Lood..018 vs スカルライダー(3)
ナツキ達がスカルライダーとの戦闘を繰り広げる中、建物の地下――安全区域に残ったタケシ、トモキ、セキカワ、そしてキヨマルとヒコマルの5人。
この安全区域をナツキ達が出立してから、キヨマルがヒコマルを宥めるような言葉をかけていたが、応えようとしないヒコマル。若さゆえの意地なのか…何も言わず、応えずのヒコマルに、キヨマルも言葉を止めた。意地に対して言葉を連ねすぎても、逆効果になり兼ねないからだ。それから約30分…この安全区域内で口を開く者はいない。
「…タケシさん…?」
ようやくの沈黙を破ったのはトモキの囁き声だった。しかしその声は対象のタケシと、並ぶセキカワにしか聞こえぬ声。離れて座るキヨマル兄弟には届いていない。
「トイレか?トモキ」
「そーそー、もう漏れちゃいそうで――…って違うっスよ!」
要らんノリツッコみの声に、離れたキヨマルとヒコマルが驚きに身をビクつかせた。ヒコマルはすぐに視線を反らすも、部屋の出入口脇の壁に寄りかかるキヨマルが、心配したように声をかける。
「何だ?『漏れそう』って、トイレか?」
「え~、キヨマルさんも乗っかるんですか~」
「いや乗っかるも何も、トモキ君が『漏れた』って言ったんだろ?」
「もっ、漏れたぁ!?いやおれ『漏れた』とは――…」
「えートモキ漏らしたんだー。クっサー」
「トモキ、不謹慎だぞ。常識はずれだ。先輩として恥ずかしい」
『漏れた』発言に、並ぶタケシとセキカワが同時に鼻をつまみ、トモキから少しずつ離れていく。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待った!おれ漏らしてないよ!ガチで漏らしてないから待って!見る!?見て!!ほら!ほらァ!」
っと焦りだすトモキから逃げるタケシとセキカワ。その姿に、キヨマルはアハハと笑い声を上げた。
「そんな焦るなってトモキ君。おれ達はデータで作り上げられた体。トイレは必要ないさ」
「へ?…そうなんスか?」
「あぁ。実体じゃないから、食事も睡眠も要らない体だ。でも面白いのは、仮想現実世界には『空腹感』と『眠気』を感じさせる『知覚』があるんだ」
「え?食べなくても、寝なくてもいいのに…ですか?」
「まぁ真意はわからんが、そこがVRMMORPG。『Virtual Reality』なんだろ。実際、この食事と睡眠をログイン中に1日以上怠ると、ステータスMGの減りが早くなってしまう。だから注意が必要だ」
これには「へぇ~」っとタケシら3人が頷き、「腹とか鳴るのかな?」など言いながら自分のお腹を擦り始めた。その中でも、タケシだけは自分の両手を見つめ、握ったり開いたりを繰り返している。
「どうしたんだ?タケシ君」
「あ、いや……やっぱりナツキさん達ってすごいなって思って」
この返しに、キヨマルは敢えて無言で首を傾けた。
「あ~、別に深い意味とか無いですよ。ただ…データの体なのに、呼吸してるって言うか、生きてるって言うか…確かに仮想現実にも俺がいるんです。俺が立ってるんです。そんな世界を創り上げるって、ホントすごいですよね、ナツキさん達」
「…あぁ。ゲームの世界に意識をフルダイブだ。夢みたいな…いや、夢をそのまま形にした世界。それを16歳で創ったんだろ?確か」
「確かそうです。あの時俺は小学生でしたけど、ニュースで見て驚きました」
トモキとセキカワは知らなかったのか、互いに視線を合わせて「すげぇー」のひと言。
「おれとは1歳しか違わないやつが、ここまでの世界を創り上げた…同世代だったから強烈に覚えてるよ、発売イベントで言った――…
『これが父の…家族…仲間と僕の夢の始まり…第3の地球の始まりです』
…――って言葉。その言葉を聞いた時、嫌な意味ではない、何か引っかかる感じがした。かっこつけて諭したみたいな言い方かもしれないけど、コイツはただの天才じゃない…よっぽどの"何か"を背負ってきたんだろ、ってな」
そう言ってキヨマルは少し距離をおいたヒコマルを見た。ヒコマルは部屋の隅の方に体育座りで顔を伏せた状態。
「ゲームで死ねば現実でも死ぬ…この状況がマジだとしても、だから助けに来てくれてるんだろうよ」
「俺もそう思います。ナツキさんとアイリさんは、本気で俺達を助けようとしてくれていますよ」
「状況が状況なら、彼らがおれ達の正義の味方…ヒーローって訳か」
