Lood..014 オーブクエスト(2)
廃墟の町並みで、次々に鳴り響く銃声に爆発の衝撃。その爆煙の中を突き進むのはアイリ。空の薬莢を地面に撒きながら、150~180センチ、大小様々な人骨型のエネミー【ボーンナイト】の軍勢とのバトルを繰り広げていた。
前方に広がる、錆びた剣や斧を手に次々に襲い来るボーンナイトの波。右に左にと銃を撃ちまくるアイリの姿は、完全に戦闘モード。戦闘機パイロットのようなゴーグルを装着し、ダボついたタートルネックの生地を伸ばし、マスクのように口元を覆った姿。1丁6発のリボルバー式銃を2丁構えるが、弾は5秒と持たずに空薬莢として地に撒かれる。
「エネミー反応96…減るどころか増えてんじゃないのよ…っ!!」
特殊スキルにより視界に映るデータに、小さく舌打ちをしながら引き金を引くアイリ。その後方約10メートルを走るのはヒート、タケシ、トモキにセキカワ。そして最後尾につくのはナツキ。
襲い来るボーンナイトは前方だけでは無い。左右に聳えるビルからも次々に飛び出し、後方からももの凄い数のボーンナイトが追ってきているのだ。そのボーンナイトらを討ち払うのはナツキの魔法。後方を警戒しつつも、レーザービームのような閃光が杖から放たれ、次々にボーンナイトを撃破していく。
「アイリ!!安全区域まではどのくらいなんだ!?」
「あと500メートル先よ!!」
「500か…ちょっとキツいな…」
ナツキとアイリ、Lv.80の2人にとっては、襲い来るボーンナイトはLv.25~30。普通に戦う分にはわけ無い敵。しかし、ポロンを倒しLv.4に上がったヒート。データ更新のストップによりLv.1のままのタケシら3人にとっては、1撃でも喰らえば死活問題。その4人を守りながら…ましてや360度、100を越えるエネミーを相手にするのはかなりのもの。
「ちょっとおかしいわよコレ!このエネミー数は異常過ぎるわよ!!」
「確かに異常だ…!これでは――…」
「うわっ、来たァ!!」
トモキの声にナツキ、アイリが振り向くと、1体のボーンナイトが走るトモキの間合いに侵入。既に攻撃モーションのボーンナイトの斧が、〔セット〕直前のトモキに迫る。
「逃げろバカ!!」
迫る斧がトモキの頭に落ちる瞬間、ヒートが横から体当たり。重なるように倒れ込み、スレスレでボーンナイトの攻撃を躱す。
次の瞬間、1発の銃声と共に撃ち抜かれるボーンナイトの頭部。そして振り抜かれるナツキの杖が、白骨の頭部を打ち砕く。
「ナイスヒート!」
「助かりましたよヒートさん」
「お、おぉ…!」
アイリとナツキの賛美の声に、テンパったような表情で数回頷くだけのヒート。お礼を告げるトモキの背中をポン!っと叩き、ワタワタとしながら立ち上がる。
しかし、その立ち上がるヒートの視界――元々薄暗い空だが、その薄暗さが突然増した。それはナツキの視界内も同様。異変を感じた瞬間、
「ナツキ!!上!!」
続き響くのはアイリの声。言葉のまま見上げる視界に映るのは、左右を挟んだ高層ビルから飛び下りてきたであろう、30を越えたボーンナイトの雨。
「マズい…っ!!」
「バリアよナツキ!!」
再びのアイリの声に、ナツキがアイリ視線を向ける。するとアイリは腰に巻いた大きなポーチの中から、手榴弾を両手に合わせて6つ抜き出した。そして時限起爆の引き金となるピンを、一気に歯で噛み抜き去った。すぐさまナツキは杖を持つ手を地面につける。
「全員止まれぇ!!《バリアサークル》!!」
「《クラッチボム・ショット》!!」
ッ――ドォオォォォォォンッ!!
