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NOAH -ノア-  作者: 孝乃 (編集中)
第2章『関東エリア解放篇』
16/26

Lood..012 言葉の亀裂(2)

 場所は移り、現実世界――…


数多の人々が行き交う、午後の東京の街。建ち並ぶショッピングセンタービルに設置された巨大モニターには、NOAH(ノア)の回線遮断を報じる緊急ニュースが映し出されていた。


道行く人々は足を止め、呆然とした表情でモニターを見上げている。仲間内などでもザワつき合い、「アイツは大丈夫だよな?」などと電話をかけ出す者もチラホラと。もちろん興味無き者は歩みを止めず……様々な反応に、現実世界は揺らいでいた。


そのモニター中では『緊急速報』のテロップを映し、1人の女性アナウンサーが次々に原稿を読み上げていた。



「…――っと、現在までにわかっている事は、ゲーム回線の遮断により、約18万人のユーザーが仮想現実世界に閉じ込められてしまったという事です。そして今、『Network(ネットワーク) of(オブ) Adventure(アドベンチャー) Hall(ホール)』の発売と開発元である、トイズ・クランピアの幹部らによる会見が始まるようです。それでは、その会見の様子を今から中継させて頂きます」



どよめく人々の中、無感情を思わせる沈んだ表情で1人歩く大次郎(だいじろう)。赤信号機に足は止まり、気力無き目がモニターを見上げた。すると、日頃警備で見慣れたトイズ・クランピア社内。10階大会議場に、簡易的にセッティングされた会見の様子がその目に映った。


映像には無いが、多数の記者達がいるのだろう。パシャパシャ!っと無数のフラッシュがたかれる中、社長に続き、1人の黒スーツの男が入室してきた。黒髪をビシっと七三分けに決めた、40代半ばくらいの細身の男。社長と共に木目の長テーブルに並び、深々と頭を下げる。そして頭が上がり、七三分けの男がマイクを手にした。キツネ目とも言える細く鋭い目付きに、少しこけた頬。どこか意地の悪そうな顔つきで会場を見渡し、ゴホンと咳払いを1つ。



「トイズ・クランピア社、ゲーム開発部部長の【氷堂(ひょうどう)】です。この度は多大なご迷惑をおかけしています事、深くお詫びを申し上げます。込み入った謝罪の前に、まず我々からのお願い事がございます。『Network(ネットワーク) of(オブ) Adventure(アドベンチャー) Hall(ホール)』――『NOAH(ノア)』の回線は現在遮断されています。ログイン中のユーザーの皆様は、現状としては仮死状態に近いもの。命を繋ぐものはハード機器のみ。ですから、強制的にNOAH(ノア)のハードを頭から取り外すような事は決して行わないで下さい」



そして氷堂(ひょうどう)と名乗る男性は、再び咳払い。



「詳細は後程お伝え致しますが、現在NOAH(ノア)開発チームで、ユーザー18万人の救出作業を行っております。ゲームのログインに脳が耐えられるのは、最大72時間。その時間を超えてしまえば、脳の神経細胞は限界を迎え、全ての機能を停止させます」



すると氷堂(ひょうどう)は片手でNOAH(ノア)のハードを持ち上げる。



「このハードの額の部分に液晶画面がございます。この液晶には、ゲームユーザー情報や状態。ゲーム内の時間軸。そしてログイン時間の表示もございます。ログイン中のユーザーがいらっしゃるご家族やご友人。周囲の皆様にご確認を頂きたい。既にログイン時間が24時間を経過しているユーザーがいた場合、早急に医療施設への搬送をお願い致します。全国の医療施設への了承は得ており、費用に関してはトイズ・クランピア社が全額負担致します。少しでも長く、時間をかせぐ為――…」



ザワめく街中……その一角で、続く会見をボーっとした表情で見つめる大次郎(だいじろう)。もう何度信号機が変わっただろう……ただ流れる会見を見つめている。


すると突然、上着の胸ポケットに入れていた携帯電話が鳴った。ベルのように鳴る呼び出し音に、ようやく世界を戻された大次郎(だいじろう)。慌てたように電話を取ると――…