「…――2人してバカかよ…」
タケシとキヨマルが話す声に被せるように呟くヒコマル。
「何が『助けに来てくれた』だ…何が『ヒーロー』だよ…アイツらが事を起こしたんだろうが。どうせ俺達の事救えなかったら、俺達を見殺しにして、自分らはとっとと現実世界に帰るつもりなんだろ」
「ヒコマル…お前いつまでそんな事言ってるんだ」
「何だよ兄貴…やっぱ兄貴はアイツらの味方なんだな?」
ヒコマルの言葉に、「またか…」っとため息のキヨマル。
「俺は兄貴みたいにアイツらを信じねぇ。アイツらは人殺しだ。俺達を殺す気だ」
「ヒコマル…お前いい加減にしろよ」
「じゃあ兄貴はアイツらが人殺しだって思わないのかよ?本気で信じてんのかよ?」
「…まだ会ったばっかりだ…全部を信じきるには短すぎる。もしかすれば、本当はイベントの一種かとも思ってる。でも…さっきの報道ニュースの動画に、クエスト中に死った現実でも知ってるギルドメンバーの顔があった…」
っと、キヨマルはメニューを立ち上げ、たくさんのユーザーネームが縦に並ぶリストを展開。そのリストを上下にスクロールさせるキヨマル。
「これは今、このクエストで〔同盟〕を結んだプレイヤー達のリスト。つまりクエスト参加者全員って訳だ。もし死れば、名前が斜線で消される。3回出来るリトライの場合は斜線か消え、名前の横にリトライの数だけ黒丸が付く…」
そう説明しながらスクロールされるリストには、斜線で消された名前ばかりが並び、黒の丸が付いた名前は1つも見当たらない。
「75人もいて、今は39人…誰も戻ってねぇじゃねぇか…やっぱマジな訳かよ…」
小さな舌打ちと共に顔を伏せるキヨマル。その姿に、ヒコマルも表情を強張らせる。
「ほらな…やっぱ俺らここで死ぬんだよ…こんな訳のわかんないヴァーチャル世界で死ぬんだ…」
「………」
これに対し、キヨマルさえも言葉を発しない。ただ俯くだけの2人。弟の前ともあり、自分を保とうとしていたが、リストを前に現実を再確認。内心あった揺らぎに、キヨマルの心も崩されたのだろう。
すると――…
「よっと!」
突然座った姿勢から、跳ね起きるように立ち上がるトモキ。その姿に、タケシとセキカワが視線を向けると、トモキはメニューを立ち上げアイテムの画面を触りだす。
「タケシさん。さっきおれが話しかけたのは、これだったんです」
そう言って、アイテムの一部をタッチすると――…突然トモキの体に唐草模様のマントが現れ、服装も薄い緑の着物に草履姿に変わり、頭には被り笠。腰には差した武器は、和の容姿に反した初期装備の洋風ハンディソードのままだったが……
突然の姿に、タケシとセキカワは驚きで目を丸くする。
「トモキ!?何だよそのかっこ…」
「うわートモキすげぇー」
もちろんキヨマル、ヒコマルもトモキの姿に驚きの表情。それもそのはず…2人からすればその装備は――…
「トモキ君…それはレア度Aランクの装備…『(侍)浮き世人装備』じゃないか…何でそんなハイレベルの防具をLv.1の君が…」
「これ、ポロン戦でアイリさんが獲得したボーナスアイテムらしくて…ちょうどおれが装備出来るジョブで。あと…なんか『慰めようとしてくれたお礼』って、クエストホームでもらったんです」
「えーいいなートモキ。オレも侍のジョブにすればよかった」
「じゃあ黒魔導士のセキカワは、法陣術師のナツキさんにお下がりでもおねだりしろよ」
目を輝かせるセキカワにそう言いながら、トモキはキヨマルの元に歩み寄る。
「この装備なら、おれも戦えますか?」
「は?」
「待ったトモキ!何を言ってんだよ!?」
「タケシさん、おれやっぱジっとしてらんないっスよ。おれも戦いたいです。ナツキさんやアイリさんも、死んだら終わりなのに…ゴンザレスさんとか、チエコさんにエリコさんも戦ってるんですよ…おれらみたいにレベル低いのに、ヒート君だってスカルライダー戦に参加してるんだ。おれだって――…」
っと言葉を続けようとしたトモキの肩に、キヨマルが手を置き言葉を止める。
「いいんだトモキ君。わかってる」
「え…何がっスか?」
「君の気持ちだよ…だが、現実はそうはいかない。例え防具が強くても、所詮はLv.1…スカルライダーの攻撃は凌げないだろう。だから正直に言うが、君は戦えない。むしろ足手まといだ」
「えっ…」