ヒート達を包むように張られたバリア上空に、矢の如くに投げられた手榴弾。それをアイリが空中で撃ち抜くと、空中のボーンナイトを一気に吹き飛ばす爆撃が展開。
すさまじい衝撃と爆煙爆風が周囲に吹き荒れ、ナツキら周りのボーンナイトが一掃。しかしその逆となったのはアイリ。元々ボーンナイトの軍勢に突っ込んでいた身だが、後方のピンチに背を向けての攻撃。隙だらけとなったアイリの背中に、ボーンナイトの群からの一斉攻撃が襲いかかる。
「きゃあぁぁッ!!」
「アイリッ!!」
10を越える斬撃をまともに喰らい、後方に弾き飛ばされ地面を転がるアイリの体。
これにより、遮るものの無くなった前方のボーンナイトの軍勢は、一気にナツキらめがけて押し寄せてくる。それはもちろん、左右や後方のボーンナイトらも同じ事。360度、100を越えるエネミーが津波のように襲いかかる。
「ウソだろオイ!!」
「ガチで!?ガチなの!?この状況ガチなのーッ!?」
「うっわー、ヤバいねー」
「トモキうるさいって!!セキカワ焦れって!!」
両極端なリアクションの後輩に、ちょっとズレたツッコみをするタケシ。ナツキとアイリはどうにか状況打破に考えを巡らせるも、襲い来る津波は待ってはくれない。
すると――…
「《"土流忍法"・土渡走》!!」
瞬間――アイリではない、別の女性の声が辺りにこだまする。すると一瞬アイリの足元が隆起し、地面から突然巨大な盾を持ち、黒の鎧をまとう190センチ程の大柄な人影が姿をみせた。
「隠れなはれや、お嬢」
「ふわぁ!?」
関西のイントネーションの男の声と共に、アイリは頭を掴まれ、盾と男の間に押し込まれる。
「バリアもう一丁張っちゃってぇー!!」
再びあの女性の声。するとナツキの頭上、ボーンナイトとの間…ワインレッドのポニーテールに、膝上丈の橙色の着物。覗く手足には黄土の装甲。刀を腰に差し、額を白地に紫の模様の入ったハチマキを巻いた、"くのいち"と言える容姿の女性が1人現れる。空中に舞うまま、胸の位置で結ぶ印。
「《"土流忍法奥義"岩爆滅懐》!!」
「ホラ来るでぇ!!早くバリア張らんかい!!」
「ッ!?――《バリアサークル》!!」
盾を持つ男の声に、ナツキがバリアを展開。すると空中に10メートルを軽く越える巨大な岩石が2つ現れ、降り注ぐボーンナイトの群をサンドするように激突。瞬間、先の爆撃など非ではない、すさまじい大爆発が巻き起こる。
爆発は衝撃だけでは無い。おそらくは激突した岩石の破片だろう、無数の石礫が四方八方に降り注ぎ、着弾と共に再び爆発。アイリを守る盾にも、ナツキの展開するバリアにも石礫が次々にぶつかり爆発を繰り返す。
「ぬぁんじゃ(何じゃ)こりゃ~!!」
爆音と衝撃に耳を塞ぎ、叫び声を上げるアイリ。ナツキはバリアの中で、次々にボーンナイトの群を吹き飛ばしていく爆撃に唖然とするだけ。するとそのバリアに降り立つ先程のくのいち。半円に張られたバリアの上からナツキらを見下ろし、ニコっと笑う。
「よっしゃ!残党約40。一緒に狩ろ、妖精種のお兄さん」
そう言って腰に差した刃渡り50センチ程の小太刀を抜き、立ち込める爆煙の中に突っ込んでいく女性。
繰り返された爆発が止み、耳を塞ぐアイリの頭がポンポンっと軽く叩かれる。「…ほぇ?」っと見上げると、頬まで覆う鉄兜から覗く、人間では無い――黒毛のゴリラの顔。
「もうひと踏ん張り、いけるやろ?お嬢」
「え…あ…はい…」
ポカーンっとしたままにアイリが頷くと、ゴリラ男は背中から両刃の大剣を抜く。
「っシャアッ!!行くでぇ!!」
「え、あ、は、はい!!」
バリアに降り立った女性が飛び出しても、未だ唖然としたままのナツキ。バリアを解除し立ち上がる元へ、続いて現れたのは1人の妖精族の少年。身長は160前半くらいで、グリーンのマントと、1本に結った金の髪を揺らしながらナツキに駆け寄ってきた。
「オーイ、君達無事か――…ってLv.80!?」
バトルフィールドの為、顔の横に表示されたナツキのステータスに驚く少年。その彼にもついたステータスには、【Lv.19 Hikomaru】っとあった。