「はい、もしもし…――お、おぉ…雪菜(ゆきな)か…」



電話をかけてきたのは、大次郎(だいじろう)の奥さん――雪菜(ゆきな)という女性だった。



「…どうした…?」



モニターを見上げながら、覇気の無い声で問う大次郎(だいじろう)



「…――そっか、お前もニュース見たのか…あぁ、そうだ。NOAH(ノア)がとんでもない事になっちまった。…――ん?俺か?俺は大丈夫。俺は…な…」



通話のまま信号を渡り切り、大きなビルの柱に寄りかかる。そして今までの経緯を雪菜(ゆきな)に話し始めた。




 夏輝(なつき)愛莉(あいり)。そして飛依斗(ひいと)がログインした所まで話しが進むと、大次郎(だいじろう)の表情が徐々に険しく、何かを堪えるように歯を食いしばるものとなっていく。



雪菜(ゆきな)…俺……俺…」



携帯電話を持つ手を震わせ、食いしばる歯をギリギリ鳴らす。熱くなっていく目頭を押さえ、その場に座り込む。



「βテスターの3人と、新規ユーザーでゲームをクリアすればいい。でも俺らは1度ログインしたら帰れない。ゲームで死ねば、現実世界でも死ぬ。救出が間に合わなくても、限界時間になって死ぬ…そう言われて、口では『覚悟はある』みたいな事言ったのに…俺本当はビビってた……だから夏輝(なつき)から『残れ』って言われて、正直ホっとしたんだ…」



目元を押さえた手に、ジワっと感じられる冷たいもの…



「歳下の2人が覚悟を決めてる中、俺…自分の命を守れた安堵感に笑っちまったんだ……最低だ…!…アイツら2人に兄貴面してたくせに、俺は2人を見捨てた…!『自分には家族がいるから』、『自分は開発チームじゃない』…2人の言葉を鵜呑みにして、『俺には関係が無いからいいんだ』って正当化させてた…コンピュータはいじれねぇし、いい案が思い浮かぶようなデキる頭でもねぇ。そんな俺が、アイツらにしてやれる事は1つしかなかったはず……なのに俺は逃げた…怖くなって、その場から逃げてきちまった…!」



座り込み俯く顔から、ポタっ…ポタっ…っとこぼれ落ちる涙が地面を濡らす。



雪菜(ゆきな)もわかるだろ?夏輝(なつき)愛莉(あいり)って、ちょっとした事でケンカばっかすんだよ…」



目元を拭い、座り寄りかかる柱に己の後頭部をゴン!っとぶつけ、その顔を上げた大次郎(だいじろう)



愛莉(あいり)夏輝(なつき)に惚れてる。口では言わねぇけどバレバレだ…だからいっつも『親にかまってほしい子供』みたいに、要らんちょっかいばっかり出すんだ…真面目な夏輝(なつき)には逆効果なのによぉ……だから夏輝(なつき)愛莉(あいり)に『人間的にNG』って言っちまう…」



っと言うと、大次郎(だいじろう)はフっと鼻で笑うように息をはく。



「でもそう言いながら、心のどっかじゃ愛莉(あいり)の存在が引っかかってる。だってそうだろ…本当にNGだったら、昼飯食い行ったり買い物行ったり…休みの日以外は毎日一緒に出歩いたりしねぇだろ…仲間(つれ)になって10年間、毎日。ケンカしてても一緒に行くんだぜ?お互い口利かねぇのに…笑えるよな…」



再び鼻で笑うように息をはき、視線を下に向ける大次郎(だいじろう)



「でもあの2人、仲直りが苦手でな…俺が間に入って、俺が言わねぇと絶対相手に謝らねぇんだ。どっちかが『ごめん』って言えばすぐ許すくせに、変なプライドがハネ合って、心にも無い事言って、お互いを傷つけ合っちまう。どっち共必要とし合ってるくせ、どっちも頑固で、どっちも子供(ガキ)なんだよ……だから俺が…俺がアイツらのバランスとってやんねぇといけねぇのに…俺は――…」