「ヒート君1人なら、テスター2人につけば何とか守れるだろうけど…守る対象が増えるだけ、2人に負担がかかる。それがわからない君じゃないだろ?」
そう言うキヨマルは、トモキの肩に置いたままの手をポンっと叩き、その手を今度は出入口のドアノブに置いた。
「だからおれが行ってくるわ」
っと、笑顔で言い放つキヨマルに、その場の全員が「はっ!?」っと反応。
「なっ、何言ってんだよ兄貴…行ったら死ぬかもしれないんだぞ!?」
「だよな~」
「いや『だよな』って…」
「実はそれにビビってしまってな…だから皆と一緒に行かないで、『お前ら守る為に残る』っとか言ったんだよ。安全区域だから守る必要無いのにな……ハハっ、実はかっこつけたヘタレだったんだよ、おれ」
頭を掻きながら苦笑いの中、視線をヒコマルに向けた。
「まぁお前が心配だったのは事実だけど…ビビりの方が先走ってた。でもさ、自分より歳下で、尚且レベルまで下の子がやる気見せてんだ。ここで行かなきゃ男じゃねぇよな…」
「兄貴…マジで行く気かよ…」
「ここまで言って行かないのは無しだろ?…トモキ君」
「は、はい!」
「君がここを守るんだ」
「へ?」
「ヒコマルを頼む、見ていてやってくれ」
言葉の後、すぐにキヨマルは出入口の扉を開き、背に背負った弓を手に指で弦を弾く。そして安全区域の終わりがある、暗い階段を見上げた。
「っかぁ~怖ぇ~。何か手が震えてきた」
「兄貴!待てよ!」
「待つのはお前だ、ヒコマル」
「兄貴…」
「ジっとしてても帰りが遅れるだけだ。動けば…戦わなくちゃ早く帰れないだろ?兄ちゃんがお前の事、元の世界に早く帰してやるよ。だからお前はおとなしく待ってろ。兄ちゃんの武勇伝を楽しみにして、な」
そう言って部屋を出ていくキヨマル。
残るヒコマルは呆然とした表情で…そしてタケシら3人も、同様の表情でキヨマルが出ていった扉を見つめていた。
◆◆◆――…
キヨマルが安全区域を出た頃、スカルライダーとの戦闘エリアの様子は一変していた。
ドッガァアァァァァァンッ!!
「ぐぁぁぁぁッ!!」
「うおォォッ!!」
すさまじい爆発が次々に鳴り響き、爆煙爆風に周囲は荒れ、地面には瓦礫と共に多数のプレイヤー達が落下してくる。どうやらナツキ達以外にも、クエストに参加していたプレイヤー達が集まり始め、今や24名のレイドが編成されていた。
その空中を、風精霊の羽根をまといナツキが飛び、杖を振り上げて空に巨大な法陣術を展開させる。
「聖なる雫よ、天の恵みと成りて降り注げ――…《レイン・ヒール》!!」
唱えた呪文と共に空の魔法陣が回転し、光り輝く雫が周囲に降り注ぐ。すると倒れたプレイヤー達のLGが一気に回復していき、プレイヤー達は次々に起き上がっていく。
「さすがLv.80の法陣術師様だぜ!」
「サンキュー!!助かった!」
「皆さんの回復はお任せ下さい!ですが無理は禁物です!」
他のプレイヤー達からの声に応えるナツキ。
そして、周囲に立ち込めた爆煙の隙間から覗く巨大な影――スカルライダーの姿ももちろんある。その眼球無き眼を赤く光らせ、鎌を持たぬ手を天に翳す。するとスカルライダーの跨がる空飛ぶマシンが、飛行機のエンジン音に似た音を響かせた。
瞬間、ナツキの目は見開きプレイヤー達に向かい叫ぶ。
「また来ますよ!!皆さん退避!!」
するとスカルライダーの頭上から、1つの小さな人影が急降下。その人影は――…
「アイリッ!?」
「させるかっ…このォッ!!」
両手には手榴弾が数個握られた状態で、頭からスカルライダーに向かい落下していく姿。
「何をする気だ!?危ないぞ!!」
「後で回復よろしゅー!!」
「ギィエェェェェッ!!」
アイリが手榴弾のピンを口で喰わえた瞬間、スカルライダーの奇声と共に翳された手が拳となり、急降下するアイリを殴り飛ばした。
「どっひゃあぁぁ~ッ!!」
「アイリ!!」
LGを大きく削り、某有名所の『ばいき○まん』の如くに飛ばされるアイリ。だがアイリもただでは飛ばされない。ピンを抜いた手榴弾は既に投下済み。
そしてスカルライダーの顔面の前で、一気に全ての手榴弾が起爆。
「ギィヤァアァァッ!!」
喰らった悲鳴か、の声を上げるスカルライダーだが、相手方も攻撃はセット済み。エンジン音をそのままに、マシンの前方――車で言うライト部分から、ガトリングガンのような銃口が2本現れ――…
ドドドドドドドドドドッ!!!!