「え?え?何?そのレベル…あんたらチーター?」
「いや、違いますよ。僕らは――…」
「あ~別にチーターでも何でもいいや。TG回復の【マインドポーション】持ってないかな?あったら1つ譲ってほしいんだ。代わりに俺らの安全区域まで案内するからさ」
「安全区域ですか!?お願いします!」
◆◆◆――…
しばらくして、ナツキらの姿はとあるビルの地下室にあった。
爆撃で残ったボーンナイトの残党を一掃し、ナツキの元へ来た【ヒコマル】という少年の案内を受け、今いるこの地下室に来たのだ。
室内は四方20メートルくらいはあろう空間だが、部屋の中心にぶら下がる小さなランプが照らすだけの薄暗いもの。何があるわけでもない、ガラーンっとした室内。その一角には周囲を照らすものではない…ぼんやりとした薄い緑色の光りを帯びた、1つの分厚い本が浮かんでいる。ちなみにこれが〔仮セーブポイント〕。この本に触れると、クエスト中でもゲームデータをセーブする事が出来るのだ。
「〔仮セーブポイント〕…ホントに安全区域なのね、この部屋は」
「そうだぜ。〔広域マップ〕スキルにもかからない隠し部屋だったんだけど、俺が見つけたんだよ」
そう得意気に胸を張るヒコマルは、辺りを見渡すナツキ達に「さぁさぁどうぞ」というように手で促す。とりあえず部屋の中心の灯りの元に輪を作るように座るナツキ達と、ヒコマル達一行。
「でも本当に助かりました。皆さん、ありがとうございます」
ヒコマルを含めた5人の一行を見渡し、頭を下げるナツキ。
「あ~いやいや。こっちこそアイテムとかもらったし、回復までしてくれて助かったよ。クエスト中はプレイヤー同士お互い助け合うものさ。だから気にすんなって」
ヒコマルとよく似た容姿だが、ヒコマルよりは大人びた顔つき。銀の髪を1本に結い、緑色のマントに弓矢を背負った男が答えた。
「おれは【キヨマル】っていうんだ。ジョブは【アーチャー】で、見たまんまの妖精種さ。まぁ見た目とかで想像つくだろうけど、ヒコマルはおれの弟。ちなみに現実でも、な」
「おい兄貴…現実の事言うのはマナー違反じゃねぇのかよ」
「聞くのがマナー違反だ。別に言う事は違反でもない。それに兄弟ってくらい別にいいだろ…たいした個人情報じゃねぇんだし」
この会話に、ヒートが難しい表情を浮かべながらナツキを肘で突く。
「『聞くのがマナー違反』ってどういう事だよ?」
「まぁネットゲームでの暗黙の了解のようなものです。こういった類いのゲームは基本、相手の個人情報を探るような行為は禁じられており、マナーに反する事なんです」
「は~そういうもんなのか。まぁオレがこんな姿してんのも、バレたかねぇしな…そういう事な訳な」
「それも1つでしょう」
っとナツキが説明していると、キヨマルはケラケラと笑いながら口を開く。
「まぁ確かにそうだ。けど、おれは別に隠して楽しむクチじゃないよ。現実じゃ25歳の会社員。休みはもっぱらゲーム廃人、ってな」
「アタシもそのクチ~♪だからアタシも自己紹介するー」
っと元気よく手を上げるのは、ボーンナイトの大半を撃破した術を使ったあの女性。
「アタシは【エリコ】。【人類種】の【暗殺者/忍モード】。よろしく~♪」
「んで、現実じゃ24歳の大学院生で~す」
「うわっ、キヨちゃんヒっド!アタシのセリフ盗った~!」
膨れっ面を作り、キヨマルの結った銀髪をグイっと引っ張るエリコ。そのエリコの腕や足。右側だけ衣に通していない為に覗く、黄土の胸当てを見たアイリが突然声を上げる。
「あーっ、コレ!【フジ樹海】に生息する【ボムボムカマキリ】の素材じゃない!?」
「おっ?わかる?そーなのコレ。あの滅多にお目にかかれないSレアエネミーのだよ!先週――…あ~現実時間でね。ログインした時に見つけて、【チー姉】が加工してくれたの!」
そう言ってエリコは、隣に座ったもう1人の女性に抱きついた。その女性は、腰の所まで伸びた藍色髪に、サラシのようにな白い布が八がけ巻かれ、袖の無い白の着物姿。手には着物の模様同様の、紫色の布手甲をはめており、足元はぼっくり。種族はアイリとタケシと同じ【小人種】なのだろう。小柄な体に大きな耳をしている、(何故か)無表情な女性。