再び声を震わせる大次郎(だいじろう)……その姿に、道行く人々は気にも留めていない。皆、異例の事故ともなった事態を報じるモニターに釘付けだ。





◆◆◆――…





 しばらくして、その会見はいつしか質疑応答へと移っていた。記者団からの質問に答えているのは氷堂(ひょうどう)。すると1人の記者が挙手をし、マイクを手にした。



「エブリスポーツ社です。おそらくはNOAH(ノア)の回線が切れた時でしょう、当社に差出人不明のあるメールが届きました。これは各社に出されたものかもしれません。このメールについてはご存知ですか?」



この質問に、氷堂(ひょうどう)の表情が少し強張った。



「…はい。存じております」

「内容からすると、回線の遮断を予期していた。もしくは、自らが回線を遮断させた――…そのような内容ともとれるのですが。これについては、何かあきらかとなっている事はあるのでしょうか?」



実際にこのメールはメディア各所に送られており、差出人のアドレスは存在し得ないものであった。もちろんトイズ・クランピアにもメールの件は伝えられ、すぐさま世に報じられた。世間では「外国からのサイバーテロだ」や、「世界発売にかけての売名イベント」などと言われ、真相究明に注目を集めている。


しかし現状としては、トイズ・クランピアの社員らも真相はわからない。メールの送り主が誰なのか……飛依斗(ひいと)の素行の悪さが引き起こした事故だと思っていたものに、突如不可解なメールが現れ、社員らも半ば混乱事態だ。


質問を受け、しばらく黙り込む氷堂(ひょうどう)。何ともいえぬ不思議な間に、記者団。そして社長の視線が氷堂(ひょうどう)に集まる。社長が小さく氷堂(ひょうどう)の名を呼ぶと、小さく息をはき、咳払いを1つする氷堂(ひょうどう)。そして応答の為に、再びマイクを口元に運んだ。



「…現在、メールの件に関しては、警察の皆様と共に調査している所であります。ですので、今皆様に言える事は…『Network(ネットワーク) of(オブ) Adventure(アドベンチャー) Hall(ホール)』は、"ノアの方舟"にはなれなかった――…っという事でしょうか…」



そう言ってマイクを置く氷堂(ひょうどう)。これには記者団もポカン。そしてすぐさまザワつき出す会場。



氷堂(ひょうどう)君…君は何を言って――…」

「社長。彼らを切るなら、早めの方がよろしいかと思いますがね」

「何…だと…」



記者団側の1点を見つめたままに告げる氷堂(ひょうどう)を、ただただ無言で見つめる社長。




◆◆◆――…




 この会見を見守るのは、街の人々だけではない。NOAH(ノア)開発チームのラボにも、巨大な日本の3Dマップに被さるようにニュースが映し出されていた。


その管理室内は、氷堂(ひょうどう)の不可解な発言にザワついていた。その中、ニュースを見る訳でもなく、ひたすらパソコンのキーボードをカタカタと鳴らす(ひろ)。だが氷堂(ひょうどう)の声は耳には入っていた。



「よっぽど先輩方を恨んでるみたいっスね、部長…トイズ・クランピアの中枢(ずのう)の座を奪われた事で…」



室内の隅の方では、立ちながら壁に寄りかかりタブレット端末を操作している実織(みおり)も、横目にモニターをチラっと見た。そしてクスっと口元を笑みに変える。



「今のNOAH(ノア)は『つぎはぎの方舟』…か。平静を装っても、妬みが表に出てるわね、"元"天才の部長さん」



笑みを浮かべた顔を廻し、視線を離れた位置にいる、NOAH(ノア)にログイン中の3人。そして夏輝(なつき)の横に並んだ乃愛(のあ)に向けた。それぞれを見、愛莉(あいり)の姿に視線を止めた。