大砲の発砲音を連続に響かせ、実弾では無い、紫と黒が完全に混ざり合っていない5メートル強の煙玉のようなモノが、次々に撃ち出されていく。しかも弾道はまっすぐではなく、四方八方へと何かを追尾するように飛び出している。
その煙玉は次々に地面に着弾し、そして大爆発。スカルライダーの周囲、広範囲での爆発が次々に巻き起こる。
ドゴオオォォォォンッ!!
ドガァアァァァァァンッ!!
爆発の度、プレイヤー達の悲鳴…その体が宙に舞う。
「くっ…!!」
空中で爆風に堪えるナツキだったが――…瞬間、目の前に迫るあの煙玉。
「しまっ――…!!」
ッ――ドオォォォォンッ!!
「うわぁぁぁぁッ!!」
煙玉の直撃、加えの爆発に吹き飛ぶナツキは地面に落下。ダメージに揺れた視界に、表情を歪める。
「…くっ…やはりレイドボスだけあって手強いな…」
っとナツキがその身を起こすと、離れた建物の陰から、4人の妖精種で魔導士風の女性プレイヤーが現れた。そして手にした杖を天に翳し――…
「《リング・ヒール》!!」
…――っと同時に詠唱。すると彼女達の杖からオレンジ色の光りを放つ輪が飛び出していき、フィールド各所の空に止まる。そしてその輪は回転しながらその輪の面積を広げていく。広がる輪は10メートルの直径となり、地面に向かい降下。輪――《リング・ヒール》が通った所に倒れたプレイヤー達のLGが、全回復とまではいかないが回復していく。
彼女達は回復魔法の使い手、白魔導士。3人のプレイヤーは続けて詠唱する《リング・ヒール》。残す1人の白い長い髪に、巫女のような姿をした女性プレイヤーだけがナツキの元に駆け寄り、その肩に手を置いた。
「大丈夫ですか!?今回復致します」
「あ、ありがとうございます…」
《ヒール》をかけてくれた女性プレイヤーは、とても清楚で綺麗な顔立ちをしており、思わずナツキは頬を赤らめ視線を反らしてしまう。
「ギヤャアァァァァッ!!」
するとスカルライダーの奇声が響き、巨大な鎌が振り上がる。狙いは――…
「僕達という訳か…やはり回復役はヘイトが溜まるな。皆さん!急いで退避!!攻撃は僕が引き付けます!」
ナツキの言葉に回復役の3人は慌て頷き、再び建物の陰に退避。ナツキの傍にいる女性にも、
「急いで逃げて下さい!」
「こ…腰が…っ」
抜けたとでも言うのか!?肩に置かれた手は小刻みに震え、その身が寄りかかってきた。既にスカルライダーは攻撃モーション――…ならば!っとナツキは女性の体を抱き上げ立ち上がる。
「少し怖いかもしれませんが、飛びますよ!」
「えっ…いやぁぁぁっ!!」
風精霊の羽根で飛び上がるナツキに、悲鳴を上げて掴まる女性。振り落とされるスカルライダーの鎌は、その2人を掠め地面に落ちる。衝撃と爆風から女性を守るように、スカルライダーとの距離をとっていくナツキの下を、ゴンザレスとヒデが駆け抜けて行く。
「ナツキ!!ワイらが引き付けたる!早よ逃げんかい!」
「ヒート君なら戦闘エリア外 (※)でチエリコ姉妹と一緒だ!だから心配は無い!」
「はい!ありがとうございます!」
(※)…ポロンのような1フィールドに1体の隔離ボス以外は、ボスの半径メートル以内に余計なエネミーが出ない戦闘エリアがある。エリア外とはボス戦参加に含まれない範囲の事で、ボスからも狙われない。だがクリア時、エリア内にいないと〔同盟〕者以外はクリア証明がもらえない。
ゴンザレスとヒデがスカルライダーに突撃していく中、距離をおいたナツキは地面に降り立ち、女性を座らせるようにゆっくりと降ろす。