「紹介しま~す!アタシのお姉ちゃんの【チエコ】。通称【チー姉】一応【戦士】だけど、〔鍛冶〕スキルのマスターランク持ってる自慢の姉でぇ~す♪」
「「マっ、マスターランク!?」」
驚きの声をそろえるのはナツキとアイリ。並ぶヒートやタケシ達は「何だ?」「どうした?」的な目で2人を見る。
「えっ!?って事は、ボスレベルSランクの【クリスタルドラゴン】を単独パーティ(※)で倒した訳ぇ!?」
「うん、そだよ~」
(※)…『NOAH』でのクエストは1パーティ上限は5人。つまり『単独』とは5人以下のパーティの事。
「おい室長。何だよそれ…すげぇのか?」
「すごいですよ…通常で言えば、レイドボスである【クリスタルドラゴン】を、単独パーティで狩らなければ、獲得素材ボーナスの【結晶の雫】が手に入りません。その素材で【竜の涙】と呼ばれるペンダントを精製しなくては、『鍛冶屋マスターランク』は獲得できません。しかもその【結晶の雫】の加工がとても難しく――…」
「っだァー!!訳わかんねぇ単語並べんなぁ!!何だよその『レイド』だの…その『ナントカの雫』だの!意味わかんねぇよ!」
頭を掻きむしり、足もバタつかせるヒート。その姿にため息をつくアイリは、「うるさい」っとヒートの頭を平手で叩く。
「『レイド』ってのは、直訳すれば『強襲/襲撃』って意味よ。ゲーム用語的な使い方だと、『多数のパーティ』とかって意味合いよ。だがら『レイドを組む』的な言い方もするわ。あとは『レイドボス』って言い方もあるわ。敵は1体だけど、多数のパーティで戦う…まぁ超大型モンスターってな感じ。わかった?」
「ん~、だいたいはわかったけど、何で叩くんだって…普通に教えてくれればいいだろが」
抗議するヒートの頭を、「はいはい」っと再び叩くアイリ。苦笑いのナツキをスルーし、紹介を受けたチエコに向いた。
「しっかしすごいのね、一般プレイヤーでマスターランクだなんて――…」
「っ!!」
っと言葉をかけてる途中、突然体をビクつかせるチエコは、隣の妹エリコの腕にしがみつく。
「えっ…どうしたのよ――…」
「っ!!」
突然の事に、思わずアイリがチエコに向かい身を乗り出すと……無表情のまま目を反らし、エリコの腕にしがみつきながら震え出した。それは彼女の背景に、『ガタガタ』と書き出したいくらいの震え方。するとエリコがニコっと笑いながら口を開いた。
「あ~ごめんなさい。チー姉ったら、25歳にもなってすっごい人見知りで…喋りたい時はアタシを通して下さい」
ちなみにだが…チエコの震えを受け、上のセリフは喉をトントンと叩いて話すような感じ(※…『我々は宇宙人だ』的な)で読んで頂けるとありがたい。
その内容に、返す言葉が見つからないアイリ。もちろんナツキ達も……彼らの様子を察してか、今まで黙っていたゴリラ男が口を開く。
「まぁそない難しく考えんなや。この姉妹と絡むんは、慣れるまではごっつ面倒やけど、腕は確かや。姉の【"創天"のチエコ】に、妹の【"瞬刃"のエリコ】――…【チエリコ姉妹】言うて、ゲーム内じゃ通った名や。ワイもパーティ組むようなってそこそこやけど…チエちゃんはまだ、ワイと喋ってくれへんからな」
っと男が話すと、チエコの震えがピタっと止まる。そしてエリコの耳元でなにやらボソボソと話し出す。
「…――えっとぉ~…『【獣人種】怖い。リアルゴリラ怖い。だから話さない』だって【ゴンちゃん】」
「っかぁ~言いおるなぁ~チエちゃんは…ダッハッハッハ~!」
っと笑う男ゴリラ――【ゴンちゃん】。この見てくれの『ちゃん』に、思わず「ゴンちゃん!?」っとリピートしてしまうアイリ。
「いやいや、マジの名前が『ゴンちゃん』や無いで。ワイは【ゴンザレス】や。イカすやろ?よろしゅうな!」
獣人種ゴリラの【ゴンザレス】――…ナツキ、アイリ。ヒートにタケシ、トモキとセキカワ。皆が感じたであろう、「ゴリラ…ゴンザレス…合ぁ~う~」――その感情が物語る遠い目が、彼…ゴンザレスに向いていた。