「でも部長には、ある意味賛成かしら……そして貴女に贈れる言葉は2つだけ。『美人薄命』に『四面楚歌』…だからせいぜい死なずに帰って来なさい。誰が敵かわからないわよ?ふふっ…」



含むような笑みを浮かべ、タブレット端末の画面を軽くタッチ。そのまま脇に抱え、近くで作業をする女性社員の肩を叩くと、「外に出てくる」と告げてその場を去っていく実織(みおり)


すると――…



「ん?…メール…?」



突然、(ひろ)の操作するパソコンに『新着メール1件』っとの表記が現れる。首を傾げながらも、アイコンにマウスを合わせクリック。操作と共に表示されたメールの文章。



「…あれ?このアドレス――…ッ!!」



どこか見覚えのあるアドレス。読み上げていく本文に、(ひろ)の表情が瞬間的に強張った。机をバン!っと叩き立ち上がると、誰かを探すように体ごとに視線を廻す。しかし目当てのモノは無く、突然立ち上がる(ひろ)に驚く周囲だけ。



「まさか、あの人が『NOAH(ノア)』を――…」




◆◆◆――…




 場面は再び仮想現実の世界へ移り――…


ポロンを倒し、任務を達成したナツキやアイリ。ヒートにタケシ、トモキ、セキカワの6人。表示された60秒が経過すると、それぞれの体が白い光りに包まれ、一瞬足が地面からフワっと浮かび上がる感覚にとらわれる。だがそれも本当に一瞬。すぐさま硬い大地に足がついた。



「…――っと…うおっ!何だここ!?」



降り立つ大地に、開けた視界。その目に映る景色に驚きの声を上げるヒート。


広がる景色。それは白い(もや)…いや、雲なのか?白いモクモクとしたものが一面に広がり、青々とした空も広がる景色。足場はセメントを固めた、これぞまさにコンクリートと言ったものになっており、長方形の足場。長い所で全長100メートル程で、なにやらその100メートル。黄色い線が端の方に伸びている。



「何だ?この線――…うおっ!」

「はいはーい、電車が参りま~す。黄色い線までお下がり下さぁ~い」



線に近づこうとしたヒートの襟首を、後ろからグイっと引っ張るのはアイリ。「何すんだ!」っと騒ぐヒートをそのままに、アイリはナツキに向いて敬礼。



「安全確認OKでありまぁ~す、しゃしょー(車掌)さん」

「………」



わざとらしい真面目顔を作るアイリだが、ナツキはため息を1つ。そして合わせた視線を冷たく外した。無言のナツキに一瞬表情を曇らせるアイリだったが、ため息にも似た息をはいてヒートの襟首から手を離す。



「いきなり何すんだよ、いってぇな」

「今からここに電車が来るの。だから『黄色い線の内側に下がれ』って、駅でよく言われるでしょ?」

「は?…駅?」



疑問の眼差しを廻すヒートの視界に、コンクリートの足場中央。小さな駅などでよく見る、駅名を示す立て札が映った。



「あ?何だ?…『特別クエスト・半月(はんげつ)五重塔(ごしゅうのとう)』…?」

「ここは各県にある、クエスト地と拠点地を繋ぐ駅――【クエストホーム】。書いてあるのはクエスト地とクエスト名よ」

「クエストホーム?…え、何なんですか?それ」



っと、質問をしながらアイリに近づいて来たのはトモキだった。後に続くようにタケシとセキカワも歩み寄る。振り返るアイリは、3人の顔を見ると「およ?」っと口元を丸く作る。その表情に、自らを名乗っていない事に気づくトモキは、少し照れたように頭を掻く。



「あ、あ~すみません。挨拶してなかったですよね…おれはトモキっていいます。んで、後ろにいるのが先輩のタケシさんと、同級生のセキカワです」



紹介を受け、タケシはペコっと一礼。セキカワは「ども」っと軽く手を上げた。



「先輩に同級生…学生なの?3人共」

「え?あ、はい。おれら、大学の同じサークルの先輩後輩でして。おれとセキカワは同じ学年で、タケシさんは1つ上の先輩なんです」

「ふ~ん。ログインは3人で?」

「そうです。サークルのメンバーから『ギルドを一緒に作ろう』って誘われてて、3人でバイト代貯めてNOAH(ノア)買ったんです。んで、タケシさんの家で一緒にログインしたら、チュートリアルの途中であの戦闘になってた――…って感じですよ」