「大丈夫でしたか?ダメージはありませ――…うわっ!」
すると突然、女性はナツキに抱きついてきた。
「…え?」
「怖かった…」
っと小さく呟く女性は顔を上げ、いきなり自分の顔をナツキの顔にグっ!っと近づけてきた。突然の事に思わず身を硬直させ、目を力強く閉じるナツキだったが――…触れたのは女性の指。それも頬に。ゆっくりと目を開くと…
「ここ…汚れてしまっていますわ」
「えっ?…あ…あぁ、ありがっ…ありがとうございます!」
それでも近い女性の顔に、己の顔を真っ赤にして慌てふためくナツキ。女性は再びナツキの体に抱きつき、
「あの…わたくし【セレア】と申します。助けて頂いたお礼という訳ではございませんが、この戦いで貴方様の回復役として…わたくしをお傍に置いて下さいませんか?」
そう言ってナツキの胸に頬を寄せた。突然の事に、ナツキは真っ赤な顔のまま硬直。
「いえ…やはり、今回の戦いだけでなく、これからずっと――…きゃあっ!!」
っと、突然セレアの感触がナツキから離れ、セレアの顔が視界に起き上がる。キョトーンっとしたセレアとの顔の間……ナツキの視界に映ったのは――…
「あ~らセレアちゃ~ん…あ・た・し・も・回復してくれるかしらぁ~?」
鬼――…あ~いや、引きつりまくった笑顔のアイリだった。感情のままに震える手で、セレアの後ろ襟を掴み上げ、その笑みをセレアに向けた。
「ひっ…!!」
「アっ、アイリ!?よ、よ、よかった、無事だったんだな!」
「『無事だった』ぁ~?あんたねぇ…こっちは命懸けで戦ってんのに、何イチャついて鼻の下伸ばしてんのよ!!」
「べっ、別にイチャついてなんかいない!!この人が回復してくれただけだ!!」
「回復ぅ!?抱きつかれる事が?いったい何の回復よ!!この変態!!」
もはやブチギレ状態のアイリは、ナツキの胸ぐらを掴み上げる。
「あ…あの~…」
申し訳なさそうな声で2人の元へ近づくセレア。するとアイリが鬼の形相で振り返る。
「何よッ!?ってアンタ!戦闘の最中、男に色目使ってんじゃないわよ!!」
「色目なんてそんな滅相もない…ですが、もしや貴女は…ナツキ様の彼女さんでいらっしゃいましたか?」
「さっ、様ァ!?」
自分に付いた『様』に、声を裏返らせて驚くナツキに対し、アイリはコロっと表情を変えてキョトーン。
「彼女?…あたしが?」
「はい…」
「んんんな訳ないでしょ!!あたしが?こんなヤツの!?無い無い!絶対無い!」
突如動揺したように顔を真っ赤にし、ナツキの身を地面に投げ捨て両手を振る。投げられたナツキは、後頭部を地面に打ちつけ悶絶。
「違うんですか?」
「違う違う!断じて違う!!」
「なら…わたくしが彼女になっても?」
「…はぃ?」
「戦いながらも、プレイヤーの皆さんを気遣う優しさ、強さ…そしてこの綺麗なお顔…」
「え…まさか…」
予想される答えに、徐々に表情が引きつっていくアイリ。当のナツキはそうとも知らず、打った後頭部を擦りながら起き上がる。
「わたくし――…」
っと再びナツキに抱きつくセレア。
「ほっんてひど目惚れすずまって、好ぎになっちまったんだべぇ~♥」
「はァっ…!?」
「テンション上がりすぎてキャラ崩壊!?てか訛りまくってんじゃないのよーっ!!」
その様子は、ちょうど退避していた物陰のチエリコ姉妹、ヒートの視界にも映っていた。
「戦闘中に何やってんだよオイ…」
「…修羅場キタァー…」
「やーん、アイりんどう出るどう出るぅ~♪」
「こっちは楽しんじゃってるよ…オイ…」




