差し出した。
「とりあえずはTG回復しないとな。ポーションはあるのかい?もし切らしてるなら使ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
「まだ3つ残っているから渡しておくよ。君がいないと、全滅は必至だろうからね」
そう言ってヒデはメニューを操作し始める。するとナツキの目の前にもメニューが立ち上がり、『Hideより〔プレゼント〕有り 受け取りますか?』の文字が。
「…すみません。助かります」
「いいんだ。βテスターの先輩であり、ノアさんのお兄さんに協力するのは当然だからね」
「えっ…!?」
◆◆◆――…
その頃…ナツキ達との合流を目指すキヨマルは、道中出会った3人のプレイヤーと共にいた。
「何だ?…コレ…」
呟くキヨマルが見る先にあるのは、地面を削り横転した状態のSLの先頭車両。もちろん後方の客車も同じように横転した状態で連なっていた。
「これって…まさかクエストSLじゃないか?」
1人の男性で戦士風の鎧をまとった、人類種のプレイヤーがSLに触れながら言う。
確かにそうであった。そのSLはナツキ達が乗ってきた、あのクエストSL。クラッシュしたままの状態で残されていたのだった。
「クエストSLって事故るのかしら…?」
「そんなん知らねぇよ。でも、ここで事故ったからって、俺らの所に来なかったんじゃねぇか?」
残る2人のプレイヤー、女性で白猫の獣人種。鎧は鎧でも、和装の甲冑姿で赤いトサカのような髪型の、人類種の男性プレイヤーが首を傾げる。
2人の言葉に、キヨマルがナツキらの事を踏まえ、今の現状を話すか迷った。『この世界のデータは書き替えられており、自分達はNPC扱い。迎えに来るクエストSLは元々無かった』という事を……だがキヨマルは口をつぐんだ。原因に関わった訳でもなければ、弟のヒコマルのようにパニックになってしまっても困る。キヨマルは何も言わない事を選択した。
すると――…
「…あら?」
白猫の女性プレイヤーの耳が、何かを捉えたようにピクっと反応する。その声に、キヨマルを含めた他の3人が女性プレイヤーに向く。
「ん?どうした?」
「何かモーター音みたいなのが――…」
…――キィィィィィィィン…
女性プレイヤーが言葉を言いかけた所に、言葉通りのモーター音が聞こえ始めた。それはまるで飛行機が近づいてくるような音。
「な、何だ?この音…」
「これってさ…何か聞き覚えがあるような~…」
「だよな…」
っと互いに視線を合わせ、表情を引きつらせながら音のする方向に向く4人。すると案の定…崩れたビルの間から、コーナーを抜けていくレーシングカーの如くに姿を現すスカルライダー。
「っ――きたァァァァッ!!」
「さっきのメッセージじゃバトル中だったはずだろ!?」
「ヤっバい!逃げろォォッ!!」
今いる4人のレベルは平均で30程。さすがに敵う相手ではない上、襲撃を受ければひとたまりもない。急いで駆け出し、クラッシュしたクエストSLの瓦礫下に潜り込む。
スカルライダーは4人に気づく素振りも無く、4人の上空を飛び去って行こうとした――…瞬間、キヨマル1人だけが瓦礫下から飛び出した。
「オっ、オイ!危ねぇぞ!!」
「戻れって!!」
鎧姿の男性プレイヤー2人の声には応えず、キヨマルはスカルライダーを狙い弓を構える。
「バカ野郎!!攻撃なんかしたら俺達が狙われるぞ!!」
「心配すんなって、ただの――…〔ペイント矢〕だ!」
っと射ち放った矢は、上空を飛び去るスカルライダーのマシンの腹に見事命中。ピシャッ!っという音を発て弾けた〔ペイント矢〕は、マシンの小さな一部をピンクに染める。だがスカルライダーはキヨマル達に向く事なく、更にスピードを上げていくように飛び去っていった。
飛び去るスカルライダーを見送るキヨマルは、「ふーっ」っと大きく息をはき、その場にしゃがみ込む。そこに和甲冑の男が歩み寄り、キヨマルに手を差し出した。
「ったく、〔ペイント矢〕だったら先に言えよ。ビビっちまったじゃねぇか」
「ハハっ、悪い。ま、攻撃判定にはならないとは言え、射つ側もヒヤヒヤしたけどな」
男の手を取り立ち上がるキヨマルに、残りの2人も歩み寄る。
「ホント驚いたわ。でも、あなたは〔広域マップ〕のスキル持って無いでしょ?半径200メートル圏内しかマップが見れないのに、移動範囲の広いスカルライダーをマップマーキングしたって追い切れないわよ?」
「おれが追いつけなくてもいいんだ」
そう答え、メニューを立ち上げて何やらメッセージを打ち始めた。
「〔同盟〕さえ組んでおけば、おれが付けたマップマーキングは、〔広域マップ〕スキルを持つプレイヤーも見る事が出来るんだ」
「え?そうなの?」
「あぁ。生き残ってるレイドの中で、そのスキルを持つプレイヤーは…おれの知る限り3人……マーキングは10分しかもたない。逃がしたパターンだったら走ってくれ…生きて帰る為に…!」
そう呟き、キヨマルは『マップマーキング』完了のメッセージを全プレイヤーに送信した。