「そっか…ごめんね、危ない目に遭わせちゃって」

「え?」



突然謝るアイリに、向き合う3人はキョトン。



「あたしらNOAH(ノア)開発やってるトイズ・クランピアの社員なの」

「えっ!?ガチっスか!?」

「えー、すげー」



過剰なまでのリアクションのトモキに対し、間の抜けたような反応のセキカワ。落差のある2人をチラっとだけ見るタケシ。



「あたしはアイリ。んで、このウサギがヒート」



そう言いながら、ヒートのウサギ耳をクイクイ引っ張るアイリ。ヒートは「触るな」っと言わんばかりに、耳を引っ張るアイリの手を弾く。そしてアイリは背を向けて立つナツキを見る。



「んで…あの尖り耳がナツキ。この『Network(ネットワーク) of(オブ) Adventure(アドベンチャー) Hall(ホール)』を生み出した開発者よ」

「えっ!?ガチっスか!?」

「えー、すげー」



再びの過剰リアクションのトモキに、抜けた反応のセキカワ。そして再び2人をチラっと見るだけのタケシ。


ナツキは誰を見る訳でもなく、横顔だけをこちらに見せ、俯きかげんに会釈を1つ。そして再び背を向けた形となる。


何かを拒絶しているような…壁を感じるようなナツキの背中。これには過剰リアクション男のトモキも「あれ?」っと押し黙る。その光景に、アイリは腰に手を置いてため息。



「…ごめんね。あいつは人見知りなだけよ」

「えっ!?ガチっスか!?」

「えー、すげー」

「いやいろいろ反応間違ってるから」



ワザとか?天然か?の後輩2人の反応に、思わずツッコみを入れてしまうタケシ。アイリはクスっと笑みを浮かべ、言葉を続けた。



「それでね…今から話す事、とにかく冷静になって聞いてほしいの。質問は後で答えるから、今は黙って聞いてね…今ね、この仮想現実世界と現実世界の回線が切れた状態なの」

「えっ!?ガチっ――…」

「黙れっつったろゴラァ!!」



過剰リアクションに入ったトモキの股間を、怒声と共にアイリの足が蹴り上げた。もはや声すら上げられぬトモキは、打撃を受けたモノを押さえ、『"名画"ムンクの叫び』の表情を浮かべて地に崩れ落ちる。



「戦闘以外の〔つっこみ〕コマンドもあるから、気をつけなさいよ~…アンタ達もね…」



睨みつけるようにタケシとセキカワを見るアイリ。すると2人は唇をグっと締め、ビシっときおつけの姿勢で首を縦にブンブンと振ってみせた。その姿に、「よ~し」っといったように頷くアイリ。



「…――んで、さっき言った通り、この仮想現実世界…NOAH(ノア)の世界に、君達を含めた18万人のユーザーが今閉じ込められてるわ。仮想現実(こちら)からのログアウト行為は出来ない。ゲームデータ更新はストップ。ゲーム内でLGが0となれば、現実世界での死。そしてログイン可能な限界時間、現実時間(リアルタイム)の72時間がくれば、脳回路が爆発…再起不能となるわ」

「…う、嘘…ですよね…?」

「本当よ。この全てを今理解する事は無理だと思う。けどそれが事実なの…ごめんね…」



俯く視線を、呆然とするタケシら3人――…1人は悶絶中だが…その彼らに向けるアイリ。すると背を向けたままのナツキが口を開く。



「僕らは18万のユーザーを救う為に来ました。『救う』と言えど、"正義の味方"を名乗るつもりはありません。むしろ咎人と呼ばれる存在だ…全ては僕の責任…」



そう言うナツキの背を見るアイリは、再びのため息。



「…あたしだって責任がある。もちろん、このヒートにも」

「は、はぁ!?何言ってんだって、オレは何もしてねぇ。だからオレには何の責任もねぇよ」

「アンタねぇ…ここまできてまだ言ってんの?アンタがこの事態の引き金引いたんでしょ!?」

「さぁ~?何がどんな引き金でしたでしょーかねぇ?ぼくウサギさんだからわからなぁ~い」

「っ!!…アンタねぇ…バカにしてんのかァ!!」



おちょくるように両手をヒラつかせるヒートに、アイリが掴みかかろうした瞬間――…



「いい加減にしないか!!」



全ての動きを止めるナツキの怒声が辺りに響く。体をビクつかせ、ゆっくりとナツキに振り返るアイリ。



「いい加減にしてくれ…今は誰が悪いかなどを決めている時じゃない」

「でも…でもこのバカ、自分のした事の重大さを――…」

「君だって、調子に乗って犠牲者を増やした」

「えっ…」

「ヒートさんを責める立場でも無いだろ」

「っ…!!」



ナツキの言葉に、ハっとしたように目を見開き、ゆっくりと顔を俯かせていくアイリ。俯こうとも、アイリよりも頭の位置の低いヒートからは、今にも泣き出しそうなアイリの表情が見えた。その表情に、



「お、おい室長、何もそこまで言わなくても――…」



っと、思わず口を開くヒートだったが……



「咎人同士、傷の舐め合いはするつもりはありませんよ。ヒートさん、あなたとも」

「っ……」



言葉を切り、冷たく鋭い視線を向けるナツキ。妙に威圧感のある視線に、生唾を呑むように黙り込むヒート。すると拳を握り締め、その肩を震わせたアイリの口が開く。



「ちょっと待ってよ…こんな状況だからイライラするのはわかるけど…八つ当たりしないでよ…子供じゃないんだから」

「そう言う君が子供じゃないなら、売り言葉に買い言葉にならないよう、子供(ぼく)の言葉なんて流せばいいだろ…自分が犯した(ごう)も流すつもりならね」

「っ…何よそれ……何でもかんでも蒸し返しばっか…アンタのそういう所が嫌いなの」

「ならよかった。僕も君が嫌いだ」

「っ――!!あたしだって…!あたしだって大嫌いよ!!」

「…じゃあこれ以上の論争は無意味だ。それに彼らの前で話す内容でも無い。終わりにしよう」

「あ~はいはい!そぉーですね!!」



顔を伏せたままに張り上げる声。そして足音をドスドスと発て、アイリは皆から離れ距離をとる。


突然の言い争いからの険悪なムード。ヒートにタケシ、セキカワは呆然するしかない。すると1人立ち上がるのはトモキ。未だに痛むのか?股間を押さえたまま、足を引きずるトモキがアイリに歩み寄り――…



「あ、あの…電車が来るなら黄色い線から離れた方が――…」

「うっさい!!キン○マ押さえながら近寄るなボケぇ!!」



黄色い線を跨ぐように立っていたアイリは、心配してくれたトモキの顔面を跳び上がり蹴り飛ばす。


鈍い音と共に、トモキの体は美しい放物線を描き、クエストホームと呼ばれる足場の下に広がる雲の中へと消えていく。



「うわっ!!トモキぃー!!」

「おー、すげーキック」



驚き走り出すタケシに対し、変わらぬ間の抜けたリアクションのセキカワ。タケシに遅れ、小走りに後を追う。


あきらかに泣いているように、目元をグイグイと腕で拭うアイリの背中。その姿を見ず、無言のまま背を向けるナツキ。この2人の背を交互に見るヒートは、怪訝な表情を浮かべながらボリボリと頭を掻いた。



「何なんだよこの空気…マジのケンカすんなってよ、やりずれぇ……はぁ~…」



頼みの綱ともなる2人の険悪ムードに、ため息しか出ないヒートの肩は落ちるばかりだった……

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